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【ネタバレ】劇場アニメ『楽園追放』を徹底解説!感想/評価

■あらすじ『西暦2400年。ナノマシン技術の暴走によって地球の自然環境が破壊された”ナノハザード”の後、人類の98%は生身の肉体(マテリアルボディ)を捨てて電脳空間”ディーヴァ”で暮らしていた。しかし、謎のハッカー”フロンティアセッター”からのハッキングを受け、中央保安局に所属するアンジェラ・バルザック鈴木理恵)は、この事件を調査するために生身の身体を得て地上へ降り立つ。現地オブザーバーのディンゴ三木眞一郎)とコンビを組んで真相を調べるアンジェラだったが、やがて驚愕の事実が明らかに…。監督は『機動戦士ガンダムOO』等の水島精二、脚本は『魔法少女まどか☆マギカ』等の虚淵玄など、豪華スタッフで贈る3DCG劇場アニメーション超大作!』


どうも、管理人のタイプ・あ〜るです。

本日、テレビで楽園追放 -Expelled from Paradise-が地上波初放送されます。しかも『鉄腕DASH!』の真裏で(TOKYO MXなので観られない人も多いと思いますが)。本作は2014年に公開された劇場アニメで、わずか13館という小規模上映にも関わらず、初日と2日目の観客動員が1万7274人、興行収入は2900万円を突破するなど、ファンの間で話題になりました。

監督の水島精二さんは『機動戦士ガンダムOO』や劇場版『鋼の錬金術師 シャンバラを征く者』などで高く評価され、脚本の虚淵玄さんは『魔法少女まどか☆マギカ』や『PSYCHO-PASS』などのアニメ作品で知られる人気クリエイターです(なお、虚淵玄さんはゲームのシナリオや小説の執筆、さらには『仮面ライダー鎧武/ガイム』の脚本を手掛ける等、様々な分野で活躍している)。

また、制作を担当した「グラフィニカ」は、アニメ会社「ゴンゾ」のデジタル部門が母体となって作られたスタジオですが、元々ゴンゾは、ガイナックスを退社した村濱章司前田真宏、山口宏、樋口真嗣らによって立ち上げられ、『青の6号』や『銀色の髪のアギト』など先鋭的な作品を制作していました。そして2009年に組織が解散、そのCGスタッフを引き継いで設立したスタジオがグラフィニカなのです。

一般的な知名度は低かったものの、『ストライクウィッチーズ劇場版』や『ガールズ&パンツァー』で一躍注目を集めたグラフィニカは、前者で自由自在に空を飛びまわる少女たちの活躍を、後者ではド迫力の戦車バトルを3DCGで表現し、技術力の高さを見せつけました。今回の『楽園追放』でも、その実力を存分に発揮し、魅力的なキャラクターの表情や、戦闘機が超高速で動き回る凄まじいアクションシーンなど、優れたビジュアルを描き出しています。

さらに参加した声優陣も豪華で、釘宮理恵三木眞一郎神谷浩史林原めぐみ高山みなみ三石琴乃古谷徹など、業界を代表する錚々たる面子がズラリ。まあ、メインは釘宮さん、三木さん、神谷さんの3人で、林原さんや古谷さんはほとんど出て来ないんですけど(笑)、非常にゴージャスなキャスティングですよね。

さて、『楽園追放』には大きな特徴がいくつもありますが、そのうちの一つがセルアニメのようなCG表現」でしょう。本作を手掛けた野口光一プロデューサーによると、『楽園追放』の企画は2009年頃に立案、当時の東映アニメーションでは数十億円の製作費をかけてフルCGアニメ版『キャプテンハーロック』を作ることが計画されていました。

しかし、リアリティを追及したCGの場合はライティングや背景を作り込むのに莫大な費用がかかるし、野口プロデューサー自身、「日本のアニメファンに受けるのはリアル系CGよりもセルアニメ系だろう」との考えだったため、『楽園追放』では「セルアニメ調の3DCG」が採用されたそうです。

さらに、演出を担当した京田知己さん(『交響詩篇エウレカセブン』の監督)も、「セルアニメ時代のOVAみたいなテイストを意識した」とコメント。3DCGのスタッフと打ち合わせをする際も、「1980年代のロボットアニメやOVAは絶対に見ておいて欲しい。そういうニュアンスまで含めて、すり合わせをする必要がある」と指示していたそうです。

