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多部未華子・堀北真希共演『HINOKIO』映画感想

HINOKIO

■あらすじ『突然の事故で母親を亡くして以来、自室に引きこもってしまったサトル。そんな息子に科学者の父・岩本薫は、自ら開発したロボット〈H−603〉を与える。サトルは〈H−603〉を遠隔操作して一年ぶりに小学校に登校した。材料に檜(ヒノキ)が使われていることから、その場で“HINOKIO”というあだ名をつけられる。早速、ガキ大将のジュンが子分の丈一と健太を従えて、HINOKIOに手荒なイタズラを仕掛けてきた。しかし、サトルの身の上を知ったジュンは少しずつ彼に心を開いていく…。亡き母を想う少年、息子を想う父。ヒトとヒトの繋がりを描く、ロボット越しのピュアなラブストーリーがここに誕生。かつて少年と少女だった全ての人たちへ、温かく前向きな涙のメッセージを贈る、愛情エンターテイメント!出演:中村雅俊本郷奏多多部未華子堀北真希小林涼子原沙知絵牧瀬里穂原田美枝子



この映画を構成する様々な要素は、「引きこもり」、「インターネット」、「いじめ」、「バーチャル・リアリティ」、「TVゲーム」など極めて“今時”のキーワードばかりだ。そして、これらを含めて本作の最も重要なキーワードは「コミュニケーション」である。

主人公の少年は母と死別したショックで一年中自分の部屋に引きこもり、モニター画面を通さなければ他者と会話も出来ない。これは、携帯電話やメールがコミュニケーションの必須アイテムと化している現代の若者の人間関係を象徴しているかのようだ。観客に訴えている事は、既に失われつつある「人と人との温かい触れ合い」の大切さ。

すなわちこの映画は、少年が自分自身の殻を打ち破り、インターフェイスを使用する事無く、生身で社会との関係性を復活させるまでを描いた“成長物語”なのである。ある意味、この前観た『電車男』と映画としてのベクトルは同じと言えるだろう。製作者のメッセージもはっきりと伝わってきており、なかなか良く出来た娯楽映画だと思う。

ただし、上記の様々な要素に加えて「母と子」「父と子」の人間ドラマや、さらに「恋愛」や「友情」の要素まで何もかもをいっぺんに描こうとしている為に、ストーリーが散漫になっているように感じた。一つ一つのエピソードの掘り下げが足りない所為で、全体的に中途半端な印象を受けてしまうのだ。

特に主人公とジュンのエピソードはもう少し丁寧に描写して欲しかった。また、主人公たちが夢中になっている「TVゲーム」が、最終的に重要な役割を果たすのだが、あの展開で本当に良かったのか?作品のテーマと矛盾しているような気がするんだけど…。

しかし、映画自体の完成度は非常に高く、中でもビジュアル面に関しては文句の付けようが無いぐらい素晴らしい。邦画でよくこれだけの作品が作れたものだと感心した。それだけに余計にストーリーのまとまりの無さが残念でならない。もっとエピソードを絞り込んでいけば、とてつもない傑作になっていたかもしれないのになあ。う〜ん、惜しい!
では、この映画の見所はどこなのか、と言われると大きく分けて二つあると思う。

●ロボットが凄い!
本作の成否のカギはロボットが握っていると言っても過言ではないのだが、いやマジで凄いです!まずデザインがいいマッキントッシュのパソコンを思わせるようなシンプルかつ機能的なデザインは、製品として実在していてもおかしくないほどの説得力を持っている。スリットの形やビスの位置一つに至るまで実に細かくデザインされており、うちにも一台欲しいぐらいだ(笑)。

そして役者との合成画面がこれまた凄い。フル3DCGと実物大プロップを場面に合わせて合成しているのだが、どれがCGでどれがプロップなのか全く区別がつかない。これは、3DCGのモデリングデータをそのまま使ってプロップを作っているので、両者の間に全く違いが無いからだ。

さらに、合成方法も『エピソード3』などで使われているブルーバック(グリーンバック)合成ではなく、本物の背景を使用したマスク合成を使っている。このおかげで、違和感が少ない極めてナチュラルな映像を創り出す事に成功しているのだ。ただし合成が膨大な作業量となる為に、ポストプロダクションのスタッフにはかなり嫌がられたらしいが(笑)。
●子役が凄い!
僕は子供が主役の映画はあまり好きではない。洋画の場合は、ダコタ・ファニングとかマコーレー・カルキンとかハーレイ・ジョエル・オスメントとか、演技力に定評のある子役が何人もいるけど、日本の場合はどうか?せいぜい安達祐実ぐらいじゃないのか(笑)。僕が知らないだけかもしれないが、とにかくこれまで子役を見て「凄い!」と思った事はほとんど無かった。ところが本作の子役は本当に「凄い!」のである。

まず、主人公のサトルを演じる本郷奏多は、繊細な眼差しが特徴的で、失礼ながら「引きこもり少年」という役柄に全く違和感を感じさせない。演技力云々ではなく、存在感そのものが抜群なのだ。

