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実写版宇宙戦艦ヤマト『SPACE BATTLESHIP ヤマト』感想


■あらすじ『西暦2194年、外宇宙に突如として現れた謎の敵・ガミラスが地球への侵攻を開始し、人類の大半が死亡してしまう。5年後、地球が放射能で汚染される中、かつてエースパイロットとして活躍していた古代進木村拓哉)は、はるか彼方のイスカンダル星放射能除去装置がある事を知り、宇宙戦艦ヤマトで仲間と共にイスカンダル星へ旅立った!』



「日本人が初めて世界に挑むSFエンターテインメント!」との煽り文句も勇ましい超大作映画SPACE BATTLESHIP ヤマト(『さよなら ジュピター』の立場は?w)がついに公開された。

キムタク主演や沢尻エリカ降板騒動、有名俳優も多数参加と色々な話題を振りまいてきた本作だが、果たしてその出来栄えはどうなのか?期待と不安が入り混じる中、早速観に行って来たぞう!

尚、僕のスタンスとして「アニメ版『宇宙戦艦ヤマト』は一応知っている程度で、ほとんど思い入れは無い」、「木村拓哉は好きでも嫌いでもない」、「山崎貴監督の映画は全て観ていて結構好き」と、まあこういう主観を前提として『SPACE BATTLESHIP ヤマト』を評価・判断していると思っていただきたい。

必然的に「『ヤマト』の大ファン」、「キムタク嫌い」、「山崎監督なんて知らない」という人が見た場合よりも若干甘めの採点になっていると思うので悪しからずご了承を。

まず良かった点から書くと、VFXが素晴らしい。もちろん昨今の大金を掛けたハリウッド超大作とは比べ物にならないが、CG技術が発達したおかげで以前は実物大セットやミニチュアや多重合成等を駆使しなければ映像化できなかったものが、今では努力とパソコンとイマジネーションがあれば物理的な制約を受ける事無く、どんなビジュアルでも再現できるという利点を十分に生かし切っている(当然、そのクオリティは人件費と作業時間に比例するわけだが)。

とにかく、映画開始直後に繰り拡げられるド迫力の宇宙戦闘シーンがかっこよくて大興奮!「ゲームでもこれぐらいのCGは珍しくないよ!」とか、「『スター・トレック』の方が良くできてるぞ!」等の異論はあるかと思うが、そもそも過去の日本映画にはこんな画面は存在すらしなかったのである。

「巨大宇宙戦艦同士が宇宙空間でビーム砲を撃ち合う」というビジュアルは古くからハリウッドの専売特許であり、日本ではアニメでしか表現できなかった憧れのシーン。それが、ついに純日本産のSF映画として実写映像化されたのだ!まさに快挙と言うしかない!

監督の山崎貴といえば『ALWAYS 三丁目の夕日』を撮った人という印象が強いと思うが、元々はSF畑の出身で特撮工房「白組」に在籍し、CGやミニチュア製作に長けたVFX技術者なのである。本作でもその手腕を存分に発揮し、白組のスタッフ総勢50人が8か月かかって500カットのCGを完成させたそうだ。

しかもその内の約半分がフルCGだというのだから恐れ入る(背景も人間も全てCG!)。中でも一番大変だったカットが冒頭の「ヤマト浮上」のシーンとの事。山崎監督は今までの映画でCGを駆使して様々な映像を生み出して来た実績があるため、「今回も大丈夫だろう」と軽く考えていたらしいのだが、全然大丈夫じゃないことが撮影開始直後に判明する。

「監督!今のCGソフトではヤマトの浮上するカットが作れません!」「なにい!?そんなバカなッ!」というわけで急遽新しいソフトを導入し、「CGを作りながらその使い方を覚える」という自転車操業にも程がある手法でどうにか危機を乗り切ったそうだ。あぶねえな、オイ!

