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トム・クルーズ主演『コラテラル』ネタバレ映画感想

コラテラル

■あらすじ『ロスでタクシー運転手をしているマックス(ジェイミー・フォックス)は、ある晩美人女性検事アニー(ジェイダ・ピンケット・スミス)を乗せた。そして彼女と入れ替わりにヴィンセント(トム・クルーズ)と名乗る男を乗せるのだが、なんと彼は殺し屋だったのだ!こうしてマックスの「悪夢のような一晩のドライブ」が始まった…!』


※ややネタバレあり


一言で言えば「ヘンな映画」である。といってもストーリーが悪いとか、面白くないという意味ではない。映画自体はベテラン監督マイケル・マンが撮っただけあって、完成度は高く見事な仕上がりだ。

では一体何が「ヘン」なのか。答えはトム・クルーズである。正確に言えばトム・クルーズ演じる殺し屋:ヴィンセントのキャラクターが徹底的に「ヘン」なのだ。

トム及び監督はこのヴィンセントをおそらく「クールでかっこいい」殺し屋として描こうとしていたのだと思う。しかし、画面に映る殺し屋はちっとも「クールでかっこよく」見えないのだ。いったいナゼか?

確かに彼の身のこなしはスマートで無駄が無い。特に拳銃の扱い方はトムがわざわざイギリス特殊部隊からレクチャーを受けただけあって、非常にリアリティがある。しかしその反面、彼の行動には「さすがプロの殺し屋だ」と思わせるような「説得力」が全く無いのだ。

ヴィンセントはたった一晩で5人を殺して回るという非常に忙しい仕事を引き受けてしまった。そこで作業の効率化を図るためにタクシーを移動手段として使用する事にしたのだ。この最初の設定だけでもう「?」である。

しかも最初の一人を殺した時に、手違いで死体がタクシーの屋根に落下してフロントガラスにヒビが入ってしまうのだ。にもかかわらず、そのまま彼は次の殺しの現場に向かおうとするのである(当然ながら途中で警察に職務質問される)。

また、車の中にターゲットのリストを置きっぱなしだったせいでコソドロに盗まれそうになったり、自分で投げたイスにつまづいて転んだり、どう見ても「知的でクール」な殺し屋のイメージからは程遠い、間抜けな行動の連続なのだ。

さらに困ったことに、ヴィンセントは殺し屋のクセに異常におしゃべりなヤツなのである。まあ世の中の殺し屋が全員ゴルゴ13のように無口だとは思わないが、少ししゃべり過ぎではないのか?

いくらなんでも、タクシーの運転手に殺しの内容をベラベラ話す殺し屋がいるだろうか?おまけに「そんな生き方で満足なのか?」などと人生について説教まで始めるのである。余計なお世話だ!

挙句の果てにはマックスの母親が病院に入院している事を知ると「一緒に見舞いに行こう!」などと言い出す始末。一体お前は何を考えているんだ!?

トム・クルーズの身のこなしやガンさばきが見事であればあるほど、こうした不可解な行動の数々によって生じるギャップが、映画全体に「ヘン」な可笑しさを生み出しているのである。

最大の問題は「観客が何を求めているのか」ということだろう。多くの人がこの映画を「アクション」あるいは「サスペンス」と思って見ているはずだが最後まで見ると、これが「人間ドラマ」だということが判明するのだ。

ある晩偶然出会った「立場も価値観も正反対の2人の男」が、お互いに影響を受け合ううちに心理状態に変化が生じ、最終的には運命まで逆転してしまう、という奥の深いドラマだったのである。

しかしヴィンセントの支離滅裂な行動が気になって、ドラマに入り込むのに大変な苦労を強いられてしまう。「面白いか面白くないか」の判断が実に微妙な映画だ。まさに怪作であり、色んな意味で一見の価値があると思う。

出演:トム・クルーズジェイミー・フォックスジェイダ・ピンケット・スミスジェイソン・ステイサム
監督:マイケル・マン