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宮崎駿監督は『かぐや姫の物語』を観てどう思ったか?


どうも、管理人のタイプ・あ〜るです。

現在発売中の『文藝春秋』2014年2月号に、「スタジオジブリ30年目の初鼎談」と題した記事が掲載されています。高畑勲宮崎駿鈴木敏夫の三人が3時間にわたってお互いのことを語りあった貴重な鼎談で、非常に読み応えがありました。意外なことに、このメンバーで鼎談するのは今回が初めてで、鈴木さん曰く「これで最後かもしれません(笑)」とのこと。というわけで、個人的に面白かった会話シーンをざっくり取り上げてみましたよ。



●お互いの作品(『風立ちぬ』『かぐや姫』)を観てどう思ったか?

・宮崎:『かぐや姫の物語』を観た時にね、長く伸びた竹を刈っていたでしょう?筍というのは、地面から出てくるか出てこない時に掘らなきゃいけないんじゃないかと……

・高畑:真竹だからあれでいいんですよ。孟宗竹だったら宮さんの言うとおりなんですけど、当時、孟宗竹は日本にはまだ入ってきていない。ちゃんと調べたんです(笑)。

・宮崎:そうですか。あのね、監督同士というものはお互いの作品について、とやかく口を出してはいけないという不文律があるんですよ。

・鈴木:でも、編集部が聞くのは勝手ですから。

・高畑:まあ、それはそうですね。僕は『風立ちぬ』を多くの女性と同様に堀越二郎と菜穂子の恋愛映画だと思って観て、恋愛映画として納得しました。でも……これは言っちゃっていいのかな。映画の終盤に変わり果てた大量の零戦が並ぶシーンがありましたが、その前に、この大戦で何があったのか、客観描写でいいから描くべきだったんじゃないかなと思いましたね。

・宮崎:それは僕も十分考えました。でも、そういうシーンを描くと、アリバイ作りのような気がして…。それでもうやめようと。パクさん(高畑監督の愛称)のような意見が出てくるとは思ってましたけど、それを描いたとして、零戦の設計者である堀越二郎の人間像が変わるかといったら、全然変わらないんですよ。


●『かぐや姫の物語』の映像表現をどう思ったか?

・高畑:今回の『かぐや姫』では、空間や陰影など、すべて描き込むのではなく、観る側の想像力や記憶をかきたてるスケッチ的な手法をとりました。あえてラフなタッチで余白を残して、線の裏側に何が描かれているのか、観客の想像力を呼び覚まそうとしたんです。

・宮崎:でも、線をどう生かすかにこだわっていると、アニメーションは作れないんですよ。たしかに生き生きとしたラフ画を画面にしていくと良さを失うのは、僕らもよく経験することです。でも、ヘボな絵がそれなりに見えるようになるのも、アニメーションなんですよ。それが嫌だったら、アニメーションの仕事をやっちゃいけないと僕は思います。

・鈴木:宮さんがどう思うかわからないけど、庵野秀明が、『風の谷のナウシカ』の続編を作りたいと言っているのですが、宮さんの描いた原作漫画の線を生かしてできないかと。

・宮崎:それは絶対やめた方がいい。よけいなことです。僕はもう、線のタッチなんかにこだわりません。線を見せるために映画を作っているのではありませんから。


●なぜ『かぐや姫の物語』は8年もかかったのか?

・高畑:これまでジブリを支えてきた二人を前にして言いづらいんですが、作っていく過程で、僕にとって単に「竹取物語」を題材にした映画を作ればそれでいいのではなく、目指しているものを実現させなくては意味がない。そう思ってしまうと、どうしても進行という部分がいい加減になってしまうんです。会社側からは「何をやっているんだ!」といわれても当然なんですが、こちらは答えようがないという感じになっちゃったんですね。

・宮崎:いつもそうなんだ(笑)。毎週、放映するテレビシリーズ(『アルプスの少女ハイジ』等)を一緒にやっているときも、パクさんはこの調子で、プロデューサーをつかまえて、「この作品をテレビシリーズとして作るのがいかに無謀か、その理由は…」なんて、延々と議論してるんです。もう製作が始まって、現場は動いてるんですよ?そんな暇があるなら早くこっちに絵コンテをくれよ!と言いたくなりましたよ。

・高畑:その頃から、いつも宮さんは先の事を考えるんですよ。「こんなに時間のかかることをやっていてはダメだ!」とか言ってたよね。僕なんかは「先の事を考えても、なるようにしかならないんじゃないの」というタイプだから(笑)。そこが大きく違った。

・鈴木:宮さんは非常にストイックですよね。朝起きてからジブリのスタジオに来るまでに、たわしで体をゴシゴシして、散歩して、コーヒーを飲んでと、全部スケジュールが決まってるでしょう?絶対、僕にはできないもん。

・宮崎:誰でも年を取るとそうなりますよ。まあ、確かにパクさんはナマケモノですけどね。僕は勤勉です。ねっ?鈴木さん。

・鈴木:………

・宮崎:”うん”と言わないね(笑)。


宮崎駿の引退表明についてどう思ったか?

