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『機動警察パトレイバー』はこうして生まれた

『機動警察パトレイバー』

機動警察パトレイバー


どうも、管理人のタイプ・あ~るです。
さて、本日8月10日は何の日でしょう?
そう、パトレイバーの日」です!

いや、「山の日」だろ!

という指摘はその通り(笑)。
しかし2018年に30周年を迎えたことを記念し、株式会社HEADGEARが8月10日を「機動警察パトレイバーの象徴的な日」にしようと考え、一般社団法人・日本記念日協会によって正式に認定・登録されたのですよ(日付は「パ(8)ト(10)」と読む語呂合わせから)。

機動警察パトレイバー』は1988年に最初のOVAが発売されて以来、漫画、小説、ゲーム、TVアニメ、劇場アニメ、実写版など様々な媒体でメディアミックスを展開した先駆的な作品ですが、その誕生までには色んな苦労がありました。

というわけで本日は、『機動警察パトレイバー』が生まれるまでのエピソードをご紹介します。


●企画のゆうきまさみ
時は1980年代初頭、漫画家のゆうきまさみが仲間たちと喫茶店に集まり、「ロボットアニメの企画」を考えていたそうです。最初は『電光石火ギャラクレス』というタイトルで、作業用ロボットが別の惑星で活躍する内容でしたが実現しませんでした。

次に考えた『バイドール』という企画は、「近未来の2人組の婦警さんがロボットに乗って事件を解決する」という、「『逮捕しちゃうぞ』のSF版」みたいなストーリーだったらしい(ゆうきまさみ曰く「あの頃はミニパトの婦警さんが人気だったので…」とのこと)。

ちなみに、『バイドール』の頃は「ロボットをできるだけ小さくしたい」と考え、3~5メートル程度のいわゆる”パワードスーツサイズ”だったようです(しかも白バイがロボットに変形する案まであったとか)。

パトレイバーの原型?

パトレイバーの原型?

結局、この企画もボツになりましたが「警察用のロボット」というアイデアは残し、当時一緒に企画を練っていた”とまとあき”が「レイバー」という名称を考え、ゆうきまさみが「じゃあ戦うレイバーでバトレイバーだ!」と。ここから「パトレイバー」が生まれたそうです(ゆうき氏曰く「いつの間にか”バ”が”パ”に変わっちゃったけどね(笑)」)。


●メカの出渕裕
続いて企画に参加したのが出渕裕でした。出渕さんといえば、『戦闘メカ ザブングル』や『聖戦士ダンバイン』や『逆襲のシャア』などで優れたデザインを生み出した人気メカデザイナーで、衣装デザインや監督としても活躍しています。

そんな出渕さんが『パトレイバー』の企画内容を聞いた時、「人が死なないロボットもの」という設定に可能性を感じたとのこと。

兵器じゃないロボット、人があまり死なない、戦争じゃないという部分で「なるほど、そういう切り口はあるな」と感じましたね。ゆうきさんは、戦争で人が死ぬのが日常になっているようなものはやりたくないと言ってたんですよ。ガンダム以降、その部分をトレースしているアニメが非常に多かったので、同じロボットものというカテゴリーの中で、ガンダム的ではない別のやり方もあるんじゃないか…という可能性を感じました。

(『機動警察パトレイバークロニクル』より)

そこで、出渕さんの友人でSF作家の火浦功を含めて3人で企画書を作り、アニメ制作会社のサンライズへ提出。しかし、これまた実現しませんでした。

当時は玩具メーカーがロボットアニメのスポンサーになるケースがほとんどで、「変形・合体するメカじゃないと企画が通らない」と言われた出渕さんは「そんなもの描きたくない!」と言いつつ、”変形するパトカー”のデザインを描いたのですが、それもボツに…。

なお、『パトレイバー』を通すための”ダミー企画”として『ガルディーン』というロボットものの企画も一緒にサンライズへ提出したのですが、『パトレイバー』よりも先に『ガルディーン』の方が小説として世に出てしまい、ゆうきさんは複雑な気持ちになったそうです(笑)。

