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「資金繰りは常に厳しかった」 『おくりびと』所得隠し発覚


今朝、読売新聞を読んでいると、結構大きな扱いで「『おくりびと』興行所得隠し」と書いている記事が目にとまった。映画『おくりびと』は、2008年に滝田洋二郎監督、本木雅弘主演で製作された作品である。一見地味な印象ながらもその内容が高く評価され、第32回日本アカデミー賞では作品賞・監督賞・脚本賞・主演男優賞などを総ナメし、第81回アカデミー賞では外国語映画賞を受賞するなど大変な注目を浴びて興行収入65億円の大ヒットを記録した。

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この『おくりびと』を手がけた映画企画会社「セディックインターナショナル」が、海外の興行収入を簿外口座に入金させて申告しなかったなどとし、東京国税局から2012年8月期までの5年間に約10億円の所得隠しを指摘されたという。重加算税を含む法人税の追徴税額は約4億円になるそうだが、同社は直ちに修正申告し、すでに納付も済ませたらしい。

問題の「セディックインターナショナル」とは、映画配給会社やテレビ局など出資企業で作る「製作委員会」の中心メンバーとして、作品を企画し、俳優の出演交渉などを担当している会社だそうだ。『おくりびと』のほか、宇宙戦艦ヤマトの実写版『SPACE BATTLESHIP ヤマト』や、名作時代劇のリメイク『十三人の刺客』、和風西部劇『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』などを企画しているらしい。

また、これ以外にも『おしん』、『図書館戦争』、『座頭市 THE LAST』、『日本沈没』、『あずみ』、『NANA』など、数多くの大作・話題作を手掛けていることから、映画業界の中ではかなり実績のある企画会社と思われる(『おくりびと』以外のラインナップが少々微妙な感じだけどw)。

今回、このセディックインターナショナル社が、『おくりびと』や『SPACE BATTLESHIP ヤマト』の興行、及びDVD販売等で得た収入の一部を申告から除外していたことが問題になったらしい。また、『十三人の刺客』や『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』のように海外で公開された映画については、興行収入を簿外口座で受け入れて申告から除外するなど、手の込んだ工作をしていたようだ。

この件に関してセディック社の社長は読売新聞の取材に対し、「海外の収入は作品ごとに後でまとめて申告しようと思っていた。他にも多少の問題はあったが、いずれも軽微なもので意図的な税逃れではない」と釈明している。さらに”映画製作の難しさ”について以下のようにコメントしていたとのこと。

「映画というものは、資金があるからこそ、ああしよう、こうしようという構想が湧いてくる。資金が無いと発想も貧困になる。これまで100本以上の映画を手掛けてきたが、ヒットしたと言える作品は1割にも満たない。ヒット作でまとまった収入を得ても、次の映画の製作費に回さなければならず、資金繰りは常に厳しかった」

この発言に対して映画業界に詳しい税理士は、「映画は当たり外れが大きい。大きなもうけが出たため、過去の損失を埋めたり、将来のために残したりしようと考えた面があるのでは?」と指摘している。要するに「こういう業界は滅多に儲からないから、たまにヒットした時に皆お金を貯めたがる」ってことなんだろうけど、僕がこの記事を読んで思い出したのは、アニメ制作会社ガイナックス」の脱税事件だった。

1998年、当時『新世紀エヴァンゲリオン』が大ヒットして莫大な収入を得ていたガイナックスは、架空の経費計上などで法人税の支払いを免れたとの疑いを持たれ、東京地検特捜部が法人税法違反(脱税)の容疑で強制捜査に乗り出したのである。その結果、2年間で15億6000万円の所得隠しが発覚。5億8000万円を脱税した罪で東京国税局はガイナックスと当時の社長である澤村武伺を告発し、最終的に澤村社長が逮捕された。

脱税の金額はガイナックスの方が少し多いが、「映画(アニメ)がヒットした」→「税金をごまかす」という流れはほぼ同じものだろう。では、その動機は何なのか?現ガイナックス取締役統括本部長の武田康廣氏は脱税に至った理由を、「”貧乏はつらい”ということに尽きる」と述べており、『エヴァ』がヒットする以前のガイナックスについて「会社を設立して以来、常に経営状態は酷かった」と告白している(『オネアミス』も『トップをねらえ!』も『ナディア』も全部赤字だったらしい)。

で、セディック社のラインナップを見ると、やはり大ヒットと呼べるものが『おくりびと』以外にほとんど見当たらないことから、「貧乏はつらい」という結論に至らざるを得ないのかなあと思った次第(もちろん脱税を肯定する気は全く無いが)。ただ、セディック社は直接作品を作ってたわけじゃなくて、出資企業からお金を集めていただけなのに、そこまで資金繰りが悪化するものなのか?という疑問は残る。まあ、ガイナックスの場合は本気で貧乏だったみたいだけど(笑)。

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