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映画『アップルシード(APPLESEED)』ネタバレ感想

アップルシード

■あらすじ『西暦2131年、世界は非核戦争によって壊滅的状態に陥っていた。大戦を生き抜いた女性兵士デュナン・ナッツは人類最後の理想郷「オリュンポス」へ連行される。しかし、一見平和に見えるこの都市には驚くべき秘密が隠されていたのだ!そして彼女の前に、変わり果てた姿のかつての恋人ブリアレオスが現れる。果たして彼は敵なのか、それとも味方なのか?「アップルシード」とは何なのか?人類の存亡を掛けた最後の戦いが、今始まろうとしている!』


原作:士郎正宗
声優:小林愛小杉十郎太松岡由貴
モーションアクター三輪明日美
監督:荒牧伸志
プロデューサー:曽利文彦
挿入曲:坂本龍一


押井守監督の「攻殻機動隊」や「イノセンス」で一般的な知名度もかなり上がった(かどうかは微妙だが)、士郎正宗原作の長編映画である。実は士郎正宗原作のアニメ化は結構多く、他にも「ブラック・マジック」や「ドミニオン」などがあり、なんと「アップルシード」も今回が2度目の映像化なのだ。

最初の「アップルシード」が作られたのはもう15年以上も前で、劇場用ではなくビデオ作品だった。製作はあのガイナックス(!)でメカ監修は庵野秀明(!)という今見ると大変豪華なスタッフである。内容については……まあ、あえて触れないでおこう(苦笑)。ちなみにこっちもDVD化されているらしいので、間違えて買わないようにw↓

さて今回の劇場版「アップルシード」は色々見所が多い映画なので、それぞれのポイントを述べてみる。

●ヴィジュアル
この映画の最大の特徴は、フル3DCGによるライブアニメーションであるという事だ。いわゆる「手描き」のアニメではなく、全てコンピュータによって作られている。登場人物はもちろん、メカや背景などありとあらゆるものが3DCGによって描かれているのだ。

このシステムの導入による最も大きな利点は「カメラアングルの自由化」である。従来の手描きのアニメーションでは到底不可能な(あるいは困難な)カメラの動きが、自由自在に行えるのだ。これにより、さらに実写的な映像表現が可能となった。

また「モーション・キャプチャー」の採用によって、2Dアニメとは比較にならないほど、リアルでスムーズな人物の動きを再現できるようになったのである。


●キャラクター
フル3DCGで作られた映画は、ドリームワークスやピクサーなどによって既に公開されており今では珍しく無い。だが「アップルシード」がそれらの映画と決定的に異なるのは「キャラクターがリアルな人間」だという点である。モンスターや動物などの「マンガ系」のキャラではなく、「リアル系」のキャラを使ってシリアスなドラマを展開させている点が最も大きなポイントなのだ。

そしてもう一つのポイントが、キャラの質感を表現する為に「トゥーンシェーダー」を使用している事だ。実は「リアル系キャラを使ったフル3DCG映画」には「ファイナル・ファンタジー」という前例があるのだが、「想像を絶する程に」ヒットしなかったのである。詳細は省くが、ヒットしなかった原因は「面白くなかった」という単純明快な理由によるものだ(笑)。

しかし、キャラクターがあまりにもリアルすぎて感情移入できなかった、という説も否定できないのである。これに対し「アップルシード」では「トゥーンシェーダー」の採用により、キャラに従来のセルアニメと同等の質感を与えている。これにより観客の記憶にある映像との「同調」を図り、抵抗感を減らす事に成功しているのだ。

また「モーション・キャプチャー」だけでは再現できないキャラの顔の微妙な動きを、「フェイシャル・キャプチャー」の使用によって表現している。この為、よりいっそうキャラクターに感情移入しやすくなっているのだ。

しかもデュナンに関しては「モーション」「アクション」「フェイシャル」と3人の役者が「演技」をつけてキャラクターを作り出しているというこだわりようである。しかしやはり良い事ばかりとは限らず、背景と馴染まない等の「違和感」は否定できない。特に髪の毛の表現は、改善の余地大いに有りである。


●ストーリー
押井守監督の「攻殻機動隊」や「イノセンス」との大きな違いは、「ストーリーが分かりやすい」という事だ。これは押井守がどうこう言う以前に、士郎正宗の原作が複雑極まりない為である。

