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実写映画『カイジ〜人生逆転ゲーム〜』ネタバレ感想


■あらすじ『自堕落な日々を送るフリーター、カイジ。ある日、金融会社の社長遠藤という女が、カイジのもとに借金の取立てに来る。借主本人が夜逃げし、保証人になっているカイジが法外に膨れ上がった借金を背負っているというのだが、カイジに返済能力はない。そこで遠藤は「一夜にして借金をチャラにできるどころか大金を手に入れるチャンスがある船」に乗船することをカイジに勧める。エスポワール(希望)と名付けられたその船の中では、人の心理を巧みに利用した”ゲーム”が行われようとしていた。一つ乗り越えても、次々とカイジの前に立ち塞がる”ゲーム”の数々。カイジの全人生を賭けた戦いが、今、幕を開ける……!』



本日、金曜ロードSHOWにて『カイジ〜人生逆転ゲーム〜』が放映される。福本伸行の原作版『カイジ』は、単行本累計1100万部以上を売り上げる大ヒットマンガだ。その独特の絵柄は好き嫌いがはっきり分かれるだろうが、内容的には抜群に面白い。僕も初めてマンガを読んだ時は「なんじゃこれは?」とヘタクソすぎる絵に度肝を抜かれたものの、卓越したストーリー展開に一発でハマってしまった。

実写映画版は、カイジが借金を背負うところから物語が始まり、今回挑戦するギャンブルは「限定ジャンケン」「鉄骨渡り」「Eカード」の3つ。これに班長などが登場する「地下労働施設」のシーンも加わるため、映画自体は非常にハイペースで展開していく。

僕は事前に原作を読んでいたので、ゲームのルールや登場人物が何を悩んでいるのかなどはすぐわかったが、原作未読の人にはちょっと分かりにくい部分があるかもしれない。なんせ映画が始まって10分も経たないうちにもう豪華客船エスポワールに乗っているのだからあっという間だ(それに合わせてシーンやセリフなどがかなり変更されている)。

福本漫画の大きな特徴は、主人公の思考や心理状態が徹底して細かく描写されている点だろう。ヤンマガに週間連載していた時には、カードを1枚出すか出さないか悩むだけで数ページを費やすなど、常識外れの内面描写が話題となった。それだけに、映画を観た人の中には「原作のあのじっくりした雰囲気が感じられない!」と不満に思う人もいるかもしれない。

しかし、原作のあの雰囲気は絵と文字を読む”漫画”というメディアだからこそ生きる表現だと思う。実際にそれだけの時間を使って映画化したとしても、限られた尺の中でストーリーを完結させることは難しいし、むしろスピード感を持って描くことで全体がまとまっている点は評価できるのではないかと。少なくとも、色々なゲームで楽しませてくれるのでエンターテインメント的満足感は十分に味わえる。

で、肝心のゲームについてだが、気になったのは時間内に物語を完結させるために、キャラクター設定やストーリーの変更だけでなく、ゲームそのものにも変更が加えられている点だ。原作ファン以外の観客にもわかりやすいように、シンプルなルールにアレンジされたようだが、果たしていいことなのかどうなのか?

例えば限定ジャンケン。原作ではゲームを進行する際、「チェック!」「セット!」「オープン!」と毎回きっちり段取りを踏んでいたが、映画では「じゃん、けん、ぽん!」の掛け声で素早くカードを出すだけに変更されている。しかも制限時間が30分しかないので非常にスピーディなゲームになっているのだ(原作ではたっぷり4時間もある!)。さらに、原作では電光掲示板に「残り時間」と「各カードの残数」が表示されていたのだが、映画版では「残り時間」のみ。

おまけに、「星を売買できるシステム」まで省略されている。確かにこの方がわかりやすいし、日常で行われるリズムで「じゃん、けん、ぽん!」とやっていくので展開も早い。しかし、あまりにもゲームが簡単になりすぎたために、原作にあった”緊張感”や”戦略性”がほとんど無くなってしまったのは個人的には残念だった。

限定ジャンケンの面白さとは、単に”運”だけで勝つのではなく、「頭を使えば必勝法が見つかるかもしれない」と観ている人間に思わせる、独特の”戦略性”にあると思う。残りのカード残数など、現場に散りばめられたヒントからゲームの本質を見抜いて”勝利の方程式”を導き出し、ルールを巧みに利用することで絶体絶命のピンチを切り抜ける、まさに一発逆転のカタルシス!それこそが「限定ジャンケン」の醍醐味であり、常に観る者の知的好奇心を刺激して止まないカイジの魅力なのだ。

