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『天空の城ラピュタ』 「ムスカは弾丸を撃ち尽くしていたのか?」という疑問を検証してみた

天空の城ラピュタ

映画『天空の城ラピュタ』より

どうも、管理人のタイプ・あ~るです。

先日、金曜ロードSHOW!宮崎駿監督の天空の城ラピュタが放送され、なんと17回目の放送にもかかわらず14・5%という安定した視聴率を記録し、根強い人気を見せつけました。

SNS上でも相変わらず盛り上がっていたようで、クライマックスで皆が一斉に「バルス!」と書き込む、通称”バルス祭り”が今回も実施され、「バルス」が世界トレンド1位を獲得したそうです。

さてそんな中、気になるツイートを見つけました。

劇中でムスカは「シータと話をしたい」というパズーの頼みを聞き入れ、「3分間待ってやる!」と許可するんですが、その後、持っていた銃の弾丸を入れ替えるシーンが映るため、「弾を全て撃ち尽くしていたから再装填の時間稼ぎで”待ってやる”と言ったのか」と思っていたんですね。

ところが…

なんと、「ムスカが持っている銃は装弾数が6発のリボルバーだが、劇中では5発しか発砲していない。つまりシリンダーにはあと1発残っており、ムスカは弾丸を撃ち尽くしてはいなかったのだ」ってことらしいのですよ。

えええ~!?マジですか!?弾切れだと思ってたんだけどなぁ。というわけで、本日は色々気になるこの件を検証してみたいと思います。まず、ムスカの銃は本当に装弾数が6発なのか?」について。

ご存知のように『天空の城ラピュタ』は架空の世界が舞台ですから、使われている武器も現実世界のものと完全に一致しているとは限りません。

装弾数が5発の拳銃だって存在するし(日本の警察官が使用しているニューナンブも5発)、「最初から5発しか入っていなかった可能性」もあるわけですよ。なので『ラピュタ』の設定資料を確認してみました。それがこちらです↓

天空の城ラピュタ

ロマンアルバム天空の城ラピュタ』より

う~ん、これを見ると「口径:380 作動:ダブルアクション&シングルアクション 装弾数:6発」となっていて、ほぼ実在するエンフィールド・リボルバーNo.2と同じですね(ちなみに宮崎駿監督はこの銃が気に入っているらしく、『紅の豚』や『ハウルの動く城』など、他の作品にも登場している)。

さて、ムスカの銃が6連発であることは分かりましたが、では実際に6発の弾丸が装填されていたのでしょうか?もしかして、5発しか入っていなかったのでは?…ということが気になったので、排莢するシーンを確認してみました。

天空の城ラピュタ

映画『天空の城ラピュタ』より

おお~、ちゃんと6発の薬莢が描かれてる!もし1発撃ち残しがあるなら、このうちの1つには弾頭がついているはずですが、さすがにそこまでは確認できませんね(笑)。

次にムスカは本当に5発しか撃っていないのか?」について。これも実際に映像を見ながら確認してみましょう。

 

●1発目:パズーに向かって撃つ

天空の城ラピュタ

映画『天空の城ラピュタ』より

●2発目:パズーが走っている時に銃声が聞こえる

天空の城ラピュタ

映画『天空の城ラピュタ』より

●3発目:「王座の間」に入った時に撃つ

天空の城ラピュタ

映画『天空の城ラピュタ』より

●4発目:シータの左のおさげ髪を撃つ

天空の城ラピュタ

映画『天空の城ラピュタ』より

●5発目:シータの右のおさげ髪を撃つ

天空の城ラピュタ

映画『天空の城ラピュタ』より

数えてみると、確かに5発しか撃ってませんねぇ。ということはやはり、ムスカの銃にはあと1発弾丸が残っていたのでしょうか…?

だがしかし!

宮崎駿監督が描いた絵コンテを見ると、ムスカが装弾する場面で「実はもう弾丸が無かった」とハッキリ書いてあるんですよ。

天空の城ラピュタ

天空の城ラピュタ』絵コンテより

絵コンテの役割は、アニメーターやスタッフたちに「このシーンではどんなことが行われているのか」を明確に指示するためのものなので、意味のないことは書きません。

しかもこのシーンの場合、「ムスカ装弾する」とだけ書いてあれば十分に意図が伝わるのに、なぜわざわざ「実はもう弾丸が無かった」などと書いたのでしょうか?

ここからは僕の推測になりますが、もしかすると宮崎監督は「弾切れだった」と示すことでムスカのキャラクター”を表現したかったのかもしれません。

「王座の間」に入って3発撃った後、恐らくムスカは自分の銃が弾切れになったことに気付いていたのでしょう。なので、この時点で素早くリロードすることも可能だったはずです(シータから距離が離れているので反撃される危険性も少ない)。

しかし、「待てよ。すぐにパズーがここへやって来るな…」と考えました。そこでムスカは何をしたか?銃の撃鉄(ハンマー)を「カチッ」と上げたのです(絵コンテにも指示有り)。

天空の城ラピュタ

天空の城ラピュタ』絵コンテより

「銃を撃つ前にハンマーを上げるのは当たり前なんじゃないの?」と思っている人が多いかもしれませんが、実はそうではありません。

エンフィールド・リボルバーNo.2は”ダブルアクション”という機能を持っていて、いちいちハンマーを上げなければ弾丸を発射できない”シングルアクション”とは異なり、引き金(トリガー)を引くだけでハンマーが起き上がり、そのまま引き切ることで発砲できる仕様なのです。

実際、シータを撃つシーンでもムスカはハンマーを上げずに、そのまま次の弾を撃っていました。にもかかわらず、パズーがやって来る直前に限ってわざとハンマーを上げているのです。いったいなぜか?

