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福島第一原発事故の真相に迫る!映画『太陽の蓋』ネタバレ感想/解説


■あらすじ『2011年3月11日、宮城県の東南東沖130kmを震源とする巨大地震が発生した。福島第一原発では全電源喪失の非常事態に陥り、原子炉の温度が上昇し続け、メルトダウンの危機に直面する。想定外の状況を前に、情報不足のまま混乱を極める官邸。秘密主義のような電力会社。冷静な判断力を失う科学者たち。そんな中、多くの一般市民が危険区域からの避難を余儀なくされていった…。ある日、突然日常が破壊され、極限状態に追い込まれていく人々の姿をリアルに描き出した渾身のポリティカル・ドラマ!』


※この記事にはネタバレが含まれています。未見の方はご注意ください。


佐藤太監督の『太陽の蓋』を観た。佐藤太といえば、傑作怪獣映画『ガメラ 大怪獣空中決戦』や『ガメラ2 レギオン襲来』などで監督助手を務めており、本作が公開された際も庵野秀明総監督の「『シン・ゴジラ』に似ている」と言われていたらしい。

確かに、総理官邸の危機管理センターに大勢の官僚が集まって会議をしているシーン等、類似する場面がいくつか見受けられた(ちなみに危機管理センターのセットや小道具も、平成ガメラ三部作の美術スタッフが担当している)。


そして「内閣官房副長官」とか「首相政務秘書官」など、登場人物の役職と名前がテロップで表示される点も『シン・ゴジラ』と同様。しかも菅直人三田村邦彦)、枝野幸男(菅原大吉)、福山哲郎神尾佑)といった当時の内閣のメンバーを全て実名で登場させているのが凄い。


3.11以降、東日本大震災をモチーフにした作品が数多く作られ、『シン・ゴジラ』もその一つだったわけだが(なので似ていても当然)、そんな中で『太陽の蓋』は真正面から福島の原発事故に向き合い、「あの時起きていた状況」を忠実に再現しようとしているのだ(ニュース映像の作り込みもリアル)。

本作の主人公は新聞社に務める鍋島(NHK連続テレビ小説わろてんか』で落語家の「月の井 団真」を演じた北村有起哉)。官邸に張り付いて情報収集に奔走する政治部の記者だが、全く要領を得ない政府の対応に「福島で何が起きてるんだ?」「官僚たちは国民に重大な事実を隠してるんじゃないのか?」と疑念を抱き始める。

その頃、官邸では次々とアクシデントが勃発していた。「福島第一原発、交流電源喪失、全冷却機能が停止したそうです!」「どうなってるんだ?問題ないって言ったじゃないか!」「わかりません」「わかりませんじゃないだろう!原子力安全保安院の院長に原発のことを聞いてるんだぞ!」とブチ切れる菅直人内閣総理大臣に対し、院長が力強い一言。

「私は東大の経済出身です!」

その瞬間、会議室はシーンと静まり返り、全員沈黙したまま「こいつはいったい何を言ってるんだ…?」という表情で原子力安全保安院の院長を見つめる官僚たち(技術の専門家ではない”偉い人”が会議に出たって何の役にも立たない、ということが明らかになるシーンw)。

とにかく「冷却装置を動かすためには電源が必要」ということで、すぐに電源車を手配しようとするが、道路は寸断され、自衛隊のヘリでも重くて運べない。そのため、官邸はあらゆる手段を講じてようやく現場へ電源車を送り込んだ。

ところが、現地で「プラグの形状が合わなくて使用できない」という痛恨のミスが発覚!思わず、「運ぶ前にそのぐらいのこと分かるだろ!」と激怒する担当者(冗談みたいなやり取りだが、実際にあったアクシデントというのが怖い)。


そしてとうとう、「私が直接現場へ行く!」と言い出す菅直人首相。それに先立ち、原子炉格納容器内の圧力を下げるために「ベント」の実施を決定。すぐさま枝野官房長官が公表する。ところが、予定時刻を過ぎてもベントが実施できない。「ここままじゃ官房長官がウソを言ったことになる!」と焦る官僚たち。

その後、菅総理はヘリで現場を視察し、官邸へ戻って自衛隊員の増員を指示する。この時点でもまだ原子力安全委員会斑目委員長(劇中では万城目)は「爆発なんてしませんよ」と余裕のかまえを見せていた。しかし、3月12日16時49分、官邸に福島第一原発1号機の爆発映像が流れると状況は一変!



「あっちゃ〜」と頭を抱える万城目委員長。

それを見て「あなた、爆発は無いって言いましたよね?」と静かにキレる菅直人。情報が錯綜し、パニックが広がる中、とうとう3号機も爆発!さらに2号機には水位の低下が確認され、「燃料棒が露出したのでは?」と大騒ぎに。次から次へと想定外の事態が起こりまくり、官邸内は阿鼻叫喚!

