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『007 スカイフォール』ネタバレ映画感想/解説


■あらすじ『NATOが世界中に送り込んでいるスパイのリストが何者かに盗まれる緊急事態が発生。英国の諜報機関MI6のエージェント“007”ことジェームズ・ボンドは、リストの収録されたハードディスクを取り戻すべくMの指示に従い、敵のエージェントを追い詰めていく。しかし、その作戦が失敗に終り、組織内でのMの立場も危うくなった上、今度はMI6本部が爆破される事態に。そんな窮地に立たされた彼女の前に手負いのボンドが姿を現わし、首謀者を突き止めるため僅かな手掛かりをもとに奔走する。やがてついにその黒幕が判明、一連の犯行は、Mへの復讐に駆られた元MI6の凄腕エージェント、シルヴァによるものだった。執拗にMをつけ狙うシルヴァとの決死の戦いに挑むボンドだが…。ダニエル・クレイグジェームズ・ボンドの3作目にして007シリーズ誕生50周年記念作となる、通算23作目のスパイ・アクション超大作!』



先週、全国の劇場で公開された007シリーズ最新作『スカイフォール』は、初登場第1位という絶好のスタートを切っていますが、日本より一足先に公開された海外ではそれ以上の好セールスを記録しているらしく、世界中で早くも8億7,000万ドル(約696億円)の大ヒットを叩き出しているそうです。

しかも本場イギリスでは、それまで歴代トップだった『アバター』の興行収益9,400万ポンド(約122億2,000万円)を抜き去り、同国内における史上最高の興行成績を樹立。更に映画批評サイトや評論家の反応も上々で、「シリーズ最高傑作!」と大絶賛されているらしい。ついには、シリーズ誕生から50年間全く縁が無かったアカデミー賞にノミネートされる可能性まで浮上するなど、まさに新生ボンドの”復活劇”としては大成功と言えるでしょう。

そんな前評判を聞いて、早速観に行ってきたわけなんですけど、う〜ん、なんか色々やらかしてるというか…。いや面白いんですよ。面白いんですけど、「『007』の映画として観た場合どうなのか?」ってことなんですよね。

つまり、ダニエル・クレイグが新ボンドになって以来、内容的にも映像的にもリアリティを重視する傾向になってるじゃないですか。アクションなんかは『ジェイソン・ボーン』シリーズの影響をモロに受けてますからね。そのおかげで、古株のファンからは「007らしさが無くなった」などと言われたりして。

そんな状況下で作られたクレイグ・ボンドの第3弾なんですけど、これがもう完全に『ダークナイト』でした(笑)。クリストファー・ノーラン監督がバットマンを使って描いた”善と悪の関係性”を「007」でやってるんですよ。しかも「偶然そうなった」とかじゃなくて確信犯。なんせ、サム・メンデス監督本人がインタビューで「『ダークナイト』から直接インスピレーションを受けた」とはっきり認めていますから間違いありません。

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今回、敵役となるシルヴァの狂気を孕んだ佇まいや、それを演じているハビエル・バルデムの圧倒的な存在感も、明らかに『ダークナイト』のジョーカーを意識してるし。”元MI6のエージェント”が組織を裏切り復讐を企てるという設定も、善と悪の逆転を描いていて『ダークナイト』を彷彿とさせるなど。

本作のジェームズ・ボンドは、上司Mの非情な判断で重症を負い、一時MI6を離脱します。その間、「自分はMI6に忠誠を誓えるのか?」と自問自答しますが、これは善と悪の境界線が揺らいでいることを暗示しており、一歩間違えればボンドもシルヴァのようになっていたかもしれない、という危うさを秘めているわけで、二人の関係性はまさに「コインの裏表」であることを表わしているのです。

このように、『スカイフォール』は深いドラマ性を内包している点が高く評価されていると思われますが、正直「『007』で『ダークナイト』を再現しなくてもいいんじゃない?」と疑問を感じずにはいられないというか。いや、だってこっちは『007』を観に来てるわけですからね(笑)。

もちろん、映画自体は面白かったです。でもラーメンを食べに来てカレーを出されたら、いくらそのカレーがおいしくても「納得できん!」ってなるんじゃないでしょうか?というわけで、以下のレビューではネタバレしながら気になった部分を書き出していますので、映画を観ていない人はご注意ください(^_^)