【合本版】未来放浪ガルディーン 全5巻


●シナリオの伊藤和典
サンライズに断られた『パトレイバー』の企画は一旦引き上げられ、ゆうきまさみ出渕裕が「さてどうしよう?」と思案している頃に合流したのが脚本家の伊藤和典でした。

伊藤さんといえば『うる星やつら』や『魔法の天使クリィミーマミ』などTVアニメシリーズの脚本を手掛け、後に平成ガメラ三部作でも優れた手腕を発揮した人気シナリオライターです。

出渕さんから企画内容を聞いた伊藤さんは「『ポリスアカデミー』みたいな内容でロボットアニメをやったら面白くなるんじゃないかな?」と考え、シナリオを執筆。

その時に、泉野明や後藤喜一など具体的なキャラクター名が決まっていったそうですが、実はパトレイバーに登場するキャラは実在の人物をモデルにしてるんですよね。

例えば「野明(のあ)」って非常に珍しい名前ですが、証券会社の窓口にこういう名前の人が実際にいたそうです。また、「進士幹泰」は伊藤さんが当時通っていたダイビングスクールの生徒さん。「山崎ひろみ」スタジオディーンのアニメーター。「香貫花」は離島で暮らす家族のお姉さんの名前らしい(香貫花に関しては伊藤さんと面識はなく、「テレビで見た」とのこと)。

『機動警察パトレイバー』

機動警察パトレイバー

こうしてキャラの名前や設定が出来上がり、当初はTVアニメシリーズを目指していたため4~5話分ぐらいのプロットも作り、『パトレイバー』の原型みたいなものが完成しました。

ちょうどその頃、伊藤さんの自宅でパーティーをやる機会があり、「どうせならこの企画を関係者に見せようか」という話になって、伊藤さんが仕事で知り合いになったバンダイビジュアル鵜之澤伸(うのざわしん)に声をかけました。

パーティーの席でいきなり伊藤さんから「これTVアニメにしたいんだけど…」と企画書を渡された鵜之澤さんは驚きつつも、とりあえず上司に相談したら「無理!」と一蹴されたらしい。

ただ、当時はOVAが流行っていたので「テレビは無理でもビデオならいけるんじゃないか?」と考え、さらにその頃のビデオは1本1万円以上していましたが、「これを4800円で売ればヒットするはずだ!」と思い付いたそうです。

ちなみに、このパーティーが開催された日付は1985年の12月、つまりクリスマス・パーティーでした。鵜之澤さんは「”楽しいパーティーをやるからおいでよ”と誘われたのに、まさか仕事の話だったとは…」と微妙な気持ちになったという(笑)。


●キャラクターの高田明美
そして、このクリスマス・パーティーのメンバーの中に、パトレイバーでキャラクターデザインを担当する高田明美も参加していました。

うる星やつら』や『魔法の天使クリィミーマミ』などで伊藤和典とすでに仕事をしていた高田さんは、伊藤さんから「今こういう企画を考えてるんだけど一緒にやらない?」と声をかけられたらしい。

企画書を作る段階でゆうきまさみがラフなデザインを描いていましたが、そのままではアニメに使えないため、キャラクター設定として正しく描き直す必要があったからです。

また、キャラクターの名前も高田さんの知り合いからもらっているようで、「榊清太郎」は高田さんの祖父の名前が”清太郎”だったから。「篠原遊馬」は病院に行った時に見たおじいちゃんの診察券から。「太田功」は高田さんが通っているダイビングスクールのインストラクターから…など。

さらに『パトレイバー』を実現するために作られた組織「ヘッドギア」のネーミングも高田さんの発案らしい。

最初、他のメンバーが地球防衛軍とか言ってたので、それはやめようよって(笑)。「私たちは企画を立てる集団で、頭が道具なんだ」という意味を込めてヘッドギアってどうかなと思ったんです。「地球防衛軍」よりはいいんじゃないかなと(笑)。