そして、ガキ大将のジュンを演じる多部未華子ちゃん(コレ、本当はネタバレなんだけど)は男の子のフリをした女の子という難しい役を見事にこなしている(劇中では別に隠しているワケではなく、サトルが知らなかっただけ)。この「男の子だと思っていたら実は女の子だった」という設定自体は珍しくも何ともなく、昔からアニメやマンガで腐るほど使われてきた“定番の設定”である。

しかし、実写でこれをやろうとすると非常に難しい。なぜなら、「本当に男の子のように見える女の子」が現実にそんなにいるハズもなく、しゃべったらすぐに声でバレてしまうからだ。ところが、多部未華子ちゃんはまさに少年のような少女のような極めて中性的な顔立ちをしており、この役にピッタリ!実際、事前に何も知らなかった僕は途中まで「かわいい声でしゃべる男の子だな〜」ぐらいにしか思っていなかったのだ。

したがってジュンが服を脱ぐシーンでは「ええっ!?」とサトル同様にびっくり仰天。「き、君、女の子だったの!?」う〜む、あざとい。まさか実写で、こんなブコメ・マンガみたいな展開を見せられるとは思わなかった(笑)。さらにエンディングの“大変身”に至ってはもう爆笑。完全に少女マンガのパターンだよ(笑)。いや、よくぞここまでやってくれたと、逆に感心しました。

ちなみに今回は女の子と観に行ったのだが、彼女はジュンが男の子ではないと分かってかなりガッカリしていた。予告編の「サトルは俺の事、好きか?」というジュンのセリフで勝手に良からぬ妄想を膨らませていたようだが、一体何を期待していたのか?

次に江里子役の堀北真希ちゃんは、逆境ナインで野球部のマネージャーを演じていた女の子である。実年齢はなんと17歳だそうだが、高校生から小学生まで平然と演じ切るそのキャパシティの広さには脱帽せざるを得ない(TV版の『電車男』にも出ている)。

しかも、江里子のキャラクター設定がまた凄いのだ。学校一の美少女キャラでありながら、幼い頃から性的虐待を受け続け、自殺未遂の経験があるという、恐ろしくヘビーな過去を持つ女の子。子供向けの映画にこんなキャラを出していいのかよ?と思っていたら、小林涼子ちゃん演じるスミレはもっと凄かった!

一見、クラスの学級委員長で真面目な生徒なのだが、なんと裏ではこっそり不良学生に命令して、友達にリンチを仕掛けるようなヤクザも真っ青の極悪非道ぶりを見せ付ける!しかも、ジュンに対しては「倒錯した恋愛感情」まで抱いているという、とてつもなくダークな小学生なのだ(つまりレ○ビ○ン!)。

HINOKIOに大好きなジュンを奪われた」と思い込んだ彼女は嫉妬心に狂い、卑劣な方法でサトルを絶望の渕へ突き落とす!いったい、なぜスミレをここまで凶悪なキャラクターに設定する必要があったのかは見当もつかないが、観る者に強烈なインパクトを与える事だけは間違いないだろう。ああ、恐ろしい。

このように、『HINOKIO』は演じる子役はもちろん、そのキャラクターに至るまで実に個性的なメンバーで構成されている映画なのだ。子供向けの明るいファンタジーかと思ったら、その裏側にはドス黒い人間関係が渦巻いているという、結構毒のある作品である。だが僕は、そこが逆にこの映画の個性であり、面白い部分ではないかと感じた。

ちなみに、この映画を観てエヴァンゲリオンとの共通性を見出した人も多いのではないだろうか。主人公は、他人との接触を避けて自分の殻に閉じこもっている内向的な少年。彼はロボットを使う事によって、自分自身の存在価値を示そうとする。既にこの世にはいない母親の影。父親に対する不信感。操縦装置はエントリープラグのコクピットを思い出す。ヘッドセットの形も『エヴァ』と似ている。

「感覚フィードバックシステム」とは要するに「シンクロ率」の事だ(笑)。腹からコードを引っ張り出して充電するシーンに至っては、文字通りアンビリカル・ケーブル(へその緒)そのものである。単なる偶然かもしれないが、『エヴァ』も“コミュニケーション”をキーワードとして展開していたアニメだったので、自然に似てきた可能性もある。

総合評価としては、アニメ世代やTVゲーム世代には意外と抵抗無く受け入れられるかもしれないが、一般の映画ファンにはちょっとどうかな〜、という感じだ。特に、ゲームと現実世界とのリンクのさせ方が説明不足なので、「なんでそんな展開になるんだ!?」と拒否反応を示す人がいても不思議ではない。まあ、完全に「ファンタジー」だと割り切って観れば、なかなか楽しめる作品だと思う。

あと、テーマソングの「Tomorrow,s way」がイイ!これは、竹内結子主演の月9ドラマ『不機嫌なジーン』の主題歌「feel my soul」を歌った、シンガーソングライターYUIのデビュー2曲目(予告編で流れてるヤツね)。切ないけれど、どこか懐かしくて温かい楽曲は作品世界と完全にマッチしており、鑑賞後の余韻を実に爽やかなものにしてくれる。僕はエンディングでこの曲がかかった瞬間、グっときたよ。ハマれば意外と泣けるかも(笑)。