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ポール・バーホーベン監督『インビジブル』ネタバレ映画感想

インビジブル
映画『インビジブル』より
■あらすじ『国家最高機密レベルで透明人間を誕生させる極秘プロジェクトが巨大な地下施設で行われていた。そのリーダー:セバスチャン(ケヴィン・ベーコン)はリンダ(エリザベス・シュー)とかつて恋人同士だった。自ら被験者となったセバスチャンは、見事透明人間となる事に成功。だが凶悪な性格が暴走し始めたセバスチャンは、仲間を一人ずつ血祭りに上げていく。完全密室となった地下室で、“見えない脅威”との絶望的な戦いが始まった!』



監督がポール・バーホーベンで、ケヴィン・ベーコンが透明人間を演じる、という話を聞いただけで「ああ、きっとまたケヴィンがいつものように脱ぎまくる、下品でいやらしい映画に違いない」と思ったら本当にその通りでした。まったく、バーホーベン監督は見事なまでに観る者の期待を裏切りません(その揺るぎ無い製作姿勢には、ある種の信念のようなものすら感じます)。

それはともかく、この映画が今までの透明人間映画と大きく違うところは、「人間が透明になる」という現象面だけでなく、心理的な面にまで踏み込んでいる点でしょう。

もし、自分が透明人間になったらどういう行動をとるか?男性の場合はほぼ100%に近い確率で「女湯を覗く」が上位にランクインされるに違いありません。すなわち、”透明人間”という存在を正直に描こうと思えば、映画は悪徳の香り高いものにならざるを得ないはずなのです。

そういう意味では『インビジブル』はまさに、人間が透明になることの真実を描いた史上初の映画と言えるわけですが、あまりにも真実をストレートに描きすぎた為に、著しく品性が下落した感は否めません。

今回めでたく透明人間となったケヴィン君は、同僚女性の乳を揉んだり、女子トイレに侵入したり、隣室の女性の着替えを覗いたり、およそ天才科学者とは思えぬ恥ずかしい行為に熱中しまくります。その結果、「世の男性の欲望を忠実に映像化したらこうなった」という見本のような映画になってしまいました。

さらに内容の方も”軍部が関与した国家的プロジェクト”と言う割には、クライマックスが地下室を舞台にした透明人間との追いかけっこのみというスケール感の無さが気になります(最終的には、凶暴化したケヴィン君が同僚を殺しまくるという「SF・エログロ・ホラー」と成り果てるものの、よく考えたらいつも通りのバーホーベン映画なので何の問題もなかった)。

しかし、ただでさえ露出の多いケヴィン君が、本作ではますます豪快に脱ぎまくっているのは見過ごすことができません。しかも透明人間であるのをいいことに、出演シーンのほぼ全てが全裸という大サービスぶり。やりたい放題にもほどがあります。

そして、本作における最大の見所といえば、最新VFXを駆使した透明人間のヴィジュアルでしょう。従来までの”透明になった”描写ではなく、”なっていく過程”を克明に映像化しているのですから、凄いとしか言い様がありません。冒頭の透明ゴリラや、解剖図をまんま3D化した透明化プロセスや、うっすらと浮かび上がる半透明化シーンなど、視覚に訴えるインパクトの強さは絶大です。

このシーンは、フィレンツェの「ラ・スペコーラ解剖学博物館」に展示されている人体模型を参考にしたそうです。バーホーベン監督曰く、「当時、娘が美術学校に通っていたおかげでこの博物館の存在を知った。皮膚を剥がれた状態の蝋製の人体模型があって、血管や筋肉はもちろん、腱や脂肪や骨などその下にあるものまで見ることができる。解剖学的に完璧だったよ」とのこと。

現在はフィレンツェ大学動物学別館の管轄になる「ラ・スペコーラ美術館」では、18世紀から19世紀初頭にかけて腕の立つ職人:クレメンテ・スシーニらにより、精緻を極めた蝋人形の解剖学模型が大量に製作されました。透明化のプロセスをリアル見せる『インビジブル』にとって、それは貴重な立体モデルとなったのです。

解剖百科 (タッシェン・アイコンシリーズ)

ラ・スペコーラ美術館の希少な解剖学用ろう製人体モデルコレクションを完全カラー図版で紹介した本

この難しいVFXを担当したのが視覚効果スーパーバイザーのスコット・E・アンダーソン。かつては世界的に有名な特撮工房:ILMに籍を置き、ジョン・カーペンターの『透明人間』も手掛けた経験があるため、「また透明人間か。楽勝だな♪」と余裕をぶっこいていたそうです。しかし、ポール・バーホーベン監督から映画の内容を聞いてビックリ仰天!

「最初は単に”見えない人間”という認識しかなかったんですよ。でもポールの考えは違いました。透明人間であってもマッスルマンでなければいけない!と言うんです。姿は見えなくても、周囲の人間には脅威を感じさせるような存在でなければならないと。しかもポールは絶えずキャメラを動かします。そこへ透明人間を置き、威圧的な存在感を出さなきゃいけない。これは途方もない難問でした。」(スコット・E・アンダーソン談)

最初に脚本を読んだ時点では、「映像化はほぼ不可能」という意見が大半だったらしい。しかし、それから約6ヵ月間もリサーチを重ね、ひたすら実現可能な方法を検討し、さらに巨額の費用を注ぎ込んで最新の技術やソフトウェアを開発していったそうです。まさに「執念の成せるワザ」と言えるでしょう。

ただし、1億ドル近い製作費を投じて映像化された最先端のヴィジュアルは「透明人間が、寝ている女性の服を脱がせて乳首をいじりまくる」という歴史に残るような珍シーンまで作り上げてしまい、多くの観客から「世界一バカバカしいCGの使い方だ」と失笑されたそうです。まさに最新テクノロジーの無駄使い!でも、そんなどうしようもない部分も含めて、実にバーホーベンらしい映画だと思いました。


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