(『機動警察パトレイバークロニクル』より)

こうして、『機動警察パトレイバー』の制作準備が着々と進行する中、いよいよ”あの人”がメンバーに加わることになるのですが…


●監督の押井守
他のヘッドギアのメンバーが忙しく働いている頃、押井守監督は全く仕事がありませんでした。

うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』でアニメファンから一定の評価は得たものの、制作会社や原作者の意向を無視して好き勝手に作る押井監督のやり方に反感を覚える人もいたようです。

さらに、オリジナル企画の天使のたまごが難解すぎて全くヒットせず、とうとう押井監督に仕事を依頼する人がいなくなってしまったのですよ(本人曰く、「本当に数年間仕事がなかった」「完全に業界から干されていた」とのこと)。

この件について、スタジオジブリ鈴木敏夫プロデューサーは次のように語っています。

天使のたまご』という作品は、その後の押井さんの方向性を決める大きなものになりました。そのことに直接関係した者として、僕はいまだに引っ掛かりを感じています。本当に良かったのかな…って。というのも、彼は本来「大衆娯楽映画」を作れる人で、実際TV版『うる星やつら』でもそういうことをやってきたわけですよ。それが『天使のたまご』をきっかけに変わってしまった。いわゆる”作家”としてのデビューになるわけですが、それをオリジナルビデオという形で用意した僕の方にすれば、彼のその後の作品の範囲を狭くしたのではないか…と。今でもその疑問は残っています。反省としてね。

キネマ旬報押井守全仕事」より)

天使のたまご』は押井守監督の作家性が爆発した初期の作品として、熱心なファンの間ではいまだに高く評価されていますが、業界では「難解なアニメを作る監督」という噂が広まり、すっかり暇になってしまったのです。

天使のたまご Blu-ray

しかし、いくらゲームの中でお金を稼いでも、現実世界で裕福になれるわけではありません。「パチンコは金になるのに、なんでゲームじゃ食えないんだ…」と不満に思っていた時、「ゲーム内で金品を稼いで暮らしているプレーヤーたちの物語」を思い付いたそうです(このアイデアは後に実写映画『アヴァロン』で実現する)。

アヴァロン

しかし、当時の押井監督は(暇を待て余していたにもかかわらず)あまりやる気はなかったそうです。自分が参加する前からキャラや設定がほとんど決まっていて口出し出来る部分が少ない上に、制作費がメチャクチャ安かったからです。

当時、30分のOVA1本当たりの制作費はおよそ2000万円~3000万円ぐらいでしたが、鵜之澤プロデューサーが提案した「定価4800円」を実現するには、必然的にコストも削減しなければなりません。

そこで鵜之澤さんは「複数の話をまとめて作れば設定や色指定を共有できるから単価を下げられるのでは」と考え、6本分を一度に作ることを決断。総予算は6000万円なので、1本当たり1000万円で作ることになったわけです。

現在、テレビアニメ1話当たりの制作費は1300万円~2000万円ぐらいだから、それよりも安い計算になりますね(ちなみに初期OVAは全7話構成だが、これはビデオが売れたことにより1本追加されたため)。

さらに低予算のしわ寄せはスタッフにも及び、ヘッドギアのギャラも極限まで抑えられ、ビデオの売り上げに応じて発生するはずの印税すら払えない事態に…。当然メンバーは不満を訴えましたが、鵜之澤プロデューサーが「100万本売れたらハワイへ連れて行くから!」と言って何とかごまかしたらしい(結局、ハワイには行ってないw)。

