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映画『エクソシスト・ビギニング』感想/裏話

■あらすじ『時代は第二次世界大戦末期。悪夢の様な事件を境に神への信仰を捨ててしまったメリン神父は、考古学の知識を見込まれアフリカの教会遺跡発掘のためにある村へ派遣される。そこでジョセフという少年と心を通わせるメリンだったが、その頃から彼の周囲で異常な猟奇殺人や、不可解な事件が次々と起こり始めた。悪魔の存在を確信したメリンは、再び悪魔との対決に臨む事を決意。しかし、その村にはある恐ろしい秘密が隠されていたのだった!』



本作は、1973年に公開されたオカルトホラーの金字塔的傑作エクソシストの25年前を描くシリーズ第4作目だ(ちなみに僕は3作目を観ていない)。第1作の時、なぜ悪魔パズズはメリン神父が来る前から彼の事を知っていたのか?その答えが明らかになるのがこの作品である。だが実は、かなりイワク付きの映画であり、製作開始から公開に至るまでなんと4年もの歳月を費やしているのだ。

当初、本作は『RONIN』などアクション映画の名匠ジョン・フランケンハイマーが監督、『スター・ウォーズ エピソードⅠ』のリーアム・ニーソンが主演を務めるはずだった。しかし、撮影開始直前に突然フランケンハイマーが急死、それと同時にニーソンも降板を表明する。

その後、主人公はステラン・スケルスゲールドに変更となり、『タクシードライバー』などの脚本で知られるポール・シュレイダーが、フランケンハイマーに代わって映画を完成させた。だが、試写会での「全然怖くない!」という大バッシングを受けてあえなく降板。

そこで、アクション面を大幅に強化し、娯楽性を高めるために、『ダイ・ハード2』『クリフハンガー』のレニー・ハーリンが監督を引き継ぐ事に。だがなんと、今まで費やした製作費3000万ドルにさらに5000万ドルを上乗せし、ほぼ全てのシーンを同じ俳優を使って撮り直すという暴挙に出た!

しかも撮影の間、ハーリンにも不幸が降りかかり、事故で瀕死の重傷を負ってしまう。さらに、撮影スタッフまでも原因不明の熱病にかかり3人が死亡。挙句の果てには、映画本編の中に本物の幽霊らしきものまで映っているという凄まじい有様となっているのだ。『エクソシスト』恐るべし!

このような紆余曲折を経てようやく完成した本作だが、結果は惨敗。初登場こそ第1位をマークしたものの、2週目ではいきなり5位にランクダウンし、3週目であっさり圏外へと消え去ってしまった。最終的な興収は4200万ドルと大コケし、実に3800万ドルもの赤字を記録。全米各誌の評価も「CGを多用するもインパクトは皆無。恐怖感が全く感じられない」と、散々な結果に終わってしまったようだ。

ラストエンペラー』など、長年ベルナルド・ベルトリッチ監督と名コンビを組んできた世界最高峰のカメラマン、ヴィットリオ・ストラーロが撮影監督という事で一部の映画ファンは期待したが、この恐怖映画に彼の優れた手腕がどのように反映されているのかは全く分からない。いやそれより、どうして彼ほどの大物がこんな企画に関わる事になってしまったのか、そちらの理由を知りたいぐらいだ。

しかし、最大の疑問は「なぜレニー・ハーリンに本作の監督を任せてしまったのか」という事である。恐らく、ハーリンしか引き受けてくれる監督がいなかったからだろう。間違っても「彼の演出手腕が評価されたから」ではあるまい。なんせ、“あの”レニー・ハーリンである。『ダイ・ハード2』では、ジャンボジェット機をライターの火で大爆発させるというムチャな展開を力技で強引に押し切ってしまい、いきなりアクション映画界のトップディレクターとして君臨してしまったとてつもない男なのだ。

続く『クリフハンガー』でも彼のアクション描写はますます冴えまくり、何が何だか良く分からんが「スケール感だけは無駄にでかい」という、空前絶後の超大作を作り上げてしまう。まさに向かう所敵無し、完全にイケイケ状態のレニー・ハーリン

だが、彼の快進撃もここがピークだった。自分の嫁さんを主人公にした『カット・スロート・アイランド』が想像を絶する大惨敗。製作費9200万ドルに対して興収1100万ドルという記録的な大赤字を叩き出し、「史上最大の赤字映画」としてギネスブックにまで掲載されてしまったのである。

さらに、起死回生の一発を狙った『ロング・キス・グッドナイト』もヒットとは程遠い結果に終わってしまい、とうとう嫁さんのジーナ・デイビスと離婚するハメになってしまった。その後、『ディープ・ブルー』、『ドリヴン』と着実に連敗記録を更新し続け、今やすっかり“逆ヒットメーカー”としての地位を不動のものとした感がある疫病神のような映画監督。そんなレニー・ハーリンが『エクソシスト』を撮る?いったいどんなハチャメチャな映画になるのか、期待よりも不安の方が大きかったのだがその結果は……!

意外と普通の映画であった。いやむしろ、製作時のゴタゴタ騒ぎを考えると結構良く出来ているとさえ言える。ただ、レニー・ハーリンが撮ったとは思えぬほどおとなしい映画だ。しかも大して怖くない(苦笑)。

一作目の『エクソシスト』はほとんど一軒の家だけで展開する単純な物語であったにもかかわらず、ドキュメンタリータッチの描写が全編に凄まじい緊張感をみなぎらせていた傑作ホラーだった。

しかし、本作は海外ロケや巨大な教会のセットなどスケール感はアップしているものの、“怖さ”という点では非常に中途半端。オリジナルのテイストを尊重しているのかもしれないが、これでは単なる二流のホラー映画である(一応、金がかかっているので三流ではない)。

いっそのこと、悪魔に取り付かれた人間と神父が、凄まじい超能力を駆使して激しいバトルを展開するサイキック・アクション・ホラーにした方が良かったのではないだろうか?当然、オリジナルのファンは激怒するだろうが、元々レニー・ハーリンはB級ハッタリ・アクションでのし上がって来た監督である。クライマックスではド派手な戦闘シーンをぶちかまし最後に教会を木っ端微塵に吹っ飛ばしてこそハイパー爆裂監督:レニー・ハーリンの真骨頂ではあるまいか?

それにしても不思議なのは、レニー・ハーリンの業界での評価だろう。普通、ハリウッドでは2作続けて映画がコケると、次回作を撮るのが非常に難しいと言われている。ところが、レニー・ハーリンは既に4作連続でコケ倒しているにもかかわらず、なぜかいまだにビッグプロジェクトのオファーが舞い込んで来ているのだ。

その理由が全く分からず、何か超自然的な力が働いているとしか思えないが、それもまたレニー・ハーリンの凄さなのかもしれない。ハーリンには、これからもハッタリテイスト全開のぶっ飛んだ映画を撮り続け、観客の度肝を抜きまくってもらいたいものだ。

ちなみに、このままオクラ入りになるかと思われたポール・シュレイダー版の『エクソシスト・ビギニング』は、その後アメリカの劇場で無事に公開されたらしい。しかも、レニー・ハーリン版よりも評判がいいそうだ。映画会社は完全にムダ金を使ったワケですな。「お気の毒様」としか言いようがない(笑)。

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