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映画『鍵泥棒のメソッド』ネタバレ感想・解説


本日、日曜洋画劇場にて映画『鍵泥棒のメソッド』が地上波初放送されます。『運命じゃない人』や『アフタースクール』など、トリッキーなシナリオで観客を驚かせてきた内田けんじ監督が、ひょんなことから人生が入れ替わってしまった売れない役者と殺し屋の珍騒動をスリリングかつコミカルに描き、第36回日本アカデミー賞で最優秀脚本賞を受賞しました。

キャストも豪華で、TVドラマ『半沢直樹』で見事な”演技対決”を見せた堺雅人香川照之が再び対決!さらに、突然結婚を思い立って婚活に励むヒロインを広末涼子が演じ、キュートな魅力を振り撒いています。本日は、そんな『鍵泥棒のメソッド』について簡単に見どころを書いてみますよ。


●女性編集長:水嶋香苗(広末涼子
「わたし、結婚することにしました」というヒロインの唐突な結婚宣言で始まる本作。「お相手は?」、「まだ決まってません」などのトンチンカンなやり取りから早くも彼女の天然ぶりが炸裂していて面白い(笑)。

水嶋香苗は常にクールで潔癖症。ほとんど表情を変えることもなく、唯一のアクセントはメガネくらいで、これまでの広末涼子のイメージとは大きく異なる女性像だ。広末自身はこのキャラクターについて以下のようにコメントしている。

「今までのお芝居は感情を表現する、出す、形にしていくことが多かったけれど、今回は全部抑える作業でした。監督にはカット割はもちろん、お芝居のひとつひとつ、声のトーンやテンションまで事細かなイメージがあったので、それに毎回妥協せずに近づけていく感じです。自分でつくり出すというより、自分が思ったことを逆に抑えていくような新しい発見がありました。今までは役を演じているつもりでも、いかに素の自分が反映されてしまっていたのかと思い知った感じです」

ちなみに、水嶋香苗は手元の書類に「たいへんよくできました」という小学生が使っているようなハンコを押しているが、堺雅人香川照之が共演した『ゴールデンスランバー』でも全く同じハンコが重要なシーンで出てくる。偶然か?それともオマージュ?

●凄腕の殺し屋:コンドウ(香川照之
車の中でクラシック音楽を聞きながら精神を集中させるコンドウ(この時点では”凄腕の殺し屋”と思われているが、後に真相が判明する)。やがてターゲット(岩城社長)の姿を確認すると、ビニールのレインコートを羽織って無言で車を降りてターゲットを刺し殺し、死体を後部トランクに押し込んで再び運転席に戻ってくる。

この一連の行動が全てワンカットで撮られているのが凄い。長回しの撮影が一発で決まった時は、演じた香川照之も興奮したらしい(ちなみに、この時聞いているクラシック音楽は記憶が甦る際の伏線になっている)。


●売れない俳優:桜井武史(堺雅人
首吊り自殺に失敗して床に倒れている桜井武史は、仕事も無く彼女にも振られて自暴自棄になっているビンボー役者だ。とりあえず自殺を諦めサイフを漁ると銭湯の入浴券を発見。同じ頃、映画の撮影待ちで道路が渋滞し、イライラしていたコンドウは、たまたま目に入った銭湯へ入り、そこで偶然、桜井と出くわす。


●コンドウ、宙を舞う
先に入って体を洗っていた桜井はうっかり石鹸を落としてしまう。そこへコンドウが入って来て石鹸を踏み付け、「ツルッ!ステーン!」と絵に描いたような凄まじい勢いで豪快に滑ってしまうのだ。

この見事な転倒シーンを自ら演じた香川照之は、「切り返しで4、5回ジャンプしましたけど、下にマットが敷いてあるので役者の具体的な作業としてはそれほど大変じゃないんです。思い切りジャンプするだけなので楽しかったですよ」とコメント。

●人生を入れ替わる
転んで頭を打ったショックで記憶喪失になったコンドウ。そして、コンドウの荷物を持ち逃げした桜井は、大金の入ったサイフから金を盗み、借金の返済などで使ってしまうものの、やはり気になって入院中のコンドウの元を訪ねる。そこでコンドウの記憶喪失を知った桜井は、「ラッキー!」とばかりに再びコンドウの資産に手を付けるのだ。悪いヤツだな〜(^_^;)


