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細田守監督が『おおかみこどもの雨と雪』を作った理由とは?


■あらすじ『大学生の花は相手が“おおかみおとこ”とは知らずに恋に落ちてしまう。しかし、“おおかみおとこ”であることを打ち明けられても花の気持ちは変わらなかった。やがて2人の間には、人間とおおかみの2つの顔を持つ“おおかみこども”、姉の“雪”と弟の“雨”が生まれる。そして雪と雨が人前でおおかみにならないよう注意しながら、家族は都会の片隅でひっそりと、しかし幸せに暮らしていた。そんなある日、父親の“おおかみおとこ”に突然の死が訪れる。花は悲しみに暮れながらも、子どもたちを一人で育てるために決意を新たにし、緑豊かな山あいの村へと移り住む。大自然の中でのびのびと成長していく雪と雨。だが、2人には重大な選択のときが迫っていた。「時をかける少女」「サマーウォーズ」の細田守監督が、母親と子どもたちとの絆と成長を美しい自然の風景とともに丁寧な筆致で描き出すファミリー・ファンタジー・アニメーション!』



本日、金曜ロードSHOWにて細田守監督作品『おおかみこどもの雨と雪』がテレビ初放送されます。2012年7月21日に全国381スクリーンで封切られた本作は、公開以来順調に成績を伸ばし続け、公開後わずか2週間で動員135万人、興収16億8000万円に達する驚異的なスタートを記録。細田監督の前作『サマーウォーズ』(動員126万人、興収16.5億円)をいきなり上回る好調ぶりで、大ヒット御礼舞台あいさつが行われるほどでした。

その後も勢いは衰えることなく、興行ランキング2位という好成績を維持し続け、映画を観た観客の反応も「素晴らしい!」「感動しました!」など絶賛の嵐。8月29日にはフランスでも公開され、更には全世界34の国と地域で拡大公開されるなど圧倒的な快進撃を見せました。最終的な収益は42億円、観客動員数は341万人を突破するなど、数々の素晴らしい記録を叩き出し、当時のアニメ市場を席巻したのです。

時をかける少女』や『サマーウォーズ』がSF映画的な設定を用いていたのに対し、今回は”狼男”が存在する世界を描いたファンタジー映画になっています。作品の主題は「子育て」であり、夫と死に別れてシングルマザーになった主人公:花が、たった一人で二人の子供を育てる苦労を描いた本作。ファンタジーというフィルターを通じて、細田守監督が訴えようとしたことは何だったのか?以下、インタビュー記事より抜粋してみました。

たとえば今この現代の中で、子供を産んで育てることがいかに大変か、今は子供を産み育てることにちょっと勇気がいる時代ですよね。そういう中で、僕の友人達が子供を産もう、育てようとしているのが、とてもヒロイックに見えた。すごく大変な思いをしながらも頑張って子育てをしているお父さんお母さんたちを憧れの目で見たい、そういう気持ちがあったんです。


映画の中で、狼男と恋をして子供を宿したが故に、主人公の花は本当に誰にも頼れない立場になってしまう。だけど、こういうことはファンタジーの世界だけじゃない。現実の社会でも、お母さんたちは”子供を守れるのは自分しかいない”って思ってるんじゃないかな。自分の代わりになる人はいないという覚悟をみんな持っている。


それは見方によっては孤高なのかもしれないけど、でもやっぱり人は独りじゃ生きていけないっていうか。色んな人の助けというか、子育ての助けじゃなくても生活の助けはどこかで必要だと思うし、それによって彼女は救われるんですね。(「SWITCH Vol.30 No.8」より)

晩婚化や少子化、離婚やシングルマザーの増加など、子供を産んで育てることが当たり前ではなくなりつつある現代社会。だけど、そんな”子育て受難”の時代だからこそ、子供を産み育てることの尊さを訴えたい。そして懸命に子育てしているお父さん・お母さん達へ、精一杯のエールを送りたい。そういう想いが映画から伝わってくるような気がします。

ただ、絶賛ばかりではなく、批判的な意見も結構あったようで、中でも多いのが「育児場面にリアリティがない」とか、「全てが綺麗事すぎる」というものでした。それもそのはず、この映画を作っていた当時は細田監督自身には子供がおらず、子育ての経験が全く無かったのですよ。もし細田監督に子供がいたら、おそらくこういう内容にはならなかったと思います。もっと当事者に近い目線から、母親の苦労や悩みをリアルに描いていたかもしれません。

