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藤本タツキの『さよなら絵梨』はクソ映画?(ネタバレ考察)

藤本タツキ著『さよなら絵梨』より

藤本タツキ著『さよなら絵梨』より


どうも、管理人のタイプ・あ~るです。

さて先日、藤本タツキ先生の新作読み切り漫画『さよなら絵梨』が「ジャンプ+」にて公開されました(現在は見れません)。

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藤本先生といえば『チェンソーマン』の作者として知られていますが、2021年に「ジャンプ+」で読み切り漫画『ルックバック』を公開したところ、なんと一晩で閲覧数が120万回を突破!

読者の反響も凄まじく、さらに『このマンガがすごい!2022』のオトコ編第1位を獲得するなど、大変な注目を集めました。

そして今回も、わずか1日足らずで閲覧数は220万回を超え、「前作を上回る200ページの特大ボリューム!」など、様々な面で話題になっているようです。

しかし作品の評価は賛否両論で、「さすが藤本タツキ先生だ!」と絶賛の声がある一方、「何だかよく分からない」「『ルックバック』の方が良かった」など批判的な意見もチラホラと…

※以下、ネタバレしてます

『さよなら絵梨』の内容は、「主人公の伊藤優太が余命わずかの母親が亡くなるまでの様子をスマホで撮影し、それを学校で上映したら酷評され、ショックのあまり自殺を考えていると一人の少女(絵梨)に出会い、映画を撮影することになるのだが…」というものです。

ただし、この物語は「作中作構造」になっていて、どういう映画を撮ればいいのか分からない優太が、絵梨に相談したり一緒に映画を観たりしてるんだけど、実はそれ自体も映画のワンシーンだった…とか。

さらに優太が大人になってからもストーリーは続き、最終的には絵梨の正体が”本物の吸血鬼”だったことが判明するなど、事実と創作を曖昧に描いているため「どこから現実でどこまでが虚構なのか分からない!」と混乱する人が続出した模様。

終盤で「絵梨は本当はメガネをかけて歯の矯正もしていた」と判明し、「最初に出会ったシーンからすでに映画の撮影だった」ということが分かるものの、それでも謎は残るんですよねぇ。

藤本タツキ著『さよなら絵梨』より

藤本タツキ著『さよなら絵梨』より

また、「同じコマの使い回しが多すぎて飽きてくる」「コピペしてるだけじゃん」「手抜きだろ!」など、独特の表現に戸惑っている人も見受けられました。

確かに、この漫画はほとんどが「横長のコマを1ページに4つ並べる」という形式で描かれているので、「画面の変化に乏しい」「つまらない」と感じた人もいるでしょう。

しかも、最大では8ページ(32コマ)にも渡って全く同じアングルの絵が続くわけですから、変形コマや場面転換の多い派手な漫画を好む人は、なおさら退屈に感じてしまうかもしれません。

では、この表現は何なのか?本当にただの手抜きなのか?というと、もちろんそんなことはないわけで、タイトルページに「スマホで撮影している手」が映っていることからも分かるように、横長のコマは”映画のフレーム”を表しているのです。

つまり漫画のコマそれ自体が”スクリーンに投影された映像”であり、「同じコマの連続」はカメラ(スマホ)を固定して同じアングルで長回し撮影をしているという意味なのですよ。

漫画で「ワンシーン・ワンカット長回し撮影」を再現する場合、見開きの大きなコマにいっぱいセリフを書き込むという方法もありますが、藤本タツキ先生は同じコマを連続させることによって「時間の経過」を表現してるんですね。

ちなみに「なぜこんなに長回しが多いのか?」というと、もともと優太は病気の母親の”記録映像”として動画を撮り始めているので、「カットを割る」という概念がなく、ドキュメンタリー的な感覚で撮影していたからでしょう。

藤本タツキ著『さよなら絵梨』より

藤本タツキ著『さよなら絵梨』より

あと、この漫画に関しては「クソ映画」というワードも重要な要素のひとつだと思います(なにしろ公開直後からツイッターで「クソ映画」がトレンド入りするぐらいなのでw)。

「クソ映画」っていうのは、優太が撮ったドキュメンタリー映画『デッドエクスプローション・マザー』を学校で上映した際、皆からクソ映画呼ばわりされたこと。つまり優太の映画に対する評価なんですが、その原因はラストの「爆発オチ」です。

「母親が死ぬ瞬間まで撮って欲しい」と言われた優太は、それを拒否して病院から逃亡。すると背後でいきなり大爆発が起こり、「さよなら、母さァーん!」と叫びながら終了というオチなんですけど…。

まぁ普通に考えたらワケが分からないですよね(笑)。当然、観客からは「ラストが胸くそ悪い」「倫理観を疑う」「お母さんの気持ちを考えなよ」「最悪」などと非難轟々で、先生にも「母親の死を冒涜している」と怒られてしまいました。