●水嶋香苗、コンドウと出会う
たまたま父親の見舞いに来ていた水嶋香苗は、同じ病院に入院していたコンドウと出会う。実は、香苗の父は余命宣告をされており、生きているうちに花嫁姿を見せたかったのだ。そこで、「健康で努力家」なコンドウを結婚相手の候補にしようと決意。家まで押し掛け情報を聞き出そうとする。

一方、すっかり自分のことを”桜井武史”と思い込んでいるコンドウは、桜井が役者だったらしいと知って、とりあえずエキストラの仕事に参加。そこで、監督から演技を褒められ、本格的に役者の勉強を始める。


●ヤクザ:工藤純一(荒川良々
免許証から謎の男の本名が「山崎信一郎」であることを知った桜井は、彼のマンションへ向かった。豪華な部屋には高そうな調度品が並び、クローゼットを開けると大量の衣装と身分証明書を発見。

「こいつはいったい何者なんだ?」と怪しんでいると、突然携帯電話が鳴り響く。「コンドウさんですか?ギャラの500万円を支払います」との言葉に驚く桜井。

「500万円」に釣られて桜井がやって来た場所には、コンドウに殺害を依頼した工藤が待っていた。桜井のことを伝説の殺し屋:コンドウだと思い込んでいる工藤は、「岩城(殺した相手)の金がどこかへ消えた。女(井上綾子)から金の隠し場所を聞き出してくれ」と依頼する。荒川良々の「小銭を握って相手を殴る」というキャラが不気味で強烈(笑)。


●水嶋香苗と姉の会話
香苗は実家で風呂上りにお姉さんと結婚について話をしていた。離婚歴のある姉は、恋愛経験すらない香苗をちょっと上から目線で見ている。

「あなた、恋をして胸が鳴ったことある?」、「なにそれ?」、「好きな人のことを考えると、胸のこのへんが”キューン”って鳴るのよ」 ←伏線ですw

香苗はコンドウの家に通って手作り料理を披露するなど、積極的な行動を見せる。それに対して号泣するコンドウ。二人の距離は次第に縮まっていった。


●桜井、家を買う
工藤から「井上綾子の殺害」を依頼され、途方に暮れる桜井だったが、コンドウの部屋から大金を発見し、それを使ってマンションを購入。綾子を助けることを決意する。


●コンドウ、記憶を取り戻す
香苗から結婚を迫られたコンドウは「ちょっと急ぎすぎでは?」と躊躇するが、その時「香苗の父が死んだ」という知らせが届く。葬儀の場で香苗の父が生前に撮ったビデオが流れるものの、それは結婚式用のものだった。それを見て、コンドウは香苗が結婚を急いでいた理由を理解する。

その後、香苗の実家で亡くなった父のオーディオを見せてもらっていた時、聞き覚えのあるクラシック音楽が流れた。それを聞いた瞬間、コンドウの記憶は甦った。


●桜井、工藤に狙われる
何とかして綾子を助けようとしていた桜井だったが、途中で計画がバレて、工藤に捕まりそうになる。慌ててコンドウの部屋に逃げ込むものの、そこには記憶を取り戻したコンドウが待っていた。

事情を聞いたコンドウは怒りながらも、「仕方がねえな」と助けることに。工藤は桜井のことをコンドウだと思っているから、コンドウが手下に化けて桜井を殺せば(殺したフリをすれば)、「コンドウは死んだと信じるだろう」と(ややこしい!)。


●コンドウが桜井に演技指導する
工藤を騙すためには、刺されて死ぬ瞬間をリアルに演じなければならない。そこで、コンドウと桜井は段取りを練習する。しかし、あまりにもわざとらしい桜井の演技にコンドウが激怒。

「ダメだ。お前は演技の基本ができてない!」、「俺の演技はストラスバーグのメソッドを基本にしてんだよ!」、「お前の部屋にあったストラスバーグの本、最初の8ページしか読んだ形跡がなかったぞ」、「人殺しに説教されたくねえよ!」

