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樋口真嗣監督『ローレライ』ネタバレ映画感想/評価

ローレライ

本日セブンイレブンでペットボトルを買おうとすると、何やら変なオマケが付いてるのを発見。なんと映画『ローレライ』のセブンイレブン限定ドリンクキャンペーンなのだ。箱の中にはフィギュアが入っている。N式潜航艇・ナーバルだ。えらく精巧なフィギュアだなあと思ったら、海洋堂が作ったものらしい。何でも映画監督の樋口真嗣海洋堂の宮脇社長に直接、「作ってくれ!」と依頼したそうだ。さすがに良い出来である。伊507が欲しくなったのでもう一本ペットボトルを買うと、またしてもナーバルだった。ぐわあ!



■あらすじ『広島に落ちた原子爆弾が大戦の終局を告げようとしていた1945年。海軍軍令部の浅倉大佐(堤真一)は、さらなる原爆投下を阻止すべく最後の作戦を実行に移す。切り札はドイツ軍から接収した戦利潜水艦・伊507。浅倉は長く現場を離れていた絹見少佐(役所広司)を伊507の艦長に抜擢し、原爆を積んだ戦闘機が離陸するテニアン島への奇襲攻撃を命じる。それは無謀な任務に思われたが、伊507には“ローレライ”と呼ばれる特殊な敵艦探知システムが搭載されていた。そんな矢先、今度は長崎に原爆が投下。そして第3の標的となったのは首都・東京だった!果たして彼らは日本を、家族を守る事が出来るのか!?米国による三発目の原爆をめぐる、想像を超えたストーリー展開と驚愕の映像。ダイナミックな活劇と重厚な人間ドラマ。極限状態を生きた男たちの「誇り」「命」「希望」を感動的に描く、潜水艦エンターテイメント超大作!』
出演:役所広司妻夫木聡柳葉敏郎香椎由宇石黒賢國村隼佐藤隆太ピエール瀧小野武彦阿川佐和子橋爪功鶴見辰吾伊武雅刀上川隆也堤真一



う〜ん、これは凄い映画だ!まさに日本初の本格潜水艦映画と呼ぶに相応しい仕上がりである。正直不満点も少なくないが、それを補ってなお余りある“エンターテイメント性”の高さには脱帽せざるを得ない。

監督は本作が初(正確には“初”監督作品ではないのだが、本人は”本当の初監督作品”を自分のプロフィールから抹殺したがっているらしいw)の劇場用長編作品となる樋口真嗣だ。

平成ガメラ三部作』における衝撃的なVFXで特撮ファンのみならず、一般の映画ファンをも唸らせた新進気鋭のヴィジュアル・クリエイターである。本作はそんな“特技監督”としてのスキルを思う存分ぶち込んだだけあって、映像に対するこだわり方が尋常ではない。

ミニチュア・モデルは「伊507号」「米駆逐艦フレッチャー級」「米潜水艦ガトー級」「米爆撃機B-29」などの精巧な模型が多数作られたそうだ。特に「伊507号」「米駆逐艦フレッチャー級」は7mクラスの大型のミニチュアで、その詳細なディティールは見る者を圧倒する。

またCGや合成などの特殊効果の量もハンパではなく、その上表現が難しいとされている“水”の描写の多さも、より一層「作業の困難さ」に拍車をかけていると思われる。しかし自称「潜水艦大好き男」の樋口監督が渾身の力を込めて放った作品だけあって、大海原を舞台に繰り広げられる戦闘シーンの凄まじさは筆舌に尽くし難いほどのド迫力!

至近距離からの魚雷一斉攻撃を紙一重でことごとくかわし、迫り来る敵駆逐艦隊を次々に撃破してゆく伊507号の圧倒的なかっこよさ!まさに空前絶後のヴィジュアル・イメージを炸裂させた名場面である。くう〜、たまらん!

また本作はアニメ界の人脈が多数参加している事も特徴であろう。監督の樋口は元々『ふしぎの海のナディア』や『新世紀エヴァンゲリオン』などのガイナックス作品を多く手掛けていた人物である。そして衣装デザイナーの一人として、『機動警察パトレイバー』などのメカデザインを担当した出渕裕が参加。

戦闘シーンの絵コンテを庵野秀明が作画。さらにB-29の機首のイラストを押井守がデザインしている。挙句の果てに「大和田・反乱兵」のクレジットで富野由悠季の名前が!(何やっとんじゃw)

だが良く調べてみると、そもそも原作者の福井晴敏自身が『ヤマト』や『ガンダム』に影響を受けた大のアニメ・ファンだったのである。しかもガンダムは義務教育です」などのとんでもないコメントを連発するほどの熱狂的なガンダム・オタクだったのだ。

そればかりか「この20年で一番売れた戦争物といえばガンダムでしょう。これまでの戦争映画は軍事の側面が先行したものばかりでした。その点ガンダムは”人間ドラマ”と”戦争”のバランスがきちんと取れています。だからこそ本作で恥じる事無くガンダムをやろうと思ったんです」とまで言い切るほどの堂々たるガンダム・リスペクト!

