■あらすじ『幼いときに両親が失踪し、心に傷を抱えたまま伯父夫婦のもとで育った内気な高校生、ピーター・パーカー。彼は、NY市警警部を父に持つ同級生グウェン・ステイシーに秘かな想いを寄せていた。そんなある日、父の鞄を見つけたピーターは、父のことを知るオズコープ社のコナーズ博士を訪ねる。しかしそこで、遺伝子実験中の蜘蛛に噛まれてしまう。翌日、ピーターの身体に異変が起こり、超人的なパワーとスピードを身につけることに。やがて彼はその能力を正義のために使うことを決意し、スーパーヒーロー“スパイダーマン”となって街の悪党退治に乗り出すが…。マーヴェル・コミックスの人気キャラクターを、「(500)日のサマー」のマーク・ウェブ監督、「ソーシャル・ネットワーク」のアンドリュー・ガーフィールド主演で装いも新たに3Dで再映画化したアクション・アドベンチャー超大作!』
本日、金曜ロードSHOW!で『アメイジング・スパイダーマン』が地上波初放送されます。映画版の『スパイダーマン』と言えば、サム・ライミ監督、トビー・マグワイア主演のアクション超大作が2002年に大ヒットしましたが、『アメイジング・スパイダーマン』はその”リブート作品”として2012年に公開されました。
「リブート(reboot)」とは「再起動」を意味する言葉であり、映画制作においては「過去のシリーズからの連続性を捨て、新たに一から作り直すこと」と定義されています。この”リブート”という手法がすっかりハリウッドで定着していて、最近やたらと目に付くんですよね。
例えば、有名な『スーパーマン』のリブート作品として『スーパーマン リターンズ』が2006年に製作されました。しかし、期待したような成果を上げることができず続編の計画は頓挫。そこでワーナーは「よし、一旦リセットだ!」とばかりに、またもや『マン・オブ・スティール』と題したリブート計画を立ち上げたのです(再再起動?)。どうやら業界では「行き詰まったらとりあえずリセットしとけ」みたいな風潮が蔓延しているらしい。
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今回の『アメイジング・スパイダーマン』もそんなリブート企画の一つなんですけど、本作はこれまでのパターンとちょっと事情が異なっているのです。『スーパーマン リターンズ』の場合はあまりヒットしなかったからリブートされたのに対し、サム・ライミが作った『スパイダーマン』3部作はどれも大ヒットしており、本来なら同じスタッフとキャストでパート4が作られる予定でした。ところが、映画会社から予算や脚本について色々な注文を付けられたサム・ライミがブチ切れて降板。主役のトビー・マグワイアも1本2500万ドル(22億円)という高額なギャラを理由にクビを切られてしまったのです。
こうして、「じゃあ監督も主演も全部入れ換えて新しく作り直そう!」と『アメイジング・スパイダーマン』の製作が決定したらしい。なんだか完全に”大人の事情”が絡んでますねえ。まあ、リブートするのは別に構わないんですよ。ただ、サム・ライミ版の一作目と同じく、スパイダーマンが誕生する過程から再び描き直すっていうのだけはカンベンして欲しかった。「特殊な蜘蛛に噛まれた少年が超人的なパワーを身に付けて…」などというくだりはもう知ってるから飛ばしてくれよ!ベン叔父さんが死ぬ場面とか、辛いから何度も見たくないんだよ!
しかも、スパイダーマンになるまでの展開が異様にダルい。さすが『(500)日のサマー』を撮ったマーク・ウェブ監督だけあって、アメコミ映画とは思えぬほど人物描写にたっぷり尺を使っています。ピーター君も、せっかく超人的なパワーを手に入れたのに、最初のうちはどこかの廃工場で飛び回ったり壁に張り付いたりしているだけ。本格的に活動し出すのはベン叔父さんが死んだ後です。おまけに、自分のせいでベン叔父さんが死んだというのに、悪人退治の時のスパイダーマンがふざけ過ぎててイラっとするなど、どうにも主人公の言動に感情移入しづらい。
総合的に見て、今回のスパイダーマンはキャラクターが軽いんですよね。どうやらマーク・ウェブ監督はサム・ライミ版の「大いなる力には、大いなる責任が伴う」的な暗くて重いドラマとは違ったスパイダーマンを描こうとしているらしい。なので悩んだり葛藤したりする場面は一応あるものの、あまり重要視されていません。にもかかわらず、尺だけ間延びしてテンポが悪くなっているのはちょっと解せない。軽いのはべつに構わないのですが、それなら話をもう少しスピーディに描いて欲しかったなあ。
一方、3Dの効果はなかなか良かったと思います。ビルの屋上から落下するシーンとか、高低差がリアルに表現されていて結構怖い。糸を使って飛び回るアクションも迫力倍増でグッド。と言っても、それぐらいしか3Dの見どころは無いんだけど(笑)。
その他、アメコミの設定に無理矢理科学的な考証を付加している所為で、逆に説得力が減退している点も気になったところ。遺伝子レベルで人体を変化させる薬を使っているのに、「解毒剤」であっさり中和できてしまうってどういう理屈だよ?ウェブ・シューターは無限に糸が出るし、高校の理科室に侵入したリザードがビーカーに入った液体を混ぜ合わせて投げたら爆発って、何かのギャグなの?あと、エンディングの主題歌がやけに日本語っぽいなと思ったら日本人だった。曲自体は悪くないけど、洋画に日本の楽曲って絶対に合わないよ!
というわけで、色々不満点が多い映画ではあるものの、設定を高校生に戻したことやキャストの若返りなど、本作は『トワイライト』シリーズみたいに「青春ドラマ」 + 「アメコミ・アクション」という方向性を狙っているのかも。だとすればラストの「守れない約束もあるもんね〜」的なチャラいセリフもまあ納得できなくはない。ただ、仮にそうだとしても、ヒロインとの恋愛物語があまりにもあっさりし過ぎじゃないの?「青春ドラマ」を描くなら、そこをもっと重要視すべきなのに。つまり、この映画は「サム・ライミ版と比べて面白くなくなった」というよりも、対象年齢を下げたために「深みがなくなった」と見るべきでしょう。
以下、本作の印象を箇条書きにまとめてみました。
●良かったところ
・アンドリュー・ガーフィールドが演じるピーターは、トビー・マグワイアよりも繊細な感じが出ていて良かった(ただしイケメンに限る)。
・「息子を助けてくれた恩返しだ!」とクレーンを操縦するおっさんが良かった。
・アクションが派手になった。
・ヒロインが美人になった(←重要)。
●悪かったところ
・頭はいいのにやってることがバカな主人公。
・すぐに自分の正体をバラす主人公。
・約束を守らない主人公(←ダメだろ)。
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