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庵野秀明、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』について語る

庵野秀明

庵野秀明さん


どうも、管理人のタイプ・あ~るです。

さて本日、「『シン・エヴァンゲリオン劇場版』大ヒット御礼舞台挨拶」新宿バルト9で開催され、『エヴァンゲリオン』シリーズで初めて庵野秀明総監督が舞台挨拶に登場しました(参加者は、庵野秀明さん・鶴巻和哉さん・前田真宏さん・緒方恵美さんの4名)。

まず最初に、庵野さんは「僕がエヴァ関連で表に出るのは製作発表の時と、1本目(旧劇場版)が春に間に合わなくて”すいません”という謝罪会見の時以来なんです」とコメント。「今日は皆さんにスタッフの代表として直接お礼を言う最後のチャンスかなと思って出ることにしました」と登壇の理由を説明しました。

”謝罪会見”とは、1997年2月14日に東映本社会議室で開かれた緊急記者会見のことで、本来ならエヴァンゲリオン旧劇場版は同年3月公開予定の1本で完結するはずだったのですが、公開日までに制作が間に合わず、庵野監督自ら「申し訳ありません!」と謝罪するという、前代未聞の事態になったのですよ。

結局、3月にはTVシリーズの総集編に当たる『DEATH』編と、新作パートの『REBIRTH』編(アスカの「エヴァシリーズ…完成していたの?」で終わるヤツ)を公開し、7月に本当の完結編となる『Air/まごころを、君に』が公開されることになったわけですが、それ以来ということは約24年ぶりの登壇ってことになりますね。

 

そして、司会進行役の緒方恵美さんが「シンエヴァは現在70億円を突破しているようですが、これについて庵野さんはどう思われますか?」と質問すると、「本当にありがたい。もう前作の『Q』を超えていて、80億以上いったら『シン・ゴジラ』も超えて僕の中ではレコードになる」と答えました。

さらに「もし100億いってくれるとアニメ業界の活性化に繋がるんです。『鬼滅の刃』とか新海誠さんの作品が100億を超えるのは当たり前なんですよ。まあジブリもそうですけど、100億を狙って当然の作品ですから。宮さんのところもそりゃ100億いくでしょう。でも、エヴァってロボットアニメなんですよ」と発言。

これに対して「え?ロボットアニメだったんですか?」とビックリする緒方さん。まあ、設定上の正式名称は「汎用人型決戦兵器 人造人間エヴァンゲリオン」なので、緒方さんとしては「ロボットじゃないでしょ?」って思ったのかもしれません。

ただ、庵野さんは劇中の設定ではなく”ジャンル”について話していて「まあ有名なロボットアニメの中でガンダムっていうのがあるんですけど、ガンダムですら100億いってないんですよ。だから、こんなニッチなロボットアニメで100億を目指せるのは本当にありがたいことだと思います」と語っていました。

 

そして話題はシンエヴァ制作中の苦労話や具体的な作業内容、アフレコに関するエピソードなど多岐に渡り、「シンエヴァの制作工程は異例尽くしで、舞台となる第3村のミニチュアを作ったりモーションキャプチャーの使い方が変わっていたり、普通のアニメとは異なる作業がかなり多かったようですが、その辺はいかがでしょう?」という緒方さんの質問に対して以下のように答える庵野さん。

ミニチュアとかモーションキャプチャーって無くても出来るんですよ、手で描けば済むので。でも、手で描いて済むものだけにはしたくないという思いが『序』の頃からずっとあって、あれから時間が経って技術力が上がって、ようやく今回やりたかったことが出来るようになったんです。頭の中だけで考えた画面ではなく、実際にあるもの、存在するものを切り取ることでアニメーションを作るっていう。まあ、なかなか大変なんで他の人はあまりやらないと思うし、時間もお金もかかるんですけど、自主制作なのでその辺はまあ何とか…。でも、本当に大変なんでやらない方がいいですよ(笑)。

しかし、この話を聞いていた鶴巻さんは色々思うところがあったようで、「例えばミニチュアの撮影とか、当然庵野さんがジャッジしてくれるんだろうと思っていたら、突然”鶴巻にやらせてみよう”みたいなことを言い出して(笑)。いや、庵野さんがやりたいからこれやってるんですよね?って(笑)。庵野さんは実写の現場を経験してるからいいけど、僕は経験が無いのでどうすればいいのか分からず不安だらけでした」と当時の心境を告白。

