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映画『いま、会いにゆきます』ネタバレ感想

いま、会いにゆきます

原作は未読だが60万部近くを売り上げたベストセラーだそうだ。ストーリーは、『梅雨のある日、6歳の息子と暮らす父(中村獅童)の前に一年前に病気で死んだ妻(竹内結子)が現れた。実は彼女は死ぬ前に「雨の季節に戻ってくる」と言い残していたのだった。だが彼女は雨がやんだら彼らの元から去っていくのだという…。果たして彼女は本当に死んだ妻なのだろうか?そして物語のラストで驚愕の真相が明らかになる!』というものだ。

主演が竹内結子で、死んだ人が戻ってくるという設定を聞けばどうしても「アレ」を連想せずにはいられない。「アレ」とはもちろん『黄泉がえり』である。事実共通する部分もあるが、基本的には(当たり前だが)全く異なる映画だ。一番大きな違いは「世界観」である。

黄泉がえり」の場合は現実世界との関わりを出来るだけリアルに描こうとしていた。「もし実際に死んだ人が生き返ったらどうなるのか?」というあり得ない仮説に対し、映画の中でシュミレーションして見せたのである。

家族であっても喜ぶばかりではなく、驚く人も当然いるはずだ。そういったそれぞれのリアクションを一つ一つ丁寧に描き、「なぜこんなことが起こったのか?」という原因究明や、世間の反応などを細かく描写することにより「あり得ない話」に現実味を持たようとしたのである。つまり「リアルな世界観」を構築しようとしていたのだ。

しかし『いま、会いにゆきます』の場合はアプローチのしかたが全く逆になっている。まず、リアクションが薄い。死んだはずの人間がいきなり現れたのに普通に喜ぶだけで「なぜ?」と疑問に思う事すらしない。目の前で起こった「とんでもない現象」をあっさりと受け入れてしまうのだ。

そして彼女も現実世界と接触することがほとんど無い。なぜなら登場人物が異常に少ないからだ。はっきり言えば「夫と妻と息子」の3人しかメインキャラクターがいない(原作通りなのかも知れないが、物語の矛盾点を露呈させないために意図的にやっていると思う)。

黄泉がえり』のようにリアルを追求し過ぎると、必然的に「外の世界」との接点が多くなり、その結果多くの矛盾点に観客が気付いてしまうのだ。つまり、『黄泉がえり』の場合は途中で醒めてしまう所が欠点と言えるだろう。

しかし『いま、会いにゆきます』ではあえて登場人物を限定することにより、物語の矛盾点を最小限度に抑えることに成功している。極端に言えばこれは「親子3人だけの閉じた世界」で展開される物語であり、彼らだけが共有できる「究極の寓話」なのだ。言うなれば、外界からの接触や現実性を一切排除した「完全無欠のファンタジー」なのである。

ファンタジーである以上、どんなに不思議な出来事が起こっても受け入れられるのは当然だ。観客も余計な情報に注意力を削がれる事無く最後まで物語に没頭できる、上手い構成だと思う。

言い換えれば、「世界観のリアリティ」にこだわり過ぎて逆に嘘っぽく見えてしまった『黄泉がえり』も対し、この映画ではあえてそれを徹底的に取り除く事により登場人物の「感情のリアリティ」を強調して見せたのである。

しかしこの映画の見所を聞かれた時、返答に困る。「ここだ!」と言えるポイントを具体的に挙げる事が難しいのだ。見た目には大変地味であり、正直退屈なシーンも多い(竹内結子は美人なので目の保養にはなるが)。何より登場人物や空間を限定している為に画面の変化に乏しく、中盤あたりからは特に退屈だ(この辺にもう少し工夫があれば…)。

映画的な見所で言えばもちろん「泣ける」シーンだと思う。人によってポイントが違うと思うがちなみに僕の「泣ける」ポイントは、彼女の「正体」が判明するシーンだった。完全に「幽霊」だと思い込んでいたので、意表を突かれた。そして驚くと同時に、彼女がどれだけ家族を大切に想っていたか、その想いの強さを知って涙が溢れた。

この映画が『黄泉がえり』やその他の「幽霊モノ」と決定的に違うのは、彼女の存在に”整合性”を持たせている点である。死んだ人の正体が残された夫や息子の身を案じてあの世から現れた幽霊などではないという点が、他の映画と一線を画している最大の理由なのだ。

この映画はいわゆる「恋愛映画」ではない。しかし、「夫に対する妻の愛」「息子に対する母の愛」そして「お互いを思いやる家族の愛」と、あらゆる「愛」に包まれたまぎれもない「愛の物語」なのである。必見!


以下ネタバレ


彼女はあるアクシデントによって、自分の未来を知ってしまったのである。やさしい夫と結婚する事を、かわいい子供が生まれる事を、そして、自分が死んでしまう事を…。もし、違う人と結婚すれば”死の運命”からは逃れる事が出来たかもしれない。”違う未来”を生きる事が出来たかもしれない。

しかし、それでも彼女は選択したのだ。やさしい夫と結婚する事を、かわいい子供を生む事を、そして死ぬまで彼らと一緒に精一杯生きる事を…。たとえ死ぬ事が分かっていても、「素晴らしい家族と暮らす未来」を彼女は選んだのである。彼らと暮らすことこそが、彼女にとって最大の幸福であり、なにものにも代えがたい唯一無二の宝物だったのだ。

そして彼女は決断する。愛する人と、まだ見ぬ我が子にいま、会いにゆきますと…。全てを受け入れた末に決断したのだと知った時、そしてタイトルの意味に気付いた時、もはや溢れ出る涙を抑える術は僕には無かった。

また、エンディングにかかるオレンジレンジ「花」が実にいい!この映画のテーマをそのまんま詞にしたような素晴らしい楽曲である(事実、映画を見てから作詞したらしい)。これを聞いただけで号泣できるほどの勢いであり、まさに至高のラブソングと言うしかない!

主演・竹内結子中村獅童武井証、共演・浅利陽介市川実日子平岡祐太大塚ちひろ、YOU、松尾スズキ小日向文世美山加恋、原作・市川拓司