しかし、(逆説的ですが)子育ての経験が無いからこそ、こういう映画を作る事ができた、とも言えるんじゃないでしょうか。本作で描かれている子育て場面や親子像は、あくまでも「こうであって欲しい」という監督自身の憧れや願望が色濃く投影されたものですが、だからこそ理想化された彼らの関係性は寓話の中で美しく光輝き、昇華するのです。そして、今こういう映画が大ヒットしているということは、世間が「こういう寓話」を求めていることの証明でもあるのでしょう。

なお、この映画が公開された後に、細田監督は初めて赤ちゃんを授かったそうです。そして実際に自分で子育てを始めてから、細田監督は本作を振り返って次のようにコメントしていました。

ひとつ言えるのは、子育てしていると、子育ての映画を作っている余裕は全くないですね(笑)。『おおかみこどもの雨と雪』は、うちに子供がいなかったからこそ作るべきだと思ったし、もし仮に子供ができたら作れない映画だろうな、という予感は最初からありました。今は、その予感が見事に的中してますよ(笑)。


むしろ、”憧れの気持ちで作ること”が大事だった。今、子育てをエッセイ風に描くような育児マンガが多いですが、そういうものを作りたかったわけではないんです。自分がやりたかったのは、ひょっとしたら親になるかもしれない自分達の夫婦の視点から、”親というものはどこから始まってどこで終わるのか”ということに想いを馳せる、そんな映画にしたいというのが着想の根本でした。そういう意味では、ある種の憧れをもって、子供が育っていく過程を親の目線から描く、それが企画の大きなポイントだったということですね。


逆に、子育てを実際に体験したとして、それを実録的に映画で描いても、何も面白くないんじゃないかと。映画的な飛躍が無いというか、そういうものを映画にしても仕方がないというか。だから、作る前も作っている時も、本当に今しか作れないんだろうな、という気持ちで作っていました。子育てを”憧れ”という切り口で描くには今しかないと。(「アニメスタイル003」より)

いったいなぜ、本作はこれほどまでに大ヒットしたのでしょうか?それは、このように子育ての経験が無い細田監督が、子育てに対する憧れをストレートに描いたことで、逆に多くの観客を惹き付ける”普遍性”を獲得したからなのかもしれません。元来アニメーションというものは、作家性の強い作品であればあるほど世界が自閉しがちになり、それ自体で完結してしまう傾向が強いのです。

しかし、『おおかみこどもの雨と雪』は世界が閉じず、きちんと広がっているのですよ。「子育て」という普遍的な題材をファンタジーを通じて描いたことで、より多くの人たちが共感できるフィールドに拡大した。それこそが、アニメファンだけでなく、幅広い層に受け入れられた要因ではないかと思います。


●アニメーションで”風”を感じさせる驚異の映像テクニック!

さて、優れた内容の本作ですが、実は作画的にも極めて高度なテクニックを駆使しており、「アニメーション表現の限界を超えた」と評されるほど見事な映像を生み出しているのです。ただ、一見すると普通にシンプルな絵柄のため、特別なことをやっているようには見えません。

そのため、この映画で描かれている表現の素晴らしさに気付かなかった人もいるのではないでしょうか。では、いったい『おおかみこどもの雨と雪』は何がそんなに凄かったのでしょう?

通常、アニメーションとは形の異なった絵を何枚も連続して映すことで動きを表現しています。人でも物でも「物体が形を変える」ことがアニメーション本来の面白さであり得意とする分野でした。ところが、「形の無いもの」を描こうとした場合、一転して困難な状況に見舞われます。

例えば”水”や”炎”など、不定形のものに関しては苦手意識が強く、多くのアニメーターが悪戦苦闘してきました。まあ、天才:宮崎駿の手にかかれば”水”や”炎”も素晴らしいアニメーションに仕上げてしまうのですが、そんな宮崎駿ですらも「難しい!」と言わしめる表現があります。

それが空気、つまり”風”の表現なのです。言うまでもなく”風”は目に見えないので、色や形で描くことはできません。そこで、アニメの世界では昔からキャラクターの髪の毛を揺らしたり、草や木の枝を揺らすことによって「そこに風が吹いている」ことを間接的に観客に感じさせて”風”を表現していたのです。

しかし、この方法には限界があって、1枚の絵で描かれた背景画はどうしても動かすことができないのですよ。なので、これまでは止まったままの背景の上に草や木の動画を重ね、それを動かすことでどうにか風が吹いているように見せる、という不自然な方法で対処していました。