『機動警察パトレイバー』

機動警察パトレイバー

そんなわけで、押井監督としてはあまりやる気が無かったんだけど、とにかく当時は仕事が全然なかったので、「背に腹は代えられない」と引き受けることになりました。

しかし、やはり現場では相当揉めたようで、予算が無いから作画枚数を使えない。じゃあロボットアニメだけどロボットが活躍しない話にしようと。ロボットが出て来ても立ってるだけ。出来るだけ動かすな!と。そんな感じで徐々にフラストレーションが溜まっていったらしい。

中でも一番揉めたのはパトレイバーのデザインで、押井監督は作業用機械みたいなスクラップ寸前のポンコツレイバーを考えていたのに、出渕裕が描いてきたデザインはスマートでカッコいい”典型的なヒーローメカ”だったため、「こんなので出来るか!」と大激怒。

いざロボットのデザインに入ったら、ブッちゃん(出渕裕)がイングラムを出してきた。「何だこれは!こんなカッコいいロボットでどうするんだ!」って。「大体、こんなロボット動かすの大変なんだぞ、分かってるのか!」って話。空飛ぶガンダムならともかく。ガンダムってまともに歩いてるシーンってほとんどないんだから。「それがわかってるのか!」って言ったら、「分かってる。でも、どうしてもこれでなきゃ嫌だ」とか言って、ゆうきまさみ君も「ヒーローロボットの典型でなきゃ企画に反する」とか言って。伊藤君と僕は「反対だ!ポンコツにしろ!」って言って。それで高田明美さんが向こうに着いちゃった。結果的に3対2で負けた。

ロマンアルバム押井守の世界」より)

こうしてモチベーションが上がらないまま制作に入った押井監督ですが、1話、2話、3話…と作っているうちにだんだん乗ってきて、5話と6話の頃には「かなり面白くなっていた」そうです。

そしてついに『機動警察パトレイバー』のOVAが完成!しかし、「いっぺんに6話作ったのはいいけど、1話目が売れなかったらどうするんだ?」と上司からプレッシャーをかけられた鵜之澤プロデューサーは、なんとヘッドギアのメンバーを引き連れて日本全国を回る大々的なキャンペーンを実施しました。

一見「景気がいいなあ」と思えますが、実際は宣伝費がありません。押井監督もほぼノーギャラで全国数十カ所を回らされ、「これじゃボランティアだ」とぶつぶつ文句を言っていたそうです。ただ、そのおかげでビデオは大ヒットを記録し、ついに劇場版の制作が決定!

というわけで、パトレイバーはここから本格的にメディアミックス展開していくわけですが、その話はまた別の機会にしたいと思います(^.^)

 

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実写版を完全再現?劇場アニメ『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』

『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』

打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?


どうも、管理人のタイプ・あ~るです。

さて本日、金曜ロードショーで劇場アニメ打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?が地上波初放送されます。

この作品は、岩井俊二監督が1993年に手掛けたTVドラマをアニメ化したもので、2017年に全国の劇場で公開され、興行収入16億円のヒットを記録しました。

主人公の島田典道の声は当時アフレコ初挑戦だった菅田将暉が演じ、ヒロインの及川なずなを広瀬すずが担当。その他、宮野真守梶裕貴三木眞一郎花澤香菜など豪華な声優陣も話題になりました(ヒロインの母親役は松たか子)。

ちなみに原作のTV版は、もともと『if もしも』というオムニバス・ドラマシリーズの一編として作られたもので、島田典道役は山崎裕太が、そして及川なずな役は当時、美少女子役として人気を集めていた奥菜恵が演じています。

打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか? - New Color Grading -

「12話~13話ぐらいの連続ドラマが高視聴率を獲得して映画化決定」というパターンはよくありますが、本作のような「1話完結型のオムニバス・シリーズ」の一編が劇場公開される例は非常に珍しいですね。

さらに、このドラマは多くのクリエイターに影響を与えたことでも知られており、今回のアニメ版に脚本として参加した大根仁もその一人。大根仁といえば、人気漫画『モテキ』の実写版が有名ですが、なんと『モテキ』の中で『打ち上げ花火』のワンシーンを丸ごと再現してしまうほどの大ファンだったのですよ。

