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細田守監督の『サマーウォーズ』から見えるジブリ愛


■あらすじ『仮想都市OZ(オズ)が人々の日常生活に深く浸透している近未来。小磯健二は天才的な数学の能力を持ちながらも内気で人付き合いが苦手な高校2年生。彼は憧れの先輩、夏希から夏休みのアルバイトを頼まれ、彼女の田舎、長野県の上田市を訪れる。そこに待っていたのは、夏希の親戚家族“陣内(じんのうち)家”の個性溢れる面々。この日は、夏希の曾祖母で一族を束ねる肝っ玉おばあちゃん、栄の90歳の誕生日を祝う集会が盛大に行われていた。その席で健二は夏希のフィアンセのフリをする、というバイトの中身を知ることに。そんな大役に困惑し振り回される傍ら、その夜健二は謎の数字が書かれたケータイ・メールを受信する。理系魂を刺激され、その解読に夢中になる健二だったが…。2006年の「時をかける少女」が評判を呼んだ細田守監督が、再び奥寺佐渡子(脚本)、貞本義行(キャラクターデザイン)とタッグを組み、気弱な理系少年の思いも寄らぬひと夏の大冒険を描くSF青春アドベンチャー!』



本日、金曜ロードSHOWで『サマーウォーズ』が放映されます。本作は、『時をかける少女』で高い評価を受けた細田守監督が、再び前作のスタッフとタッグを組んで作り上げたファミリー・アドベンチャー映画です。

劇場公開されるや日本中で大ヒットを記録し、興行収益は16億円を突破。ブレーレイが発売されるといきなり5.4万枚を売り上げ、『エヴァンゲリオン新劇場版・序』を上回り歴代セールス第1位に輝くなど、圧倒的な人気を獲得しました。

さて、そんな『サマーウォーズ』ですが、映画を観ていて何となくジブリの作品に似てるなあ」と感じたことはないでしょうか?本作の制作会社はマッドハウスで、ジブリとは直接的には関係がありません。にもかかわらず、本作や前作の『時をかける少女』も「ジブリっぽい」と感じた人が大勢いたらしい。いったいなぜ?実は、それには理由があったのですよ。

まず、映画の背景を担当した人が美術監督武重洋二さん。この人は、『もののけ姫』や『千と千尋の神隠し』、『ハウルの動く城』、『ゲド戦記』、『借りぐらしのアリエッティ』など、宮崎駿監督作品を含めたジブリ映画で、過去に何度も美術監督を務めたベテランなのです。

もののけ姫』では宮崎監督と一緒に屋久島までロケハンに出向き、縄文杉照葉樹林、蛍や夜光虫など豊富な自然のイメージを作品へ投映しました。『千と千尋の神隠し』では、従来の”手描き背景”に加え、デジタルによる効果を積極的に導入。水面の映り込みや背景動画など、一見普通の画面に見えるような風景も、巧みにCGを使うことで大幅に映像のクオリティアップを図っていたそうです。

そして、その超絶的な画面構成力は『サマーウォーズ』でもいかんなく発揮され、日本家屋の趣深さや清々しい夏の空気感、どこまでも広がるのどかな田園風景など、アニメーションでは難しいとされる日常の生活空間を、リアリティ溢れる緻密な筆致で見事に表現して見せたのです。

ちなみに、時をかける少女美術監督を担当したのは、同じくジブリで背景を手掛けていた山本二三さん。山本二三の名前を知らなくても、『カリオストロの城』や『天空の城ラピュタ』や『火垂るの墓』など、ジブリ作品における背景美術の素晴らしさを知らない人はいないでしょう。緻密に描き込まれた彼の背景画は、そのまま額に入れて飾りたいと思わせるぐらい繊細で美しく、実写と見紛うほどの圧倒的な存在感で多くのアニメファンを魅了しました。