ちなみに、山崎貴が監督に決まる前は樋口真嗣にオファーが来ていたそうだが、原作の『ヤマト』を完璧に実写化することにこだわり過ぎたため、降板させられたらしい。もし樋口真嗣が監督をやっていたら、冒頭のヤマトが浮上するシーンも全然違うものになっていただろう。

「補助エンジン始動5秒前!砲雷撃戦用意!動力線コンタクト!メインエネルギー、スイッチオン!傾斜復元、船体起こせ!両弦全速取り舵いっぱい!」と、原作そのままの段取りを省略することなく完全再現したに違いない(主砲を撃つまで7分以上もかかる長いシーンのため、カットされても仕方が無いのだが)。当然、「傾いたエレベーター」も忠実に再現したんだろうなあ(それはそれで観てみたい気もするがw)。

逆に良くない点は、セットにスケール感が無い事。例えば、第一艦橋の内部がアニメに比べるとやけに狭いので「え〜、何だかショボいなあ」と思ったら、実はアニメ版の第一艦橋が「広すぎる」のだそうだ。

アニメで描かれている第一艦橋は、本物の大和の6倍近くの広さがあり、これに合わせてヤマトを作ると全長が数キロメートルにもなってしまう。そのため、撮影用のセットは外形寸法から逆算してリアルな大きさで作ったらしい。でも、そこはイメージ優先で大きく作った方が良かったんじゃないの?

他にも、食堂や廊下、格納庫等がどれも狭くて「巨大宇宙戦艦」という感じが全然しない。特に格納庫は伊勢湾フェリーの中で撮影しているため、「フェリーの中」にしか見えないのは困った問題といえよう。更に、舞台装置全般にリアリティが欠けていることも大問題で、CGは時間を掛ければある程度のものが作れても、こういう背景美術の部分に関しては”邦画の弱点”がモロに露見する結果となってしまった。

なぜなら、日本ではSF映画のセットを作る機会がほとんど無いからだ。ハリウッドみたいに年間何本も大作SF映画を作っていれば現場の熟練度も上がるし、ノウハウも蓄積できるだろう。しかし、作る機会が無い日本では材料一つ取っても選択肢が少ないし、スキルも無ければインフラも無い。つまり、予算やセンスがどうこう言う以前に、SFに関する経験値が圧倒的に不足しているのである、トホホ。

更に残念なのは、松本零士のマンガでお馴染みの「メーター」が無いことだ。松本マンガと言えばメーターであり、メーターこそが松本零士の世界観を構築する象徴的な存在であっただけに、是非ともレイジメーターだけは再現して欲しかったなあ(でも、これは割とどうでもいいかw)。

また、原作ファンの立場としては、アナライザーがあんなことになっていたり、コスモゼロがそんなことになっていたり、挙句の果てにはデスラー総統が(以下略)、とまあ、色々な設定が変更・アレンジを加えられていることについて言いたい事もあるだろう。

しかし、原作にあまり思い入れが無い僕は全く何の問題も無かった。佐渡先生が女性キャラに変わっていようとも気にならない。むしろ、原作のヤマトは男ばっかりだったので女性が増えるのは大歓迎である(一升瓶は無くても良かったけどねw)。

もちろん、木村拓哉古代進も全然大丈夫。まあ、結局いつものキムタクなんだけど(笑)、古代進の人物像を現代風に解釈したと考えれば悪くない。逆に、キムタクが主役じゃなかったらもっとグダグダな映画になっていたハズで、そう考えると大正解のキャスティングと言えるだろう。

ただし、(ある程度予想していたことだが)古代と森雪がやり取りするシーンは流石に厳しいものがある。そこだけ突然「ヤマト」ではなく「キムタクのドラマ」になっているのでどうしても違和感が(つーか、ワープの途中で何やってんだよ!)。

あと、(これも予想していたことだが)サブキャラの死亡フラグがあまりにもエゲツない(笑)。「あ〜、この人もフラグが立っちゃった。死んじゃうよ〜!」と先が読め過ぎて興醒めだ(特に酷いのが第三艦橋のエピソード。彼は死ぬために出てきたのか?あんまりだ!)

