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声優の榊原良子がパトレイバーに固執する理由

機動警察パトレイバー2 the Movie

機動警察パトレイバー2 the Movie


どうも、管理人のタイプ・あ~るです。

さて先日、声優の榊原良子さんが自身のブログで機動警察パトレイバー2 the Movieに関する当時のエピソードや作品への”思い”を告白し、ファンの間で話題になりました。

榊原良子さんといえば、『風の谷のナウシカ』のクシャナや『機動戦士Ζガンダム』のハマーン・カーンなど、主に「強くて知的な女性キャラ」を演じている印象があるかと思います(もちろんそれだけではありませんが)。

中でも『機動警察パトレイバー』の南雲しのぶは、榊原さんにとって特に思い入れの強いキャラらしく、「『ナウシカ』や『Zガンダム』も私にとってかけがえのないものですが、私的な部分では『パトレイバー』が、現実を生きる上で一番重要な意味を持つ作品になっている」とコメントしています。

 

そんな榊原良子さんが27年前に『機動警察パトレイバー2 the Movie』のアフレコに臨んだ際、「どうやら現場でちょっとした”議論”が起きたらしい」と長年ファンの間で噂されていました。

それは「キャラクターの演技に関して押井守監督と榊原さんとの間で意見が対立し、最終的に二人は喧嘩別れした」というものですが、この噂がどこから流れたか…というと発端は押井さんなんですね(笑)。

過去に押井監督自身が色んなインタビューや著書などで発言していたため、このような噂が広まったようで、例えば『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』のオーディオ・コメンタリーでは以下のように語っていました。

パトレイバー』の時、榊原良子さんに言われたんだよ。「とにかく喋り辛いんですけど」って。「これ女の人のセリフじゃないと思うんですけど」って(笑)。「でも、それでやって欲しいんです」って説得はしてたんだけどさ。

パト2』の時にはけっこう険悪なムードになってたね。はっきり「わからない!」って言われた。「この人はしのぶさんじゃない!」とまで言われてさ。「僕からすると、しのぶさんってそういう人なんだよ」って話もしたんだけどさ。まあ、その後和解して今はとてもいい関係なんだけど、一回破綻しかけた。

 このような押井さんの発言から「榊原良子さんは『パト2』のアフレコ現場で押井監督と揉めて、一度疎遠になったものの、その後どうにか関係を修復した」とファンに思われていたのです。

ところが今回、榊原さんが公開したブログを読むと「そういう認識はなかった」「そんな風に思われていたことを初めて知った」みたいなことが詳細に語られているのですよ(詳しくはこちらをご覧ください↓)。

ameblo.jp

榊原さんによると「南雲しのぶのセリフについて押井監督から”こういう風に言って欲しい”と指示されたが、私は”この状態でそれは言えない”と答え、しばらく相談した後、再び押井監督から同じことを言われたので、”しのぶさんはそんなこと言えないと思う”と返した。それだけなんですが、それが”議論”と言えるのかどうか…」とのこと。

つまり榊原さんとしては「押井監督と議論したつもりはないし、その後疎遠になった覚えもない」ということらしい。

このやり取りが具体的にどのシーンかというと、『機動警察パトレイバー2 the Movie』の終盤、柘植行人を追い詰めた南雲しのぶが「あなたを逮捕します」と言って手錠をかける場面です。

機動警察パトレイバー2 the Movie

機動警察パトレイバー2 the Movie

ここで押井監督は「いつものしのぶさんのように毅然と強く言ってください」と指示したんですが、榊原さんは「この状態でしのぶさんは毅然と”あなたを逮捕します”とは言えない。そんな心理ではないと思う」と答えたんですね。その理由について、ブログの中で以下のように説明しています。

「あなたを、逮捕します」というセリフを毅然と言うには、
セリフを言うまでの『間』が、足りませんでした。
もちろんこれは私の生理的な感覚ですが…。
あと、1秒、あるいは、1.5秒の”間”があれば言えたと思います。
長い時間は必要ありません。
南雲しのぶさんとしては、
その短い間に、心の中である種の切り替えをするからです。

つまり、このセリフを言うために必要な”間”が足りないから、感情を込めて表現することが出来なかった…ということらしい。

そして、手錠をかけた後に柘植の指に自分の指を絡ませるシーンについても、「南雲さんは指を決して絡ませない」「指を動かすことができないのが南雲しのぶだと思う」と反論。さらにヘリコプターに乗っているシーンも、映画では虚ろな表情でうつむいていますが「南雲さんなら背筋を伸ばし、まっすぐ前を見て毅然とした表情で座っているはず」と真逆の意見を述べています。

機動警察パトレイバー2 the Movie

機動警察パトレイバー2 the Movie

これに対して押井監督は「いや、しのぶさんってそういう人なんだよ」と説明したようなんですが、話がまとまらなかったところを見ると、押井さんと榊原さんがそれぞれイメージしている”南雲しのぶ”というキャラクター像にかなりの食い違いがあったのでしょう。

しかも押井監督は南雲しのぶを「権威、つまり優秀であることを重要視していてファザーコンプレックス。母親のような生き方を軽視している。そして、後藤喜一のような人は選ばない」と設定していたらしく、こういう設定も榊原さんは受け入れがたかったようです。

