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『スチームボーイ』はなぜ大コケしたのか?

スチームボーイ

スチームボーイ

 

どうも、管理人のタイプ・あ~るです。

さて本日、BS12(トゥエルビ)の「日曜アニメ劇場」で大友克洋監督の劇場アニメスチームボーイが放送されます。

大友監督といえば、1988年に自身が描いた原作漫画『AKIRA』を自らの手でアニメ化し、日本だけでなく海外でも高い評価を受けました(むしろ海外の方が評価は高いかも?)。

その後、『老人Z』や『MEMORIES』、『スプリガン』、『メトロポリス』など様々な映像作品に関わり、『AKIRA』から約16年ぶりに満を持して手掛けた長編アニメが『スチームボーイ』なのです。

メトロポリス

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しかし、ファンの期待とは裏腹に興行面では非常に苦戦しました。

本作が公開された2004年は、宮崎駿監督のハウルの動く城押井守監督のイノセンスなど大作アニメが揃い、さらにスパイダーマン2ハリー・ポッターとアズカバンの囚人などハリウッドの話題作も多数公開されていたからです。

その結果、本作は総製作費24億円、総作画枚数18万枚、製作期間9年をかけた超大作映画にもかかわらず、日本国内の興行収入は11億6000万円にとどまり、大変な赤字を叩き出してしまいました。

ちなみに僕は公開時に映画館へ観に行ったんですけど、観客の反応も微妙でしたねぇ。観終わった後、「これはどう評価すればいいんだ…?」みたいなザワついた空気が漂ってましたから。

いや、映像的には良かったんですよ。さすが24億円の巨費をかけ、業界トップクラスのアニメーターを動員して作っただけあり、作画のクオリティは本当に「見事!」としか言いようがありません。

特に大友監督は「蒸気」の表現にこだわっていたらしく、デジタル技術を駆使した本作でも、「蒸気」のシーンは全てアニメーターに手描きで作画させたそうです(CGで作ろうとしたら上手くいかなかった模様)。

結果、実に素晴らしい蒸気が出来上がったのですが、”蒸気担当”に任命された橋本敬史さんは「3~4年ぐらい毎日毎日、蒸気ばかりを何万枚も描いていた」「精神的につらかった」とのこと(キツイw)。

まぁ、そんな感じで作画的には非常に見どころがあるんですよ(あと、ユニークなメカの描写とか)。なので、やはり失敗の主な原因は”内容”でしょうねぇ…。

スチームボーイ』のあらすじは、「蒸気が漂う職場で働く少年(レイ)が、ある日、謎のアイテム(スチームボール)を手に入れ、それを狙う集団(オハラ財団)から襲撃される。アイテムには凄まじい力が秘められており、巨大な城(スチーム城)を空中に浮かせることも可能だった。果たして少年は敵の野望を阻止できるのか…?」という感じです。

このあらすじを見て、”とあるアニメ”を思い出した人もいるんじゃないでしょうか?そう、天空の城ラピュタです(笑)。大友監督によると「19世紀のイギリスを舞台にしたオーソドックスな少年冒険活劇を作ろうとしたらこうなった」とのことですが…

この手のアニメはどうしても『ラピュタ』と比較されるのが避けられないし、そうなるとやはり”二番煎じ感”は否めません(なんせ『ラピュタ』は世間的に”名作”の評価が確定しているので)。

実際に観てみると、そこまで『ラピュタ』に酷似しているわけではないとは言え、あらすじを聞いた時点で観客は「『ラピュタ』っぽいアニメ」を期待しちゃうじゃないですか?

昔、庵野秀明さんがふしぎの海のナディアを監督する際は、NHK側が出して来たプロットを見て「ラピュタじゃん!」とビックリし、「この方向ではどうやってもラピュタに勝てない」と考え、当初のシナリオや設定をガイナックス側で大幅に変更して『ナディア』を作ったそうです。

ふしぎの海のナディア

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それぐらい、『ラピュタ』っぽいアニメを作るのはリスクが高いわけですが、そもそも『ラピュタ』に似ているかどうか以前に「話があまり面白くない」んですよ、『スチームボーイ』は(苦笑)。映像の見た目とか、設定などは「正統派アドベンチャー」のように見えるけど、内容がとにかくつまらないっていう…。