ところが、細田守監督はそんな従来通りのやり方に不満を感じ、「背景をそのまま動かしたい」と訴えたのです。今までは、風が吹いて草原が揺れる表現をしようと思ったら、引きの映像では無理だから草花にカメラが寄って作画で揺らして見せていたのですが、細田監督はそれが気に入らなかったらしく、「このシーンは絶対に引きの絵で見せたいんだ!」と言って譲りません。当然、スタッフは「作業が大変なことになるから無理です!」と猛反対。その時の心境を細田監督は次のように語っていました。

僕らは結局、伝統的なセルの記号的表現を組み合わせて、そのシーンや物語に合った感覚をどう表現するか?ということをずっとやってきていたんです。それこそ、そうした記号の組み合わせパターンをどれだけ知っているかが”演出家としての腕”みたいな意識ですよね。

確かに、そうした作り方の方が効率的だし、作品の出来上がりも確実なものになりますが、でもやっぱりそういう作り方は”フォーマットありき”という部分がありますよね。そうなると、絶対にフォーマットの制限を超えることはできません。


だから今回は、フォーマットに乗ってやるのではなく、それらを全部棄てて全く新しい表現に挑んでみたい、少しでも前に進みたいという思いがあったんです。それで、今までは作画やCGの限界みたいなものを見極めた上でやってきたのですが、今回は敢えてそうした限界を作らずに、シンドイかもしれないけど、最初から思考錯誤をしながら、新しい見え方、記号や伝統的なフォーマットに頼らない表現を生み出していこうと。


時をかける少女』でもやっていますが、従来のアニメで良く使われていた「草原をベタっぽく描いて、そのベタな草原の上を作画で点々と入れたハイライトを送って草木の揺れや風が渡っていく様子を表現する」といった手法を、今回の映画では止めようと思ったんです。もちろん、それはそれで僕らアニメを観るリテラシーが高い層は、タッチを送っただけでも”草原に風が吹いている”っていう受け止め方をしますが(笑)。


日本のアニメは、そういったお客さんとの間の、一種の約束事に頼っている部分が多いんじゃないかと。でも、そういったリテラシーが無いお客さん、つまりアニメの記号的お約束が分からない人が観たら、色トレスのタッチが動いているのを観ても、それが何を意味しているのか良く分からないと思うんです。


動くものはセルで描いて、動かないものはBG(背景)ですよっていう約束事は、作る側の一方的な都合であって、観る側の都合ではないですよね。観る側に、草木が揺れるぐらい”風がゆるやかに吹いている”と思ってもらうためには、やはりきちんと揺らすしかない。こっちの都合で、背景は動かせないのでセルで描きますっていうのは通用しないと。だから、そこはやっぱりどうしても動かしたかったんです。(「おおかみこどもの雨と雪 ARTBOOK 」より)

こうした細田監督の強い要望により、「背景をそのまま動かす」という難題にチャレンジすることになったスタッフは大パニック!「どうしよう?」と悩んだ彼らはまず美術監督が描いた背景画をスキャナーでPCに取り込む作業から始めました。そして、描いてある草花を一本一本切り取り、3DCGで作製した草花のモデリング素材にテクスチャーとして貼り付け、風に揺られて動く様子をシミュレーションし、それをまた背景画に合成するという地道な作業を根気強く続けたそうです。

言うのは簡単ですが、本作で使用された背景画は全部で1153枚にも及んだため、美術担当者は大変な苦労を強いられることになったという。しかし、こうした苦労の甲斐あって、「背景画の草花が自然に揺れる」という見事なシーンが完成したのですよ。

この他にも、本作には至る所に「地道な工夫」が施されています。例えば、花が図書館で調べ物をするシーン。本棚には大量の本が並んでいますが、これらの本にはCGで作られた背表紙が1冊1冊丁寧に貼り付けられているのです(良く見ると整理用のラベルまで貼ってある!)。

また、花が通っている大学の正門に設置されている掲示板にも(画像では小さすぎて確認出来ませんが)、連絡事項を書いた文字が貼り付けられ、しかも時間の経過と共にその内容までいちいち変更しているのですから凄すぎる!

ちなみに、細田守監督の作品は毎回背景のクオリティが異様に高いことでも有名ですが、本作でもまた見事な背景を描き出し、観る者全てを圧倒していました。この映画で美術監督を務めた大野広司さんは『魔女の宅急便』や『走れメロス』などの背景を手掛けたベテランです。

今回、大野さんは細田監督と打ち合わせをした後、ロケハンのためにまず都内各所を廻り、次に田舎の風景を確認するため富山県を訪れました。そして、撮った写真を元に建物の3DCGを作成し、見たい角度を自由自在に設定して様々な背景を描いていったそうです。こうした地道な努力の積み重ねが、劇中の空間に揺ぎ無い説得力を与えているんですね(^.^)


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