中でも『火垂るの墓』におけるリアリティの凄まじさたるや筆舌に尽くし難く、それを見た他のアニメスタジオのスタッフは「テクニックが凄いとか、もうそんなレベルじゃない!俺たちとは人生観そのものが違うんだ…」と絶句するしかなかったそうです。

次に、キャラクターデザインは、『時をかける少女』に引き続いて貞本義行さんが担当。貞本さんと言えば『新世紀エヴァンゲリオン』のデザイナーとして有名ですが、宮崎駿との関係性についてはあまり知られていないかもしれません。実は、二人とも過去に「テレコム」というアニメ制作会社で働いていたことがあるのです。

1975年に設立されたテレコム・アニメーションフィルム(テレコム)は、宮崎駿高畑勲大塚康生など、アニメ界を代表する凄腕メンバーが集結し、『ルパン三世カリオストロの城』や『じゃりン子チエ』などの長編作品を次々と制作していました。

また、新人アニメーターの育成にも力を入れ、数多くのアニメーターを教育しており、その中の一人が貞本義行だったのです。当時、新人を指導していた大塚康生さんは、貞本さんがテレコムへ入社した時の様子を次のように語っていました。

「貞本さんは、『リトル・ニモ』をやってた頃、新人(テレコム第6期生)で入ってきたんです。とにかくもう、最初からめったやたらに上手いんですよ。僕が今まで出会ったアニメーターの中で”この人は自分より絵が上手い!”と驚いた人が3人いる。それが月岡貞夫さん、宮崎駿さん、そして貞本義行さん。ヘタな人が後から徐々に上手くなっていったという例はあるけど、”はじめからもう脱帽”っていうのは、後にも先にもこの3人だけでしたね」(「大塚康生インタビュー アニメーション縦横無尽」より)

こちらが貞本義行の新人時代の作画。めちゃくちゃ上手い!↓

新人アニメーターでありながら、ズバ抜けた画力で大塚康生を仰天させた貞本義行。それもそのはず、大学時代から『超時空要塞マクロス』のスタジオで原画を描き、アマチュア映像集団「DAICON FILM」に所属し、SF大会のオープニングアニメを制作するなど、既にその時点で充分過ぎるほどの実績を積んでいたのです。

ではなぜ、身分を隠してテレコムへ入社したのか?と言えば、貞本さんたちが『オネアミスの翼』を作ることになった時、ガイナックスには新人を教育するノウハウがありませんでした。そこで、ノウハウを覚えるために各メンバーが身分を隠してあちこちのプロダクションに潜り込んでいたのだそうです。

しかし、そんな事情を知らないテレコムでは大問題が勃発!あまりにも貞本さんの絵が上手すぎたために、同期のアニメーターが全員自信を喪失し、「あんな上手い人がいるんじゃ、とても僕なんかやっていけません」と辞める人が続出したのです。

慌てて大塚康生は貞本さんを呼び出し、「君、前にアニメをやってたことがあるだろう?」と問い詰めました。「い、いえ、初めてです」と答える貞本さんに「嘘をつくのは良くないよ」と粘り強く追及したところ、ついに「すみません、実はこういう事情で…」と真相を打ち明けたのです。

「散々、プロの現場を経験してるわけですからねえ。そりゃ、その辺の初心者と同じはずがないんですよ。でも、こっちはそんなことを知らないから、アニメは初めてだという言葉を信じて貞本さんの作った試作フィルムを見たんです。そしたらこれが目をむくぐらい上手い!タイミングの取り方もポーズも、全てが完璧なんでびっくりしましてねえ。何じゃこりゃ!?と同級生がみんな真っ青になって(笑)。とうとう辞めるという人まで出てきた。後で事情を聞いてそれを話したら、やっとみんなも安心して残ってくれましたけどね(笑)」

ちなみに、貞本さんはテレコムの面接試験を受けた時に宮崎駿監督から直接アドバイスをもらって感激したものの、いざ入社してみたら宮崎駿本人が『風の谷のナウシカ』を作るためにテレコムを退社していてガッカリしたそうです(笑)。

さらに参加したアニメーターも元スタジオジブリのアニメーターや過去にジブリ作品で腕を振るっていたアニメーターがズラリ!