・鈴木:昨年、宮さんは引退を表明しましたけど、今後は自由に作れるわけですよね。この後、何をやろうとしているんですか?

・宮崎:どういう意味ですか(笑)。

・鈴木:商業映画から撤退したというだけでしょう?

・宮崎:いやいや、長編アニメーションはもう撮らないと言ってるだけですから。

・高畑:長編を撮ってもいいんじゃないの(笑)。『かぐや姫』の記者発表のときに、「宮崎さんの引退をどう思いますか?」と聞かれてね。

・宮崎:そんなことをパクさんに聞くヤツが悪いんだ。

・高畑:まったく(笑)。だけど僕は「宮さんが引退を撤回しても驚かないでください」と言っておきましたから(笑)。そういう人でしょう?

・鈴木:高畑さんは『かぐや姫』より前から、ずっと「平家物語をアニメ化するべきだ」と唱えてますよね。

・高畑:ああ、あれは面白くできます。誰かが撮るべきですよ。僕がやるとは言えないけど(笑)。

とまあ、こんな感じで3時間延々と3人で(ほとんど宮崎さんと高畑さんで)話をしてるんですね。これを読むと、宮崎駿高畑勲の「アニメ制作に対する考え方の違い」が明確に分かって興味深い。

宮崎監督は、「アニメーションとは共同作業だから、僕たちが時間を掛け過ぎると他のパートの担当者が迷惑する」と考え、長編映画の製作に入る前には必ず2年間のスケジュールをきっちり紙に書き込むそうです。極めて合理的な思考法と言えるでしょう。

それに対して高畑監督は「優れた作品を作ること」のみが最優先事項で、それ以外のことは一切考えてない(笑)。『かぐや姫』も、最初は優秀なスタッフだけを集め、物凄く少ない人数でハイレベルな作品を作ろうとしていたようですが、途中で「完成まで20年かかる」ということが判明したため、慌てて大量のスタッフを動員したそうです。商業ベースを無視した行為が多すぎるんですね(笑)。

それから、世間的には宮崎駿高畑勲も完璧主義者」と思われているようですが、”完璧”の意味合いがちょっと違うような気がするんですよ。つまり、「何に対して完璧を目指しているのか」という点において、二人の資質は真逆なんじゃないかなと。

例えば宮崎駿の場合は、まず「面白い映画を作るため」に全精力を注ぎ込んでいます。そして、映画を面白くするためには自分の考えだけでなく、他人の意見を取り入れることも厭わない。

それから、映画の公開日をきっちり守ろうとしているところも高畑さんとは全然違う(笑)。過去にも、スケジュールが遅れそうになったら、土壇場で絵コンテを変更して、時間がかかりそうなシーンを無理矢理カットしてでも間に合わせていました。

こういう行為を見ると、宮崎さんは「誰かの期待に応えるために映画を作っている」ような気がしてなりません。「映画を楽しみにしているお客さんの期待に応えたい」あるいは「公開日を待っている観客や関係者の期待に応えたい」、そういう思いが作品作りに反映されているんじゃないのかなと。

それに対して高畑監督の目的は「良いアニメを作りたい」、これのみです(笑)。自分が思い描く”最高のアニメ”を作るためには、どんな苦労も厭わないという、徹底した作品至上主義が貫かれているんですよ(まあ苦労するのは主に周辺のスタッフですけどw)。

そして、スケジュールを映画の公開日に間に合わせるのではなく、「優れた作品を作るために公開日の方を遅らせる」というムチャクチャな発想も、商業映画監督の思考では有り得ません。完全に芸術家の考え方です。

だから、鈴木敏夫さんの「良い芸術作品を作るためにはパトロンが必要」というコメントは非常に的確で、高畑監督の制作スタイルは、もはやそれでなければ成立しない次元にまで達しているのでしょう。

アート性を突き詰めた結果、『かぐや姫の物語』は完全に商業ベースから逸脱してしまいましたが、あくまでも「作品の質的向上」のみを追求し、一切の妥協を許さない、これこそが”真の完璧主義者”の姿と言えるのではないでしょうか。良いか悪いかは別にして(笑)。

ちなみに、五反田で行われた初号試写会で『かぐや姫の物語』を観賞した宮崎監督は、感動のあまり泣きながら試写室から出てきた日本テレビのプロデューサーに対して、「この映画で泣くのは素人だよ!」と怒っていたらしい。その場面を目撃した鈴木さんは、「宮崎さんとは長い付き合いだけど全く意味が分からなかった。この映画で泣くのは素人?じゃあ玄人って何なのよ?」と呆れ返っていたそうです(笑)。


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