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宮崎駿が描いた『耳をすませば』の絵コンテが凄い

本日、金曜ロードSHOW!にて近藤喜文監督の『耳をすませば』が放送されます。この作品は宮崎駿さんが脚本と絵コンテを描いて近藤さんが監督したものですが、実は「宮崎監督の絵コンテを他の人が監督する」というパターンは珍しいんですよね。

それまでのジブリでは、ずっと宮崎駿高畑勲の2大監督を中心として作品を作っていたから、「そろそろ他の人にも監督の機会を与えるべきなんじゃないか?」みたいな話が持ち上がり、『海がきこえる』では望月智充さん、『猫の恩返し』では森田宏幸さんがそれぞれ監督を務めました。

でも、それらの作品では宮崎さんは絵コンテを描いていません。その後、『ゲド戦記』や『借りぐらしのアリエッティ』が作られた際も、宮崎吾朗監督や米林宏昌監督が自分で絵コンテを描いているのです。つまり、宮崎さんの絵コンテを宮崎監督以外の人がアニメ化した例は、『耳をすませば』だけなんですね。

ちなみに、『魔女の宅急便』の監督も当初は宮崎さんじゃなくて、別の人がやる予定でした。それが『この世界の片隅に』の片渕須直さんです。当時、片渕さんは演出としてジブリで働いていましたが、『魔女の宅急便』の監督に内定し、宮崎さんは脚本とプロデュースだけの予定だったそうです。

ところが、当初は「若手監督の劇場デビュー作品だから、80分ぐらいの小規模な映画にしよう」と考えていたものの、宮崎さんがどんどんアクションシーンを追加した結果、スペクタクルな場面を盛り込んだ100分以上の大作なってしまい、「これを新人監督に任せるのは荷が重い」と判断。結局、宮崎さんが自分で監督することになったという。

で、『耳をすませば』の話ですけど、この映画のなにが凄いって、「宮崎駿が絵コンテを描いていること」なんですよ。いや、『ナウシカ』や『ラピュタ』のような冒険活劇ならともかく、「女子中学生の淡い恋愛ドラマ」ですからね。それを、当時54歳の宮崎駿が描いてるわけです。これはキモ…いや凄いと言わざるを得ません!

同級生の男子にいきなり告られてドギマギする雫(しずく)や、好きな男の子が遠い所へ行くことを知らされ、切ない気持を隠して明るく振る舞う雫など、女子中学生の揺れ動く心情と甘酸っぱい青春物語を、54歳の宮崎駿が描いているという驚くべき事実!

ただ、絵コンテを見てみると、杉村が雫に告白するシーンでは、「しずく、ビックリして顔が真っ赤になる」的な感じで状況を説明してるだけなんですけど、「ずっと前からお前のことが好きだったんだ!」と叫ぶ杉村のところには「いけ杉村!いっちまえ!押せ!押せ!」みたいなことが書いてあるんですよ。

完全に杉村の方に感情移入してるじゃん!宮崎さんの心の声がダダ漏れに出てるよ!ラストの「しずく、大好きだッ!」の場面も「聖司、コートごとしずくをギュッと抱きしめる。イタリアで訓練してきた」とまで描いてある。しかも「エエイ、言わせちまえ!」って、またもや男子の側に感情移入してるし(笑)。まあ、でも男が女子中学生の気持ちになって絵コンテを描くのは難しいんでしょうねえ(^_^;)

一方、近藤喜文監督が作った『耳をすませば』本編の方は、宮崎さんが描いた絵コンテとはかなりニュアンスが異なっていて、女子中学生の雫側に感情移入しているような、繊細で女の子らしい仕草が目立ってるんですよ。



どうやら、宮崎さんと近藤さんとの間で、キャラクターに対するイメージにかなりギャップがあったらしく、宮崎さんは雫を「考えるよりも先に身体が動くタイプの女の子」と考えていたのに対し、近藤さんは「考えてから動く思慮深いタイプの女の子」と捉えていたようです。

そのため、完成した映画を見た宮崎さんは「雫はこんなキャラじゃないよ!」と怒り、キャンペーン中の記者会見でも、記者からの質問に近藤監督が答えた後、「それは違う。監督は何もわかってないんです!」と否定するなど、二人の間には常に険悪なムードが漂っていたらしい。


このように、『耳をすませば』に関しては、宮崎さんと近藤さんとの間で見解の相違があったようですが、鈴木敏夫プロデューサーは「それが逆にこの作品を魅力的なものにしている」とコメントしていました。

たしかに宮さんの絵コンテ通りにやっていれば、雫はもっと明朗快活な女の子になっていたでしょう。だけど、近ちゃんが演出した雫はどこか上品で現代的な子になった。そして、それがこの作品を魅力的なものにしているのも間違いないんです。
(「ジブリの教科書9 耳をすませば」より)

男子キャラに感情移入した宮崎さんの絵コンテを、近藤さんが女子目線で丁寧に演出したことで『耳をすませば』という作品はちょうどいいバランスに仕上がったのかもしれませんね。


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