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映画『容疑者Xの献身』はこうして作られた

容疑者Xの献身

容疑者Xの献身


どうも、管理人のタイプ・あ~るです。
さて本日、土曜プレミアム容疑者Xの献身が放送されます。

本作は2007年から放送された福山雅治さん主演の人気ドラマ『ガリレオ』シリーズ初の映画化であり、2008年に劇場公開され、49億円を超える大ヒットを記録しました。

原作は1985年『放課後』で第31回江戸川乱歩賞を受賞して以来、多数のベストセラー作品を世に送り出してきた東野圭吾さんの同名小説です。

この小説は第134回直木賞を受賞しただけでなく、第6回本格ミステリ大賞も受賞。さらに『本格ミステリ・ベスト10 2006年版』、『このミステリーがすごい!2006』、『2005年「週刊文春」ミステリベスト10』でもそれぞれ1位を獲得するなど大変な話題になりました。

当然ながら『容疑者Xの献身』の映画化権は争奪戦となり、最終的にフジテレビが獲得したものの、その際に文藝春秋から「TVドラマと連動させること」という条件を付けられたそうです。

普通は「TVドラマがヒットしてから映画化」という流れなんですけど、『容疑者Xの献身』の場合は逆なんですよね。つまり『ガリレオ』シリーズがスタートした時点で、すでに映画化は決まっていたという。

でも、これってちょっと怖いですよねぇ。もしドラマがコケたらどうするんだ?とか。ちなみに、プロデューサーは「ドラマを必ずヒットさせなければならないプレッシャーが凄かった」と言いつつ、「でも本当はドラマの方がやりたかったので、まさに”渡りに船”だった」とのこと。

容疑者Xの献身

容疑者Xの献身

こうして『ガリレオ』シリーズが放送されると、平均視聴率20%を超える大ヒットを記録!そしてドラマの撮影が終了してから1か月後に、監督やキャストはそのまま映画の撮影に突入したのです。

ただし、TVドラマの『ガリレオ』シリーズと劇場映画の『容疑者Xの献身』は、同じキャラクターが登場する物語であるにもかかわらず、雰囲気が全然異なってるんですよね。

プロデューサーによると「ドラマ版の方は、小さい子供からお年寄りまで家族皆で楽しめるような空想科学ミステリーを目指した」「一方、映画版の方はシリアスで重厚な人間ドラマが展開される本格ミステリ」とのこと。

もちろん、キャストやスタッフはドラマ版を作っている時からこうなることが分かっていましたが、福山雅治さんは「やはり最初は戸惑いました。ドラマ版では全く見せていなかった部分、”プライベート湯川”ですからね(笑)」とコメント。

また、内海薫役の柴咲コウさんも「映画のトーンがドラマ版よりかなり落ち着いた雰囲気になるというのは監督から聞いていたので、”浮ついた感じの取れた薫にしよう”っていうのはありました」と語っています。

さらにドラマ版で演出を手掛け、劇場版で監督を務めた西谷弘さんも「当初から自分の中では表現のすみ分けをしたいと思っていた。ドラマの方はいわばコミック的アプローチ。決めポーズや決めゼリフなどキャッチーな見せ場を作ることで、学校や職場で話題になるように…という狙いがあった。映画の方は全く逆で、小説的アプローチ。荒唐無稽な描写は極力省き、しっかりと人間ドラマに重きを置きたいと考えていた」とのこと。

そもそも『ガリレオ』シリーズのように科学や実験で謎を解明していくストーリーではないし、湯川が数式を書きまくるシーンもないし、ドラマ版を好きな人は「全然ガリレオじゃないじゃん!」と戸惑うかもしれません。

しかし、プロデューサーは「『容疑者Xの献身』を観た人が思わず泣いてしまい、”まさかガリレオで泣かされるとは思わなかった”と言うような、そんな映画を作りたかった」と語っており、その言葉通り「多くの観客が涙するような映画」になっているのが素晴らしい。

容疑者Xの献身

容疑者Xの献身

ちなみに『ガリレオ』シリーズのお約束といえば、毎回ドラマのオープニングで描かれる「湯川教授の実験」で、映画版でも「運動量とエネルギーの保存則」を説明するために超電動加速器を使用して物凄い大爆発を起こしています。

でもこの冒頭シーン、実は全スケジュールの一番最後に撮影されたんですよ。

2008年の3月、栃木県岩舟町の採石場跡でロケしたこのシーンは、大量の火薬を使うため朝から入念なリハーサルが行われていました。ところが、いざ撮影を開始しようとしたら急に雨が降り出したのです。

そこで雨が止むまで一旦待機することになったものの、なかなか止みません。結局、この日は中止&延期されました。そして翌日、撮影が再開されたものの、現場は前日の雨でドロドロ。

さらに撮影時間は限られている上に撮り直しのできない一発勝負のシーンでもあるため、スタッフやキャストに緊張が走ります。やがて本番スタート!

