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映画『外事警察 その男に騙されるな』ネタバレ感想


■あらすじ『”スパイ天国”と揶揄される日本において、テロリストの活動を未然に防ぐ対国際テロ捜査諜報部隊の警視庁公安外事課、通称・外事警察。日本に密入国するテロリストを取り締まるためなら、法を侵すギリギリまであらゆる手段を使い、時には民間人まで引きこむなど、日本のCIAとも言われる組織だ。その中でも外事四課の住本(渡部篤郎)は“公安の魔物”と呼ばれ畏怖されている。ある時、朝鮮半島からの濃縮ウランの流出と軍事機密データの消失が相次いで起こり、日本での核テロが懸念される事態が勃発。外事四課は奥田正秀という男を工作員ではないかと睨み、その妻・果織(真木よう子)を協力者という名のスパイにするべく近づく。住本の徹底的な揺さぶりにより、果織は罪悪感を抱きつつ外事警察に協力することに。その一方で、韓国諜報機関NISも潜入捜査官を日本に送り込んでいた。外事警察NIS、テロリスト、協力者、それぞれの思惑が交錯する中、住本はついに最終手段に打って出る――!』



謎のベールに包まれた“裏の組織”外事警察。我が国に実在する対国際テロ捜査諜報部隊の知られざる活躍を描いた本作は、麻生幾の小説を原案とし、2009年にNHKで放送されて人気を博したサスペンスドラマの劇場版だ。

綿密な取材に基づくリアルな設定のもと、ドラマ版に引き続き主演の渡部篤郎真木よう子尾野真千子ら演技派の火花を散らす演技合戦に加え、韓国からキム・ガンウ(食客』)、イム・ヒョンジュン(『男たちの挽歌 A BETTER TOMORROW』)が参加。監督はドラマ『ハゲタカ』で注目された堀切園健太郎がTV版と同様にメガホンを取っている。

う〜ん渋い!なんて渋い映画だ!僕は基本的にこういうポリティカル・フィクションが大好きなんだけど、本作を気に入った理由は大きく二つある。まず一つはドラマ構成がストイックであること。この映画は一言で言うと「警察がテロと戦う話」であり、アクション映画ではお馴染みの平凡なプロットだ。

しかし、ハリウッド映画の場合は主人公がすぐに拳銃をバンバンぶっ放し、物凄い大爆発が起こり、ビルの屋上からダイブするなど、とにかくやたらと派手な映像を見せたがるパターンが多い。

それに比べて、本作は極めて抑制の効いたトーンに終始し、派手な場面はほとんど出て来ないのだ(クライマックスはちょっとだけハリウッドっぽいが)。「日本のCIA」などと評されてはいるものの、既存のスパイ映画のように華麗でかっこいいシーンは控え目で、むしろ地味で泥臭い「公安警察の現実」をじっくり描いているところが逆にいい。

こういう、一見地味な映画を作ろうとする場合、作り手側にある程度の覚悟が必要だと思う。ヒットしやすい路線を狙うなら、主人公に流行りのイケメン俳優(ジャニーズ等)を起用し、メロドラマ的な要素も取り入れ、派手なドンパチシーンを導入しただろう。

また、”某国”のことをあまり悪く描写するとクレームが入ったりして、外交的にややこしい問題に発展する可能性もある。となれば尚更、企画として成立させにくいはずだ。にもかかわらず、本作はそういう困難に敢えて立ち向かい、ひたすらストイックにリアルなドラマを描こうと尽力している。観客に媚を売らないこの真摯な姿勢こそが何より崇高で素晴らしいし、作り手側の揺ぎない覚悟を感じた。

そしてもう一つ気に入った点がビジュアル面。本作の映像は普通の映画に比べて画面が暗くザラついている(光と影のコントラストが印象的)。これはいわゆる「銀残し(ブリーチ・バイパス)」かと思っていたら、なんとフィルムではなくデジタル撮影だそうだ。

ARRI社のALEXAという最新のデジタルカメラによって撮られたらしく、デジタルでフィルム撮影のようなルックを作り出す事が可能になったとのこと。このおかげで、人間の表情を闇から浮かび上がらせるような独特の効果を生み出し、渋い映画をより一層渋く見せることに成功している。う〜ん、たまらんぜ!

それにしてもタイムリーなネタだなあ。まさか中国大使館1等書記官をめぐる情報漏えい事件がニュースになったばかりのタイミングでこの映画が公開されるとは(笑)。

現在、日本にはスパイ防止法のようにスパイ活動を取り締まる法律が存在しない。従って、大使館の書記官や駐在武官、つまり外交特権保持者がスパイだった場合、逮捕や身柄拘束はできず、正にやりたい放題の野放し状態となっている。

なぜなら、外交官は円滑な任務の遂行を確保するためウィーン条約によって特例措置が認められており、日本の刑法に違反したとしても逮捕されることがないからだ。

これに対抗できる唯一の手段がペルソナ・ノン・グラータである。「Persona non grata」とはラテン語で「好ましからざる人物」を意味し、対象の外交官に対して接受国外務省が、「あなたは我が国に駐在する外交官に相応しくない」と判断した場合、外交官待遇拒否権(ペルソナ・ノン・グラータ)を発動して本国への退去・帰国を通達できるのだ。

ただし、あくまでも”退去・帰国のお願い”のみで、しかもアメリカ中央情報局(CIA)やイギリス情報局秘密情報部(旧MI6)など、友好国の諜報活動に関しては一切咎めることができない(こういう現状を指して、昔から日本は「スパイ天国」と揶揄されている)。

ドラマ版『外事警察』では、このような外交官絡みの事件に対処するため、民間人を囮として泳がせ、エサに食い付いたところを外為法違反(外国為替及び外国貿易管理法)などでしょっ引く、という手法を採用(ただし、現行法の拡大解釈であり、適法かどうかはかなり怪しい)。

元警視庁巡査長の松沢(尾野真千子)はこうした住本(渡部篤郎)の強引なやり方に対して、「人を助けるのが警察の仕事じゃないんですか!?」と嫌悪感を隠せない。

しかし住本は国益を守るのが俺たちの仕事だ!」と一喝する(この”国益”という言葉が主人公を形成するキーワードになっている)。つまり、彼の行動理念は明らかに”正義”とは別の次元で成り立っているのだ。

果たして住本の心の奥底に潜む本性とは?善なのか悪なのか良く分からない言動で観客を翻弄する住本。だが、それが逆に住本というキャラクターを魅力的に感じさせる所以でもあるのだろう。

映画版はドラマ版の背景を踏まえ、北朝鮮が絡む核テロの脅威を描いた壮大な物語へとスケールアップ。今回もまた、民間人を”協力者”という名のスパイに仕立て上げ、外事警察の手足として働かせる住本の極悪非道ぶりが素晴らしい(酷い男だよな〜w)。

騙し合いばかりの複雑な人物相関やスピーディーな展開、虚構と現実のスレスレを行くリアルな設定に思わずのめり込む。公安警察OBに取材して作り上げた不穏な物語も現実味に溢れ、ベールに包まれた公安警察に対して抱くイメージをうまく活かしながら、迫力ある人間ドラマを作り上げたところが何より天晴れ。もちろん捻りの効いたストーリーも抜群に面白い!


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