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映画『イン・ザ・ヒーロー』はなぜモヤる?ネタバレ感想/評価


■あらすじ『ブルース・リーを崇拝するこの道25年のベテラン・スーツアクター:本城渉(唐沢寿明)。いつか“顔出し”で映画出演するという夢を追い続け、鍛錬に励む日々。しかし、長年に渡って激しいアクションを演じ続けてきた身体は今や悲鳴をあげ、妻子にも愛想を尽かされていた。そんなある日、売り出し中の新人俳優、一ノ瀬リョウ(福士蒼汰)が現れる。スーツアクターをバカにするリョウに対し、仕事の心得を教える本城。ところが、そんな本城のもとに、ハリウッドの忍者アクション大作「ラストブレイド」への出演オファーが舞い込んできた。ようやく巡ってきた一世一代のチャンスに喜ぶ本城。しかしそれは、命の危険を伴うあまりにも無謀なスタントだった…。』



特撮ヒーロー好きの友人F君から「面白いから観てみろ」と『イン・ザ・ヒーロー』を薦められた。観たら確かに面白い。ただ、面白いんだけど何かモヤモヤするんだよねえ。このモヤモヤはいったい何だろう?と考えてみた。

まず主人公の本城渉は、ブルース・リーに憧れてアクション・スターを目指しているものの、今はスタントマンとして頑張っている、という設定だ。

まあ、実際にこういう人はいるだろうし、この設定自体は悪くない。でも、全てのスタントマンが顔出しのアクション・スターを目指しているわけではないだろうし、スタントマンの仕事がアクション・スターよりも”格下”みたいに見られているのは「ちょっと違うのではないか?」と思うのだ。

もちろん、この映画の中ではスタントマンの仕事をしっかり描き、「裏方の俺たちが頑張っているからこそ、アクション・スターも輝けるんだ!」と自分たちの仕事に誇りを持っている様子を映してはいる。

しかしながら、作品のテーマが「夢はいつか叶う」となってて、「主人公の夢=アクション・スター」と設定している時点で、どうしてもスタントマンの立場を低く見積もっているように見えてしまうのだ。

実際、この辺の違和感は色んな人が感じていたらしく、特に『るろうに剣心』などのアクション監督でお馴染みの谷垣健治さんは、本作を観て以下のようにコメントしている。

スタントマンと売れない役者を一緒にするな!スタントマンとただの命知らずを一緒にするな!だいたい、ドラゴンだったやつが何で途中から武士道とか言い出すんだよ!全てが表面的すぎて「ああ、この程度の理解なんだ」と悲しくなった。”スタントマン”という自分が関わってる世界だけに、まったくリアリティが感じられなくて。ちょっとスタントマンがナメられたような気分にさせられた。 (「映画秘宝2015年3月号」より)

このように、映画『イン・ザ・ヒーロー』に対して谷垣さんはかなり不快な感情を抱いているらしい。どうやら、”スタントマン”という職業が売れない役者と同等に描かれている点が引っ掛かったようだ。さらに、主人公が危険なスタントに挑むクライマックスシーンに関しても「リアリティが無い!」と一蹴している。

本作のクライマックス、それは唐沢寿明さん演じる本城が、自らの危険を顧みず、長年の夢を叶えるために無謀なスタントを決行する場面だ。高さ8.5メートルから飛び降りて数十人の忍者軍団を次々と倒していく難しいアクションを、ワイヤーもCGも一切使わず、途中で一度もカットを割らず、4分50秒の長回しで一気に撮影するという、ほとんど実行不可能と思われるほど危険で困難なスタントである。

そんな凄まじいスタントに、故障を抱えた体のまま挑戦する本城渉。一ノ瀬リョウに向かって「ブルースが俺のヒーローだったように、俺も誰かのヒーローになりたいんだ!俺がやらなきゃ…、誰も信じなくなるぜ?アクションには夢があるってことを!」と熱く語りかけるシーンは、本作のメッセージが最もストレートに投影された名場面で、確かにとても感動できる。

しかし、実際のスタントマンはたとえどんな事情があっても、失敗する可能性が高いスタントは実行しない。それなのに、この映画では「夢のために命を懸ける男の姿」を”美しいもの”として描いている。つまり、「死ぬかもしれないような危険な仕事でも、根性と気合で強引に乗り切ってしまうのがスタントマンだ」という話を”美談”として語っているのだ。これじゃ、さすがに本職のスタントマンは抵抗があるだろう。

また、ハリウッドの一流映画監督が「ワイヤーやCGを一切使わない本物のアクションを撮りたい!」と力説しているが、ワイヤーやCGを使わないアクションが優れたアクションなのだろうか?それは違うような気がするんだけど。いや、ひょっとしたら「こういう無茶な要望に振り回されるスタッフの姿」を描くために、わざと誇張しているのかもしれない。

しかし、もしそうだとすればラストの立ち回りは実際に「ノーワイヤー&ノーCG」で再現しなければダメだろう。無理だと分かっているアクションに敢えて挑戦した主人公が、スタントマンの素晴らしさを己の技と肉体で証明するという、まさにこの作品のテーマが凝縮された最も重要なシーンなのだから、「ノーワイヤー&ノーCG」を実践しなければ意味がない。それなのに、なぜかワイヤーもCGも使った派手なスタントになっているのだ。

確かにここのアクションはカッコ良かったが、実際に本物のベテラン・スタントマンが多数参加している以上、その人たちが体を張って(もちろん安全性には留意して)危険なアクションを成功させる姿を、しっかりカメラに収めるべきだったと思う。それでこそ、現実とフィクションが融合したような素晴らしい場面になったのに…。

というわけで、僕自身の『イン・ザ・ヒーロー』に対する総合評価は、「いい映画だけど、ちょっとモヤモヤする惜しい作品」という感じだった。元スーツアクター唐沢寿明さんが演じる主人公は説得力があって感情移入しやすく、物語もシンプルでメッセージも分かりやすい。スタントマンの描写も具体的で丁寧だ。

その反面、肝心のスタントマンの扱いが不当に低いのが気にかかる。30年前ならいざ知らず、今時、戦隊ヒーローもののスーツアクターがあんな貧相な生活を送っているのだろうか?「ハリウッドじゃ通用しないよ〜」とのたまう嫌味なプロデューサーも誇張が過ぎる。

要するにこの映画、各要素を全体的にカリカチュアしすぎているため、人によっては「事実を歪めている!」「スーツアクターに対する偏見だ!」と捉えてしまうことがあるのだろう。それが、谷垣健治さんみたいな本職の人から「リアリティがない!」と批判される所以なのかもしれない。


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