ひたすら映画を観まくるブログ

映画やアニメについて書いています

『メアリと魔女の花』はこうして生まれた


本日「金曜ロードSHOW!」で『メアリと魔女の花』が放送されます。ちなみに今月の金ローは『ハウルの動く城』、『となりのトトロ』、『猫の恩返し』を連続で放送しているので、本作も「スタジオジブリの作品?」と思っている人がいるかもしれません。

でも、このアニメは『借りぐらしのアリエッティ』や『思い出のマーニー』を作った米林宏昌監督の3作目であると同時に、ジブリ解散後、新たに立ち上げたスタジオポノックの第1作として、満を持して制作された長編映画なのです。

米林宏昌監督といえば、2014年7月に『思い出のマーニー』が公開され、35億円の大ヒットを記録したものの、前年に宮崎駿監督が引退を表明していたため、残念ながら『マーニー』が(現時点で)スタジオジブリ最後の作品となってしまいました。

実は、ジブリのプロデューサーの鈴木敏夫さんは「高畑勲監督の『かぐや姫の物語』が完成したら、ジブリを解散しよう」と考えていたそうです。その発端は宮崎監督の発言らしい。

鈴木さんによると「宮さんは『風立ちぬ』を作っている頃から引退を決めてたんです。で、宮さんの方から”スタジオを休止しよう”って話を持ち出して来たんですよ。色んな意味でアニメの制作が難しい状況になっていたし、僕としても宮さんの意向に反対するつもりはなかったので」とのこと。

こうして2014年8月に制作部門の休止を発表。ちょうどその頃、米林監督は『思い出のマーニー』の宣伝キャンペーンで全国を回っていたのですが、スタジオに帰って来たらもう誰もいなくなっていたそうです。

ガランとした室内を見て米林監督は思いました。「とにかく次の映画を作らねば…!」と。その後、『マーニー』のプロデューサーを務めた西村義明さんと居酒屋で”新しいアニメスタジオ”について話し合い、2015年4月にスタジオポノックを設立したのです。

こうして新作映画の企画を考え始めたわけですが、実は米林監督も西村さんも、1本の映画を企画から立ち上げた経験がありませんでした(今までは宮崎監督や鈴木さんから「これをやれ」と言われてやっていたので)。

そこでまず米林監督は、以前からアニメ化したいと考えていたメーテルリンクの『青い鳥』を提案。しかし「冒頭に、帽子に付いた小さなダイアモンドを回すと部屋の中のあらゆるものが動き出すという場面があって、卵とパンと砂糖がお供になるんです。”こういうのいいなあ、描きたいなあ”と思って企画を進めていたんですが、なかなか上手くいかなくて…」などと難航。

何度も検討を重ねているうちに時間がどんどん過ぎて行ったため、西村さんが一つの本を見つけて来ました。それがメアリー・スチュアートの児童小説『小さな魔法のほうき(原題:The Little Broomstick)』だったのです。しかし当初、西村さんから本の内容を聞いた米林監督は拒否反応を示しました。「主人公は魔法使いの女の子で、ホウキに乗って空を飛んで、黒猫が友達って……それ完全に『魔女の宅急便』じゃないですか!」と(笑)。

同じ題材を扱ったら、必ず宮崎監督と比較されてしまう。それだけは嫌だ!と拒んだ米林監督でしたが、西村さんは「いや、むしろそれがいい!」と強引に推し進め、「魔女、ふたたび。」という明らかに『魔女の宅急便』を意識したキャッチコピーまで考え出す有様。

結局、渋々西村さんの提案を受け入れ、絵コンテを描き始めた米林監督ですが、いざとなったら「『思い出のマーニー』が静かな語り口だったので、今度は思い切り動き回る冒険ファンタジーで行こう!」とノリノリになったらしい(笑)。

ただ、米林監督が盛り上がったことで作画的に難しいシーンが次々と絵コンテに描き込まれ、現場のハードルはどんどん上がっていきました。

絵コンテは2016年7月に完成したものの、その時点で2017年7月の公開が決定していたため、「こんな大変なアニメをたったの1年で作れると本気で思ってるんですか!?」とスタッフから批判が殺到。その時の様子を西村さんは以下のように語っています。

大勢のスタッフが真顔で僕のところへ詰め寄って来ました。でも、そこに嬉しさもあったんですよ。高畑さんもそうですが、現場に迷惑をかけるのは良い作品を作る必須条件ですらあると思うんです。もちろん、現場にとっては悪夢でしょう。でも監督の熱量やこだわりを感じられないような映画だったら、それこそが悪夢です。今回、動物が大脱走するシーンのコンテを見て、僕自身「これ本当に完成するのかな?」と不安になりました。でも結果として映画は完成し、そのシーンは素晴らしい仕上がりになったんです。

なお、本作で作画監督を務めた稲村武志さんは『千と千尋の神隠し』や『ハウルの動く城』など数多くのジブリ作品で活躍したベテランアニメーターですが、そんな稲村さんですら本作のプロジェクトは「無謀だ」と感じていたらしい(以下、稲村さんのコメントより↓)。

