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北野武監督作品『アウトレイジ ビヨンド』ネタバレ感想


■あらすじ『熾烈な下克上を制して加藤が関東一円を取り仕切る巨大ヤクザ組織“山王会”のトップに上り詰めてから5年。加藤は大友組の金庫番だった石原を若頭に抜擢し、その勢力をさらに拡大させていた。しかし内部では、若手を重用する加藤に古参幹部の不満がくすぶり始めていた。そこに目を付けたマル暴の刑事・片岡は、山王会の古参幹部を関西の巨大暴力団“花菱会”に引き合わせ、均衡を保っていた2大勢力に揺さぶりを掛ける。その一方で、片岡自ら噂を広めて獄中で死んだことになっていた大友を仮出所させる。そして足を洗おうと考えていた大友を再び抗争の渦中へと巻き込んでいくのだが…。北野武監督が豪華キャストを起用してヤクザ社会の壮絶な抗争劇を描いたバイオレンス・アクション!』



現在、北野武監督の最新作『アウトレイジ ビヨンド』が大ヒットしているようです。初登場でいきなり第1位を記録し、土日2日間で動員20万6614名、興収2億7924万7500円を達成。8日までの3日間では、動員29万4485名、興収3億9528万7800円をあげ、最終興収8億円の前作『アウトレイジ』を大幅に上回る大ヒットスタートとなりました。

2週目で3位に後退したものの、累計興収は7億5400万円に達しており、この時点で速くも前作の興収(約7.5億円)を抜いているのだから凄まじい。ちなみに初登場で1位を獲得したのは、意外にも16作目にして初の快挙なのだとか。そして、北野監督が続編を手掛けたのも今回が初めてなのだそうです。

そんな”初めて尽くし”の『アウトレイジ ビヨンド』は、想定外にバランスの良いエンターテイメントとして仕上がっていましたよ。前作の『アウトレイジ』は、ヤクザ同士が抗争に至る過程を具体的に描いて見せた点が魅力的でしたが、途中で黒人の外交官が賭博業に興じてドラマが停滞するなど、不満足な部分もあったわけです。それが今回、シナリオの精度が向上したためなのか、娯楽作品としてはかなり満足度の高い映画になっていました。

全編に渡って「バカヤロー!」「コノヤロー!」「なめとんかワレ!」という怒号と罵声の応酬であるにもかかわらず、それらの会話劇そのものが極めてエキサイティングかつテンポ良く描かれているので飽きさせません。

この「会話のリズム」という部分に北野監督は特にこだわっていたらしく、撮影現場では「他の人のセリフにかぶせるような感じでしゃべってください」と指示していたそうです。ところが、役者さんの方は”自分の間合い”とも言うべき独自のリズムを持っているため、どうしても微妙な”間”が空いてしまう。そこで、一旦そのまま撮影した後、「編集でひたすら会話の間を詰める」という方法を採用したらしい。

また、セリフの応酬と共に極悪人を演じた役者たちの”ワル演技合戦”も素晴らしく、特に加藤(三浦友和)や石原(加瀬亮)や西野(西田敏行)など、世間的に温和なイメージの俳優がバリバリのヤクザを演じるというギャップが画期的に面白い(中には本物のヤクザ顔負けな人も交じってますがw)。映画『アウトレイジ ビヨンド』の見どころの一つは、これら個性的な役者のアンサンブルと畳み掛けるような会話劇にあると言っていいでしょう。

ちなみに、本作のキャスティングに関しては映画会社からのオファーだけでなく、役者側からの”立候補”も多かったようで、「北野監督の映画に是非出たい!」という人が大勢いたらしい。ただ、あまりにも希望者が殺到したため、不公平なキャラ設定を強いられた人もいたようです。

西田敏行などは早い段階から立候補していたおかげで問題なかったのですが、高橋克典の場合はタイミングがかなり遅かったため、いい役がほとんど残っていませんでした。そこで「全然しゃべらない殺し屋の役しかないんだけど、やる?」と監督が確認したところ、「それでもいいのでやらせてください!」と高橋が懇願したため、”全くセリフが無いヒットマンという役が決まったそうです。

北野監督曰く、「今回は主役クラスの役者さんばかり大勢出てるからね。一人一人に均等に見せ場を作らなくちゃいけないから、バランス配分が大変だったよ」とのこと。その言葉通り、中尾彬塩見三省名高達男神山繁光石研松重豊中野英雄小日向文世・白竜らベテラン俳優に加え、桐谷健太新井浩文など若手も参加したオールスター感謝祭みたいなキャスティングに大満足でした。

また、北野監督の元には日本国内の役者だけでなく、サミュエル・L・ジャクソンジュード・ロウなど、ハリウッド・スターからの出演希望も相次いでいるというのだから凄すぎます。中でも熱烈な北野ファンのジュード・ロウは、わざわざテレビ局まで押し掛けて「次回作で俺を使ってくれ!」と直訴したようですが、北野監督は「ありがたいけど使いようがないよ」と断ったらしい。たしかに、世界観が合わなさそうだし、ギャラも高いだろうし、使いようがないわなあ(笑)。

一方、前作に見られた過剰なバイオレンスシーンがやや控え目になったことで、少々物足りなさを感じる部分もありました(まあ、それでも結構エグいシーンはあるんだけど)。また、脚本のレベルが上がった代わりに、前作で見られた”不条理さ”が鳴りを潜め、北野映画らしさが減っているような気もします。

「シナリオが良くなったから物足りなくなった」っていうのは本来有り得ない現象なんですが、北野映画の魅力は”得体の知れない不安感”や”過激で不条理な暴力描写”だったりするので、そこを修正して普通の映画に近づけば近づくほど「北野作品特有の個性」が死んでしまうんですよね。

とは言うものの、本作は「北野テイスト」を適度に保ったまま、娯楽映画の面白さも確保しているという点において、極めてバランスの良い作品になっていると思います。その理由について北野監督自身が「言葉の持つ暴力性、どんでん返し、裏切りとか、もうちょっと物語そのものを語ってもらえるエンターテインメントにしようとすごく意識したんだよね」と述べていることから、まさに”目論見通り”に仕上がったと言えるんじゃないでしょうか。


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