絶賛公開中(?)の映画『CASSHERN』(キャシャーン)を見て来た。宇多田ヒカルの旦那こと紀里谷和明氏の初監督作品として各方面で話題になった映画だが、同時に賛否両論が巻き起こった事でも記憶に新しい。
まず、いろいろ批判されているビジュアル面を見てみると、これは意外と気にならなかった。確かに背景はCG合成だらけで、フィルターなど画像処理もやたらと多く、「戦闘シーンの描写がまるでマンガだ」など、違和感を感じる点も色々ある。
しかし、それらは限られた予算を最大限に活用する為に効果的に使用されており、むしろいかに「かっこいい絵」を表現するかという監督のこだわりのようなものが感じられ、非常に好感が持てた。特に幻想的な色彩感覚には監督の並外れたセンスを感じる。
ただ、映画全体の感想としてはやはり「面白い」とは言い難い。問題は「テーマの表現方法」にあると思う。『CASSHERN』のテーマは非常に明快で、誰が見ても嫌でも分かる仕組みになっている。その反面、メッセージ色があまりにも強すぎて「うっとおしい」のだ。
特に戦争の記録映像をくどいぐらいダラダラと流したり、登場人物にセリフによって主義主張を延々と語らせるシーンなどは、はっきり言って演出レベルが低いと言わざるを得ない。要するに「言いたい事は分かるがストレートすぎる」のである。
カレー料理に例えれば、ニンジンやタマネギなどは最高級の食材を使いながらも、火が十分に通っていないせいでルーと馴染んでいない、と言った感じだろうか(すなわち、ストーリーとテーマがバラバラなのだ)。
映画として観客に観せる以上、「いかにストーリーにテーマを絡ませ、ドラマとして成立させるか」を考える事が監督の仕事であると思う。しかしながらこの映画では、正直「面白く見せる為の工夫が足りない」としか言いようがない。
後半のクドいシーンを全部カットして2時間以内に納めれば、もう少し見やすい映画になったかもしれないが、そういう意味でも非常に惜しい映画だ。などと辛辣な事を色々書いてしまったが、先にも述べたようにビジュアル面に関しては尋常ではないセンスを持っている監督なので、出来れば次回作ではその才能を存分に発揮し、単純明快な活劇ヒーローアクション映画を作ってくれることを期待したい。
主演・伊勢谷友介、唐沢寿明、麻生久美子、寺尾聡、樋口可南子、小日向文世、宮迫博之、大滝秀治、及川光博、寺島進、三橋達也、要潤、佐田真由美、鶴田真由、りょう、ナレーション・納谷悟郎、絵コンテ・樋口真嗣、主題歌・宇多田ヒカル、監督、脚本・紀里谷和明