モテキ<Blu-ray BOX(5枚組)>

その映像を見た岩井俊二監督は「お芝居は全然違うことをしているのに、アングルやカット割りまでピッタリ合っていたので度肝を抜かれました。ちょっと衝撃でしたね。ここまで原作をなぞることが出来るんだ!と。その極め方がすごいなと感動してしまいました。あまりにもそっくりなんで、うちのスタッフは”これ大丈夫でしょうか?”と心配してましたけどね(笑)」と絶賛。なお、大根さんは岩井監督に会った時、「無断でパロディにしてすいません」と謝ったらしい(笑)。

そこまで『打ち上げ花火』に思い入れのある大根さんがアニメ版の脚本を書いたわけですから、当然ながら実写版を忠実に再現したシーンが満載です。『モテキ』でパロディにした「なずなが母親に連れ戻されるシーン」も、カメラアングルやカット割りを完全コピーするほどのこだわり!

『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』

打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?

さらに監督の武内宣之も「原作ドラマをそのままアニメ化しよう」と考え、なんと”ロトスコープ”を採用したそうです。ロトスコープとは「実写の映像をなぞってアニメーションを作る手法」で、昔の海外作品でよく使用されていましたが、日本のアニメではあまり例がありません。以下、武内監督のコメントより。

この映画を作るにあたり『モテキ』も拝見しました。森山未來さんと満島ひかりさんが『打ち上げ花火』をそのままやっていて、大根さんの『打ち上げ花火』に対する愛情を強烈に感じたんです。ここまですごいものを見せられたら、どうしようと。こうなったら、大根さんの『モテキ』をもう一段飛び越えた”完コピ”をするしかない。そこでロトスコープでそのままやろう!」と決断したんです。

A・Bパートは、なるべくカット割りを同じようにする、セリフのテンポも同じにする、そしてロトスコープを使って、原作を完璧にコピーしてみようと。岩井さんの実写版のアングルをほぼそのままアニメで再現したんです。奥菜恵さんの芝居をロトスコープして作画し、広瀬すずさんの声を当ててみることで、20年以上前のドラマと今回の映画が時代を超えるような面白さが出ればいいなと思いました。 (『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』公式ビジュアルガイドより)

 一般的に「漫画をアニメ化する」とか「アニメを実写化する」というパターンはよく見ますが、「実写をアニメ化する」例はそれほど多くありません。しかし、「アニメ → 実写」は衣装・小道具・背景などを忠実に再現することが難しいのに比べ、「実写 → アニメ」の場合は全て絵で描けるため、その気になれば完璧な再現が可能なのです。

例えば、主人公の典道が病院で傷の手当てをしてもらう場面では、「パターの練習をしている医者が手前に歩いて来てゴルフの本を手に取り、また奥へ戻っていく」という映像を、構図や動きのタイミングに至るまでそっくりそのままコピーしているのですよ!スゲー!

『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』

打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?

しかも、『化物語』や『偽物』などの〈物語〉シリーズでキャラクターデザインを務めた渡辺明夫が本作でもキャラデザを担当しているため、ロトスコープ特有の写実的でリアルな表情ではなく、適度に記号化されたキャラクターで描かれている点もいいですね。

ただ、「原作を忠実に再現しよう」としている一方で、アニメ版ならではの表現やアイデアも当然入っています。中でも典道が投げる”不思議な玉”はアニメ版のみに登場するオリジナルのアイテムで、実写版には出て来ません。

なずなが海で拾い、重要な場面で効果を発揮するこの玉はスタッフの間で「もしも玉」と呼ばれており、物語の中でキーアイテムとなっています。発案者は岩井監督自身ですが、なぜこの「もしも玉」をストーリーに加えようと考えたのでしょうか?以下、岩井監督の説明より↓

