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映画『宣戦布告』のリアルすぎるストーリーについて(ネタバレ感想)

宣戦布告
映画『宣戦布告』より
■あらすじ『200X年、福井県敦賀半島に国籍不明の潜水艦が座礁。艦内から特殊武装した戦闘員が上陸し、夜の闇に姿を消した。この緊急事態に、時の首相・諸橋揆一郎(古谷一行)は警察力で対応しようとするが、民間人の犠牲者が出るに至って、遂に自衛隊出動を決意する。ところが、様々な法令に阻まれ思うような戦闘が出来ない。そんな中、自衛隊出動を日本の"宣戦布告“と受け取った北東人民共和国が、核ミサイル発射態勢に入ったとの情報が流れた。首相官邸の危機管理センターに緊張が走る!果たして核戦争勃発の危機を回避できるのか!?突然の有事に対する日本政府の対応を、リアルかつドラマチックにシミュレートした衝撃のポリティカル・サスペンス!』



本作は、98年に発表された麻生幾原作の同名小説の映画化である。突如現れた某国特殊部隊と戦う最前線。政治の思惑、法制度の壁に阻まれ混乱する日本内閣。日本国内で密かに展開する北側の諜報活動。そして、それを追う警視庁公安部外事第二課のメンバーたち。

これらのドラマが同時進行で描かれる展開は実に緊迫感に満ち溢れており、思わず引き込まれてしまうほどスリリングだ。普通、これだけ複雑な要素が詰まっていればストーリーがややこしくなってしまうものだが、非常にうまくまとめており感心した。フィクションとは言え、設定のリアルさで現実味を持って観る者に迫ってくることは間違いない。

またキャスティングも豪華で、古谷一行杉本哲太夏木マリ財津一郎、多岐川裕美、佐藤 慶、夏八木勲と、そうそうたる役者たちがズラリと並ぶ。ベテラン俳優たちの卓越した演技力によって、ドラマの説得力は益々強固なものとなっているのだ。

ご存知の通り、日本国憲法では自衛隊の「位置づけ」があやふやなまま存在しており、そこで与野党が激しく対立している。憲法で否定され、「位置づけ」を常に審議されている自衛隊。本作は、そんな自衛隊に焦点を当て、「もし本当に自衛隊武力行使するような事態になったらどうなるのか?」という仮説をリアルにシミュレートしてみせているのだ。

物語冒頭、潜水艦で上陸した戦闘員の制圧を命じられたSAT隊長が「県警本部長の射殺許可命令をもらわなければ、この作戦は実行できない」「敵はロケットランチャーで武装している。射殺許可も無しで、我々SATにどうやって戦えと言うんですか!」と福井県警本部長に激しく詰め寄るシーンが映る。

本部長は渋々認めるが、総理大臣は「誰がそんな許可を出したんだ!」と直ちに命令を撤回。しかし、時すでに遅くSATは出動した後だった。現地でいきなり射殺許可を取り消されて焦るSAT。

しかも、次の瞬間敵と遭遇してしまった!攻撃も出来ないまま、次々とやられていくSATの隊員。「こっちは大切な部下の命が懸かってるんだ!指揮官が優柔不断じゃ、やってられねえんだよ!」と当然の如くブチ切れる隊長。この辺の描写は映画的に誇張されてはいるものの、エンターテイメントとしては正しい描写で感情移入し易い。

内閣では直ちに自衛隊の出動を検討するが、防衛庁事務次官の長い説明が始まる。「え〜、一口に自衛隊の出動と申しましても治安出動と防衛出動がございます。しかも250以上の特例措置を全てクリアしなければなりません。さらに、仮に自衛隊を出動させたとしても、現場ではほとんど軍事活動が出来ないのが実情であります」。それを聞いて官房長官防衛庁自衛隊を出す気が無いのか!」と激怒。

なかなか決断できないまま、悩む内閣総理大臣。その時、内閣情報調査室の室長が「自衛隊の最高指揮官は貴方だ。決定出来るのは貴方しかいない」と進言する。そしてついに、自衛隊に出動命令を下したのだった!周囲の状況により、どんどん追い込まれていく様子が実にリアルに描かれており、物凄い緊迫感を醸し出している。