一方、庵野さんは「いや、自分の頭の中だけで考えても面白くないから。やっぱり、他の人ならこれどうするんだろうってことを見ておきたいんですよ。なんかすごい誤解されてるみたいだけど、僕は自分だけで作りたくないんですよ。色んな人の意見を重ねて紡ぎ合わせて、それで作っていきたい。だから編集も最初は自分からしないですね」とのこと。

この辺の「自分が考えたことなんて面白くない」「色んな人の考えを知りたい」という庵野さんの発言は、先日NHKで放送された『プロフェッショナル 仕事の流儀』での発言とも重なりますね。おそらく「自分の発想を上回るような優れたアイデアを積極的に取り入れることで、もっと作品のクオリティを上げたい」という庵野監督の意志の表れなのでしょう。

プロフェッショナル 仕事の流儀

プロフェッショナル 仕事の流儀

また、庵野さんはシンエヴァの制作手法に関して「今回は実写とアニメのハイブリッドなんですが、『Q』と『シンエヴァ』の間に『シン・ゴジラ』を撮ったことも影響しています。『シン・ゴジラ』のノウハウがこっちに全部活かせることが分かったので。シン・ゴジラ』を作ってなかったら『シンエヴァ』はたぶんこういう作り方にはなってないですよ。そういう意味では、あの映画をやらせていただいて本当に良かったと思います」と説明していました。

 

続いて緒方さんは「アフレコについてもお伺いしたいんですけど…」と切り出し、「シンエヴァのアフレコはかなり長期間に渡って収録されましたが、現場で何か印象に残っていることはありますか?」と質問。

すると鶴巻さんが「僕が印象的だったのは鈴原サクラのシーンで、沢城さんが演じているあの場面はかなり難しくて最初は不安だったんですけど…たしか一発OKでしたよね?」と庵野さんに尋ねると、庵野さんが「いや、あれ本当はテストなんですよ」と告白し、その理由を次のように説明しました。

沢城さんみたいなタイプはグワァー!っとアフレコ前に溜め込んで、溜めたものを一番最初に出しちゃうんですよ。だから最初を録らないとダメなんです。2回目以降は最初にやったものをもうちょっと上手くやろうとか、そうなっちゃうタイプの人なんで。とにかく最初が大事なんです。だから本編に入っているのも一番最初に録ったテスト用のテイクです。鶴巻は何回か録った後のテイクを推していましたが、”いや最初のやつをもう1回聞き直して”って言ったら”あっ、これでいいです”って(笑)。

実は庵野さん、『シン・ゴジラ』の撮影中にもこれと同じことをやってるんですよ。矢口役の長谷川博己さんがヤシオリ作戦に出発する決死隊に演説するシーンで、最初に1回テストをやったら、それが凄く良かったそうです。

ところが本番の時は、長谷川さんの芝居がテストに比べて少し作りものっぽく見えたらしい。すると庵野さんが長谷川さんに「最初のあなたの芝居を見て、僕はとても感動しました。きっと、演技する前に色んな思いを溜め込んで、溜め込んだものがテストの1回目に全部出たから、それが届いて僕は感動したんだと思うんです」

「けれど2回目は、もっと上手く演じようという意識が働いて、ちょっと作りものっぽくなっていました。次は、上手く見せようとかリズム良く喋ろうとか、そんなことは考えなくていいので、自分の感情の流れのままにセリフを喋って欲しい」と語りかけたそうです。庵野さんが一番最初のテイクにこだわるのは、こういう理由があるからなんですねえ。

シン・ゴジラ

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さらに緒方さんが「シンエヴァの映像には細かいところまで色んな思いやこだわりが込められていると思うんですが、”観た人もここは気付いてないだろう”みたいな、そういうものって何かありますか?」と問いかけると、庵野さんは以下のように答えました。

エヴァの画面って、物語上必要なものと”画”として美しいものと、あとは僕自身の人生において関りのあるものとスタッフの好きなもので構成されてるんです。僕の好みだけで作ってるわけじゃないんですよ。スタッフ全体の嗜好が散りばめられてるんです。そういうものが世界観を広げていると思うんですよね。