このように、『楽園追放』という作品は内容も含めて、ある種の”古さ”や”懐かしさ”を感じさせるアニメなんですよね。実際、「電脳世界で暮らす主人公がサイバースペースを抜け出しリアルワールドへやって来た時、何を考え何を決断するのか」という物語も、過去に色んなクリエイターが手掛けてきた王道的な主題で、あまり目新しさはないかもしれません。

しかし、水島精二監督は「ベタで古臭いかもしれないけれど、こういうシンプルでわかりやすい物語を、フル3DCGでやってみたかった」と語り、「最新のCG技術を使って、敢えて昔の作画アニメみたいな映像を再現することにこだわった」そうです。以下、水島監督のコメントより↓

『楽園追放』では、3Dのアニメーターの中にチーフ格のスタッフが何人かいて、シーンごとに管理をしてもらってるんです。しかも、その子たちのクセが、キャラクターの表情や造形、あるいは芝居にも結構、出ちゃってるんですよ。つまり、タッチが揃ってない(笑)。でも、むしろ揃ってないことは、この作品の売りだと思ってるんですね。現場でもむしろ「どんどんやってくれ」と推奨していたくらいなので。

ここまでバラバラなのは、昔の作画アニメみたいでいいじゃんっていう(笑)。クセが出ていても、キャラクターがカッコ良かったり可愛かったり、とにかく成立していればいい。もちろん「これ、目が垂れすぎてるな」と思ったら修正してますけど(笑)。でも、それがアニメーションの醍醐味だと思うんです。 (「月刊ニュータイプ2014年12月号」より)

そんな中でも、スタッフが一番苦労したのは「アンジェラの表情」で、アニメーターが作画すればすぐに描けてしまうようなシーンでも、CGで描くのは非常に難しいとのこと。最初は「顔だけ作画にしてCGと合成しようか」という案も出たようですが、正確に合成するのに時間がかかるし、そもそも顔だけ描いてくれるアニメーターがいないなど、難問だらけだったようです。

しかし、グラフィニカの技術スタッフが「うちで何とかしましょう!」と”表情を作るためのツール”を開発し、そのおかげで大量の表情ライブラリを共有することに成功、作業効率が劇的にアップしました。このおかげで、CGとは思えないほど表情のバリエーションが増え、特に終盤に登場する”崩し顔”などは、完全に作画アニメのテイストを再現していてビックリ!

ただ、こういう”崩し顔”は手描きアニメーションの表現としては良く見かけますが、3DCGではあまり例がありません。ではなぜ、本作ではこういう顔を敢えて入れたのでしょうか?演出の京田知己さんは、その意図を以下のように説明しています。

なぜ演出プランとして、この崩し顔が必要であったか?それは、彼女が気負ったエージェントから一人の普通の女の子(?)に戻ったということを、ここで強調しておく必要があったからです。デザインはさておき、前半パートのアンジェラは草薙素子を源流とする”美人サイバーエージェント”の亜流として描かれてきました。

そういった草薙素子的存在が身体性を獲得して「物質世界に戻る」という物語が、現代的であるかどうかはともかく、”身体性の獲得”というテーマを描写するのに「表現方法の枠組みを飛び越える」という方法をとる必要が今回はあったのです。

CGっぽい身体描写を捨てて昔ながらのセルルック表現を見せるということは、ともすれば”退行”とも取られかねないのですけれども、ではその退行と見えるものは果たして本当に退行であると言い切れるのか…という問いは、本作の大きなテーマとも重なり合うものですから、リスクを承知で敢えて”崩し”の表現を入れてみたんですね。
(「アニメスタイル 006」より)

なお、僕が個人的に好きなシーンは、アンジェラとディンゴが食堂へ入り、アンジェラが食べているうどん(?)にディンゴ一味唐辛子のようなものを入れる場面です。「ちょっと、何よそれ?」 → 「…どんな味になるんだろう?」 → 「むしゃむしゃ」 → 「うまッ!メッチャ美味しい!」みたいな感じで、一言もセリフが無いのに、表情だけでアンジェラの心理状態が丸分かりという、非常に面白いシーンに仕上がってるんですよねえ。

また、クライマックスの戦闘シーンで、敵の攻撃を受けたアンジェラが狭いコクピットの中で体を揺らしながらも、「このぉぉぉぉ!」と前のめりで絶叫しつつ反撃するという、非常にダイナミックなカットがあるんですけど、ここも作画アニメを意識したCGになっていました。