容疑者Xの献身

容疑者Xの献身

福山さんが現れ、「ガウス加速器と呼ばれる簡単な実験装置を紹介しよう…」と長ゼリフを喋りながら巨大な加速器の方へ移動し、装置を作動させて大爆発するまでの様子をワンカットで収めるという非常に難しいシーンでしたが、見事に一発で成功!

こうして約2ヵ月に及んだ『容疑者Xの献身』の撮影は、無事にクランクアップを迎えたのです。

 

容疑者Xの献身

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細田守監督作『竜とそばかすの姫』は『美女と野獣』のパクリなのか?

竜とそばかすの姫

竜とそばかすの姫


どうも、管理人のタイプ・あ~るです。

さて本日、金曜ロードショー細田守監督の最新作『竜とそばかすの姫』が放送されます。2021年に66億円の興行収入を叩き出した大ヒットアニメですが、なんと公開から1年あまりで早くも地上波放送が決定!

ちなみに、この映画はインターネットの世界が舞台なんですけど、細田監督は2000年公開のデジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』と、2009年公開のサマーウォーズでも”ネット世界を描いた物語”を作ってるんですね。

つまり、細田監督にとってはインターネットを題材にした映画の3作目になるわけで、ある意味「手慣れたジャンル」と言えるのかもしれません。

ただし、フルCGで作られたキャラクターや有名ミュージシャンたちが手掛けた魅力的な楽曲の数々など、本作で初めて取り入れた要素も満載なため、過去の2作を観た人も楽しめるんじゃないでしょうか。

竜とそばかすの姫

竜とそばかすの姫

そんな『竜とそばかすの姫』ですが、公開当時は「『美女と野獣』に似てる」とか「パクリじゃん!」「ディズニーに許可とってるの?」「著作権的にヤバそう…」などの疑問や批判が出ていたようです。えええ…

美女と野獣』といえば1740年代にフランスで生まれた物語で、1756年にジャンヌ=マリー・ルプランス・ド・ボーモン夫人が童話として再構成し、書籍を出版。

そして1946年にジャン・コクトーの手によって映画化され、さらに1991年にはディズニー制作の長編アニメーション映画が公開されました。

『竜とそばかすの姫』はこのディズニー版『美女と野獣』に似ていると言われてるんですが、では一体どれぐらい似ているのかというと…

まず、主人公の「内藤鈴(すず)」という名前は『美女と野獣』の主人公ベル(Belle)からとったもので、しかもインターネット世界<U>のアバター名は「ベル(Belle)」となっていてそのまんま!

また、ネットの世界で忌み嫌われ、自分の城に隠れて暮らしている「竜」はどう見ても「野獣(Beast)」だし、ベルと竜がダンスを踊るシーンなども『美女と野獣』にそっくりなんですよ(他にも「バラの花」や「城にいる召使い」など類似点が多々あり)。

美女と野獣(上)竜とそばかすの姫(下)

美女と野獣(上)竜とそばかすの姫(下)

これらは本当にパクリなのか?そもそも何故こんなに似ているのでしょうか?その理由は……実は細田守監督が『美女と野獣』の大ファンだったからです(笑)。

ディズニーアニメ版が世界中で大ヒットを記録し、日本でも公開されていた頃(1992年の9月)、ちょうど大学を卒業して東映動画(現:東映アニメーション)に入社したばかりの細田監督も映画館へ観に行ったそうです。

ところが当時、細田さんは「アニメーション作りがいかに過酷で賃金的に報われない仕事なのか身に染みて味わい、早々に転職を考えていた時期だった」とのこと(まさに”人生の岐路”に立っていた!)。

そんな時に『美女と野獣』を観て、「アニメーションとはこんなに素晴らしい表現ができるものなのか!」と感激し、「この仕事を続けよう」と決意したそうです。つまり『美女と野獣』がアニメーション監督:細田守を生み出したと言っても過言ではないのですよ(細田監督自身も「今の僕があるのは『美女と野獣』のおかげ」と認めている)。

以来、細田監督は『美女と野獣』の影響を受けながら作品を作り続け、「例えばおおかみこどもの雨と雪では主人公と狼男の関係に『美女と野獣』が反映されているし、『バケモノの子』は英題が「The Boy and The Beast」ですからね(笑)」などと証言。