アニメーションってフィクションなので、基本的に自分の好きなものだけで構成できちゃうんですよ。実写の場合は、あそこにある変なビルなんとかならないかなって時に、わざわざお金をかけてCGで消すとか。”何とかタワー”ってのがあるんですけど、撮っちゃいけない建物が。そういうのが映ってたら、ああこれ金かけて消さなきゃいけないなとか、そういうのが実写の場合はあるんですけど、アニメの場合は最初から描かなければいいので。

そういうのがアニメのいいところなんですよ。だからシンエヴァも他のエヴァもそうですけど、基本的に僕やスタッフの好きなもので構成されています。その中には小ネタもいっぱいあるんですけど、宇部新川駅とかクモハ42とか。モデルになってる駅の周辺って電化されてないので電車があるのは本来おかしいんですけど、僕の好みなので入れました。あと、ラストカットの実写風景にももの凄いお金をかけて僕の好きなものを1個入れてあるので、気付いていただけたら幸いです。

 ここで庵野さんが語っている”何とかタワー”っていうのは、東京スカイツリーのことでしょう(”タワー”じゃないじゃんw)。スカイツリーは、シルエットデザインや立体形状などが商標として登録されているため、商用利用するには事務局の許諾を得なければなりません。

なので(手続きが面倒だったのか、それとも利用料を払うのが嫌だったのかは分かりませんが)『シン・ゴジラ』では映り込んでいるスカイツリーをわざわざCGで消したそうです。

また、「ラストカットの実写風景にもの凄いお金をかけて僕の好きなものを1個入れてある」って何かと思ったら、太陽家具宇部本店ビルのことらしい。株式会社太陽家具山口県宇部市に本店を置く家具販売業者で、昭和20年代から営業している老舗の家具屋です。

庵野さんにとっては子供の頃から慣れ親しんだ建物で、自身が監督した実写映画『式日』にも登場させていますが、数年前に別の場所へ移転し、現在はマンションになっているそうです。そこで、庵野さんはもう一度思い出の風景を見るために、このビルをシンエヴァのラストカットで再現したのでしょう(「もの凄いお金をかけて…」と2回も言っているので相当なコストがかかった模様w)。

 

その後も話題は続きますが、「先日NHKで放送された『プロフェッショナル 仕事の流儀』はご覧になりましたか?」という緒方さんの質問に対しては「見てません。基本的に自分が映ってるものは見ないんです。イヤだから」とキッパリ。

さらに庵野さんは「4年間密着って言ってるけど、4年ベッタリいるわけじゃないんで。間に何カ月も来てない時期があったり。結構いいシーンとか、これ撮っておけばいいのにっていうシーンがいっぱいあったのに、そういう時に限って来ないんですよ。バーチャルカメラの時も最終日が良かったのに、最終日になぜ来ない?っていう。大抵、初日に来るんだけど最後に来ないんですよね。最後がいいのに!」と番組スタッフを批判しまくり(笑)。

緒方さんが慌てて「いや、NHKさんも色々とご苦労されていたと思うし、映すタイミングの問題とか…」などと必死にフォローしようとするものの、庵野さんは「でも本当にいいシーンがいっぱいあったのに、何でこれを撮らないんだっていうのが…」みたいな感じでずっとダメ出しし続けていたのが面白かったです(笑)。

 

こうして舞台挨拶は終了。最後に庵野さんは「制作途中からコロナの流行に直面して今もまだ大変な状況が世界中で続いている時期にもかかわらず、こんなに大勢足を運んでいただき深く感謝しています。本当にありがとうございました」と観客に頭を下げ、退場する際にも来場者に向けて何度もお辞儀をしながら去っていきました。真面目な人ですねえ。

ちなみに、シンエヴァで監督を務めた鶴巻さんは『プロフェッショナル 仕事の流儀』の放送後、色んな人から「体調は大丈夫か?」と心配されたらしく、「いたって健康です」と現状を報告。やっぱり皆あの顔を見て「めっちゃヤバそう…」って思ったんだろうなあ(笑)。

鶴巻和哉さん

鶴巻和哉さん