このカットは、まずアニメーターの山崎真央さんに「参照用」の絵を描いてもらい、それを作画ガイドにしながら3DCG担当の八木田肇さんがアンジェラのCGモデルを1コマずつ調整して作るという、非常の手間のかかるカットだったらしい。本来、こういうアングルや動きは手描きの方が早いのですが、「今回は出来るだけ3Dで作り切ることにも挑戦していたので、難しい場面も敢えてCGでやりました」とのこと。

ちなみに劇場で公開された時、”アンジェラのお尻”が話題になったようで、アーハンのバイク型コックピットにまたがるアンジェラをバックショットから映す演出は、水島監督が考えたそうです。この絶妙なカメラアングルにファンは大歓喜!ただしプロデューサーの野口さんは東映アニメーションとして、これをプリキュアの横に並べてよいものか?」と悩んだそうですが(笑)。


それから、電脳空間や後半の宇宙空間における戦闘シーンも本作の見どころの一つでしょう。特に、アンジェラがディーヴァから脱走して、低軌道駐屯地のコンテナ収容施設に侵入し、新型アーハンを奪った後に始まる超高速バトルは必見!縦横無尽に飛び交うマシンや、変幻自在に動きまくるカメラワークなど、スピード感溢れる見事なアクションに仕上がっていました。

この場面、演出の京田知己さんが『交響詩篇エウレカセブン』の監督なので、『エウレカセブン』で特技監督を務めた村木靖さん(アニメーター)が描いた動きを意識したのかな?と思いきや、『楽園追放』にモーションアドバイザーとして参加している板野一郎さんがチェックしていたらしい(絵コンテにも「板野サーカス全開で!」と書かれている)。

板野一郎さんといえば、『伝説巨神イデオン』に参加した際、「全方位ミサイル発射シーン」などで多数のミサイルが飛び回るシーンを描いて注目された超絶技巧アニメーターです。『超時空要塞マクロス』ではメカ作監として活躍し、スピーディーでアクロバティックな戦闘シーンは「板野サーカス」と称され、日本中のアニメファンの度肝を抜きました(詳しくはこちら → wikipedia)。

そんな板野さんですが、本作に関わったスタッフの中には経験の浅い新人も多くいたため、まず「板野ゼミ」と呼ばれる勉強会を開き、ミサイルの飛び方やアクション、時間軸と空間の見せ方など、3DCGを使っていかにカッコいいアニメーションを作るか、その秘訣をレクチャーしたそうです。以下、板野さんのコメントより↓

マシンが分隊行動をとる場合は、隊長機やウイングマンなどそれぞれ役割があって各々の死角をカバーするような動きになるはずなんです。隊長機に向かっているミサイルをサポート機が撃ち落とすとか。回避行動にしても、ミサイルを回避する前にまず、熱源であればフレア弾、レーダー追尾ならチャフ(電波欺瞞紙)を撒けって話だよね。短い尺で一瞬のことかもしれないけれど、行動理由を考えながらアニメーションを付けていくことが重要なんです。 (「CGWORLD 2014年12月号」より)

さらに終盤のクライマックスでは、迫り来る何十機もの敵アーハン部隊を、ディンゴと協力することで着実に撃破していくアンジェラのバトルシーンが迫力満点で素晴らしく、ここでも京田知己さんの意向で80年代のテイストが取り入れられました。

このシーンでロボットアクションの参考にしたのは、本作とシチュエーションが似ている『蒼き流星SPTレイズナー』の後半で沖浦啓之さんが作画した回や、『装甲騎兵ボトムズ』で谷口守泰さんが作画監督をやった回、いわゆる「アニメアール回」の作画を想定したそうです。

その想定通り、3DCGで描かれたロボット同士のバトルは前代未聞のカッコ良さ!アンジェラを援護するディンゴの活躍も同時進行で描かれ、誘導ミサイルの発射シーンでは板野サーカスもバッチリ再現されています(なお、煙や爆発などのエフェクトに関してはアニメーターの橋本敬史さんが作画しているらしい)。

言われてみれば確かに「おお!レイズナーのあの場面か!」とか、「これはまさにボトムズだ!」と思えるようなシチュエーションではありますねえ。ただ、そういう感覚が分かる人は、相当な年輩のアニメマニアだけのような気もしますが(笑)。

