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映画『幻魔大戦』大友克洋・金田伊功

■あらすじ『トランシルバニア王国の第一王女ルナ姫は、親善使節として米国に向うジェット機に乗っていた。しかし機は宇宙から飛んできた物体と衝突して墜落する。空中に放りだされたルナは、宇宙のエネルギー生命、フロイの声を聞いた。フロイによれば、宇宙の破壊者、幻魔大王の死の手が銀河系に伸びており、超能力を持つ者を集めて地球を救うために戦えという。ルナはフロイによって遣わされたサイボーグ戦士ベガとともに同士を求めて飛びたった。大宇宙の破壊を企む暗黒の支配者“幻魔”と戦うために、地球の各地から集まったサイオニクス戦士たちの活躍を描くSFアニメーション超大作。(1983年)』



アニメファンにとって、1983年は記憶に残る年だったと言えるだろう。なんせ、宇宙戦艦ヤマト・完結編』と『クラッシャー・ジョウ』と『幻魔大戦が同時に公開された年であり、アニメ業界は史上空前の盛り上がりを見せていたのである。中でも『幻魔大戦』は、角川映画初の劇場用長編アニメーションという事で力の入れ方がハンパではなかった。

原作はSF作家:平井和正の同名小説で、監督はりんたろう。キャラクター・デザインは今やアニメ界の巨匠となった大友克洋。そして特に印象に残っているのはキース・エマーソン作曲の「パーパーパッパー♪」(笑)という例のBGMと、ローズマリー・バトラーが歌う主題歌「光の天使」だ。

さらに「ハルマゲドン接近!」というインパクト抜群のCMがガンガン流され、ラジオ(確か「オールナイト・ニッポン」だったかな?)では深夜から明け方にかけてひたすら『幻魔大戦』の特番を放送していたと記憶している。とにかく、ちょっとした“お祭り騒ぎ”と呼んでも差し支えないような物凄い状況だったのだ。

しかし、当時小学生だった僕は大友克洋のリアルなキャラクター造形に馴染めず、『クラッシャー・ジョウ』を観に行ってしまったのである(笑)。世紀末的な世界観も、「なんか怖いなあ」と感じて拒絶した理由の一つだったのかもしれない。

今回久しぶりに観てみたが、キャラクターやドラマは「大人っぽい」のに、やっている事はまるっきり「子供のアニメ」というギャップの凄さに驚いた。まるで“リアルなドラゴンボール”という感じだ(笑)。

さてこの映画の見所は、当時としては最高峰のスタッフによって作られたハイクオリティな映像であろう。参加した原画マンは、なかむらたかし川尻善昭森本晃司梅津泰臣、野田卓雄、大友克洋など、そうそうたるアニメーターが集結。中でも注目すべきは“スペシャル・アニメーション”という肩書きでクレジットされている金田伊功である。いったい彼は何者なのか?

宇宙戦艦ヤマト』によって目覚めたアニメファンの中には、スタッフやクリエイターに興味を持つ者も現れた。そんな頃、巨大ロボットアニメの戦闘シーンで、激しいパースや光線や爆発のエフェクトを炸裂させ、画面からはちきれんばかりのエネルギーで、ロボットを大暴れさせる一人の天才アニメーターが出現する。

独特のアクションとエフェクトで一躍ファンの注目を浴びた最強の原画マン、それが金田伊功だ。ちなみに「かねだいこう」ではなく、「かなだよしのり」と読む。

東映動画の『ゲッターロボG』や『大空魔竜ガイキング』で金田の画面作りは極めてユニークだった。彼は手前にある物を極端に大きく描いたり、人物を斜めに立てたりといった独自の技法を開発したのである。

ポーズも背中を丸めたり、ガニマタになったり、手首を異様な角度に曲げたりしてデフォルメを強調して描いている。それらは「金田パース」や「金田ポーズ」などと呼ばれ、リミテッド・アニメーションのテクニックを飛躍的に進化させていった。

ジグザグに空間を乱れ飛ぶ光線。球になって弾け飛ぶ爆発。メリハリのついた素早い動き。異様な遠近感に大胆なアクション。これが金田伊功のエフェクトなのだ。そもそも、アニメにおける表現は“自然に見えるように描く”のが基本である。

だが、金田アニメは彼自身のイメージとセンスが生み出した独特の空間と運動法則に基づいたもので、「世界中で金田しか描けない」と言われたほどのオリジナル世界を内包していたのだ。

その後も金田は力量を買われて、劇場アニメのエフェクトを次々と担当。特に銀河鉄道999では、クライマックスの惑星メーテル崩壊シーンで、金田ならではのエフェクト博覧会のような作画を繰り出し、アニメファンたちの度肝を抜いた。まさにアニメ史に残る圧巻の戦闘と爆発、ビルの崩壊などが中心の画面作りを行って、日本中の観客を驚愕させたのだ。

