どうも、管理人のタイプ・あ~るです。
さて先日、『攻殻機動隊』の新作TVアニメに関する情報が発表され、ファンの間で話題になりました(制作は『犬王』や『映像研には手を出すな!』のサイエンスSARUが担当)。
何故そんなに話題になったのか?というと、『攻殻機動隊』は今まで劇場版やTV版など何度もアニメ化されていますが、士郎正宗先生の原作に準拠した作品はほとんど無かったからです(PS1のゲームに収録されたムービーが最も原作に近いと言われている)。
ところが、今回公開されたポスターや特報映像を見ると”原作の絵”をそのまま使っているではありませんか!
これを見たファンは「ついに士郎正宗の原作に忠実なアニメが作られるのか!?」と期待値が爆上がりしているわけなのです。
が、そもそもなぜ『攻殻機動隊』のアニメは原作から離れてしまったのでしょうか?
1989年からヤングマガジン海賊版にて連載が始まった『攻殻機動隊』は近未来の日本を舞台にしたSFアクション漫画で、欄外にぎっしり書き込まれた膨大な解説や斬新なストーリーなどが多くの漫画好きを魅了しました。
そして1995年に押井守監督の手によって作られた劇場アニメ『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』が公開。ストーリー自体は(映画用に構成し直してはいるものの)概ね原作のエピソードに準じたもので、全く原作と異なっているわけではありません。
しかし原作の主人公:草薙素子は上司に変顔をしたり部下とジョークを言い合うなど軽妙なキャラクターだったのに対し、映画版はクールで大人っぽい感じに改変されていたのです。
さらに原作にあった”細かいギャグ”もことごとくカットされ、マスコットキャラ的なフチコマも登場しないなど、完成した映画は(音楽や世界観等も含めて)完全に「押井守の作品」になっていたのですよ。
当然、「雰囲気が全然違う!」と不満を感じた原作ファンもいたようですが、これ以降の『攻殻機動隊』(神山健治監督の『S.A.C.』や黄瀬和哉監督の『ARISE』など)も押井版のクールでカッコいい雰囲気を引き継いだアニメとして制作されることになったのです。
そのきっかけを作った押井監督は、『攻殻機動隊』のアニメ化について以下のように語っていました。
僕自身、士郎正宗さんの作品は全部好きだったし、『攻殻機動隊』は特に気に入っていた。でもまさか、それが自分に回ってくるとは予想もしてなかったけど。
でも士郎さんの作品って難しいんだよね。アニメになりそうで、なりにくい世界だから。みんな技術的な部分でのウンチクで悪戦苦闘する。それでキャラクターの方を立てようとすると、ただのドタバタになっちゃう。かといって士郎さんらしい世界観を出そうとすると、映画そのものが破綻してしまう。
(中略)
まずキャラクターを変えた。士郎さんの絵は映画にするにはちょっと無理があったから。それと鉄砲だよね。銃器を含むメカデザインは全部変えた。
それから結構不満だった人もいるみたいだけど、フチコマは最初から消えてもらうつもりだった。これにはいくつか理由があるんだけど、まず第1に声。フチコマはマスコット的な印象が強いので、どうしても可愛いものになってしまう。これでは映画全体との兼ね合いが悪い。
もう一つの理由は、サイボーグである素子がフチコマみたいな強力なメカに乗ったら無敵になってしまうということ。アクションシーンが素子のアクションではなくフチコマのアクションになってしまうという危惧があったからね。
こうして押井守監督の解釈や世界観で再構築されたアニメ『攻殻機動隊』が生み出されたわけですが、納得できない原作ファンも少なからずいたようですねぇ。
なにしろ押井監督といえば『うる星やつら』の頃にも「原作を改変するな!」などとファンから批判が殺到し、「高橋留美子先生は『ビューティフル・ドリーマー』を観て激怒した」という噂まで流れていたほどなので(高橋先生本人は「怒ってない」と否定していますが)。
では『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』を観た士郎正宗先生はどう思ったのでしょうか?
映画公開後に「週刊ヤングマガジン」1995年11月27日号にて押井監督と対談した際、アニメの印象を以下のように語っていました。
士郎:無茶苦茶リキ入った映像で大変でしたね。ただ、今回は押井さん色が若干抑え気味かな、という気もしたんですが。
押井:単行本が出た時から「人形使い」の話をやりたかったので、ストーリーはあまりいじるつもりがなかったんです。世界観だけをすっぽりと変えてみる、というのが方針で。
士郎:直球、ストレートで勝負した感じがしましたね。
押井:ええ、ミットに届いたかどうかは分かんないけど(笑)。
これを読むと士郎先生の反応としては「もっと大きく改変するかと思ったら意外とそのまんまでしたね」みたいなトーンで、「気に入らない」とか怒っているような印象はありません。
さらに『ぱふ』1995年12月号のインタビューでも「完成度が高くて嬉しいですが、押井氏のカラーがもっと前面に出た方が良かったな…とも思います」とコメント。原作ファンは”押井守的な世界観”が強すぎる点を批判していたのに対し、士郎先生は逆に「もっと押井監督っぽい映画」を期待していたようですね。
また、劇場アニメ版『攻殻機動隊』に対する”評価”としては以下のように語っていました。
結果としてこの映画は、”押井氏と原作の最大公約数”的な仕上がりになったと思います。もともと側面攻撃用の変化球である原作(僕にしては最もストレートに近い)を、これまた個性的な押井氏が料理するわけですから、”公約数ストレート”または”暴投覚悟の超曲球”の選択だったのでしょう。
今回は商業的にあまり冒険することが許されなかったでしょうから、ストレート勝負で良かったと思います。音像面でも予想していたほどノイズやガヤがなく、これまた綺麗なストレートでした。主題も主要素である”水”と合っており、良かったと思います。暴力的で無かった点が映画全体のカラーを支配しているのでしょう。
(「押井守全仕事 増補改訂版」より)
このように、士郎正宗さんは押井版の『攻殻機動隊』に対して悪い印象を持ってないというか、むしろ肯定しているようにも見えるんですよね。
しかも別のインタビューでは、過去に作られた『攻殻機動隊』の全アニメ作品の中で「一番観たのは『イノセンス』です」とコメント。
さらに”好きな押井作品”について訊かれたら「『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』と『天使のたまご』です」と答えてるんですよ(もしかして士郎先生、押井監督のファンなのでは?)。
そして、こういう原作者の発言を聞いた他のクリエイターたちが「『攻殻機動隊』のアニメはああいう感じでいいのか」と思った…かどうかは分かりませんが、これ以降はカッコよくてシリアスでギャグ少な目の『攻殻機動隊』が次々と作られていったのです(なお、アニメ版のイメージがすっかり世間に定着したため、初めて原作漫画を読んだ人はあまりのギャップに困惑したらしいw)。
というわけで、新しく作られるTVシリーズが原作寄りなのか、それとも今までと同じくシリアスな路線なのか非常に気になるところですが、2026年の放送まで楽しみに待ちたいと思います。