稲村武志(『ハウルの動く城』の作画監督)、高坂希太郎(『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』などの作画監督)、賀川愛(『紅の豚』『千と千尋の神隠し』などの作画監督)、大塚伸治(『天空の城ラピュタ』『となりのトトロ』などの原画)、青山浩行(『猫の恩返し』『コクリコ坂から』などの原画)、濱洲英喜(『崖の上のポニョ』の原画)、田中敦子(『ルパン三世 カリオストロの城』『もののけ姫』などの原画)、井上鋭(『猫の恩返し』などの作画監督)、箕輪博子(『風立ちぬ』『もののけ姫』などの原画)、本田雄(『崖の上のポニョ』『コクリコ坂から』などの原画)、井上俊之(『魔女の宅急便』の原画)など(敬称略)

そして最後に、監督の細田守さん東映アニメーション出身の細田監督が、いったいジブリとどんな接点があるのでしょうか?実は、中学生の時に『カリオストロの城』を観て感激した細田さんは「どうしてもジブリで働きたい!」と考え、大学卒業後にスタジオジブリの研修生採用試験を受けました。しかし結果は不合格。

ところが、落胆していた細田さんの自宅に、なんと宮崎監督から直筆の手紙が届いたのです。そこには「君のような優秀な若者をジブリに入れると、かえって君の才能を削いでしまうと考え、敢えて不合格にした」と書かれていたという。

「えっ?そんな理由で落とされたの?」とびっくりした細田さんはすぐにジブリに電話を掛けて「雑用でも何でもやりますから入れてください!」と懇願するものの、採用担当者から「宮崎監督がわざわざ手紙を書くということは滅多にない、とても光栄なことだから大人しく諦めなさい」と言われて泣く泣く諦めたそうです(細田監督は今でもその手紙を額に入れて大切に飾ってあるらしい)。

その後、東映動画に入社して一旦アニメーターになり、6年後に演出家へ転向。『ゲゲゲの鬼太郎』、『ひみつのアッコちゃん』、『デジモンアドベンチャー』などの監督を経験した後、ついにスタジオジブリから声が掛かりました。なんと、ハウルの動く城』の監督に大抜擢されたのです!

「やっと憧れの宮崎さんと仕事ができる!」と大喜びでジブリに出向した細田監督。ところが、当時『千と千尋の神隠し』を同時進行で制作していたジブリには『ハウル』へ回せる人員がおらず、監督の細田自身が他のアニメスタジオを廻ってスタッフを集めるはめになってしまいました。

さらに、ジブリ側との意見の対立やスケジュールの遅延など、次々とトラブルが噴出。そしてついに「これ以上は続行不可能だ」と判断され、2002年3月に『ハウル』の企画は一旦中止となり、細田さんは監督を解雇されてしまったのです(『ハウル』はその後宮崎駿監督作品として2002年10月に再始動する)。

コチラが細田監督が描いた『ハウル』の絵コンテ(どんな映画か観たかったなあ)↓

こうして、ジブリとの共同製作では散々な目に合わされた細田監督ですが、この後の時をかける少女で見事に復活!元テレコムのアニメーターやジブリ作品の美術監督を集結させ、見事なアニメを作り出しました。

そして、細田監督にとって初めてキャラクターからストーリーまで完全オリジナル作品となった『サマーウォーズ』も、あらゆるテクニックを駆使して誰もが楽しめる極上のエンターテインメントに仕上げたのです。

現在、”ポスト宮崎駿として最も注目されるアニメーション作家となった細田守。天才アニメーター宮崎駿に憧れ、アニメーターとして業界に入り、やがて自ら長編アニメを作るまでになった細田監督は、果たして今後どのような素晴らしい作品を見せてくれるのでしょうか?以降の活躍に期待!

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