どうも、管理人のタイプ・あ~るです。
さて先日、『機動警察パトレイバー2 the Movie』に関する記事を書いたら長くなりそうだったため途中で一旦終了、本日はその続きです(前回の記事を読んでない方はこちらをどうぞ↓)。
前回は「荒川が後藤と南雲に会いに来て”思ひ出のベイブリッジ”のビデオを観る」という辺りまでだったので、今回はその後の出来事について書いてみますよ(なお、言うまでもなくネタバレしているため未見の方はご注意ください)。
●夜の首都高
荒川に「どうです、ドライブでもしませんか?近場をぐるっと」と言われた後藤と南雲が、走る車の中で「ベイブリッジ爆破事件」に関する情報を聞くシーンは、非常に”押井守監督らしさ”が出ていて個人的にも好きな場面です。
大人3人が車に乗り込み、静かなトーンで淡々と話をしているだけの地味なシーンなんですけど、押井監督によると「前席の荒川を手前に倒し込み、後部座席の後藤を反り返らせることで左中央に空間を生み出し、コクピットの容量を巧みに表現している」とのこと。
こうしたレイアウトの工夫により、動きも少なく退屈になりがちなシチュエーションにもかかわらず、終始”奇妙な緊張感”に包まれ、全く飽きることがありません。さらに、”このカットの狙い”について押井監督は以下のように説明しています。
前方に目を据えている荒川、その荒川の背中を見つめる後藤、ぼんやりと車窓を流れる風景を見ているしのぶ。3人の目線の方向とそのニュアンスの違いによって、それぞれが置かれた状況と相互の関係性を象徴的に表現することがこのカットの狙いです。
●竹中直人の起用
荒川の声を演じているのは俳優の竹中直人さんですが、不気味で得体の知れない荒川のキャラクターを実に見事に表現してるんですよね。押井監督は「僕が今まで作ってきたキャラクターの中でも、荒川は特に好きなキャラの一人です」としつつ、「だからこそキャスティングには随分難航しました」とコメント。
1年とか2年もかかる映画の場合は、時間的にも予算的にも余裕があるから、僕は声優さんではない役者さんを何人か交えようと思っています。それによって現場の雰囲気も変わるし、画を作ってパーツとしてのセリフを入れてアニメを作ってしまおうという演出家の固定概念も崩してしまいたいと。
それで、普段あまりお付き合いのない舞台の人とか実写映画の人とか、何人かは必ず声をかけるんです。柘植行人役の根津甚八さんも『天使のたまご』の時に組んでましたしね。でも、荒川ってキャラクターは最後まで難航しました。それで竹中さんがいいんじゃないかと言われて、「ああ、そうだな」と思ったんです。
一方、竹中直人さんは荒川について次のように語っています。
荒川という男は善良でもなく悪人でもないというイメージです。非常に魅力的な役でしたね。僕は声優ではなく俳優だし、顔を思い浮かべられてはまずいんですが、そのキャラクターの顔を見た時、自分で想像できる音を探っていくという作業はとても面白かったです。
荒川が捕まった時、「なんで柘植の隣にいなかったんだ?」みたいなことを問われても何も答えませんよね。あの時の荒川に非常に魅力を感じたんですが、実写だったらここが芝居の見せ所かもしれない。でも、あまり気合いを入れすぎると全体のトーンに合わないような気がしたので、常に客観的なクールさというのは保つようにしていました。
(「機動警察パトレイバー2 the Movie サウンドリニューアル版」の特典インタビューより)
後に押井監督は、「もともと僕が竹中さんの芝居や役者としてのスタンスみたいなものが好きだったということもあってお願いしたんだけど、結果的にとてもよかった」と語っており、竹中さんの演技には非常に満足しているようです。まさに”ハマリ役”と言えるのではないでしょうか。
●幻の爆撃
さあ、いよいよファンの皆さんが大好きなシーンです(笑)。「奴の動きの方が速かったよ。爆装したF16Jが3機、三沢を発進して南下中だ。約20分後に東京上空に到達する」と言いながら車を飛ばす荒川(今まで淡々と進んでいたストーリーが、ここから急に加速し始める)。
航空自衛隊入間基地の中部航空方面隊作戦指揮所(SOC)ではディスプレイに表示されるデータを見ながら「コールサイン・ワイバーン、応答ありません」「三沢はどうだ、つながったか?」「ダイレクトラインで基地の司令を呼び出せ。出るまで続けろ!」などと慌ただしく指示が飛び交い、成田空港の管制室でも「府中から連絡のあった奴か?無茶しやがる!」「アプローチに入った便を除いて、着陸待ちは全て上空待機だ!」とパニック状態。
『パト2』は基本的に小難しい会話が多く、しかも前作『パト1』に比べてアクションシーンは少な目という割と地味な作風で、この場面も実際に戦闘機同士が激しい空中戦を繰り広げるわけではありません。
にもかかわらず、なんというスリルと緊張感!結局、この状況は空自のバッジシステムがハッキングされたことによる”幻の爆撃”だったわけですが、川井憲次さんが作曲したカッコいい音楽と相まって最高の名場面に仕上がっており、脚本を担当した伊藤和典さんも「ここはノリノリで書けた」と気に入っているそうです。いや~、何度観ても素晴らしいですねぇ。
ちなみにこのシーン、押井監督の最新作『ぶらどらぶ』でほぼ丸ごとパロディーにされたことをご存知でしょうか?
『ぶらどらぶ』第4話「サラマンダーの夜」は、ヒロインのマイ(吸血鬼)がうっかりサラマンダーの血を飲んでサラマンダーに変身してしまい、東京上空を飛び回って甚大な被害が発生、航空自衛隊がF-15をスクランブル発進させる…というエピソードなんですが、作戦指揮所でのやり取りやパイロットとオペレーターの会話などが『パト2』とほとんど一緒なんですよ(笑)。
ただし、『パト2』では東京に接近中の「ワイバーン(翼竜)」に対して撃墜命令が下されるんですけど、『ぶらどらぶ』では「サラマンダー(火竜)」になってるところがミソ(「キル・ワイバーン」が「キル・サラマンダー」にw)。
しかも背景やレイアウトだけでなく、キャラクターまで(左右を反転させているカットもありますが)完コピ状態!さらに音楽も川井憲次さんの曲が当てられ、「よくぞここまでそっくりに作ったもんだ」と感心するぐらい忠実に『パトレイバー2』を再現しているのです(アマプラ見放題に入っているので興味がある方はぜひどうぞ)。
なお余談ですが、『ぶらどらぶ』では全てのキャラクターが「血」のことを「血ィ」と言ってるんですけど、これは大友克洋さんの『AKIRA』が元ネタだそうです。以下、押井守監督の証言より。
『AKIRA』を最初に読んだ時、甲斐が「血ィが、血ィが」って言ってるシーンがむちゃくちゃ面白くて。以降、自宅でもどこでも「血ィ」という言葉を使い始めたんです。声優さんたちも、途中からはこっちが何も指示しなくても「血ィ」って言ってくれるようになりました(笑)。
「月刊ニュータイプ2021年3月号」より
確認したら、確かに『AKIRA』の第1巻に「血ィが、血ィが」って言ってるシーンが出て来るんですけど、一体これのどこがそんなに面白かったのか、押井監督のツボがちょっとよく分かりません(笑)。
というわけで本日はここまでです。続きはまた後日書きたいと思いますので、今しばらくお待ちください。
※追記
続きを書きました!こちらからどうぞ↓