しかも「これは酷い!」とか「金返せ!」みたいに怒りが湧いて来るほどのつまらなさではなく、普通に最後まで観れちゃうんだけど「映像の凄さしか印象に残らない」というレベルで、その中途半端な感じが余計に切なかったり…。

まぁ、「『AKIRA』のストーリーだってそんなに面白くないじゃん」「大友克洋が作るアニメってだいたいこんな感じだろう」と言われれば、確かにそうなのかもしれません。

ただ、『AKIRA』の場合は「あのバイクシーンがカッコよかった!」とか「芸能山城組の音楽が最高!」など、公開から30年以上経ってもいまだに話題になるぐらい「語りたくなる場面」が多いんですよ。

でも、『スチームボーイ』にはそういうのがほぼ無いんです。この差はいったい何なのか?どうしてこうなってしまったのでしょう?

まず、シナリオに関しては村井さだゆきが「脚本」としてクレジットされていますが、実際は大友監督がほとんどの内容を考え、村井さんが参加した時にはすでに第20稿を超えていたそうです。

つまり、「もっと良いシナリオにしよう」と推敲を重ね、何度も何度も修正を繰り返した結果、ストーリーが入り組み過ぎて収拾がつかなくなっていたらしい(以下、村井さんの証言より)。

伏線を張っているのに結果がなくなっていたり、結果だけ残って伏線がなくなっていたり…。紆余曲折の痕跡が見られました。大友さんとしては愛着があったりしてもう切れないところもある。バッサリ切るには他人の方がやりやすい。そのために僕が呼ばれたんです。でも、20稿とか見せられたらさすがにビビリますよ(笑)。これは険しい道になるんじゃないかって。
文藝春秋「TITLE」2004年7月号より)

しかも、村井さんが加わった時点でAパートの絵コンテが完成していたので前半部分は修正できず、さらにクライマックスも決まっているので「いじらないで欲しい」と言われたそうです(結局、「手直しする余地はあまり無かった」とのこと)。

こうして推敲した結果、ゴチャゴチャしたエピソードが整理されて見やすくなった反面、主人公の行動原理や目的みたいなものが不明瞭なまま状況だけがどんどん進み、気付いたら終わってた…みたいな。

いや、確かに村井さんのおかげでストーリーは分かりやすくなってるんですよ(定番の冒険活劇としては)。ただ、「それが逆の効果として働いてしまったのでは?」という気がするんですよね。

例えば千と千尋の神隠しの場合、公開当時は「何がなんだかよく分からない」との批判も少なくありませんでした。

しかし「何だかよく分からないけどヘンなものを観た」という奇妙なインパクトが観客の心に強く刻み付けられ、それが大ヒットの一因になったとも考えられるわけです。

スチームボーイ』はその逆で、分かりやすいストーリーであるが故に、観客の心に引っ掛かるものが何もなく、観終わった後はただ「虚無感」が残るのみ…そんな印象を受けましたねぇ。

まぁ、「映画が面白くない理由」は他にもあると思いますが、一番大きいのは「主人公や悪役などのキャラクターに魅力がない」という点でしょう。これに関しては大友監督自身も気付いていたようで、以下のように語っています。

悪人とかヒーローとか決められたキャラクターを作るのが難しいんですよ。決め付けることが出来なくて、いつも中途半端なキャラクターになってしまうんですが、これはしょうがないですね。悪人にしても、例えばテロリストは、やってることは酷いけど、動機を聞くと考えさせられるものがある。難しくなりましたね。
(『スチームボーイ』劇場パンフレットより)

主人公も大事ですが、こういう物語は「悪人をいかに魅力的に描けるか?」が非常に重要だと思います(敵が魅力的であればあるほど対立する主人公側も引き立つので)。

天空の城ラピュタ』にはムスカというアニメ史に残るような名悪役が登場し、大いにドラマを盛り上げていましたが、『スチームボーイ』の悪役は圧倒的にキャラが弱いんですよね。そういう部分も影響してるんじゃないでしょうか。

あと、「主要キャストがほとんど俳優」という点も気になりました。レイ役の声優を務めた鈴木杏さんやスカーレット役の小西真奈美さんは割と良かったんですが、ロイド役の中村嘉葎雄さんはセリフが聞き取りにくかったなぁ。