すなわち、細田守監督にとって『美女と野獣』はそれぐらい重要な作品なわけで、『竜とそばかすの姫』にその要素が取り入れたのは、ある意味”必然”と言えるんじゃないでしょうか(細田監督曰く、「”『美女と野獣』のモチーフをインターネットの世界でやる”というアイデアが『竜とそばかすの姫』を作るきっかけだった」とのこと)。

しかも細田監督は以前から『美女と野獣』の大ファンであることを堂々と公言しており、海外の映画祭に出席した際も「今までどんな作品の影響を受けましたか?」と質問されたら「『美女と野獣』が大好きです!」と答えるほどだとか。

さらに『未来のミライ』で米国アカデミー賞長編アニメーション部門にノミネートされた時は、グレン・キーン(『美女と野獣』のスーパーバイジング・アニメーター)に「僕が将来について悩んでいた時、あなたの描いたキャラクターたちに勇気付けられたんです!本当にありがとうございました!」と直接感謝の気持ちを伝えたそうです(どんだけ『美女と野獣』が好きなんだよw)。

また、『美女と野獣』のプロデューサーを務めたドン・ハーンも、「細田監督は独特のスタイルを持ちつつ、違う場所・違うキャラクター・違うジャンルへとどんどん飛び出して行く。似た映画の繰り返しには決してならない。そこが魅力的でワクワクする」と絶賛していました(まさか”本家”からも認められるとは…)。

竜とそばかすの姫

竜とそばかすの姫

ちなみに、細田監督は『美女と野獣』のどこに最も感銘を受けたのか?という質問に対して以下のように語っています。

ディズニー版だけでなく、ジャン・コクトーによる実写映画版(1946年)も好きなんですが、どちらも何より”野獣”がいいんですよね。ジャン・コクトーの方なんて、野獣にしか興味がないことがフィルムからはっきり伝わって来るぐらいですが(笑)、その気持ちはよく分かるんです。野獣は、人間の多面性を表す存在なんですよ。美女と野獣』という作品は、そういった多面性を抱えた人間がどうしたら変化していけるのか、そのプロセスを描く物語として僕は受け取っています。

元の『美女と野獣』は18世紀のフランスで書かれた作品であるにもかかわらず、時代や場所を超えて作られ、そして観られ続けてきた。それはなぜかと言えば、「人はどうすれば変われるのだろうか」という普遍的で本質的なテーマを描いているからだと思うんですね。だから僕も同じように『美女と野獣』を通じて、現代のネットの一般化した社会や、その中で生きる人たちについて描くことが出来ると思ったんです。

(「キネマ旬報」2021年8月上旬号より)

というわけで、細田守監督のリスペクトがあまりにも強すぎて、かなり『美女と野獣』に似てしまった『竜とそばかすの姫』ですが、『美女と野獣』のプロデューサーが褒めているぐらいですから、もはや「ディズニー公認」と言ってもいいんじゃないでしょうか(笑)。

なお、『竜とそばかすの姫』のベルのキャラクターデザインを手掛けたジン・キムは、『アナと雪の女王』や『塔の上のラプンツェル』などのキャラデザを担当した人で、細田監督も「ジンさんの素晴らしいところは”表情”なんですよね。単に絵が上手いってだけじゃなくて、キャラクターに魂がこもってるんですよ!」と絶賛。こういう部分にもディズニー作品に対する”愛”を感じさせますねぇ。

 

「押井守監督が語る映画で学ぶ現代史」を読んでみた

押井守監督

押井守監督


どうも、管理人のタイプ・あ~るです。

さて、当ブログでは過去に何度か押井守監督の書籍を取り上げていて、前回は『映画の正体 続編の法則』をご紹介しました(前回の記事はこちら↓)。

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『映画の正体 続編の法則』や『押井守の映画50年50本』は非常にいい本で割とオススメなんですけど、今回ご紹介する押井守監督が語る映画で学ぶ現代史』は、「押井監督が映画について語っている」という点は同じなんですが、ちょっと趣が違うんですよね…。

まず、取り上げている作品が『世界大戦』(1961年)、『007 ロシアより愛をこめて』(1963年)、『エレキの若大将』(1965年)、『仁義なき戦い』(1973年)、『野生の証明』(1978年)、『DEAD OR ALIVE 犯罪者』(1999年)、『キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー』(2014年)、『ゲーム・オブ・スローンズ』(2011年~19年)など。