なるほど、言われてみればドラマの作劇法は紛れも無く『宇宙戦艦ヤマト』であり、『機動戦士ガンダム』なのだ(クライマックスはむしろ『ナディア』かも)。

彼らは「日本のアニメがいかに優れたメディアであるか」という事を知り尽くしている。「だったら、この素晴らしい作劇法を実写に応用しない手はないじゃないか!」という発想で作られた映画が『ローレライ』だったのだ。

まさに「日本でエンターテイメント映画を成立させるための方法論」の一つとして生み出された作品であり、邦画におけるある種の“突破口”に成り得る可能性を秘めた作品なのだ。

しかし逆に、そのような“アニメ的要素”を取り入れた為に生じてしまったマイナス面も存在する。それは「リアリティの欠如」である。例えばパウラのコスチュームは明らかに時代考証的には有り得ない服であり、一般の観客には特に抵抗があるだろう。

伊507号のデザインも、いくら実在の潜水艦「シュルクーフ」をモデルにしているとはいえ、あまりにもマンガ的過ぎるフォルムに違和感を禁じ得ない(あの主砲は完全に『ヤマト』を意識しているし、最後のアレはいくらなんでもやり過ぎではないか?なぜ命中する!?)。

中でも最大の問題点は物語の要となる「ローレライ・システム」の存在だ。この設定によって本作が戦争映画ではなくSFもしくはファンタジーである事が分かるわけだが、「受け入れられない!」という観客も出てくるだろう。物語が第二次世界大戦という歴史的事実をベースにしている以上、いくらフィクションだと言っても抵抗感が生まれるのは当然かもしれない。

また登場人物、特に若者のキャラクターに関してはより一層リアリティに欠けていると言わざるを得ない。中でも妻夫木聡演じる折笠の言動は、どう見ても現代の若者像そのままで“戦時中”という説得力は皆無だ。『ガンダム』の作劇を忠実に取り入れているわけだが、生身の役者が演じる事によって微妙なズレが生じていることは否めない。

これに関しては樋口監督も福井晴敏も認めており、「徹底的にアニメ的なものを全部生身の役者に置き換えて実写でやってしまえば、画期的な映画が完成すると思っていた。しかし、アニメと違って実写はまず“生身の役者をどう見せるか”という事の為に存在するツールだ、という事を我々は見落としていたんです。」と述べている。

つまり「アニメの方法論をそのまま実写に取り入れても映画としては成立しない」という事なのだ。この為、現場では相当な試行錯誤を余儀なくされたらしい。

さらに各キャラクターの掘り下げが浅過ぎる点も気になった。どの登場人物もちょっとづつ練り込みが不足しているのが非常に残念。特に主役であるはずの絹見艦長と、折笠とパウラのドラマにおけるバランスが十分に機能していない点が惜しまれる。

上映時間の問題とか色々事情はあったと思うが、せめてあと30分延長してでもじっくりキャラクターを描いて欲しかったなあ。せっかくの豪華キャスティングがもったいないぞ!

ちなみに僕のお気に入りシーンは、國村隼演じる軍医の“ライカのエピソード”である。ああゆう何気ないシーンに人のやさしさを感じ、思わず涙腺が緩んでしまうのだ。泣ける!

以上、良かった点、不満な点等長々と書き連ねてしまったが、総論としては「良く出来た娯楽映画」だと思う。だが僕自身は映画の内容よりもむしろ、「よくぞ作ってくれた!」という感動の方が大きい。

特に樋口監督の「日本映画界にエンターテイメントとしての新たな地平を切り開こう!」という熱い想いが画面からほとばしっており、心を打たれずにはいられないのだ。

なぜ、日本人は日本の映画を見ないのか?なぜ、日本ではハリウッドのような娯楽大作映画が撮れないのか?この“映画ファンなら誰もが抱いていた悔しい思い”に対し樋口監督は、「お金が無いからだ」という当たり前の回答に逃げる事無く、「日本人でなければ成立しないエンターテイメント」の可能性を捜し求め、ついに“潜水艦映画”にその活路を見出したのだ。

不十分な製作体制に不満を述べているだけでは、現状は何も変わらない。「全力をかけて変えてみせる!」というクリエイターの心意気こそが、観客の心を揺り動かす最大の原動力になるという事を、自ら証明しようとしているのだ。

ローレライ』の批評が書かれた映画サイトを見てみると、批判的な意見の方が圧倒的に多く、また僕自身もその気持ちは分からんではない(むしろ痛いほど良く分かる)。

だがしかし!!作り手側の心意気に、受け手が応えなくてどうするのか!?本作は紛れも無く、「日本人による、日本人の為の、新世代型エンターテイメント大作」なのである!
映画ファンなら見るしかないだろッ!!!

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