ちなみに僕自身は、アニメや洋画の吹き替えに俳優を起用することに関して、それほど否定的ではありません。ただ、そういう人を起用するからには違和感が出ないようにやって欲しいんですよ。

本作の場合、ロバート役の児玉清さんやデイビット役の沢村一樹さんもちょっと微妙だし、アルフレッド役の寺島進さんも「ピッタリ合ってる」という感じじゃないし…。せめてメインのキャラには声優さんを使って欲しかったところです。

 

というわけで、色々と残念な点が多かった『スチームボーイ』ですが、大友克洋監督は映画の公開時に”続編の構想”を話してるんですよね。

恐らく、本作がヒットしていれば「登場人物たちのその後」を描くスピンオフドラマみたいなものを作るつもりだったのでしょう。どうやらスカーレットを主人公にした物語だったようですが…むしろそっちの方が観たかったかも(笑)。

 

【これはひどい】『大怪獣のあとしまつ』が批判される理由をネタバレ解説!

大怪獣のあとしまつ

大怪獣のあとしまつ


どうも、管理人のタイプ・あ~るです。

いま世間で話題沸騰中の『大怪獣のあとしまつ』を観て来ました。まぁ話題になってるから観に行ったわけじゃなくて、もともと観る予定だったんですけど、ネットでは批判の声がすごいじゃないですか?

初日に観た人たちが感想をツイッターに投稿してるんですが、「こんなにひどい映画を観たのは生まれて初めて」とか「人生で一番つまらなかった」など、9割近くが酷評という大惨事!

あまりにも批判が多すぎて「クソ映画」「令和のデビルマンといった見慣れないワードがトレンド入りするぐらい、みんなメチャクチャに貶してるんですよ。

松竹映画の元プロデューサーの奥山和由さんに至っては「『北京原人 Who are you?』以来、いや遥か上を行く絶望と怒り」などと不満をぶちまける有様。うわあ…

ちなみに『北京原人 Who are you?』とは1997年に公開された日本映画で、監督は『君よ憤怒の河を渉れ』や『人間の証明』などの佐藤純彌、キャストは緒形直人、ジョイ・ウォン、丹波哲郎北大路欣也など豪華な俳優が参加。

「太古のDNAから北京原人を現代に復元させる」という『ジュラシック・パーク』みたいな話を20億円の製作費をかけて映画化した超大作だったんですが、結果は配給収入4億5000万円の大惨敗。

映画ファンの間では「実写『デビルマン』に劣るとも勝らない」とトンデモ映画認定されるほどなのに、「それの遥か上を行く」なんて言われたら「そんなに酷い出来栄えなの?どうしよう…」と躊躇しますよ、そりゃ(笑)。でも以前から観ようと決めていたので、覚悟を決めて行って来ました。そうしたら…

 

※以下、ネタバレあり

 

まず冒頭の10分ぐらいは「あれ?言われてるほど悪くないのでは…」と逆にビックリしましたね。全編に渡ってどうしようもないグダグダな展開が続くのかと思ったら、ごく普通のドラマがごく普通のテンションで繰り広げられてるんですよ。意外とフツーじゃん!

しかし、西田敏行さん演じる総理大臣が現れた途端、いきなりテンションが変化し、会議室で防衛相や環境省などの各大臣たちが次から次へとクセが強めのギャグを繰り出し始めるのです。ああ~、なるほど炎上の原因はコレか…と(苦笑)。

つまり本作は「怪獣映画」じゃなくて「怪獣をネタにしたコメディ映画」なんですが、予告編を見た人の多くは「『シン・ゴジラ』みたいな映画を期待してたのに!」とか「リアリティがない!」などと怒ってるんですよね。

確かに、「『シン・ゴジラ』を観に行ったらコメディ映画だった」という状況なら「思ってたのと違う!」となっても不思議ではないかもしれません。

ただ、その辺は予告編を見れば分かりそうな気もするんですけどねぇ…(六角精児さんが額縁を持って「怪獣の名前は”希望”です」とかやってるシーンは、どう見ても「令和おじさん」のパロディだし、予告編の作り自体も若干ふざけてるしw)。