とうとう特殊工作員陸上自衛隊との直接戦闘が開始された。だが、予想以上に敵の攻撃力は強大で、陸自は苦戦を強いられる。空挺レンジャー部隊を投入するも事態は一向に回復せず、手榴弾の許可を申請する事態に。しかし、現在の法令では許可できない。「手榴弾を使用する合法的な解釈を何とか考えろ!」と叫ぶ官房長官。実に危機感溢れる戦闘シーンだ。

そしていよいよドラマは佳境に突入する。ようやくゲリラを制圧したのもつかの間、危機管理センターに緊急警報のアラームが鳴り響く!北側のフリゲート艦が日本に向かって進行中、韓国に戒厳令が発令され、海上自衛隊が魚雷の使用許可を申請してきた!中国、台湾、韓国など周辺各国はデフコンレベル1の第一級戦闘体制に突入!ステルス爆撃機を発進させる在日米軍

そして、ついに某国は弾道ミサイルの発射体制を取り始めてしまった!もう戦争は始まってしまったとも言える極度の緊迫状態を映し出す危機管理センターのディスプレイを見つめ、「いったい誰が宣戦布告をしたと言うんだ…!」と総理大臣が叫ぶ。時の勢い、まるでナダレ現象のように戦争が起こってしまう恐さを感じさせる凄まじい映画である。

本作を観てある映画を思い出した。それはケビン・コスナー主演の13デイズだ。米国大統領ジョン・F・ケネディと有能な政治家たちによる懸命な努力によって、ギリギリのところで第三次世界大戦が回避されるという、傑作サスペンスである。

13デイズ』は実際の事件「キューバ危機」を元にしたドラマだが、『宣戦布告』と映画の構造は良く似ている(扱っているテーマなどは若干違うけど)。どちらの映画も、戦争が起こってしまうまでの経緯をリアルに描写し、必死になって戦争を食い止めようとする人々の姿を克明に描き出しているのだ。

それにしても、日本でこんな映画が作られたということに驚いた。今だったら絶対に通らない企画だろう。なんせ、仮想敵国として堂々と北朝鮮を設定しているのである(一応、”北東人民共和国”という架空の国名になってはいるが、誰がどう見ても北朝鮮だw)。『007:ダイ・アナザー・デイ北朝鮮を名指しした時は、映画会社が外務省を通じて正式に抗議されたらしいが、今回は何も問題無かったのだろうか?

この映画を製作するにあたり、自衛隊の協力が不可欠であったが、石侍監督の話によると「政治に影響が出る」「自衛隊員が死ぬ描写が良くない」等の理由から協力を得られなかったそうだ(自衛隊は、このあまりもリアルな映画の作製に協力してマスコミや世論の批判を受けるのが怖かったのかもしれない)。

そのため、映画の中に登場する自衛隊特殊工作員の武器は全て特別注文で作るしかなかったらしい。自衛隊員の制服やSAT隊員、レンジャー部隊員の制服・戦闘服は実際に使われている素材を調べ、全く同じ素材で縫製された。

また、東映東京撮影所のセットに原寸大の潜水艦の模型を建造し、より一層の説得力を画面にもたらしたのである。自衛隊の協力は得られなかったものの、製作者たちの創意工夫で驚くほどリアルなヴィジュアルを作り上げたことは特筆に値すると言えるだろう。

ちなみに、諸橋首相のキャラクターは当時から”変人”と呼ばれ自民党内でも異色の存在であった小泉純一郎をイメージして作られているが、当時「小泉内閣」を予想した者は誰もいなかった。映画作品中で最初に諸橋総理大臣が登場する場面を、総理役の古谷一行が撮影し終わった直後、「小渕首相が倒れる」というニュースが飛び込んできたのである。

そして、撮影の終了日に「小渕首相逝去」の訃報が届いたのだ。また諸橋首相はラガーマンとして設定されたが、小渕首相の後を継いだ森喜朗氏もラガーマンだというのは全くの偶然である。さらに石侍監督がイメージした小泉純一郎氏は、後に本当に総理大臣となり、映画公開時に現職となっていたことは最大の偶然であるとしか言いようが無い。これも”先見の明”なのだろうか?


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