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映画『トルク』感想

トルク

この「トルク」を一言で説明すれば、「ワイルド・スピード」のバイク版、という事になる。しかし、単純に車がバイクに変わっただけではない。「スピード感」が圧倒的にパワーアップしているのだ。

とにかくこの映画はただひたすら「スピード感」を描写することのみに、全身全霊を掛けて取り組んでいると言っても過言ではない。しかしその為、ストーリーの方が「多少」薄っぺらくなっている。

いや、はっきり言って「スピード感の為なら、ストーリーなんかどうでもいい!」という開き直りすら感じられる程だ(ある意味「健康の為なら、死んでもかまわん」という本末転倒なロジックにも通じるものがある)。

事実、「トルク」の脚本はかなり穴だらけで、真面目な映画ファンの中には「ご都合主義にも程があるぞ!」と怒り出す人がいるかもしれない。だが、この映画に関しては「ツッコむ」という行為は全く意味を成さないのだ。

なぜなら、全て「分かってやっている」からである。例えば、主人公がある状況に追い込まれた時、ワザと困難な方法を選択する。当然観客は「もっと簡単な方法があるのに…」と思うはずだ。

その疑問に答えるように、主人公が一言。「だって、簡単じゃ面白くないだろ?」また、走っている列車の屋根にバイクで飛び乗る、というとんでもないシーンがある。「そんな、バカな!」と誰もが思うだろう。そのツッコみに答えるように、主人公が一言。「人間、やればできるもんだ」
いや、できるわけねえだろ!

このようにいちいちフォローが入る事からも、もう完全に確信犯と見て間違いない。しまいには、走っているオンロード・バイクが一瞬でオフロード・バイクに「変身」したりするのだから、開いた口が塞がらない(編集でごまかしてはいるが、バレバレだ)。CGを多用した大げさなカメラアングルも、アクションのバカバカしさに拍車を掛けている。

しかも、恐ろしい事にこの「バカバカしい」アクションは後半に行くにしたがってどんどん加速していくのだ!クライマックスにはターボジェット・エンジンを搭載した「Y2K」というバケモノバイクまで登場する。理論上の最高時速は、ななな何と400キロだと!!!!!?(このバイクは実在するらしい)

こいつがロスの街中を爆走するのである!そのスピード感たるや、筆舌に尽くし難い程のド迫力だ!車やビルの窓ガラスを衝撃波で粉々に吹き飛ばしながら、猛スピードでオフィス街を走り抜けるその描写は、もはやリアリティなど完全無視。ジャンルの壁さえ飛び越えSF映画の領域にまで突入している!

「なぜ、時速400キロ近く出しながらコーナーを曲がれるのか!?」などと疑問に思うことすらアホらしくなるほどの衝撃シーンだ(いや、笑激シーンか)。ここまでやると、もう「実写」と呼ぶ事さえ出来ない。完全に「マンガ」である。バイク業界全体に激震が走るほどの物凄いインパクトの前に、抱腹絶倒間違い無し!

さぞかしバイクに思い入れがある監督なんだろうなあと思っていたら、驚愕の事実が発覚。なんとこの監督、バイクの免許を持っていないばかりか、生まれてから一度もバイクに乗った事すらないのだそうだ!ある意味、野球のルールを知らないのに「巨人の星」を描いた川崎のぼるにも匹敵するほどのいいかげんさである。

しかもインタビューでは「今回この映画を撮影して、自分の手足を一生大事にしようと心に誓ったよ。どんな理由があろうとも、生涯バイクにだけは絶対に乗らない(笑)」などと爆弾発言を連発している。自信満々に言い放つその図太い神経には、もはや脱帽するしかない。でも考えてみれば「確かにバイク経験者にはこれほどタガの外れまくった超絶バカアクションは思いつかないだろうなあ」と妙に納得してしまうのだ。

もし貴方が車やバイクに興味があるなら、一見の価値は有る。常識では考えられない「ブッ飛んだ」世界を体験できるだろう。しかし、興味が無ければ見ない方が賢明だ。おそらく、何一つ得られるものは無いと思う。

なにしろ本国では、あまりの評判の悪さに即行で上映が打ち切られたそうだ。かなり以前から予告編が流れていたにもかかわらず、日本公開が延び延びになっていたのは「関係者がビビったからだ」という嘘かホントか分からない噂まで流れた程である。なるほど映画を見れば、そんな噂を疑う余地はどこにもない、と言い切れるほどの酷い内容だ。

しかしそんな事は全く問題ではない。この映画は「観る」のではなく、遊園地のアトラクションと同様「体感」する映画なのだ。そして僕はこのように、バカバカしいことに本気で取り組んでいる映画が大好きだ。もしも世の中に「バカ映画大賞」なるものが存在したら、ダントツで受賞することは間違い無いだろう。僕の中では「本年度最優秀バカ映画大賞」受賞確定の作品なのだ!

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