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庵野秀明、『シン・ゴジラ』のドラマについて語る

庵野秀明と『シン・ゴジラ』

庵野秀明と『シン・ゴジラ


どうも、管理人のタイプ・あ~るです。

さて先週、マイケル・ドハティ監督のゴジラ キング・オブ・モンスターズ』が地上波初放送され、ネット上でも話題になりました。

それらの反応を見てみると、「こういう怪獣映画が観たかった!」と絶賛している人や、「ストーリーが酷くて入り込めない」という人など、様々な意見が出ていたようです(個人的には「お祭り映画」として楽しめましたが)。

ちなみに、もともと本作は劇場公開当時から賛否両論真っ二つというか、褒めている人でも「ドラマパートはいまいちだが…」みたいな感じで、絶賛派も否定派も「シナリオが雑」という点では概ね一致していたらしいです(笑)。

そんな中、庵野秀明総監督の『シン・ゴジラ』と本作を比較して「『シン・ゴジラ』は人間ドラマを削ったから傑作になった」という意見が目に付いて「ん?」となりました。

確かに、『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』はドラマパートに不満を持っている人が多いようですが、ではドラマが無ければいい映画になるのか?いや、そもそも『シン・ゴジラ』には本当に人間ドラマが無いのか?など、ちょっとモヤモヤ…

こういう議論は『シン・ゴジラ』がヒットしている時にも多発していて、「『シン・ゴジラ』には余計な人間ドラマがない」「だから傑作になったのだ」みたいな意見が割と支持されていました。なので、今でもそう思っている人が多いのではないでしょうか?

実は、これに関しては庵野秀明総監督が『ジ・アート・オブ シン・ゴジラという本の中で詳しく説明してるんですよね。というわけで、本に載っている庵野さんのインタビューは非常に長いのですが、その中から”ドラマ”に関する発言を一部引用させていただきます。

もともと僕は、どちらかというと粛々と変化する状況が客観的に描かれていて、登場人物の主観的なドラマが少ない作品が好きなんですよ。東宝の戦記物『太平洋奇跡の作戦 キスカ』、『日本のいちばん長い日』(1976)、『激動の昭和史 沖縄決戦』も個人のドラマとして過剰に情感などを描いていないところも好きなポイントなんです。

むしろ状況に対処する人々の動きそのものが葛藤や起伏となり、ドラマになっているのが良いんですね。『日本沈没』(1973)や『八甲田山』などもメインの人物像を描いても劇中で行動する様が主軸でした。海外でも70年代まではそういったクールでハード、シャープな映画がいくつもありましたし、テレビ番組でも『宇宙戦艦ヤマト』の第2話、第7話、第22話など、戦闘の段取りだけで進む話も好きですし。

サンダーバード』のパイロット版(第1話)もほぼ事故と救助過程しか描いていませんが、それがいいんですよ。けど、なかなかその良さを分かってもらえず、『シン・ゴジラ』の脚本は東宝サイドの要求通り、主人公のヒーロー性や様々な感情ドラマの部分が重視されていく方向に当初は流れていました。(中略)

しかし、その脚本にもの凄い違和感を覚えたんです。もちろん、脚本家の方が書いているので、きちんとした脚本になってはいますが、主人公に濃厚なドラマが足されていたり、細かいディテールも含めて、僕がやろうとしていた内容とはかなり路線が違う感じになっていたんです。

何がどう違うのかを確認するために、改めて僕が最初に書いたメモを読み返してみたんですよ。すると、明らかな方向性のズレというか、東宝プロデューサー陣の各種要望を足していった結果、僕が最初にやりたかった映画とは全く違うものになっていることを強く実感しました。打ち合わせの度に東宝側の要望が入り、その都度本来の方向からズレていった感じです。

主人公たちのバックボーンやサイドストーリーなどのいわゆる”感情ドラマ”が増えて、ウェットな印象に変わっていました。ちょっとこの違和感を言葉にするのは難しいですね。感覚的なところが多いので。ドラマを排除するといっても、明快な恋愛や家族愛や友情などを描く必要がないと言っていただけなんですけどね。登場人物のバックボーン等は、観客の想像に委ねてもいいのではないかなと。

しかし、事がここに至ると僕の結論としては、現状の脚本をこのまま改定稿へ進めても、また堂々巡りになるだけと判断しました。「この方向で進めるなら僕がやる必要はないので降板します」と電話で伝え、後日改めて東宝側と会って、冷静に淡々と最初のメモと現状との落差を説明して「今のヒューマンドラマ重視の路線でいくなら、僕が関わる必要も意味もないのでここで降ります」という旨を直接伝えたんです。

 これを読むと庵野さんは、恋愛や家族愛や友情など主人公たちの主観を描いたストーリーを”感情ドラマ”と呼び、「粛々と変化する状況が客観的に描かれているドラマの方が好き」「むしろ状況に対処する人々の動きそのものが葛藤や起伏となり、ドラマになっているのが良い」と述べています。

つまり、「ウェットな感情ドラマは『シン・ゴジラ』に必要ないが、大変な状況に対処する人々の姿を描くことで十分面白いドラマになる」と考えていたのでしょう。

当初、東宝サイドはそんな庵野さんの考えに懐疑的で、コテコテの感情ドラマ路線を提示していましたが、「そういう方向でいくなら降板します」とキッパリ拒否されたため、その後1ヵ月ぐらいかけて東宝社内で検討が行われ、最終的に庵野さんの意見が受け入れられたようです。

というわけで、一般的には”人間ドラマ”というと「男女の恋愛」や「家族愛」みたいなドラマを思い浮かべる人が多いんでしょうけど、庵野さんが目指したドラマはもっと客観的で「困難に立ち向かう人々の状況」を描いたドラマだったんですね。