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宮崎駿監督『魔女の宅急便』はこうして生まれた

■あらすじ『魔女の血を受け継ぐ13歳の女の子キキは、13歳の満月の夜に住み慣れた田舎町を出て、大都会コリコの町に住むことになった。そこで出会ったグーチョキパン店のおソノさんに気に入られ、パン屋の2階で暮らし始める。人力飛行機作りを目指す少年トンボや優しい老婦人、絵描きの女性ウルスラたちとの出会いによって少しずつ成長していく思春期の少女の姿を描いた青春ストーリー!』



本日、金曜ロードショー宮崎駿監督の名作アニメ『魔女の宅急便』が放送されます。この映画は角野栄子さんが書いた児童文学小説を原作としていますが、原作小説の方は1冊だけじゃなくてシリーズ化されてるんですね。

しかも、『魔女の宅急便その2 キキと新しい魔法』、『魔女の宅急便その3 キキともうひとりの魔女』、『魔女の宅急便その4 キキの恋』、『魔女の宅急便その5 魔法の止まり木』、『魔女の宅急便その6 それぞれの旅立ち』など、現在まで計6冊が出版されているのですよ。

ただ、宮崎監督は原作の内容を大幅に再構成し、時にはかなり逸脱することもあったため、当初は原作者の角野栄子さんが不信感を示していたらしい。それを知った宮崎監督とプロデューサーの鈴木敏夫さんは、すぐに角野さんのもとを訪れ、この作品に対する思いなどを数時間にわたって説明しました。

こうした説得の結果、角野さんはジブリでのアニメ化を了承したとのこと。なお、『魔女の宅急便』は2014年に『呪怨』の清水崇監督によって実写映画化されていますが、こちらの方は角野栄子さんの原作小説を元にしたもので、スタジオジブリは一切関わっていないそうです。

魔女の宅急便

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さて、そんな『魔女の宅急便』のアニメ化企画が立ち上がったのは1987年。その頃、スタジオジブリでは『となりのトトロ』と『火垂るの墓』を製作中でした。なので鈴木敏夫プロデューサーが宮崎監督に相談すると、「今『トトロ』で忙しいから、鈴木さん読んでよ」と言われ、鈴木さんが原作を読むことに。

しかし実際に読んでみると、子供向けの本としては素晴らしいものの、どうやって映画化すればいいのか分かりません。悩んだ鈴木さんは宮崎監督に対してこう説明しました。「これ、子供じゃなくて若い女性の話じゃないですかね?」と。

「田舎から東京へ出てきて、一人暮らしを始めた女の人の話なんですよ。適当にお金もあるし、みんなといれば楽しいけど、一人アパートへ帰った時にふと訪れる寂しさみたいなものがある。そこを埋めれば映画になるんじゃないですかね?」と提案したら、「なるほど!それは面白い!」と宮崎監督も興味を示したらしい。

ただ、ジブリでは『となりのトトロ』と『火垂るの墓』で手いっぱい。とても宮崎さんが自分で監督する余裕はありません。そこで、宮崎さんは脚本のみを担当し、監督は『アリーテ姫』や『マイマイ新子と千年の魔法』などを後に手掛ける片渕須直さんが担当することになりました。

そうこうするうちに『となりのトトロ』の作業が終わり、脚本を書くために宮崎さんが原作を読んだのですが、読み終わった途端、「鈴木さんの言ってた内容と全然違うじゃないか!」と激怒。どうやら宮崎さん、本当に「若い女性が東京で一人暮らしする話」だと思い込んでいたようです(笑)。

結局、「責任を取って鈴木さんも手伝え!」と言われたため、シナリオを書く作業に朝から晩までずっと付き合うはめになったという。つまり、クレジットでは「脚本:宮崎駿」となっていますが、実際は鈴木敏夫プロデューサーと一緒に内容を考えたようですね。

例えば、映画のクライマックスで「飛行船からトンボを救う」というスペクタクルなシーンがあるんですけど、原作にも宮崎監督が書いた脚本にもこんなシーンはありませんでした。ところが鈴木さんが「娯楽映画なのに物足りない。最後はお客さんへのサービスとして派手なシーンを入れるべきだ」と注文したため、急遽あのシーンが追加されることになったそうです。

しかし、ここで困った問題が発生。当初は若手監督が初めて手掛ける劇場アニメということで、80分程度の小規模な作品を想定していたのに、鈴木さんが色んな注文を付け加えた結果、100分以上のスケールに膨れ上がっていたのです。

また、作画的にも大変な作業量になることが予想されたため、スタッフの間でも「このシナリオをこのまま映像化するかどうか?」について意見が分かれたらしい(というより、メインスタッフの大半は反対していた)。しかし鈴木さんが「絶対にこのシーンはあった方がいい!」と強引に皆を説得し、最終的にはこの内容で決定しました。

ただ、そうなると映画のスケール的に「若手監督では荷が重すぎる」との判断がなされ、さらにスポンサーからも「宮崎さんに監督してもらいたい」との要望が入り、当初監督する予定だった片渕須直さんは演出補佐に変更。こうして『魔女の宅急便』は、宮崎駿監督の5番目の劇場用アニメーション作品として正式にスタートすることになったのです。

なお、宮崎監督自身はこの映画について、公開から数年後に以下のような感想を述べていました。

魔女の宅急便』って、最初はやる気なかったんですよ。僕自身はもう、『カリオストロ』と『ナウシカ』と『ラピュタ』と『トトロ』をやったら、自分の四角形はできたなと思ったんです。ある時期までやりたいと思っていたものに、一応全部手を出したなという感じで。そのとき密かに、「ここまでやれたらいいや」って思いましたから。だから『魔女の宅急便』では若い監督を立てて、演出を立てて、メイン・スタッフが入って「さあ行きなさい」っていう。シナリオライターまであの時選んだんだよね。(中略)

だから、いざ自分でやるとなると面倒臭い部分はありましたけど、実は大して苦労はしなかったんですよ。まあ予定していた終わり方が崩壊したとかね、そういうのはいつものことだから(笑)。それよりも、どうしてホウキに乗って飛べるんだろうってことの方が重要でしたね。自分が納得できないと飛ばないんだよね。ホウキだけが飛びあがったら股が痛いしねえ(笑)。(中略)

まあ、やるとなったらちゃんとやろうとは思いましたけどね。だけど、映画の作業が終わった時にね、”全力投球じゃなかった”っていう後ろめたさがあったんですね。このくらいの範囲でやればいいんだなっていうことを最初からわかってやってたから、終わった時に自分が暗闇と直面していなかったということに気付いて(笑)、これはちょっと後ろめたかったですね。
(「SIGHT2002年冬号」インタビューより)

なんと、宮崎監督としては『魔女の宅急便』を作る際に「全力投球じゃなかった」というか、本気を出してない感じのコメントを述べているんですねえ。これはちょっと意外でした。映画を観てると全然そういう感じはしないんですが…。なお、別のインタビューでは”『魔女の宅急便』のその後”について次のように話しています。

キキは魔女として生きていけばいいわけだけど、トンボは試験に合格して大学に行って、仕事を見つけなければならない。それが出来て初めて「僕とデートしてください」とキキを誘うことが出来るんです。僕が思うにキキは、おそらく宅急便の仕事を続けながら、色んな人に出会って、毎日を楽しんで、時にはちょっと腹を立てたりしながら生きていくんですよ。キキが配送サービスの会社を起業して社長の座に就くというストーリーなんて、誰も観たくないですよね(笑)。

いや、それはちょっと観てみたいかもw


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