実はここがムスカの巧妙なところで、パズーが自分に銃を向けることを予想していたムスカは、敢えてハンマーを上げた状態でシータに銃を向け、「お前より私の方が速いぞ!」と”優位性”をアピールしていたのです。

なぜなら、ダブルアクションの状態で撃つよりも、ハンマーを上げた状態(シングルアクション)で撃った方がトリガーのストロークが短いので素早く、しかも確実に弾丸を発射できるからです(銃身もブレにくい)。

宮崎駿監督は、ムスカというやつは自分の銃に弾丸が無いとわかっている状態でも、ここまで冷静沈着にハッタリをかますことができるほど計算高くて狡猾な男なのだ」というキャラクター性を強調するために、わざわざ「実はもう弾丸が無かった」と絵コンテに書いたのでしょう。

さらに言うと、パズーの方も2発しかない弾丸を撃ち尽くして弾切れの状態でした。もちろんムスカはそのことを知りませんが、「パズーは撃ってこない」という確信があったからこそ、「シータと話がしたい」とパズーが要求した時に「(そう言うと思った)」みたいな顔をしながら「3分間待ってやる」と言ったのではないかと(実際は1分ぐらいしか待ってませんがw)。

つまり、このシーンは単純に「銃で撃つぞ!」と脅しているだけではなく、「弾の出ない銃を持った二人の男が、それを悟られないように互いに相手を牽制し合う」という、非常に高度な駆け引き(?)が繰り広げられている様子を表現していたのですよ。

ただ、仮にそうだとすれば「じゃあムスカはどこでもう1発の弾丸を撃ったんだ?」という疑問が残りますよね。そう考えた時、気になるシーンが一つありました。「図2」を見てください。

天空の城ラピュタ

映画『天空の城ラピュタ』より

ここでは、パズーがムスカとシータを追いかけて通路を走っている、まさにその時にどこかで「ガーン!」と銃声が鳴っています。つまり、パズーも観客も見ていない場面でムスカは発砲しているのですよ。

ということは、同じように「パズーも観客も見ていない場面で発砲する」という状況が他にもあったんじゃないだろうか?と。では、いったいそれはどこなのか?

可能性があるとすれば図1から図3の間ですが、もしムスカがシータを追いかけている時に撃ったのなら、パズーにも観客にも銃声が聞こえるはずだしなぁ…。

などと考えていると、1ヵ所だけ聞こえない場面があることに気付きました。それは、パズー自身が発砲した瞬間です。

パズーはムスカに撃たれた後、壁に穴をあけるために”大砲”を撃ちますが、「ドーン!」という大きな衝撃音を響かせているため、この瞬間にムスカが発砲したとしても、その音が聞こえなかった可能性が高いのですよ。

天空の城ラピュタ

映画『天空の城ラピュタ』より

つまり、ムスカはここで6発目(順番的には2発目)の弾丸を撃ったのではないか…?というのが僕の推測です。

もちろん、単純に「宮崎監督が数え間違えただけ(本当は6発撃たせるつもりだったが1発描き忘れた)」という可能性も否定できません。

しかし、エンフィールドNo.2を他の作品に出すほど銃に詳しく、「実はもう弾丸が無かった」とわざわざ絵コンテに書くほど残弾数にこだわっている人が、そんな単純ミスをするとはちょっと考えにくいんですよねぇ。

なので、個人的にはムスカは弾切れの銃で堂々とハッタリをかましていた説」を支持したいと思います(^.^)

 

※追記
ムスカの発砲数について、「元々は6発撃っていたけれど、編集時に尺の都合で発砲シーンを1ヵ所カットしたのでは?」というコメントをいただきました。

確かに『天空の城ラピュタ』には上映時間を短くするためにカットされたシーンがあります。それはゴンドアの谷にいるシータのところへ、ムスカとその部下たち3人が歩いてくるシーンです(Cutナンバー422)。

天空の城ラピュタ

天空の城ラピュタ』絵コンテより

これは、地下の廃坑でパズーとシータが食事(目玉焼き+パン)をしている時に、シータが自分の過去を語る場面なのですが、背景も作画も描き終えフィルムとしてすでに完成している状態でした。

にもかかわらず、映画会社や映像ソフト会社などから「上映時間を2時間以内に収めて欲しい」という要望が宮崎監督のもとに多数寄せられ、仕方なくカットしたそうです。

実は『天空の城ラピュタ』が公開された1980年代当時、最新のメディアとしてレーザーディスク(LD)が登場し、様々な映画やアニメ作品がLD化されていました。

ところが、LDの容量は(CLV方式の場合)1枚につき最大で2時間しかなかったため、2時間を超える映画はディスクが2枚組となり、販売価格も上がってしまう。そのためメーカー側は「何とか2時間以内で!」と強く要望していたそうです。

しかし、宮崎監督は「”切れ切れ”と簡単に言うが、これ以上カットしたら映画がダメになってしまう」と頑なに抵抗し続け、「ナンバー422」以外のシーンは一切カットせず、最終的に『天空の城ラピュタ』は総尺数2時間4分4秒で公開されました。

というわけで、「カットされた場面はこれ以外に存在しない」と記録にも残っている以上、「編集時に発砲シーンをカットしたんじゃないの?」という意見については「恐らくそういうことは無かっただろう」と思います。

 

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