大怪獣のあとしまつ

大怪獣のあとしまつ

それから「ギャグが全然面白くない」という指摘も多くて、これはまぁその通りなんですけど(笑)、厳密に言うと「ギャグなのかそうじゃないのか分かりにくいシーンが多すぎる」ってことでしょう。

例えば「”警報かと思ったら笑い袋だった”というギャグが寒い」って批判がありましたが、あれは「怪獣が出現した世界における一般人のリアクション」を表しているだけで、要は「世界観の説明」なんですよ(つまりギャグではない)。

 

その反対に「ギャグなんだけど分かりにくいシーン」もあって、例えば六角精児さん演じる官房長官が大勢の取材記者に質問攻めにされて「もうやめて~!」と連呼するシーン。あれって横山弁護士ですよね?

”横山弁護士”を知らない人のために説明すると、1995年に「地下鉄サリン事件」が起きた当時、オウム真理教の教祖・麻原彰晃の私選弁護人についたことがきっかけで、様々なメディアに取り上げられることになった有名人です。

この事件に対する世間の反響は凄まじく、当然ながら各マスコミも連日のように過激な報道合戦を繰り広げていました。そんな中、注目されたのが横山弁護士だったのですよ。

なぜなら彼は麻原被告(当時)と接見できる唯一の存在であり、取材陣は少しでも情報を得ようと横山さんのもとへ殺到!その結果、大勢の取材陣に取り囲まれ、もみくちゃにされながら「もうやめて~!」と叫ぶ横山弁護士の姿が全国のテレビで流れることになったのです。

横山弁護士

横山弁護士

『大怪獣のあとしまつ』のあのシーンは、まさに「もみくちゃにされる横山弁護士」のパロディなんですが、そんな30年近くも前の話をネタにして理解できる人が何人いるんでしょうか(もはや誰も知らないのでは?マニアックすぎる!)。

このように、本作には「今のはなんだったんだ?」と観客を困惑させるような分かりにくいギャグが非常に多く、逆に分かりやすいギャグはウンコやゲロやチ○コなどの下ネタか、露骨に韓国をディスったニュース映像など、総じて品がありません。

また、「不倫のエピソードが目障りだ」との批判も多く、帯刀アラタ(山田涼介)、雨音ユキノ(土屋太鳳)、雨音正彦(濱田岳)の三角関係が割とガッツリ描かれている割には、最終的に彼らがどうなったのかよく分からないまま終わったり…。

 

さらに特撮ファンを激怒させたのがラストシーン。怪獣の死体処理に失敗した後、なんとアラタが突然ウルトラマン的な姿(?)に変身し、巨大な死体をかかえて宇宙へ飛び去っていったのです。……えええ!終わり!?

いやいや!これは要するに「その手のジャンル映画に対するパロディ」だと思うけど、全然オチとして成立してないよ!完全に投げっぱなしじゃないですか!

もしこれをオチにするのであれば、最後に西田敏行さんか誰かに「なんだよ~、だったら最初からそうしてよ~!」みたいなセリフを言わせるとかしなきゃダメでしょ。

せめて誰かが突っ込んでいればギリギリ”笑い”として成立したかもしれませんが、いくら「デウス・エクス・マキナ」を伏線っぽく会話に紛れ込ませていても、あれだけで終わったらパロディなのか何なのかさっぱり分かりません。

大怪獣のあとしまつ

大怪獣のあとしまつ

僕が一番気になったのがまさにこういう部分で、『大怪獣のあとしまつ』はパロディかと思ったらそうじゃなかったり逆のパターンもあったり、”作品のテイスト”に一貫性が全くないんですよ。

例えば福田雄一監督の場合は、どの作品もコメディ映画として首尾一貫しており、最初から最後までギャグの応酬で話を進めていくスタイルです(それが面白いかどうかは別にしてw)。

ところが『大怪獣のあとしまつ』は、冒頭15分ぐらいはほとんどギャグがなく、真面目に淡々と話が進み、政治家の会議シーンになるといきなり下ネタギャグを連発し、特務隊の活動やダム爆破などのシーンではまた真面目になって…ということの繰り返し。