ちなみに、ストラスバーグとはオーストリア出身のアメリカ俳優リー・ストラスバーグのことで、優れた演技指導者としても知られている。彼の下で学んだ俳優は、マーロン・ブランドポール・ニューマンアル・パチーノマリリン・モンロージェーン・フォンダジェームズ・ディーンダスティン・ホフマンロバート・デ・ニーロジャック・ニコルソンスティーブ・マックイーンなど錚々たるメンバーがいたらしい。

堺雅人香川照之がお互いに演技論をぶつけ合うこの緊迫感溢れるやり取りは、最後に香川がエアガンを撃つまでの長いシチュエーションを全てワンカットで撮影。特に、ワザとヘタな演技をしなければならなかった堺雅人は苦労したらしく、インタビューでは以下のように語っている。

”お芝居をしているというお芝居”をするわけですから、難しいといえば難しい。逆に何もしない方がいいのかな?と考えて、現場では監督にその都度指示していただいたのでありがたかった。役者って、作り込んじゃうと自我が出すぎるところがあるので、監督との信頼関係で全てお任せしたのが良かったかもしれないですね。あざとくしようと思えば、いくらでもあざとくできちゃうんで」

●岩城社長は生きていた
現場へ向かう車の中で、「バレたら終わりだからな、死ぬ気で演じろ。岩城社長は上手くやってたぞ」と語るコンドウ。それを聞いて「えっ?社長、生きてるの?」と驚く桜井。なんと、コンドウは殺し屋じゃなくて便利屋だった。

社長を刺した凶器も、押すと引っ込む手品用のナイフ。飛び散った血もニセモノ。そういえば、刺した時の音も「グサッ」じゃなくて「ドスッ」って感じだったもんなあ。


●最悪のタイミングで香苗登場
いざ、工藤の目の前で桜井を刺そうとした瞬間、車で香苗が登場。慌てて逃げるも、コンドウが捕まり、桜井と香苗は彼を助けるために作戦を考える。


●桜井の一世一代の名演技
綾子の部屋へ工藤達を誘き出した桜井は、「俺が綾子を殺した。息子も殺した」と堂々と殺し屋を演じ切る。しかし、「血の匂いがしない」と工藤に嘘を見抜かれ再び大ピンチに!

その時、部屋の中で高そうなギターを見つけた香苗は、「このギターを売れば2000万円以上しますよ。この部屋にあるもの全部で2億円分ぐらいあります」と衝撃の告白。なんと、岩城社長は現金を楽器や絵画に換えて、女に預けていたのだった。


●工藤、空き巣で逮捕
とりあえず金目の物を確保できると知った工藤は全員を解放。直後にコンドウは警察に、「今、空き巣が家に入ってます」と通報し、工藤は逮捕された。


●香苗、胸がキューン
全ての事件が解決し、コンドウは香苗の元から去っていった。一人取り残された香苗は手帳を開き、「結婚予定」の文字を消す。その時、コンドウが忘れていったノートを見つけた。日々の出来事を書き連ねていたそのノートには「好きなもの」の欄に「水嶋香苗」の文字が……!


次の瞬間、香苗の胸から「キューン!」という謎の音が鳴り響く!なにこの胸の高まりは?これが恋なの?と思ったら、コンドウが事故っただけだった(笑)。この後、香苗はコンドウと抱擁してめでたしめでたし。ちなみに、桜井も隣の猫好きな女性と「キューン!」な関係になったらしい。


●まとめ
運命じゃない人』や『アフタースクール』では捻りまくった脚本が特徴的だったが、本作はほぼストレートな展開で、どんでん返しなどの目立つ仕掛けは見当たらない。その分、サスペンスよりもラブストーリー的な側面が強調され、これまでの作品の中では一番感情移入しやすくなっている。

尺的にはもうちょっと短く出来そうな気もするけど、娯楽映画としての満足度は高いと思う。なによりも、これだけ質の高いシナリオを毎回オリジナルで書き上げている内田けんじ監督の実力が本当に素晴らしい。


鍵泥棒のメソッド

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アフタースクール

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