もともと『打ち上げ花火』は『if もしも』というTV番組の一つとして作られ、その番組内では「もしも〇〇だったら」というルールに従って物語が進んでいく”お約束”があったんですよ。ところが、のちに劇場版を作って公開した時に、観た人から「何が起きたんですか?」「どうして時間が巻き戻ったのかわからない」という質問が多くて。『打ち上げ花火』を単体で切り出した時に、話をわかりやすくするようなギミックを入れた方がいいんじゃないか?と思ったんです。それで、僕の方からわかりやすくするためのアイデアを出させていただきました。 (公式ガイドブックより)

その他、原作では小学生だったキャラクターの年齢を中学生に変えたり、典道となずなが電車に乗ったり、松田聖子の『瑠璃色の地球』を歌ったり、設定やストーリーを変更した個所は多数あります(もともとTVドラマ版が49分の短編だったため、90分のアニメ版を作る際に色んな要素が追加された模様)。

特に、後半パートからクライマックスにかけては、美しいビジュアルを駆使したアニメ版オリジナルのファンタジックな表現がバンバン出て来るので、その辺も見どころの一つでしょう。

『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』

打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?

また、総監督を務めた新房昭之は『魔法少女まどか☆マギカ』や〈物語〉シリーズなどで圧倒的な人気を獲得しており、その作風はアニメ制作会社「シャフト」の名と共に広く知れ渡っていますが、本作でも独特の作風は健在で、その分、好き嫌いがわかれるかもしれません。

好き嫌いといえば、本作のラストシーンも評価がわかれるポイントと言えるでしょう。当初の案では典道が学校にいるのかどうかは曖昧にしていたそうです。しかしプロデューサーの川村元気が「それでいいのか?」と悩み、最終的に岩井監督がドラマ版でやろうとしていた「幻のエンディング」を採用することになりました。

それがすなわち「教室で点呼を取っているが、典道の返事がないまま物語が終わる」というエンディングです。

新房監督はこのラストに対し、「個人的にはどうなのかな?と思いましたが、ただ”典道がそこにいない”という結末はファンタジーとして受け止められると思うんですよね。観ている人は気持ちがいいかもしれない」とコメントしています。

というわけで、公開当時はラストの展開や独特の作風も含めて賛否両論だったようですが、金曜ロードショーを観た視聴者がどんな反応を示すのか気になりますね(^.^)

 

『ジュラシック・ワールド 炎の王国』 CGとアナログの合わせ技!

映画『ジュラシック・ワールド 炎の王国』

映画『ジュラシック・ワールド 炎の王国』


どうも、管理人のタイプ・あ~るです。

さて本日、金曜ロードショージュラシック・ワールド 炎の王国』が地上波初放送されます。

全世界に衝撃を与えた『ジュラシック・パーク』が公開されたのが27年前の1993年。その後、2作の続編が作られ、2001年に3作目の『ジュラシック・パーク3』が公開されました。

それから14年後の2015年に待望の第4作目が公開!タイトルも新シリーズを意識して『ジュラシック・ワールド』と改め、世界中で大ヒットを記録したのです。

ジュラシック・ワールド 炎の王国』は、そんな『ジュラシック・ワールド』の続編、及びシリーズ通算5作目として2018年に公開され、これまた大ヒットしました(1作目から数えると実に25年ぶりの最新作!)。

あらすじ:ジョン・ハモンドの夢だった恐竜テーマパーク「ジュラシック・パーク」の遺志を継ぎ、サイモン・マスラニが実現させた「ジュラシック・ワールド」は、ハイブリッド恐竜の暴走により崩壊した。それから3年、島の火山が噴火し、絶滅の危機にさらされている恐竜たちを救おうと、恐竜保護団体を立ち上げたクレア(ブライス・ダラス・ハワード)に、謎の組織「ロックウッド財団」が接触。そしてヴェロキラプトルの”ブルー”を保護するためにオーウェンクリス・プラット)にも協力が求められた。こうして彼らは再び恐竜たちの島を訪れ…