そして、この戦闘シーンの最中、アンジェラはある重要な決断を迫られます。電脳都市ディーヴァを追放されたアンジェラは、もう”楽園”には戻れない。ならば、このままリアルワールドで暮らすのか、それとも…。ここでフロンティアセッターは「宇宙への同伴」を提案するのです。

外宇宙探索用宇宙船「ジェネシスアーク号」に乗船すれば長期間の宇宙旅行は必至ですが、肉体を持たない電脳パーソナリティなら問題ありません。しかし、フロンティアセッターの「私と一緒に銀河の果てへ旅立ちませんか?」という誘いに対し、アンジェラは「ごめんね…。私、この世界をまだろくに知らない…。まだ見たことも無いものが、あまりにもたくさん有りすぎるの!」と言って自分の進むべき道を決断します。

おそらく、このセリフの直前まで彼女自身も悩んでいたのでしょう。初登場時点のアンジェラは、電脳都市ディーヴァを”人類が生存する上で最高の環境”だと思い込み、ディーヴァを拒んでリアルワールドで暮らす人々を「なぜそんな不自由な肉体の檻の中で生きていこうとするの?」とバカにしていました。ドラマの終盤では、そんなアンジェラの問いかけに対し、ディンゴは以下のように答えています。

ディーヴァへ行けば精神の可能性は無限大、どこまでも自分を進化させられる、あんたたちはいつだってそう言うよな?それはウソだ!

ディーヴァでの生活は「どれだけ多くのメモリを得られるか」で決まる。結局、出世争いが全てになっちまう。それが正しいかどうかなんてどうでもいい。だが、俺はウソだけは見過ごせない。「ディーヴァに行けば誰でも自由になれる」なんて戯言だけはな!

あんたたちは肉体の枷からは解放されたかもしれないが、より厄介な牢屋に閉じ込められているんじゃないのか?人が作った「社会」という檻に。俺はそんな生活はまっぴらだ。奴隷になってまで”楽園”で暮らしたいとは思わないね。

ディンゴのこの言葉を聞いてアンジェラは悩みます。我々は本当に”自由”なのか?そして、電脳都市ディーヴァは本当に”楽園”なのか?と。その答えが、フロンティアセッターに向けたあのセリフだったわけですね。

なお、アンジェラの声を演じた釘宮理恵さんは一番印象に残ったシーンとして、あのセリフを言う直前の「空高く舞い上がったアンジェラが地平線を見て、一瞬時間が止まったようになるシーン」を挙げていました。以下、釘宮さんのコメントより↓

収録していた時も、あの場面に至った瞬間パニックになってしまったというか。アンジェラはそれまで色んなことを知った気でいたし、そういう気持ちで戦っていたんですが、パッと見えた風景に圧倒されてしまって。感覚がホワイトアウトしちゃったというか、「あれ?いったい何だっけ?」みたいな感じになったんです。 (「月刊ニュータイプ2014年12月号」より)

そしてこの後、フロンティアセッターは自分の意識をHLVに移し、宇宙へ向けて発進するカットが映るんですけど、あれ?何だかどこかで観たようなシーンが…?↓

どうやら終盤の作業スケジュールがかなり厳しかったらしく、京田知己さんは「結果的に某有名ロケット打ち上げ作品のカットに似たものになってしまった」と説明。これってたぶん『オネアミスの翼』で庵野秀明さんが描いたロケット打ち上げシーンのことなんでしょうねえ(笑)。

というわけで、『楽園追放 -Expelled from Paradise-』は「エリート意識の高い主人公が、初めてやって来た別世界で全く価値観の異なる人々と出会い、少しずつ心情に変化が生まれる」という、悪く言えば”ベタ”とも思える定番のストーリーを、敢えてストレートに描き切っている点がグッドでした。

また、脚本を書いた虚淵玄さんも「僕の作品として世に出たアニメの中では、珍しく明るい話になった」と語っているように、やはり主人公のアンジェラやディンゴのキャラクターが魅力的で、物語自体も前向きなパワーに満ち溢れているところが、鑑賞後の印象を爽やかなものにしている要因だと思います。

ある意味「王道のSF」ですが、王道でシンプルな作劇だからこそ、普遍的なテーマを奇をてらわずに力強く描くことが出来たのでしょう。一見ややこしそうに見えるかもしれないけれど、素直に「面白い!」と思える作品なので、まだ観ていない人はぜひどうぞ(^_^)


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