そして「ラスト…なんで爆発させた?」と先生に問い詰められた優太は「最高だったでしょ?」と答えて再び怒られるんですが、この「爆発オチ」がなぜそんなにダメだったのか?というと…

まず、生徒たちは優太の母親が死んだことを知っているため、「母親の死をネタにしている=不謹慎」と感じてしまったことが一つ。そしてもう一つは「オチに脈絡がない」ということでしょう。

確かに、母親との日常を延々見せられ、最後はいきなり爆発して終わり…では何のことやらサッパリ分かりません。

藤本タツキ著『さよなら絵梨』より

藤本タツキ著『さよなら絵梨』より

しかしその後、実は主人公が母親から虐待を受けていたことが判明します。父親は「優太がお母さんに酷いことをされてるって気付いてた」「でも、そういうのを見ないフリして…」「ごめんなぁ…」と謝罪するなど、いろいろ複雑な家庭環境だったらしい。

こういう背景を知った上で考えてみると、主人公は母親からの虐待や母親の死という辛い現実を吹き飛ばすために、敢えてラストを大爆発で締め括ったのでは?と。つまり優太にとって、あの「爆発オチ」にはちゃんと必然性があったのですよ(まぁ、それを他の人に「察しろ」というのは無理な話かもしれませんがw)。

そして、この『さよなら絵梨』自体も「爆発オチ」で終わってるんですけど、これまた賛否両論なんですよねぇ…。

批判的な意見としては「完全にクソ映画のパロディやん」「途中までは感動してたのにオチで台無し」「いい話風のクソ映画」「爆発オチなんてサイテー!」など、『デッドエクスプローション・マザー』を観た生徒たちと似たような反応ですね(笑)。

ちなみに「爆発オチなんてサイテー!」の元ネタは、『Fate/stay night』というゲームのバッドエンド時に出てくるセリフです。

一方、肯定的な意見としては「爆発オチが好きと言ってくれた絵梨のために、作品を台無しにしてまで爆発オチで締めるのは青春すぎて泣いてしまう」「感動的な青春モノと思わせながら、敢えてクソ映画で終わらせるタツキ先生サイコー!」など。

気になったのは、賛否どちらの意見も「あのオチはクソ映画だ」と認めた上で、「だからイイ!」or「だからダメ!」と評価が分かれている点なんですよ。いや、本作のオチが「クソ映画」っていうのは確定なの?僕はそうは思わなかったけどなぁ。

最初の『デッドエクスプローション・マザー』がクソ映画呼ばわりされたのは、観客(生徒たち)が優太の意図や背景を何も知らず、そのため”爆発の意味”が理解できなかったからでしょう(脈絡が無いように見えてしまった)。

では、最後の爆発はどうなのか?

当然これにもちゃんと意味があり、優太は映画を完成させたにもかかわらず、大人になってからも何度も何度も再編集を繰り返していました。その理由は、「ずっと何か足りない気がして」いたから。

やがて事故で家族を失い、自殺を図るために”思い出の場所”を訪れた優太は、再会した絵梨から「足りないものはファンタジー」と教えられます。

藤本タツキ著『さよなら絵梨』より

藤本タツキ著『さよなら絵梨』より

「私は本物の吸血鬼だから吸血鬼の設定はファンタジーじゃない」っていうのはなかなかトリッキーな理屈ですが(笑)、絵梨の「ファンタジーがひとつまみ足りないんじゃない?」というセリフは、父親の「優太はちっちゃい頃から何にでもファンタジーをひとつまみ入れる」というセリフから来てるんですね。

では、優太にとって「ファンタジー」とは何なのか?

中盤のシーンを見ると、父親に「僕の映画と言えばナニ?」と訊ねたら「爆発かなあ」と答えていました。つまり、優太が自分を表現する手段が爆発(=ファンタジー)なんだと。こうして優太は「映画を何度も再編集していた理由がわかった」「足りなかったものは爆発だ!」と気付くわけです。

終盤の「絵梨と再会してからの展開」は、映画の続きなのか、本当に絵梨が生き返ったのか、それとも優太の妄想なのか、はっきりとは分かりません。

なぜなら、「どこまでが真実で創作かわからない所も、私には良い混乱だった」と絵梨が語っているように、この物語は意図的に読者を混乱させるような構成で描かれているからです(おそらく作者も明確な”正解”を決めていない)。

ただ、ラストの爆発オチは「優太の話を見たい」という絵梨の願いを叶えるために、そして優太自身が”家族の死”という辛い現実を乗り越えて前へ進むために必要なシーンであり、少なくとも彼にとって「これ以外は考えられない終わり方」だったことは間違いないでしょう。

それにしても藤本タツキ先生って、本当に映画が好きなんですねぇ。

 

ぼくのエリ 200歳の少女 (字幕版)

『さよなら絵梨』の元ネタ…というかオマージュ元
ファイト・クラブ (字幕版)

優太と絵梨が観ていた映画(これもラストで爆発する)
君の名前で僕を呼んで(字幕版)

絵梨がレンタル屋へ行った時に並んでいた映画