更に、物語終盤に至ってはもう、「上映時間は残りわずかだぞ!早く死ね!」と言わんばかりの勢いで人がバタバタと死にまくる。いくら『ヤマト』の売りが自己犠牲のドラマと言っても、もう少し丁寧に描けなかったものか?「閉店在庫一掃セール」じゃないんだから(苦笑)

結局、ストーリー全体に言える事は、「泣かせのドラマ」が泣かせる機能を果たしていないということだ。山崎監督の『ALWAYS 三丁目の夕日』では、「泣かせ」の伏線となるエピソードを一つ一つ積み重ねていくことによってキャラクターへの感情移入度を高め、観る者の心を揺さぶる感動のラストシーンへと見事に着地させている。

それに比べて本作は、各キャラのエピソードが短過ぎて感情移入している暇が無い。また、「地球存亡の危機」という一大事に直面しているにもかかわらず、ヤマトのクルーに悲壮感が見られないのもどうなのかと。キムタクの演技に引っ張られたのかもしれないが、全てにおいて”軽い”のだ。

なので例えば、自己犠牲で死ぬ人数を3〜4人ぐらいに減らし、それぞれのエピソードをもっと掘り下げて感情移入しやすくし、古代と森雪のメロドラマ部分をばっさりカットするとか。そうすればかなり娯楽映画としての完成度も上がったと思うんだけど。

ついでに、クライマックスのダラダラとした展開も大幅に時間短縮してもらいたい。非常時なのに会話シーンが長すぎるよ!(他、多数のツッコミ所についてはきりが無いので省略)。

評価としては以上だが、個人的には『SPACE BATTLESHIP ヤマト』は非常に価値のある映画だと思う。それは、内容に価値があるというより、作られた事自体に価値があるという意味だ。そもそも日本ではSF映画を作る事が非常に難しい。SFはどうしてもお金が掛かるので企画が通りにくい上に、お客さんの方も「SF=外国製」というイメージがあるため、せっかく作っても観に来てくれない可能性が高い。

また、『宇宙戦艦ヤマト』や『ガンツ』みたいに、アニメやマンガの原作が既に存在し、それが一定の評価を得ている場合は、ある程度の集客が見込めるのでスポンサーも付き易いが、完全オリジナルになると、まず企画として成立させること自体が不可能に近いのだ。

また、『宇宙戦艦ヤマト』の製作費はおよそ20億円掛かっている。20億と言えば日本映画としては破格の予算であり、超大作と呼べるかもしれない。しかし『ヤマト』の世界観を再現するには心許ない金額だと言わざるを得ない(おそらく40億あっても足りないだろう)。

にもかかわらず、山崎監督は創意工夫と努力と根性で予算のハンデを乗り越えたのだ。もしこれを、マイケル・ベイが撮るとしたら絶対に200億円以上は掛かっていたハズで、恐るべきコスト・パフォーマンスの良さに驚嘆するしかない。

すなわち、「日本で本格SF映画を作る」というリスキーな企画を果敢に立ち上げて完成させた、という事自体にこの映画の価値があるのだ。もし本作が大ヒットすれば、今後日本で定期的にSF映画を作る環境が生まれるかもしれない。そうすれば、SF映画の経験値が蓄積され、日本製SF映画のクオリティがどんどん上がり、やがてはハリウッドをも凌駕する傑作SF映画が誕生するかもしれない。

まさに『SPACE BATTLESHIP ヤマト』は、邦画の新たな未来を切り開く夢と希望と可能性を乗せて飛び立ったのだ!願わくばどうか本物の大和のように撃沈することなく、是非とも大ヒットして後に続く映画人に希望のバトンを渡してもらいたい。頼んだぞ、ヤマト!

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