そこで「このまま映画化しても誰も理解できないだろう」と判断したのか、大まかなストーリーは原作の1〜2巻をベースにしているものの「かなり」簡略化されており非常に分かりやすい物語になっている。

しかしこの「かなり」が曲者でストーリーの構造はもちろん、キャラクター設定に至るまでありとあらゆる部分が大胆に変更されているのだ。特にキャラクターの分かりやすさは大変なもので、主人公に銃を突きつけて「ワハハハ!」と高笑いするといった安物のアクション映画に出てくるような典型的な悪役まで登場する始末だ。

正直「今時こんなヤツいるのか?」というセンスの古さを感じさせるが、原作の人間関係の複雑さを考えるとこれぐらいで丁度いいのかもしれない。

しかしそんな事よりもっと大変な問題は、この映画が実は恋愛映画だったという事である。この事実が判明した瞬間、日本中の士郎正宗ファンがひっくり返った(多分)。なんせ原作はガチガチのハードSFで、ここまで”愛”を全面に押し出した映画になるとは夢にも思わなかったからである。

だが驚くべき事に士郎正宗のハードな原作を踏襲しつつも、そこに描かれているのはまぎれもない正真正銘のラブ・ストーリーだったのだ。さすが「もう一つの美女と野獣のキャッチコピーはダテではない。はっきり言ってドラマの演出としては古臭く、「ベタだなあ」と感じる展開の連続である。

しかしラブ・ストーリーである以上ヒトミちゃんの「人を愛するってどんな気持ちなの?」といった日常あまり使わないような恥ずかしいセリフも全然OKだ。いやむしろ後半もっとベタな展開にしても良かったと思うぐらいである。


●全体の印象
総合的に見るとなかなかエンターテイメント性の高い映画だと思う。「イノセンス」が押井監督の思うままに暴走した結果の産物だとしたら、この映画は周りのスタッフがしっかりサポートして、かなり一般のお客の事を意識した作りになっていると言える。

プロデューサーを見てみると曽利文彦。なんと、映画「ピンポン」の監督ではないか!どうやら音楽と演出に関しては「ピンポン」の時と同様に、全て曽利監督が細かく指示したらしい。そのせいかどうか、全体的にメリハリの効いた無駄の無い展開になっている。

また、曽利監督は映画の音楽についてもかなりのこだわりを持っているらしく今回も一流のアーティストを集結させたおそろしく豪華なサウンドトラックとなっている。その音楽と演出は映画の中で実に見事なバランスをとっており、特に中〜後半にかけてのテンションの盛り上がり方はハンパではない。

クライマックスにおけるめまぐるしいアクションと、絶妙のタイミングでかかる音楽との相乗効果によって素晴らしい開放感を生み出す事に成功していると思う。おそらくこの監督は「気持ちいい映画」とはどういうものなのかが感覚で分かっている人なのだろう。

確かに原作ファンから言わせれば「こんなのアップルシードじゃない!」という内容かもしれない。しかし多少原作を逸脱したとしても、その結果エンターテイメント性が向上すれば映画としては評価出来ると思うのだ。決して「めちゃめちゃ面白い!」という訳ではないが、軽めのSFアクション・ラブストーリーとしてなら悪くないと言えるだろう。

ちなみに、映画ではないのだが士郎正宗つながりという事でついでに紹介しておきたい。オリジナルビデオアニメ「ブラックマジックM-66」である。このビデオは原作者の士郎正宗が自ら監督を務め、脚本と絵コンテを描き下ろしたまさに入魂の作品である。たかがアニメと侮る無かれ、まるで良質な海外SFドラマのような面白さには度肝を抜かれる事受け合いだ。

しかし士郎正宗本人は映像制作の経験が無く、当初は絵コンテの描き方が全く分からなかったらしい。そこで本屋で「風の谷のナウシカ」の絵コンテ集を買ってきて、なんとそれを見ながら作業をしたそうだ。律儀な事に「宮崎駿監督のおかげです」というコメントまでわざわざ出している。

だが、作品はそんな「素人同然」の人が作ったとは思えぬほどの凄まじい完成度である。総作画枚数35000枚以上という、このクラスのビデオとしては非常識なほどのセルを使用し、驚異的とも言えるクオリティの映像を作り上げたのだ。一見の価値有りです!