本作の見どころは、もちろん大量に登場する恐竜たちですが、ティラノサウルスブラキオサウルストリケラトプスやステゴサウルスなど毎度お馴染みの恐竜から、カルノタウルスやバリオニクス、アロサウルス、シノケラトプスなど初登場の恐竜まで、その種類はシリーズ最多を誇っています。

中でも要注目は、遺伝子学者によって作り出されたハイブリッド恐竜:インドラプトル(インドミナス・ラプトル)でしょう。前作で主人公たちを苦しめた大型肉食恐竜インドミナス・レックスに、「人間に次ぐ知能を持つ」と言われるヴェロキラプトル”ブルー”のDNAを加えた最強の生物!

映画『ジュラシック・ワールド 炎の王国』

映画『ジュラシック・ワールド 炎の王国』

前作は主にデカい恐竜たちの派手なバトルがメインでしたが、本作ではこのインドラプトルを中心とした小型恐竜によるサスペンスフルな攻防戦が後半の見どころとなっています。そのため、J・A・バヨナ監督はアニマトロニクスを多用しました。

アニマトロニクスとは、生物を模して作られた精巧なロボットのことで、1作目の『ジュラシック・パーク』ではスタン・ウィンストンによって実物大のT-レックスが作られ、そのリアリティ溢れる動きに観客騒然!CGで作られた恐竜と共に凄まじいインパクトを与えたのです。

ところが、前作の『ジュラシック・ワールド』では、『3』から14年も経ったことでCG技術が飛躍的に進歩し、アニマトロニクスの出番もなくなり、一部のシーン(アパトサウルス)を除いてほぼ全ての恐竜がCGで作られることになったのですよ。

これは特に珍しいことではなく、近年の大作ハリウッド映画では「画面の中に占めるCGの割合」がどんどん増加しており、2016年の実写版『ジャングル・ブック』では、なんと主人公の少年以外、全てCGの動物で埋め尽くされるという状態になりました。

なので最新作の『炎の王国』もフルCGになるのか……と思いきや、本作のJ・A・バヨナ監督は「実写で撮影できる映像は実写で撮りたい」と考え、CGだけでなくアニマトロニクスも採用。

なんと『ジュラシック・パーク3』から17年ぶりにアニマトロニクスの実物大T-レックスが復活したのです!主人公らが恐竜に乗っかってベタベタ触るなど、CGでは表現が難しいシーンを実写で撮影することで、見事な臨場感を生み出しました(このシーンもアニマトロニクス↓)。

映画『ジュラシック・ワールド 炎の王国』

映画『ジュラシック・ワールド 炎の王国』

ちなみに、1作目のアニマトロニクスT-レックスは手作業でしたが、本作では「型」を作るために3Dプリンターが使われたそうです。ただし、あまりにも巨大すぎて一気にプリントアウトできず、数十個のパーツに分けて出力し、それをパズルみたいに組み立てて実物大の恐竜を作ったらしい。スゲー!

現在、多くのハリウッド大作映画ではCGが主流ですが、アニマトロニクスを使うことでどんな効果が得られるのか?本作のVFXを担当した特殊効果スーパーバイザーのニール・スカンラン氏は次のように答えています。

アニマトロニクスの利点は、実物が目の前にあることで俳優や女優が瞬時に状況をイメージしやすいことでしょう。また、監督が指示を出す際にも具体的なアプローチが可能になります。CGは信じられないぐらいの能力があり、見たこともないようなヴィジュアルを表現できますが、デジタルと実物を組み合わせることで、さらに斬新な映像を見せられると思っています。

というわけで本作は、CGとアニマトロニクスの合わせ技により、まるで恐竜がそこにいるような(まあ撮影現場では実際にそこにいるんですがw)凄まじいリアリティを醸し出し、観客の度肝を抜きまくりました。CGもいいですが、やはり精密に作られたアナログ特撮もいいですね。

 

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