これでは、「監督が見せたいものは結局なんだったの?コメディ?SFドラマ?恋愛?パロディ?どれなのよ!?」と混乱せざるを得ません。

 

では、一体どうしてこんなことになってしまったのか?映画の公開直前、三木聡監督は以下のように説明していました。

「コロナの影響で撮影が1年ストップしたんです」「再開して色んな場面を追撮してたら、最初に思っていたものとは違う映画になっていた(笑)」「最初に考えていたのは、もうちょっとグダグダのコメディ映画だったけど、イメージしていたよりもSF寄りになったかなぁ」
TOKYO FM「空想メディア」2022年1月30日放送より)

つまり、当初の予定では最初から最後までグダグダのコメディ映画として撮るつもりだったのに、途中で撮影が止まったことで真面目なSF要素が増えてしまった…ということらしい。

恐らく、特務隊が様々な作戦を実行するくだりや、ラストの山田涼介さんと土屋太鳳さんのやり取りも、本来はもっとコメディっぽい演出になるはずだったのでしょう。

しかし、コロナの影響で1年間活動が停止している間に「これはもう、グダグダのコメディ映画なんか撮ってる場合じゃないのでは…?」みたいな心境の変化があったのかもしれません。

大怪獣のあとしまつ

大怪獣のあとしまつ

だとすれば、思い切ってギャグの分量を減らして「それぞれの登場人物が真剣に死体処理に取り組むものの、やればやるほど裏目に出る」という定番の喜劇に振り切った方が良かったんじゃないかなぁ。

例えば、『シン・ゴジラ』でも「巨大不明生物は上陸しません」と発表した直後に蒲田に上陸して「どーするんだよ!上陸しないって言っちゃったじゃないか!」と総理大臣が焦りまくるシーンがあったように、「真面目にやっているが故に可笑しい」という方向でも”怪獣コメディ映画”は作れるはずです(むしろそれが観たかった!)。

そういう意味でもこの映画って、「駄作」と切り捨ててしまうにはあまりにも惜しいと思うんですよ。だって「怪獣の死体をどうやって処理するか?」という着眼点そのものは優れているわけだから、あとはその設定を上手く活かして全体のトーンを一貫させていれば…。

少なくとも、大怪獣の見せ方などビジュアル面のクオリティは高いし、豪華俳優陣の演技も見事だし、あとは”下品なギャグ”が無ければもっと面白い映画になっていた可能性は十分にあったと思います。それが本当にもったいない!

 

ちなみに、若狭新一さんが作った怪獣の造形の素晴らしさも特筆すべきでしょう。

若狭新一さんといえば、『ゴジラ』シリーズをはじめ『ウルトラマン』や『仮面ライダー』など数多くの特撮作品の造形を手がけてきた怪獣造形の第一人者です。

そして、これまでの怪獣映画では、ミニチュアビル等と対比した時のサイズ感を考慮し、だいたい全長50〜100メートルくらいが大きさの相場でした。

しかし今回は、大きな河川の真ん中に横たわっているという設定で、航空写真から川に対するサイズを計算した結果、全長400メートルという大きさに決まったそうです。

そのため、若狭さんが作った大怪獣の造形も全長6メートルという破格の大きさになったらしい(過去の怪獣の着ぐるみはせいぜい2~3メートルぐらい)。なので画面に映った時の迫力がすごい!

というわけで『大怪獣のあとしまつ』は、「素材(設定)は凄くいいもの使っているのに調理(演出)のやり方を間違えて大失敗」という状況が「もう少しどうにかなったのでは…」という”残念さ”をより増幅させている気がしました。

なお、これだけで終わるのは本当に残念すぎるので、出来れば東宝でちゃんとした”怪獣コメディ映画”を作ってもらいたいですね。監督は三谷幸喜矢口史靖武内英樹あたりでお願いします(笑)。

 

※追記情報

今月15日、都内で行われた『大怪獣のあとしまつ』の「満員御礼舞台あいさつ」三木聡監督が登壇し、ラストのあの展開について以下のように語ったそうです。

ウルトラマン』って怪獣を倒す時にスペシウム光線とか出すじゃないですか。なんで最初から出さないんだろう?って子どものころからずっと思ってた。

それに対するオマージュやパロディということですね、最後のシーンは。「最初から、そうしろよ」って(笑)。

当初は「なんで最初からそうしないんだ」というナレーションを入れようかと思ったんですが、「そこはお客さんに委ねるべき」という結論になりました。ただ、皆さんにそう思っていただけるなら成立しているのかな(笑)。

いやいや!成立してないって!ちゃんと突っ込んでよ!どう考えても”ツッコミがあってこそのオチ”じゃないですか!三木監督~!