凝りに凝った光線のアクションや炎のフォルム、1コマ毎に激しく明滅する爆発、視点が激しく入れ替わる戦闘シーン。ファンタジックな音楽に凄まじい迫力のエフェクトが不思議とマッチし、金田の評価をより一層アニメ業界に轟かせた。

ついにはスペシャル・アニメーション」とか「エフェクト・スーパーバイザー」など特別な役職が金田の為に設けられるようになったのである。こうして金田伊功はエフェクト・アニメーターとしての地位を不動のものとし、巨匠としてアニメ界の頂点に君臨する事となったのだ。

幻魔大戦』と同じく、『銀河鉄道999』もりんたろう監督が製作した映画で、感動的な演出が印象深い名作だが、以前BSアニメ夜話で『銀河鉄道999』が取り上げられた事がある。その時の氷川竜介のコメントによると、金田のアニメは「普通のイマジネーションでは絶対描けない」特殊な作画だそうだ。

番組にゲスト出演していた村上隆などは「江戸時代の絵師・狩野山雪に匹敵するほどの天才的アーティストだ」と絶賛している。また、アニメファンのみならず、アニメ業界内でも金田のアニメーションは“神業”として崇められ、多くのアニメーターが“金田エフェクト”をマネしようと挑戦していた時期があったらしい。

ところで僕は以前から、「あの変則的な動きを、動画マンはどうやってトレースしてるんだろう?」と疑問に思っていたのだが、BSアニメ夜話において衝撃の事実が発覚!北久保監督曰く、「金田さんの作画には、動画は入ってないんです。必ず間に中割りを入れなければいけないという規則はなくて、要するに全部原画なんですよ。肝心なポイントは全部自分で描いちゃってるんです」。

な、なんとそうだったのか!確かに、金田のセンスを完璧に理解してあのヘンテコな動きを再現できる動画マンがそんなにいるとは思えない。つまり、金田のカットは原画も動画も全部一人で描いていたという事なのだ。う〜ん、凄い。さすが天才アニメーター!

尚、現在DVD化されている作品の中で最も純度の高い金田アニメは、自身の漫画原作による『バース』である。はっきり言ってストーリーは大した事無いのだが、金田アクションの影響を受けた当時のアニメーターが結集し、若い活力が全編にみなぎっていて、疲れた時に観ると何だかスカっとするのだ。

高速で疾走するチェイスシーンのスピード感や、単純な線で描かれたキャラクターの肉感的なボディラインに、不思議な爽快感があってなかなか楽しめる作品となっている。機会があれば一度観てみて下さい。

さて、ようやく『幻魔大戦』の話だが、クライマックスの火炎竜が暴れ回るシーンは、実は最初から金田伊功を前提としてドラマが作られているそうだ。以下、りんたろう監督のコメントより↓

あのシーンは、絵コンテを描いている段階から完全に金田君を射程に入れてるんですよ。基本的に金田君でなければ、あの直線と曲線は出せないだろうという事は想定している。だから、あのシーンで竜の動きをどうするかなんていうのは、全部金田君に任せました。彼がやるんなら、もうどんな動きになってもOKだと開き直ってましたよ(笑)

この言葉通り、火炎竜の場面では金田伊功の超絶的なセンスが炸裂しており、まさに全編にわたって金田エフェクトが爆発したとてつもないシーンに仕上がっているのだ。

ちなみに、キャラクター・デザイナーとして大友克洋を起用したのは、りんたろう監督自身らしい。当時はまだ無名に近かった大友のマンガを偶然読んで「これだ!」と閃いたそうだ。そこで大友のイラストを一枚だけ角川春樹に見せて、「この人でいきましょう」と直談判したのである。

だが一番の問題は、当時大友のキャラクターを描けるアニメーターがいなかった、という事だった。しかし、それでもりんたろうは大友で押し切ってしまうのだ。それはなぜか?

監督曰く、「あの時、僕の中では“新しい事をやりたい”という気持ちが非常に強かったんですよ。ましてや、角川がアニメーションに挑戦する一作目で、今までと同じ事をやっても意味が無いだろうと。もっと違う、もっと新しい表現で、今まで誰も観た事が無い全く新しい作品をぶちかまそう!それが、大友克洋だったり、キース・エマーソンだったりしたワケです」とのこと。

まさしく、映像・音楽・物語と、あらゆる“新しいもの”に挑戦しまくった画期的なアニメ、それが『幻魔大戦』だったのである。


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