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実写映画版『サンダーバード』感想

サンダーバード

■あらすじ『絶海の孤島トレーシー・アイランド。元宇宙飛行士のジェフ・トレイシー(ビル・パクストン)と息子たちは、この島を拠点に最新鋭メカ・サンダーバード号による災害救助活動に励んでいる。兄弟の末っ子アランはまだ学生だが、正式に隊員となって活躍する日を夢見ていた。そんな彼らにかつてないピンチが訪れる。過去の災害で救出されなかったことを逆恨みするフッド一味が、サンダーバード5号をミサイル攻撃。隊員たちが救助に向かった隙にトレーシー・アイランドを乗っ取ってしまったのだ!地球の命運は、島に残っていたアランに託された!』



サンダーバード』は1964年に英国のジェリー・アンダーソン率いるAPフィルムズで製作、65年より放送された1時間枠のSF人形劇である。全32本のエピソードと2本の劇場版が製作され、日本では1966年にNHKで初放送、その後TBSでの再放送で人気に火がつき、一躍大人気番組となった。

人形劇といっても実物の約三分の一の巨大な人形を使い、なおかつメカニックのシーンでは精巧なミニチュアを使用した素晴らしい特撮が満載で、当時多くのVFXクリエイターが凄まじい衝撃を受けたと言われている。

中でも“ウェザリング”と呼ばれる汚し塗装のテクニックは、『スター・ウォーズ』など後のSF映画に絶大なる影響を及ぼした。この人形劇は“スーパーマリオネーション”という謳い文句で高い評価を受け、世界中に多くのファンを生み出したのだ。

本作はそんな人気番組の劇場映画である。ただし最大の違いは演じているのが人形ではなく、”生身の人間”という点だ。制作費7000万ドルを掛け、大々的に全米公開されたこの映画だが、残念ながら評判はイマイチで特にファンからのブーイングが凄まじかったらしい。

なんせ内容が「宇宙で遭難した国際救助隊が子供たちに救助される」という情けない物語なのだから、往年のサンダーバード(TB)ファンが怒るのも無理は無いと言えよう。期待していたTBの活躍シーンも、初めと終わりにちょこっとあるだけで、映画の大部分は島で子供たちが大活躍するアドベンチャー・ムービーとなっているのだ。

また、レディ・ペネロープの愛車FAB1のオリジナルはロールスロイスなのだが、ロールスロイス社の協力を得られなかったせいで、フォード車に変わってしまっている。しかもフォード側から「車が出るシーンが少ない!」と苦情が出た為に、やむを得ずフォード車が映る場面を無理やり追加したそうだ。

さらに、この映画には他の映画からパクったシーンも非常に多い。TB3号が発進するシーンは『アポロ13』のロケット発射シーンと全く同じカットだし、フッドが体をスピンさせながら空中に上昇するシーンは『グリーン・デスティニー』とそっくりである。

しかしこの映画の凄いところは、これらのシーンを“正式に本物の許可を得て使っている”という点なのだ。実に正々堂々たるパクリであり、確信犯的であるとすら言えよう。

映画の作劇自体は非常にオーソドックスなもので、「子供たちの成長物語」としてはそれほど悪くないと思う。問題は“映画としてのポジションが曖昧だ”という点ではないだろうか。本作は『スパイキッズ』ほど“遊び心”が無く、『007』ほど“カッコ良さ”が無い。一体誰を対象にした作品なのか分かりにくく、中途半端な印象ばかりが残ってしまうのだ。

オリジナルのTBは子供向けの人形劇でありながら、ドラマも特撮も驚くほどリアルで、そこが多くの観客を引き付けたポイントでもあったと思う。本作でも父と息子の、そしてフッドとのドラマをもう少し掘り下げても良かったのではないかと感じた。

あと個人的にどうしても気になったのは、メカのデザインである。オリジナルのメカは荒唐無稽な空想の産物でありながら、ロケットも飛行機も本当に“飛びそうな”リアリティに溢れていた。しかし本作のデザインはオリジナルとは大幅に変更され、CG丸出しでテカテカ光る表面のディテールからは、1ミリのリアリティも感じる事は出来ない。

なぜ2号機はあんな形で空を飛べるのか?子供向けとはいえ、あまりにも説得力が無さ過ぎるデザインに失望したのは僕だけではないだろう。またこの映画では、セットや背景に至るまでありとあらゆるものがCGによって作られている。その結果ヴィジュアルが全体的に薄っぺらくなってしまい、アニメを見ているような違和感を感じてしまうのだ。

そのくせわざわざ操り人形の糸をCGでくっつけたりなど、どうでもいい部分で凝ったりしていてワケが分からない。本末転倒とはまさにこの事だ。

唯一良かった点は、レディ・ペネロープのキャラクターであろう。ソフィア・マイルズ演じるペネロープの“全身ピンクのお嬢様ぶり”は実に魅力的で、全編を通して活躍シーンも満載だ。執事のパーカーとのコンビネーションも面白い。

またフッドの部下の女性キャラも、久本雅美柴田理恵を合体させたような顔でとてつもないインパクトを醸し出している。もはや女優というより女芸人だ。良くこんな人見つけてきたなあ。