ラインナップを見て分かる通り昔の日本映画が多くて、その理由を押井監督は以下のように語っています(本書「まえがき」より)。

私たちが昔の映画を、特にひと昔前の邦画を観るときに覚える気恥ずかしさ、お尻がムズムズするような、あの妙な気分は、実は通り過ぎてきた過去の日本の社会が抱えていた価値観や、かつての自分自身の欲望と向き合った時の居心地の悪さに由来します。

(中略)

戦後の復興から始まって高度経済成長、所得倍増の時代を経てバブルを膨らまし、弾けさせてそのまま現在の停滞に至る、その道筋をあれこれの映画とともに辿ることができるはずです。本書はそのためのお気楽なガイドブックです。

とまぁ、こういうコンセプトで作られた本なんですよね。それ故に昔の日本映画が多くなってるんですが…

『映画の正体 続編の法則』と『押井守の映画50年50本』は洋画が多く、割とメジャーなタイトルを取り上げていたので読みやすかったのに対し、本書はちょっと好みが分かれるかもしれません(『エレキの若大将』とか、さすがに観たことないしw)。

そんな中、「海外ドラマシリーズ」として『ゲーム・オブ・スローンズ』と押井監督自身の実写ドラマTHE NEXT GENERATION -パトレイバー-について語っている箇所があり、個人的にはこの辺が印象的でした。

押井監督はある時、CSI:科学捜査班』『フリンジ』など海外のドラマシリーズを観始めたところ、「日本のドラマなんてお呼びじゃないぐらい面白い」と気付き、一気にハマってしまったそうです。

そして「どうやって脚本を書いて、どうやって撮影して、どういう風にシリーズのメリットを活かしてるんだろう?」などの部分に興味が湧き、研究しながら観ていたらしい(以下、押井監督のコメントより)。

海外ドラマを観ていて思ったのは、初期投資にお金をかけられるんだよね。最初にガーンと(毎回使える)設定まわりにお金をかけちゃうんですよ。例えば『CSI:科学捜査班』だったらラボのセットを作っちゃう。

(中略)

これは素晴らしい方法論だと思った。だから実写ドラマ版『パトレイバー』もそれを真似して、セットの初期投資に金を使おうと思ったわけ。それででっかい倉庫を借りて、特車二課のハンガーを作るところから始めたんだよ。

特車二課のセットを倉庫に組んじゃって、6割ぐらいはそこで撮ろうぜと。そのために実寸で全部作っちゃう。レイバーも搭乗するタラップも、リボルバーカノンもロッカーも全部実寸。これ、映画だったらなかなか成立しないよ。でも、12本で割ると採算が合うんだよね。

つまり、映画の場合はお金をかけてセットを組んでも1回で終わってしまうけれど、ドラマシリーズの場合は一度セットを作れば全話数でそれを使い回せるからコスパがいい…というわけですね。

そこで、実写版『パトレイバー』では実寸大のレイバーを2機作り、一つはハンガーに立たせて固定し、もう一つはトレーラーに乗せてあちこち移動させ、さらに現場でデッキアップまでさせることが出来たのです(宣伝にも使った)。

THE NEXT GENERATION パトレイバー

THE NEXT GENERATION パトレイバー

押井監督に言わせると「だからシリーズを12本やった方が映画1本撮るよりもお金が使えるんですよ。回収も効率がいいし。ブルーレイで売ったら2本セットで1枚と、映画版1枚と値段は同じなんだもん。シリーズをやれば6枚できる」とのこと。

「映画1本撮るよりもお金が使える」と押井さんは言っていますが、じゃあ実際どれぐらいの費用がかかったのか?というと、なんと総額22億円!山崎賢人さんが主演を務めた実写映画『キングダム』の制作費(宣伝費を除く)は約10億円と言われてますから、とんでもない金額ですよ。

しかも実写版『パトレイバー』は、ドラマで使ったセットをそのまま利用して映画まで撮ってますからね(メチャクチャ効率がいい!)。まぁ、映画を作ることは最初から決まっていたようですが、映画だけだったらここまでの予算はかけられなかったでしょう。

「最初に実寸大レイバーや巨大なセットを作り、それを12本のドラマと映画で使い回せば相当な費用対効果が見込める」という考えがあったからこそ、22億円という巨額の制作費を投じることが出来たわけで、これはなかなか画期的な方法なんじゃないでしょうか。

というわけで、本日は押井守監督が語る映画で学ぶ現代史』という本をご紹介しました。

なお、「台湾でケルベロス-地獄の番犬』を撮ったらスタッフ全員下痢になるし交通事故は日常茶飯事だし、知らない爺さんがいつの間にかファインダーをのぞいてるし、もうメチャクチャだった」など、他にも面白エピソードが満載なので興味がある人はぜひどうぞ(^.^)