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宮崎駿監督『ハウルの動く城』感想

明けましておめでとうございます。ついに新年になりました。2005年もひたすら映画を見まくります!

という訳で、新年一発目は宮崎駿監督作品「ハウルの動く城」である。既に去年から大ヒットを飛ばしている映画だが、なかなか時間が取れずようやく見ることが出来た。

事前情報をほとんど仕入れず、せいぜい「おばあちゃんが主人公」「キムタクがハウル」という事ぐらいしか予備知識が無い状態で観賞したのである。当然原作も一度も読んだ事が無い。感想は・・・とにかく「何もかもが壊れている」としか表現のしようがない映画だった!

主人公のソフィーは魔女から呪いを掛けられて90歳のおばあちゃんになってしまうのだが、時々何の説明も無く元の姿に戻ってしまう。呪いが解けたのかと思ったが、どうもそうではないようだ。

ハウルハウルで時々フラっと出て行ったかと思ったら、夜中にボロボロの姿で帰ってくる。「戦争は嫌いだ」と言いながら外で一体何をやっているのかさっぱり分からない。そもそもどんな戦争なのか何の説明も無いのだ。

また火の悪魔カルシファーと結んだ契約とは何なのか?という具合に次から次へと良く分からない展開が続出し、シーンの意味を理解しようとするともう次のシーンへ移っている、という事の繰り返しで観客は完全に置いてけぼりなのだ。

挙句の果てには「ラブストーリー」としての体裁を何とか保つ為に、唐突にソフィーが「愛してる!」と叫ぶという脈絡の無さを見せ付ける。全編こんな有様だから評価の方も「面白い!」「いや、わけが分からん!」と真っ二つに分かれているようだ。一体何故こんな映画が出来てしまったのだろうか?

元々この映画の企画自体は宮崎氏が立ち上げたものだったのだが、東映の若手演出家:細田守が監督する予定だったらしい。ところが製作途中で何らかの事情により細田氏が降板した為、やむを得ず宮崎監督が後を引き継いだそうだ。そんな現場のドタバタした状況に加えて、さらに問題を悪化させているのが宮崎監督独特の映画制作スタイルである。

結構有名な話だが、宮崎監督はシナリオを書かずにいきなりコンテを描き始めるらしいのだ。通常どんな映画であろうともまずシナリオから取り掛かるのが常識である(どんな話になるのか分からないのだから当然だ)。

ところが宮崎監督はまずコンテを描き始め、ある程度進んだところで強引に映画制作に突入するのである。つまりストーリーを考えながら映画を作っているという事で、本人にもラストがどうなるか全く分からないのだ!

まるで家を建てながら設計図を描いているようなもので、完全に常軌を逸した方法論であると言わざるを得ない。世界広しといえどもこんなやり方で映画を作っている監督は宮崎氏だけではないだろうか。

しかし当然の事ながらストーリーが進むに連れてどんどん支離滅裂な展開となり、前半と後半では1カットの長さまで違うという無茶苦茶な有様となってしまっている。通常2時間の映画で1500カットの場合、1カット5秒ぐらいである。ところが実際カットが出来上がってみると1カット10秒以上になっていたのだ。

プロデューサーの鈴木敏夫が「このままでは上映時間が4時間になってしまう!」と真っ青になり、あわてて後半のカットの秒数を大幅に短縮したそうだ。その為に映画後半の展開が異常に早く、ついていくのが精一杯という困った状況になっている。

そしてストーリー上における最大の問題は「起承転結」が存在しないという事だ。この目的は「今までの映画にありがちな予定調和な展開をわざとはずす事によって、全く先が読めない新しい映画を作る」という事らしい。つまり物語を成立させる為の最低限のセオリーさえもあっさりと捨て去っているのである。なんというとんでもない映画であろうか!

しかしながらこの映画の本当の凄さは、これだけデタラメな作り方をしているにもかかわらず「面白い!」と思わせてしまう点であろう。

確かに「面白い」シーンを前後の脈絡に関係なくどんどん繋いでいった結果、映画全体のバランスは完全に崩壊していると言っても過言ではない。だが各シーンの完成度を限界までレベルアップする事によって、今まで見た事がないような新感覚な映画を生み出してしまったのだ。

目の前で繰り広げられる幻想的なシーンやキャラクター達を見ているだけでとにかく楽しくてしかたがない。でも一歩劇場を出るとどんな話だったか良く分からない、まさに不条理な夢を見た時のような不思議な感覚を味わえるのだ。

この映画はまさしく、天才宮崎駿がアニメーターとしての才能をフルに発揮して本能のおもむくままに作り上げた究極の「夢物語」なのである。

ちなみに木村拓哉の声は意外と違和感が無かったものの、倍賞千恵子は(おばあちゃんはともかく)ヒロインのイメージにはそぐわない。マルクル役の神木隆之介君の声が一番キャラクターに合っていたように思う。


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