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三池崇史監督・妻夫木聡主演『愛と誠』ネタバレ映画感想


■あらすじ『1972年の新宿。ブルジョア家庭の令嬢・早乙女愛は、幼い頃に雪山で助けられた“白馬の騎士”太賀誠と運命の再会を果たす。すっかり札付きの不良になっていた誠は上京早々、不良グループと乱闘を繰り広げ、少年院送りに。そこで愛は、彼を更正させようと両親に頼んで自分が通う名門青葉台学園に編入させる。そんな愛の献身的な努力も誠にとっては単なるお節介でしかなく、すぐに問題を起こして退学となり、不良のたまり場、花園実業へと転入する。すると今度は、誠を追って愛も転校してしまう。さらに愛への一方的な想いを貫くメガネ優等生・岩清水弘、誠に一目惚れのスケバン、ガムコ、誠と心を通わせていくミステリアスな女子高生・高原由紀らも加わり、愛と誠の運命はますます混沌としていくのだが・・・。梶原一騎ながやす巧による往年の大ヒット漫画を、「クローズZERO」「ヤッターマン」の三池崇史監督、「悪人」の妻夫木聡、TV「Wの悲劇」の武井咲主演で実写映画化した痛快エンタテインメント・ムービー!』



本日、WOWOWシネマにて三池崇史監督・妻夫木聡主演の劇場版『愛と誠』が放映されます。1973年から週刊少年マガジンに連載され人気を博した梶原一騎原作の純愛漫画『愛と誠』は、その後、西城秀樹早乙女愛主演で映画化、更にはテレビやラジオ、舞台化もされるなど、70年代を代表する青春ドラマとして一世を風靡しました。

そんな伝説的コミックがあの三池崇史監督の手によって40年ぶりに甦る!…と聞いて期待半分・不安半分、いや正確には不安が7割ぐらいだったんですが(笑)、観てみたら意外とイケてるような気がしなくもなかったり。ちなみに、僕は三池監督の作品が大好きで、尚且つ『愛と誠』を一度も読んだことがないため、だいぶ評価が偏ってる可能性がありますけど、悪しからずご了承ください(^_^;)

まず、オープニングからまさかのアニメーションでいきなり度肝を抜かれました。その後は、『北斗の拳』や『マッドマックス』の世界に出てきそうなボロボロに荒廃し切った学校を舞台に、突如繰り出されるミュージカルシーン、誇張された面白キャラ達が織り成すボケとツッコミ、敢えてチープに演出された劇中劇など、従来の映画文法では到底計り知れないブッ飛んだストーリーが延々と繰り広げられ、しかもその着地点は驚くほどの感動ドラマという、全くもって予想が付かない驚天動地の純愛物語だったのですよ。

内容を要約すると、妻夫木聡演じる主人公:太賀誠に一方的な想いを寄せるヒロイン:早乙女愛武井咲)とのハチャメチャな恋愛劇と、太賀誠が母親に抱く愛憎を描いた「ラブコメ + 昭和の親子ドラマ」って感じでしょうか。まあ、全体の8割ぐらいはギャグで占められてますけど(笑)。原作版とは雰囲気もストーリーも全然違うみたいですねえ。

特に意外だったのは、妻夫木くんのツッコミが的確過ぎて「とても素人とは思えない」ってことでしょう(笑)。隙あらばボケまくる武井咲に対し、絶妙の間合いで突っ込む太賀誠が本当に面白くてビックリしましたよ。この映画って、妻夫木くん以外は全員がボケ担当なんですね。なので、太賀誠は常に突っ込み続けなければなりません。

例えば、太賀誠のケンカを必死に止めようとする早乙女愛に「俺は気取ったブルジョアお嬢様が大嫌いなんだよ」と言い放ち、「は?誰のことですか?」という表情でキョロキョロと辺りを見回す彼女に対して間髪入れずに「お前だよッ!」と鋭く突っ込む、このタイミングがもう素晴らしすぎる(笑)。

また、早乙女愛役の武井咲の天然ボケぶりも冴え渡っており、太賀誠が思わず「この勘違いバカ女!」と怒鳴ってしまうぐらい、「恋愛映画史上最高にウザいヒロイン」を見事に演じ切っています。更に、岩清水役の斉藤工は徹底したオーバーリアクションで”ストーカーまがいの優等生”を熱演。

「君のためなら死ねる!」という本来なら感動的な名セリフも抱腹絶倒の一発ギャグと化し、吉本新喜劇ばりの勢いで頭をはたかれるコメディリリーフぶりに至っては、もはや見事としか言いようがないレベルに達していましたよ(笑)。
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更に、全編を彩るミュージカルシーンがこの映画をより特殊なものへと変貌させています。その楽曲も『激しい恋』、『あの素晴らしい愛をもう一度』、『空に太陽があるかぎり』、『圭子の夢は夜ひらく』、『また逢う日まで』など、まさに昭和歌謡大全集状態(笑)。

中でも『狼少年ケンのテーマ』は、伊原剛志の奇妙なダンスや「どうしてこの歌をチョイスしたのか?」という拭い切れない違和感も含めて、ひときわ異彩を放っていました。当然、「なぜここまで原作を変える必要があるんだろう?」って疑問が出てくると思うんですけど、三池監督はインタビューで次のように答えています。

「仮に20億円の予算があったら原作通りにやっていたでしょうけど、現実に与えられた時間と予算を考えた場合、これは真っ当にやっても、とてもじゃないけど面白くも何ともならないし、スケールもおっつかない。役者にしても、本当に原作通りのものを目指すのなら、それこそ昭和の大スターみたいな大御所を脇に揃えないと成立しないでしょう。今の役者たちが単に原作通りにやっても”形だけ似てて中身は違うぞ”と。


つまり、それだけの貫禄と風格を梶原一騎の原作は備えてるんですよ。それで僕らがあたふたしてる時、脚本家の宅間孝行さんが”いっそのこと歌っちゃえばいんじゃない?”って。つまり、解体というか、様式を変えてしまうと『愛と誠』ではなくなってしまうのか?ということに対する僕らの挑戦なんですよ、この映画は」


「変な言い方だけど、今回僕達は基本的に白旗を揚げてるんですよ。つまり、我々は梶原一騎を凌げるものなど到底できませんという、ある種の自覚は強く持っている(笑)。でも、だからといって今時流行りそうなものに変えていくのではなく、逆に何もかも捥がれた状態でい続けることによって、現場には結構自由な空気というか空間が出来上がっていた。


それこそが梶原イズムとでも言いますか、先生自身にそんな空間を作ろうという気など毛頭なかったと思いますけどね(笑)。でもその代わり、自分の責任は自分で取れよという、その厳しさもハンパではない」(「キネマ旬報2012年6月下旬号」より)

というわけで、70年代の恋愛劇を現代に甦らせるために敢えて大胆な改変を行った『愛と誠』。出来上がった映画は凄まじいテンションで観る人を大いに困惑させますが、それ以上に困惑したのは実際に役を演じる俳優さん達の方でした。

特に主人公の妻夫木聡は最初に脚本を読んだ時、あまりにも破天荒すぎる内容に”オリジナルのストーリー”だと勘違いしたらしい。その後、打ち合わせの席で初めて原作漫画があることを知り、慌てて本を買って読んだら「これって真面目な恋愛ものだったのか!?」と気付いて更にびっくりしたという(笑)。映画の記者会見を見てもその困惑ぶりが伝わってきて実に面白かったです。↓
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出演者本人が「良く分かりません」と言い切っちゃう映画って凄いよなあ(笑)。


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