絵コンテを見て「本当にやるの?」と思いました(笑)。ジブリのフルスペックと同等の作業量を、立ち上げたばかりのスタジオで本当にやれるのか?と。昨今の長編アニメはCGの力も借りて作画は5万枚前後と聞いていますが、『メアリと魔女の花』は10万枚近くあったんです。アニメーターも不足しているのに、どうやって実現しようかと悩みました。

かつてスタジオジブリの制作部門が稼働していた頃は、常時100人を超えるクリエイターが在籍していたので、いつでも長編アニメを作れる環境が整っていたそうです。

しかし制作部門を休止後、多くのアニメーターがフリーとなり、それぞれが仕事をかかえるようになると、再び彼らを呼び戻そうと思っても容易ではありません。

現在、アニメ業界は深刻な人材不足で、どこのスタジオもアニメーターを確保するのに必死だからです(優秀な原画マンは仕事の依頼が殺到し、2年先までスケジュールが埋まっているらしい)。

こういう状況で『メアリと魔女の花』を作れるのか…?作れたとしてもクオリティがボロボロになるんじゃないか…?そんな不安に包まれる中、ピンチを救ったのが元ジブリのアニメーターたちでした。

稲村武志、山下明彦橋本晋治、大塚伸治、田中敦子、百瀬義行、安藤雅司大平晋也橋本敬史山下高明、西田達三など(ジブリ出身でない人も混じってますけどw)、ちょっとやそっとでは集まらないような凄腕の原画マンが集結。

さらに、美術監督は新人の久保友孝ですが、『となりのトトロ』や『もののけ姫』で美術監督を務めた男鹿和雄や、『千と千尋の神隠し』や『ハウルの動く城』で美術監督を務めた武重洋二などが背景スタッフとして参加しているのが贅沢すぎる!

こうして、万全の体制で作業を開始したものの、いかんせん作画の分量が膨大すぎて、たちまち制作は難航。そんな状況を聞き付けた宮崎駿監督が米林監督のもとを訪ね、以下の手書きメモを渡したそうです。

絵コンテを見ました。お助け原画には打ち合わせや設定資料を見せても描けません。それで打開策。1.マロ(米林監督)がレイアウトを描く。2.カットのスタートから「こう動くべし」というラフ原画を描く(原画より少なくていい)。その上で打ち合わせして渡せば何とかなる。


自分(宮崎)にも何度か経験があるが、急場で一番作品世界を理解しているのは演出である。何が必要で何がなくてもいいと判るのも演出である。現実に僕は『カリオストロ』から『もののけ』と急場をしのいできた。『カリオストロ』の時計塔の内部なんか、いくら打ち合わせしてもムダ。描いちまうのが一番速い。

このメモについて米林監督曰く、「まあ要するに”お前が描け”ってことなんですけど(笑)、これを読んで”いい加減なものは作れないな”と思いましたね」とのこと。

そんなこんなで、どうにか完成した『メアリと魔女の花』。キャスティングも杉咲花神木隆之介天海祐希小日向文世満島ひかり佐藤二朗渡辺えり遠藤憲一大竹しのぶ満島ひかりなど非常に豪華で、公開されるや33億円の大ヒットを記録しました。

ただし、観客の評価は賛否真っ二つにわかれたらしく、「とても楽しい映画でした」「まさに王道のファンタジー!」と絶賛する人から「キャラに魅力がない」「話も全然面白くない!」と酷評する人まで様々な意見が寄せられた模様。

特に、批判的な意見で多かったのが「過去のジブリ作品に似すぎている」というもので、参加メンバーのほとんどが元ジブリのクリエイターなので当然といえば当然なんですが、似ているが故に比較されてしまうことは避けられず、そうなると色々”足りないもの”が見えてしまったのでしょう。

そのせいで「宮崎アニメの劣化コピー」とか「ジェネリックジブリ」とか、厳しいコメントもチラホラと…(個人的にはエンドア大学の描写などが妙に薄っぺらく、架空の世界に説得力が感じられない点が残念でした)。

とはいうものの、スタジオジブリで長年作画を担当していたベテランのアニメーターたちが存分に腕を振るった映像表現は圧倒的に素晴らしく、「さすがだなあ!」と感心せざるを得ません。

現在、劇場ではスタジオポノックの短編アニメ『ちいさな英雄-カニとタマゴと透明人間-』が公開されていますが、次回作の長編映画がどんな作品になるのか楽しみです(^_^)


●人気記事一覧
これはひどい!苦情が殺到した日本語吹替え版映画ワースト10
まさに修羅場!『かぐや姫の物語』の壮絶な舞台裏をスタッフが激白!
日本映画のレベルが低くなったのはテレビ局のせい?
町山智浩が語る「宮崎アニメの衝撃の真実」
「映像化不可能」と言われている小説は本当に不可能なのか?


このブログについて(初めての方はこちらをどうぞ)
トップページへ