なお、三木監督と一緒に舞台あいさつに参加した山田涼介さんは「撮影中に思わずツッコミを入れたくなったシーンはどれですか?」との質問に、「やっぱりラストですかね。脚本を読んで”嘘だろ!?”とビックリしました」とコメント。

やはり本人もそう思ってたのか(笑)。

 

時効警察

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『遊星からの物体X』はこうして生まれた(ネタバレ解説)

遊星からの物体X

遊星からの物体X


どうも、管理人のタイプ・あ~るです。

さて昨日、NHKBSプレミアムジョン・カーペンター監督の遊星からの物体Xが放送されました。久しぶりに観たんですが、やっぱりいいですねぇ、気持ち悪くて(笑)。

遊星からの物体X』といえば1982年に公開されたSFホラー映画で、日本ではほぼ同時期にスティーブン・スピルバーグ監督のE.T.が公開され、歴代1位の大ヒットを記録していました。

E.T.』と『遊星からの物体X』は、どちらも「地球人と地球外生命体の遭遇」を描いた物語ですが、内容は全く正反対で「よくこの2作を同時期に公開したなあ」と今考えたらビックリですよ(笑)。

ちなみに『E.T』の方はうちの親に連れられて観に行った記憶があるんですけど、『物体X』は映画館では観ていません。恐らく「こんなもの子供には見せられない」と親が判断したのでしょう(正しい判断だw)。

そんな『遊星からの物体X』は、一体どうやって作られたのでしょうか?

原作はジョン・W・キャンベルの短編小説『影が行く』で、1951年にハワード・ホークスの製作により初めて映画化されました(タイトルは遊星よりの物体X)。

それから24年後の1975年に、ユニバーサル・ピクチャーズのプロデューサー:スチュアート・コーエンが原作の権利を買い取り、再び映画化を企画。その際にコーエンは、学生時代の友人だったジョン・カーペンターに声をかけたのです。

ところが、ユニバーサル側はカーペンターの起用に難色を示し、トビー・フーパーと契約してしまいました。そして、フーパーと脚本家のキム・ヘンケルは1年半に渡って作業を続けたのですが…。

スチュアート・コーエンは完成した脚本に納得できず、何度も書き直しが発生し、なかなか企画が進みません。

そうこうしているうちに、リドリー・スコット監督の『エイリアン』(1979年)が公開され、ユニバーサルも「恐ろしいエイリアンが人間を襲うSFホラー」の企画に一層の関心を示し始めました。さらに同じタイミングでジョン・カーペンター監督の『ハロウィン』が大ヒットを記録!

この成功によってカーペンターの手腕が認められ、『遊星からの物体X』の監督に決定したのです(トビー・フーパーは降板)。

しかし、この時点でフーパーとキム・ヘンケルが書いた脚本がほぼ出来上がっていたものの、カーペンターが気に入らず、全て書き直すことになりました。

1979年の8月には『OK牧場の決闘』のワイアット・アープ役などで知られる名優:バート・ランカスターの息子のビル・ランカスターが脚本家として加わり、カーペンターの意向を取り入れつつ『遊星からの物体X』のシナリオを作り上げていったのです。

こうして完成したストーリーは、原作『影が行く』では37人だった登場人物が12人になるなど変更点もありますが、1951年版(『遊星よりの物体X』)では不可能だった「他の生物そっくりに変形する」という原作の描写を見事に映像化。

これにより、「自分の隣にいる仲間が実は恐ろしい怪物かもしれない」というサスペンスが生まれ、南極観測基地という閉ざされた空間を舞台に、隊員たちに紛れ込んだエイリアンを見つけ出して退治するまでの死闘を描くというシンプルなプロットが際立つことになりました。

遊星からの物体X

遊星からの物体X

しかし「移動場面が基地やその周辺だけ」という変化の乏しさに加え、「登場人物が全員むさ苦しいオッサンのみ」という極めて地味なビジュアルは、一見するとヒットしそうな要素が見当たりません(実際、公開当時は全然ヒットしなかったらしい)。

にもかかわらず、『遊星からの物体X』は長年にわたって映画マニアから支持され続け、現在に至るまでファンの記憶に残る作品となっているのです。いったいなぜか?

