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映画『天空の蜂』ネタバレ感想/評価/解説


■あらすじ『1995年8月8日。完成した最新鋭超巨大ヘリ“ビッグB”を自衛隊へ引き渡すため、開発者のヘリコプター設計士・湯原(江口洋介)は妻子とともに式典に参加していた。すると突然、ビッグBが勝手に動き出し、息子の高彦を乗せたまま飛び去ってしまう。福井県原子力発電所“新陽”の真上でホバリングを始めたビッグBは、“天空の蜂”と名乗るテロリスト(綾野剛)によって遠隔操作でハイジャックされてしまったのだ。犯人は政府に“日本全土の原発破棄”を要求し、従わなければ、大量の爆発物を搭載したビッグBを原子炉に墜落させると宣言。湯原は、同じ会社の同期で新陽を設計した三島(本木雅弘)と協力し、息子の救出とビッグBの墜落阻止に全力を挙げる。残された時間はヘリの燃料がなくなるまでのあと8時間。果たしてこの危機を乗り切ることは出来るのか…?人気作家・東野圭吾が1995年に発表した同名ベストセラーを、「20世紀少年」「SPEC」シリーズの堤幸彦監督が映画化したサスペンス・アクション超大作!』



本日、WOWOWシネマ『天空の蜂』が放送されます。劇場公開時は、あの辛口コメントで有名な映画批評家前田有一先生が「95点」という驚きの高得点を付け、「エンタメ映画として抜群に面白く、感動も深い」「これで日本の映画史も変わる」などとベタ褒めしていたので、「あ〜、これは荒れるだろうな〜」と思っていたら案の定、世間の評価は賛否両論真っ二つでしたよ(苦笑)。

ちなみにYahoo!映画の得点は3.78点で、この手の映画にしては意外と高評価なんですけど、やはり「良かった」という意見と「全然ダメ」という意見が入り乱れてますね。良かった人の感想では「”原発問題”という社会的に重要なテーマを堂々と描いているところがいい」、「スケールの大きなアクションやドラマが見応えあり」、「原作には無い”3.11を意識したラストシーン”が良かった」など。

逆に、良くなかった人の感想としては「話の展開に無理がありすぎて説得力に欠ける」、「設定にリアリティが無い」、「役者の演技が過剰で不自然」、「説明的なセリフだらけでうんざりした」、「スローを多用した演出が古臭い」、「ヘリのCGがショボすぎる」など、映画全体のクオリティに対する不満が多いように見受けられます。

で、僕の個人的な感想としてはですね、どっちの意見も分かるんですよ。良い意見も悪い意見も、指摘している部分は確かにその通りだと思います。そして、劇中で描かれている”原発問題”が昨今の日本人にとって極めてセンシティブなテーマだからこそ、余計に「もっとしっかり描いてくれよ」という気持ちになるのも理解できます。

ただ、本作はあくまでもエンターテインメントであって、娯楽性を重視して作劇されてるんですよね。もちろん、娯楽映画であってもリアリティを追及するのは当然なんですが、要は「どこまでそれを許せるか?」という”許容範囲の問題”なんじゃないかなと。

例えば、ハリウッドの超大作アクション映画でも、冷静に考えたら変なシーンはいっぱいあるわけですよ。「何でそこでそんな行動をとるの?」と突っ込みたくなるような場面もいっぱいあるんですが、向こうは大金をかけて派手な映像をガンガン出してくるから、「まあいいか」と思えてしまう。つまり「観賞料金の対価としてカッコいい映像を観た」と考えた場合、多少変なシーンがあったとしても許容できてしまうんです(中には許容できない映画もありますがw)。

今回の『天空の蜂』も、非常にエンターテインメント性の強い、言ってしまえば「ハリウッド的なサスペンス・アクション」を目指して作られてはいるものの、いかんせん邦画の予算規模ではどんなに頑張ってビジュアルを作り込んでも限度があり、内容に見合ったスケール感を確保できているとは言い難い。

特に肝心要の”ビッグB”の映像が、全くもって”重さ”や”巨大さ”を感じられない仕上がりになっていたのが残念でなりません。ビッグBのフル3DCGは1年がかりで作られたそうですが、なかなか本物のヘリの質感を再現できなくて苦労したらしい。やはり、こういうヘリの場合は巨大なミニチュアを作って撮影するというアナログな技法の方が、リアルな映像を撮るのに向いてるんじゃないか?と思いました(お金がかかるけど)。

なので、視覚的な満足感を得ることができない出来ない以上、「この程度のリアリティでは許容できない」という人の気持ちも十分に分かるんです。分かるんですが、個人的には「これぐらい許容してあげたいな〜」という感じなんですよね。別に堤幸彦監督に恩義があるとか、そういうことでは全くありません(笑)。

ただ、「堤幸彦監督にしては意外と真面目にサスペンス・アクションを作ろうとしてる」と思える部分が僕の中のハードルを若干押し下げているというか、「これぐらいなら、まあいいか」という気持ちにさせているのかも(今までの堤作品はふざけ気味の映画が多かったのでw)。

しかも本作は娯楽作品でありながら、かなりハードなメッセージ性を内包しているため、一見すると「反原発映画か?」と思ってしまいますが、原発の危機感を示しつつ、同時に原発の現場で働く側の主張もしっかり盛り込んであり、非常にバランスの取れた作劇になっています。その辺もグッドでした。

正直、パジェロで単独カーチェイスするシーンとか、湯原(江口洋介)が三島(本木雅弘)の頭に銃を突き付けてカメラがグルグル回り込むシーンは全くいらなかったと思いますが(笑)、それ以外は概ね満足できましたよ(というか、細かい部分を突っ込み出したらきりがないw)。

あと、批判の多かったラストシーン。息子の高彦君が大人になって自衛隊に入り、向井理がヘリコプターを操縦しているという「現代」へ繋がる場面ですが、まあ確かに「無くても良かったんじゃないの?」とは思いました。ただ、「3.11を体験してしまった我々としては入れるべきだと思ったし、自分自身も、このシーンがあることで前向きになれた」と堤監督が語っているように、今の時代にこの原作を映画化する以上、避けては通れなかったのだろうと思います。そういう点でも「誠実な映画だな」という印象を受けました。


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