●オープニングは最高!
アバンタイトルでかっこいいアクションを披露するのがお約束となっている『007』シリーズ。本作でも冒頭からいきなり凄まじいアクションが炸裂します。民家の屋根の上を爆走するバイク・チェイスにも度肝を抜かれましたが、注目は列車上のバトルシーンでしょう。

なんと運搬中のショベルカーに乗り込んで、列車の上でガシャンガシャンと豪快に動かすジェームズ・ボンド(重機の免許持ってたのかw)。走る列車から車を落としたり、巨大ショベルで車両を破壊したり、やりたい放題の破天荒ぶりにハラハラドキドキ。「ああ、やっぱり『007』は面白いなあ」と大満足でしたよ、この辺までは。

●ボンド、出社拒否
上司Mのせいで死にかけたジェームズ・ボンドは、すっかり仕事が嫌になり南の島に引き籠って酒浸りの毎日を送っていました。そんな時、MI6が何者かに襲撃を受け、多数の死傷者を出す大事件が勃発。

ニュースでそれを知ったボンドは職場に復帰しますが、アルコールと薬物に依存していた彼の体はもはやガタガタ。スパイの適正検査にもギリギリで合格するという酷い有様です(実際は不合格だったことが後に判明)。「スマートでかっこいいエリート・スパイ」というイメージからかけ離れた007の姿に、ショックを受けた人もいたらしい。

●何年後の話?
ここで気になったのは、「物語の経過時間」です。ダニエル・クレイグが新しいボンド役を演じた『カジノ・ロワイヤル』では、「ダブルオー要員になったばかりの新米エージェント」という設定でした。続く『慰めの報酬』はその直後の話なのでタイムラグはほぼありません。

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007 / 慰めの報酬 (字幕版)

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ところが、本作で職場復帰したボンドはえらく老けているように見えるし、上司のマロリーからも「そろそろ現役を退いた方がいいんじゃないか?」などと言われています。いつの間にそんなに年を取ったのでしょうか?どう見ても一気に10年以上は経過してる感じなんだけど。このペースで話が進んだら、次回作ではお爺ちゃんになってるよ!

●ボンドガールの扱いが微妙
ボンドは、肩に残っていた銃弾の破片から犯人を特定し、同僚のイヴと共に上海・マカオへ(どうでもいいけど、体内に劣化ウラン弾なんか入ってて大丈夫なんだろうか?)。尚、007と言えば毎回セクシーなボンドガールが登場することがお約束で、本作でもエージェントのイヴとボスの女セブリンが重要な役割を果たしています。

しかし、セブリンの出番は非常に少ないし、一方のイヴは最後にマネーペニーであることが判明するので、厳密にはボンドガールとは言えないような。結局、歴代シリーズの中でも一番ボンドガールの扱いが微妙な感じでしたよ。

●スケールがショボい
今回、ボンドと戦う敵役はハビエル・バルデム演じるラウル・シルヴァ(初登場シーンで、喋りながらゆっくりとボンドに近づいていく様子をワンカットで撮っていたのが印象的)。元MI6の工作員であり香港在住時代にMの部下として活動していた彼は、取引によって敵国に引き渡されてしまいます。

そのことを恨んだシルヴァはMに復讐を果たすべく、MI6の情報網に侵入し、本部を爆破したりエージェントのデータを流出させたりするわけですが、これって要するに”身内の不祥事”ですよね?単なるMI6の内輪もめ。

しかも、『007』シリーズの今までの敵は、金塊やダイヤモンドを狙う巨大犯罪組織だったり、世界征服を企む悪の秘密結社だったり、非常にスケールのでかい奴らばかりだったのに対し、今回の敵は「Mを殺すこと」が目的なんです。

つまり、「無茶な仕事を押しつけられてブチ切れた部下が憎い上司に逆襲する物語」なわけで、もの凄く個人的な動機が事件の発端になってるんですよ。当然、それを阻止するボンド側にも”世界の危機を救う”みたいな大義名分はありません。これじゃあスケールがショボくなっても仕方ないでしょう(苦笑)。

●やり方が回りくどい
更に、シルヴァの計画も良く分からないというか、とにかくズサンで回りくどい。ジェームズ・ボンドにわざと捕まりMI6に拘束されるものの、すぐに脱出してしまう。その後、ロンドンの地下鉄構内に逃げ込み、追ってきたボンドを見ながら「全て計画通り」と言わんばかりに天井を爆破し、列車を落下させるんだけど、あのタイミングで列車が通ることも計算済みだったってこと?