その理由はもちろん、常軌を逸した”物体X”の描写そのものにあるでしょう。

とにかく、初めて見た時はぶったまげました。最初は犬の姿をしていたものが、突然「バカッ!」と頭部が割れて中から「ピュルピュル!」と触手みたいなものを伸ばして襲い掛かってくるのだからたまりません!

第一発見者の観測隊員は「何だか分からないけどスゲェのがいるぞ!」と仲間に向かって叫びますが、たしかに「何だか分からないけどスゲェ」としか表現のしようがないほどの絶大なインパクト!

ちなみに、このシーンで物体Xは他の犬に「ビャーッ!」と謎の液体をぶっかけていますが、あれは”トゥインキー”というお菓子に使われている甘味料で全く無害だそうです(しかも撮影時には動物愛護協会が立ち会っていたらしい)。

次に登場するモンスターは人間型で、ノリスという登場人物が変形してバケモノになることから通称「ノリス・モンスター」と呼ばれています。

遊星からの物体X

遊星からの物体X

心臓発作で倒れたノリスを助けるために医者が電気ショック用のパッドを胸に当てようとした瞬間、突然ノリスの胸が「ガバッ!」と開き、ジョーズみたいな巨大な牙で医者の両腕を食いちぎってしまう場面はトラウマ必至の衝撃度!うぎゃああああ!

このシーンではリアリティを高めるために、ドクター・コッパー役のリチャード・ダイサートの代わりに、両腕のない役者(ジョー・キャロン)が起用されました。

そしてリチャード・ダイサートそっくりな特殊マスクを着けたジョー・キャロンは、ドクターが物体Xに腕を食いちぎられ、恐怖で絶叫するシーンを見事に演じ切ったのです。

さらに、ノリスの裂けた胸から人間の頭みたいなものが出てきて「グニョニョニョ!」と首を伸ばしながら天井に張り付くのだから怖すぎる!初公開時は「なんじゃこりゃあ~!」と劇場中がパニックになったと言われる名場面!

なお、ノリス役を演じたチャールズ・ハラハンはごく普通の俳優なのに、このシーンの印象が強すぎたせいで、本作以降はどんな映画に出ても”物体”呼ばわりされるハメになったそうです(切ないエピソードだなぁw)。

そして天井にへばり付いたノリスモンスターを隊員たちが焼き殺そうとしている隙に、ベッドに横たわっているノリス本体の首が「ブチブチッ!」と胴体からちぎれていきます。苦しそうに顔を歪めながらゆっくりと皮膚を引き裂き、やがてズルリと床に落ちるノリスの首。

遊星からの物体X

遊星からの物体X

この場面は今見てもゾッとする程よく出来ていて不気味さ満点!CGなど無い時代だから当然人形なんですが、逆にCGでは決して出せない”生の迫力”が表現されていると言えるでしょう。

さらにこの後、ノリスの口から出た長い舌が「ビュルルルッ!」とテーブルの脚に巻き付き、ズルズルと頭を移動させながらテーブルの下に隠れるんですね。

すると、頭から触覚のような目玉と、クモのような足が「メリメリメリッ!」と生えてきてゴソゴソと歩き出すんですよ。いったい、何をどうしたらこんな珍妙なデザインを思いつけるのか想像もつきませんが、呆気に取られること間違いなし!