とは言え、原作をそのまま映画化すると限定ジャンケンだけでストーリーが終わってしまうことは明白なので、この簡略化は仕方が無いのだろう。ちなみに、カイジがカードに付いた血を利用して相手を騙すトリックは、原作では「Eカード戦」のみで使用されていたが、映画版では限定ジャンケンでも使っており、しかもそれを伏線にしているところが上手い。

この他、「鉄骨渡り」と「Eカード」にもアレンジが加えられているが、どちらも原作の面白さを損なうことなく適度に変更されているので好感触。特に「Eカード」の場合は元々のルールがシンプルだったために最小限のアレンジに止まり、尚かつ映画版は役者のハイテンションな演技によって、より一層エキサイティングに仕上がっている。そう、映画版の見所は役者の「ちょっとやりすぎではないか?」と思うぐらいの過剰な演技にあるのだ。


中でもカイジを演じる藤原竜也の「Eカード戦」における長ゼリフは必見の素晴らしさ(目が怖い!)。藤原自身も「原作の大ファン」を公言するだけあって気合の入れ方がハンパではない。また、「地下労働施設」にてビールを飲むシーンでは原作中屈指の「名セリフ」が大炸裂!

「キンッキンに冷えてやがる……!」
「カァー……うめええええぇぇぇ………!」
「このうまさ…悪魔的だアァァァァァ……ッ!」



この演技はまさに感動もの!かつてこれほどまで美味そうにビールを飲み干すキャラがいただろうか?いや、これほどまで忠実にマンガのキャラを演じ切る役者がいただろうか?まさに原作ファンも納得の、凄まじい再現度である。だが、藤原竜也よりも更に凄まじいのが利根川を演じる香川照之であろう。

「金は命よりも重いんだ!」
「質問したら答えが返ってくるのが当然か!?」
「甘えるなッ!今宵はクズを集めた最終戦。ここでもまた負けるようなヤツがいたら、そんなヤツの運命など俺はもう知らん!」
「勝つことが全てだ!!!勝たなきゃゴミだッ!!!!!


などなど、原作でもお馴染みの名セリフの数々を香川氏独特の言い回しで次々と披露してくれてこれまた大満足。原作の利根川とはかなりイメージが異なるが、これなら原作ファンも納得なのではないだろうか。映画版カイジの見所の一つは間違いなくこの二人の対決シーンであり、最大のクライマックス「Eカード戦」でそのテンションは頂点に達する。

「Eカード」の勝負自体はお互いに1枚ずつカードを出し合うだけという非常に地味なもので、画面の動きもほとんどない。必然的に顔のアップとモノローグだけで場面を持たせなければならず、極めて映像化しにくいシーンだろう。にもかかわらず、映画版は本当に二人の演技力(顔面力?)だけでこのシーンを乗り切ってしまうのだ。素晴らしすぎる!香川照之の”顔芸”も必見だ(笑)。

あと、カイジの借金を取り立てる遠藤(男)が、映画版では女性(天海祐希)に設定変更されている点について、否定的な意見も多く見られたようだが、実際に観てみるとそれほど気にならなかった。まあ、男のままでも良かった気もするが、そうすると登場人物が男ばかりになってしまい、あまりにも画面に華が無さ過ぎる。製作側もその辺を考慮したのだろう。天海祐希の演技も良いアクセントになっていると思う。

つーか、福本伸行の描く女性は有り得ないぐらいブサイクなので、むしろ嬉しい変更かもしれない(笑)。ちなみに、ラストにちょっとだけ登場する吉高由里子を見て「贅沢なキャスティングだなあ」と思ったが、続編ではメインキャラクターとして再登場している(そのための伏線だったのかw)。

というわけで、映画版『カイジ』はなかなか面白かった。「マンガの実写版」という範疇ではかなり頑張っている方だろう。一般の映画としてはリアリティに欠ける部分があったり、原作ファンの目から観れば多少物足りない部分もなくはないが、総合的に見て満足度は高い。なお、原作ではお馴染みの「ざわざわ・・・」という背景の擬音が、本当に「ざわざわ・・・」というSE(効果音)で再現されていたのは感涙ものであった。まさかそこまでやるとは(笑)。


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