そして、Mが審問を受けている会場へ乗り込んだシルヴァは激しい銃撃戦を繰り広げるが、結局はMを逃してしまう(オイオイ)。これが計画通りなら、なんでもっと綿密な作戦を練らないのか?そもそもM一人をターゲットにするなら、もっと確実な方法がいくらでもあるんじゃないの?

●クライマックスがド田舎の一軒家
ラストの舞台はジェームズ・ボンドの実家で、おまけに「どうやって生活してたんだろ?」と驚くぐらい周りにな〜んにもない本当のド田舎(つーか秘境w)です。そこへ、大勢の部下を引き連れ攻撃を仕掛けるシルヴァ。

更に、わざわざヘリに乗ってきた割にはミサイルの一発も撃つことなく、地味に外から銃撃するだけ(何のためのヘリだったのか?)。また、一軒家から場所の移動が無いため、画面の変化に乏しく、アクションシーンの見せ場としては物足りない。つーか、何でボンドが一人でMを警護してるんだよ!他のMI6職員はどうした?結局、オープニングのアクションが本作のピークでしたよ、トホホ。


というわけで、単体のサスペンス・アクションとしてはそれなりに面白かったんですが、『007』シリーズとしては結構微妙な感じでしたねえ。まあ、「荒唐無稽なスパイ・アクション」という側面は『ミッション・インポッシブル』シリーズに持って行かれてしまったので、本家の『007』がリアルな方向へシフトするのはやむを得ないでしょう。時代の流れ的にも、いまさら昔のようなスパイ物は作り難いし。でも、肝心のストーリーが全然リアルじゃないってのはやはり問題ではないかと。

一番気になったのは、悪役のキャラクターですね。ハビエル・バルデムの怪演は確かに見事でした。しかし、シルヴァはMI6の手の内を知り尽くしており、圧倒的に優位な立場にいる恐ろしい相手です。その気になれば誰にも気付かれることなく、Mを誘拐するぐらいは簡単に出来たでしょう。にもかかわらず、わざわざ犯行を誇示するメールを送り付け、敢えて自分の凄さを見せ付けるなど、やってることは昔からよくある典型的な悪役のパターンと何ら変わりがありません。

おまけに、彼の企てた作戦があまりにも稚拙で、「頭がいい」とは全く思えないのも致命的(そもそも”作戦”とは呼べない)。あれだけの手下を従え、用意周到に計画していたはずなのに、どうして要所要所でMを逃がしてしまうのか?

MI6の対応を何手も先読みし、次々と予想できない罠を仕掛けてこそ「何て恐ろしい敵なんだ!」と観客に思わせることができるし、ストーリーにも説得力が生まれるのです。そういう「シナリオのリアリティ」をないがしろにしたまま、設定やアクションばかりをリアルな方向へ持って行こうとしても、無理が生じてくるのは当たり前でしょう。

でも、これはねえ、たぶん作り手側も気付いてるんですよ。気付いてるんだけど、どうしようもないというか。”ジェームズ・ボンド”というキャラクター自体が、あの時代だからこそ成立し得た架空のヒーロー像であり、憧れの象徴だったわけです。頭脳明晰で運動神経抜群な主人公が、高価なブランド物のスーツをビシッと着こなし、最新兵器を満載した高級外車を颯爽と乗り回し、困難なミッションを難なくクリアーする問答無用のかっこ良さ!おまけに毎回必ず美女にモテまくるというイケメンぶり!

今なら確実に「そんなヤツ、いるわけないだろ!」と言われてしまいそうですが、これこそがジェームズ・ボンドの本質であり、単純に「時代が変わったからアップデートしよう」ってわけにはいかないんですよ。それをやったら本当に”007”ではなくなってしまうから。なので、リアルな話にも徹し切れず、かと言って現実離れしたヒーローにも戻れず、中途半端な立ち位置でフラフラしてるというのが実情なんじゃないでしょうか。

ただ、今回新しいMに代替わりし、マネーペニーも加わったことで、いよいよ”新生ボンドが始動するぞ!”みたいな熱いテンションで締めくくっていたのはいい感じでした。次回作では、このままリアルな方向性を進化させるのか、それとも「リアルなボンドはやっぱりダメだ!」と諦めて、秘密兵器がバンバン出てくるような荒唐無稽なスパイ・アクションに原点回帰してしまうのか?ダニエル・クレイグ版007の真価が問われる時だと思います。


007 / スカイフォール (字幕版)

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