そんな時、東電サイドから「作業員を撤退させたい」との申し入れが官僚たちへ入る。この時、近隣住民は20キロ圏外への避難を完了していたため、一番危険に晒されていたのは現場で働いている700人の作業員たちだった。しかし「民間企業の社員に無理は言えない」「やむを得ないのでは?」との意見が出る中、「撤退は絶対にあり得ない!」と断固拒否する菅直人総理。

「今、撤退したら…この国は終わりだ!」

東電社員が懸命に作業を続けるものの、危機的状況は一向に収まる気配がない。残った2号機はいつ爆発するか分からず、停止中の4号機にも燃料棒が1500本以上も格納されており、これを冷やしている水がなくなったら一気に温度が上がり、限界を超えれば…メルトダウンは必至!

もし4号機が吹き飛べば他の原子炉も巻き込まれ、被害範囲は250キロ以上に拡大する。そうなったら東京も人が住めなくなる。次々とはじき出される恐ろしい数値を目の当たりにして騒然となる官邸内。「いったい日本はどうなってしまうんだ…」という不安がどんどん拡大していく。

公開時は『シン・ゴジラ』との類似性が注目された本作だが、『シン・ゴジラ』はあくまでも”虚構”であるため、娯楽映画的な「面白さ」を最優先していた。奇想天外な作戦が飛び出すし、盛り上がる場面では派手なBGMも鳴り響く。

しかし、本作は現実に起きた出来事を描いているが故に、淡々と事実を語るのみで必要以上にドラマを盛り上げたりしないし、BGMもほとんど流れないのだ。

そういう意味では(一見『シン・ゴジラ』に似ているものの)、極めてストイックな…ハッキリ言えば地味な映画に仕上がっており、ある種の「再現ドラマ」を観ているような感覚に陥るかもしれない。

しかし、「怪獣は上陸しません」と政府が発表した直後に上陸してきて「え〜?」となる場面は『シン・ゴジラ』なら笑って観ていられるが、「爆発しません」と言った直後に原発が爆発して「あっちゃ〜!」となる本作の場合は、全然笑えないどころか「マジでこんなことやってたのかよ…」と空恐ろしくなった。

他にも、東電が大事な情報を隠し続けたため、官邸はテレビのニュースで福島第一原発の状況を知るしかなかったとか、ベントを実施しようとしたら電気が止まって装置を動かせないため、仕方なく作業員が高濃度の放射線が充満する中へ入って手動でベントしたとか、信じられないようなエピソードが満載で驚愕させられること間違いなし。

ちなみに、現場ではどれぐらいの放射能が漏れていたかと言うと、作業員が原子炉建屋に近付いただけで持っていたガイガーカウンターの針が振り切れ、慌てて中央制御室に戻るほどの凄まじさだったらしい(原子炉建屋は頑丈な二重扉で遮断されており、屋外で大量の放射線を検知することは通常あり得ない)。

この時、1号機の原子炉はすでに水が蒸発した”空だき”の状態で、むき出しになった燃料棒の熱で原子炉圧力容器が損傷し、メルトダウンを引き起こしていたようだ。格納容器内の圧力は通常の6倍にも達しており、このままでは容器が破損して大量の放射性物質が大気中に放出される「最悪の事態」になってしまう。

これを防ぐためには、格納容器から蒸気を抜き、中の圧力を下げる「ベント」を実施するしかない。しかしベントの操作はあくまでも「電源が供給されていること」が前提で、全電源を喪失した状況での操作はマニュアルにも載っていなかった。

つまり、作業員たちが自ら原子炉建屋へ入って、手動でいくつもの弁を動かさなければならなかったのである。だがこの時、燃料棒のメルトダウンは急激な勢いで進行しており、格納容器の底に溶け出し始めていた。放射線量も上昇し続け、なんと原子炉建屋から50メートル以上離れた中央制御室にまで放射線が届いていたらしい。

こんな状況の中、原子炉建屋に入って作業するということは、まさに”死”を意味する危険な行為。しかし、誰かがやらなければならない。こうして、中央制御室のメンバーたちによって「決死隊」が編成され、文字通り「命懸けの作業」が始まった…。

映画ではこの後、事故から数年後に福山官房副長官にインタビューを申し込む場面へと移り、主人公の新聞記者が「民間企業の東電に対して総理大臣が”命懸けで作業しろ!”っていうのは、正しい判断と言えるんでしょうか?」と問い詰めている。

それに対し、「ではあなたはどう思いますか?原発を放棄して全作業員を撤退させた方が良かったと?それが正しい判断だったと言えますか?」と逆に聞き返す福山官房副長官。そして黙り込む主人公。これは同時に、映画を観ている観客にも問い掛けているのだ。「何が正しい判断なのか?」と。

なお、映画の評価としては、原発事故の真相を追う新聞記者の視点、未曾有の危機に翻弄される官邸内部の様子、さらに東京や福島で暮らす市井の人々の不安げな姿をそれぞれ並行して描いてはいるが、肝心の「福島第一原発の現場」の描写が少なく、それがやや残念だった(関係者の証言が取れないとか、色々事情はあるかと思うが…)。

とはいえ(ドキュメンタリーの形式以外で)ここまで東日本大震災当時の政府の対応を克明かつ具体的に記した映画は他になく、そういう意味においても大いに価値がある作品と言えるだろう。興味がある方はぜひご覧ください。


太陽の蓋

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