なぜなら榊原さんは「南雲が次第に後藤へ想いを寄せていき、最終的に二人はくっつく」と想像しながら演じていたからなんですね(以下、「後藤喜一×ぴあ」に掲載された榊原さんのインタビューから一部を引用させていただきます)。

わたしは最初のアフレコで…これは自分の希望的観測として、南雲さんと後藤さんがお互いに「ホ」の字になるといいなって思いながら演技をしていたんです(笑)。後藤さんの、いかにも中年の独身男性らしい、そのだらしなさそうな外面に対して、南雲さんは最初は苦々しく思っているけれども、段々と話を重ねるごとに男の人を見る目を備えていって、いずれ後藤さんという人の真価に気付いていく…そういう風に考えて役作りをしてたんですよね。

1番記憶に残っているのが、『パト1』で、雨の中、傘をさした南雲さんが「後藤さん」って呼びかけると、後藤さんが「何?」って振り返って、それから「…いえ、なんでもないわ」ってわたしが言うんですけれども、まさにそのセリフにそういう気持ちを込めました。その時は『パト2』で二人がああなるとは思っていなかったので…。

後藤さんに、女性として一言を伝えたいのだけれど、立場が違うから恥じ入って結局「なんでもない」と言ってしまう。南雲さんって、一見すると後藤さんを尻に敷いているように見えますが、わたしの解釈では実は甘えているのは南雲さんの方なんですよ。後藤さんの許容量の広さにちょっと甘えているから、南雲さんは自分の意見をどんどん言ってしまう…そういうつもりで演じていましたね。

 このように、榊原さんは「南雲さんと後藤さんが最終的にいい感じになって欲しい」と思いながら演じていたのですが、押井監督から「南雲さんは後藤喜一のような男性は選ばないんだよ」と言われて「ええ~!?」とショックを受けたわけです。

機動警察パトレイバー2 the Movie』の中で、後藤さんが南雲さんに「しのぶさん、差し違えても…なんてのは御免だよ。彼を逮捕して、必ず戻るんだ。俺、待ってるからさ」と語りかけても、南雲さんはそれに答えず行ってしまう。

さらにその後、柘植行人とヘリに乗って飛び去って行く南雲さんを見ながら「結局、俺には連中(特車二課のメンバー)だけか…」と寂しそうにつぶやくなど、この映画の中の二人はすれ違ったままで、最終的に後藤さんは南雲さんにフラれてしまうんですよね。それが榊原さん的にはどうしても納得できなかったらしく、以下のようにコメントしていました。

わたしは実は『パトレイバー』という作品にすごく固執していて……なぜかと言えば、パト2』で二人がああなってしまったことがすごく悔しくて、それで固執してるんですね(笑)。色んな方にお話を聞くんですけど、やっぱり「後藤喜一が『パトレイバー』で一番魅力ある男性だ」って言うんですよ。わたしもそう思っているからこそ、「なのに押井さん、なんで『パト2』でああしちゃったんだろう!悔しい!」みたいな、そういう想いがあって、それで今でもすごく固執しています(笑)。

(「後藤喜一×ぴあ」より)

これはつい最近のインタビューなんですが、『パト2』のアフレコから27年経っているにもかかわらず、いまだにこういう発言をしているところに、南雲しのぶというキャラクターに対する榊原さんの”愛着の深さ”というか、後藤さんとの関係性にこだわり続けている気持ちが伝わってきますよね。

 

一方、このような榊原さんの発言に対し、押井守監督は南雲と後藤の関係について以下のようにコメントしていました(「後藤喜一×ぴあ」より一部を引用)。

まあ、報われない関係だよね。しのぶが後藤のことを、見直すことはあったにせよ、男として惚れるって可能性はゼロだから。少なくとも私はゼロだと思ってる。あり得ないと思ってる。それは、しのぶっていう女性の背後には父親がいるから。凄まじいファザーコンプレックスで、後藤みたいなタイプが太刀打ちできるはずがない。しのぶの父親って、間違いなく”厳父”ってやつだよね。しのぶが求めてる男って、その厳父以外にあり得ないから。だからこそ後藤は、報われないけれども、いつもいつもモーションをかけてる。構って欲しいんだよね。

そういうところがないとさ、キャラクターとしてつまんないんだよ。それがないと後藤って完全無欠…完璧なオヤジになっちゃう。パーフェクトじゃないんですよ、後藤は。当たり前だけど、後藤みたいなオヤジの弱点っていったら女しかないから。金も権力も何もいらない男だけど、ただ一つ…本人が求めているのに実現できないものは何か?って言ったら、それはしのぶさんへの想いってやつなんだよね。

 どうやら押井監督は「南雲さんと後藤さんをいい感じにしよう」なんて1ミリも考えてないようですね(笑)。確かに”押井さんが考えるキャラクターのイメージ”としては、これはこれで正しいんですが…。

まあ、今後『パトレイバー』の新作が作られるとしても、押井さんが監督することは恐らくないでしょうから、榊原良子さんが望んでいるような形で二人の物語が実現できたらいいんですけどねえ(^.^)