この”頭に足と目玉のようなものが生えた怪物”(名前はスパイダーヘッド)が、「ガサガサガサ」と逃げて行く姿を見つけた隊員が茫然とした顔で「こいつは何の冗談だ…?」と一言(そう言いたくなる気持ちは良くわかるw)。

遊星からの物体X

遊星からの物体X

実際の撮影現場では、直前までスパイダーヘッドのデザインを役者たちに見せず、いきなり本番に入ったとのこと。つまり、主人公たちのリアクションは演技ではなく、本当に心底驚いているのです。

さらに興味深いのは、首が取れる直前まではホラーなんですが、この場面では恐怖の表現が突き抜け過ぎてギャグになってるんですよ。

映画はこの後、誰がエイリアンかを見分けるために隊員たちをロープで縛って「人間かどうか」をチェックするシーンへと移り、その最中、突然一人の隊員の頭部が「バリバリバリッ!」と醜く変形し、他の隊員を襲撃!

「早く助けてくれ~!」と縛られたまま叫ぶ隊員。主人公は火炎放射機を発射しようとするものの慌てているので火が付かない!この場面も非常に緊迫感溢れるシーンなんですが、どう見ても「怖い」というより「可笑しい」という雰囲気の方が勝っちゃってるんですよね。いったいなぜ?

例えば『死霊のはらわた』や『ブレインデッド』などもそうなんですけど、あまりにも過剰な恐怖表現は「ある一線」を越えた瞬間にギャグへと転換するのです。サム・ライミピーター・ジャクソンはそのことを自覚してわざとやっていたようですが、ジョン・カーペンターには恐らくそのような自覚はなかったのでしょう。

つまり、「製作者も予期しない可笑しさ」が生まれたことで、他のホラー映画とは一味も二味も違う独特な雰囲気の映画になったとも言えるわけで、それこそがまさに『物体X』の魅力の一つだと思います。

これら前代未聞のクリーチャー製作を一任されたのは、当時まだ22歳の特殊メイクアーティスト:ロブ・ボッティン

高校時代からリック・ベイカーの元で修業を積み、『ハウリング』の特殊メイクで一躍脚光を浴びた若き天才ですが、ボッティンにとっても『物体X』は初のメジャー大作で、クリーチャーのデザインは難航した模様。

当初、物体のデザインはもっとおとなしいものでしたが、「今までのモンスターとは完全に一線を画した、全てのモンスターの親玉とも言えるような凄まじいものにしたい!」とカーペンターが宣言。この一言によりSFXの方向性が決定したのです。

『物体X』を製作するにあたっては、『ハウリング』で開発した技術や当時の特殊メイク・テクニックなどがフル活用されました。

ケーブル駆動のメカニカル、空気袋を利用した変形装置(『アルタード・ステイツ』でディック・スミスが開発し、『ハウリング』でボッティンが多用したもの)や、ハンド・パペット、ワイヤーを使った遠隔操作等、ありとあらゆる技法を駆使して休む間もなく様々なクリーチャーが製作されたのです。

しかし、一日18時間以上ぶっ通しで働き続けたロブ・ボッティンが過労で倒れたため、急遽『ターミネーター』等で知られるスタン・ウィンストンが「ドッグ・シング」を担当するなどアクシデントも多発。さらに、実際の撮影も試行錯誤の連続だったそうです。

「ノリス・モンスター」の登場場面はわずか1分程度ですが、この短いシークエンスのために顔の表情を細かく変えるメカニカル・ダミーヘッドを6種類も製作し、千切れる首は風船ガム製の臓物の中に隠されたロッドを手で押して操作しました。

また、ノリスの頭が舌を使って移動するショットは、数人の操作係がモノフィラメントの釣り糸で舌を動かし、それを逆再生することで作り出したとのこと。スパイダーヘッドが机の下から逃走を図るシーンでは、ラジコン操作のメカニカルヘッドが使用されるなど、まさにSFXの見本市!

遊星からの物体X

遊星からの物体X

こうして、1年以上にも及ぶ特殊撮影を続けた結果、映画史に残る衝撃シーンが生まれたのです。

遊星からの物体X』は、クリーチャーの表現が暴走しすぎて若干サスペンス部分とのバランスを欠いてはいるものの、「むしろそれがイイ!」という熱烈なフォロワーを生み出し、以降の映画や日本のマンガ・アニメ・ゲームなどに多大な影響を与えました。

この映画が公開されてからすでに40年経ちますが、CG全盛の現在でも全く色あせないどころか、物体Xのインパクトを超えるものは未だに現れていないのではないでしょうか?そういう意味でも、まさに金字塔的な作品だと思います。