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高畑勲監督『おもひでぽろぽろ』映画製作裏話


■あらすじ『東京でひとり暮らしをしている27歳のOL・岡島タエ子(今井美樹)は、ある日結婚した姉を訪ねて山形へと向かう。その途中、寝台列車で揺れる中、彼女の前には小学5年生の自分が現れ、遠い記憶が溢れ出す。山形に到着したタエ子を迎えに来ていたのは、義理の兄の親戚で有機農業を始めたばかりのトシオ(柳葉敏郎)。農業に興味を持っている彼女は、初めて体験する紅作りに夢中になった。しかしタエ子にとってかけがえのない時間は刻々と過ぎていき…。』


本日、金曜ロードSHOW!高畑勲監督の『おもひでぽろぽろ』が放送されます。劇場公開当時は大ヒットを記録した本作ですが、例によって高畑勲監督の下で働くスタッフは大変な苦労を強いられていたらしい。というわけで、映画の製作裏話をどうぞ。


宮崎駿高畑勲に激怒
この映画は、前作の『火垂るの墓』で「公開日までに間に合わない」という大失態をやらかしてしまった高畑監督のために、宮崎さんが自らプロデューサーを引き受けた企画でした。ところが、肝心の高畑さんは全く興味を示しません。

業を煮やした宮崎さんは鈴木敏夫さんと高畑さんの自宅に押し掛け、「やろうよパクさん!」と必死に説得。それでも高畑さんは「そういう映画を作る意味はあるのだろうか?」などと否定的な意見ばかり並べたそうです。

するとついに宮崎さんが怒りを爆発させ、「いい加減にしろ!やる気がないならないと言ってくれ!」と大激怒。そのまま出て行ってしまいました。あまりの剣幕に驚いたのか、高畑さんは残った鈴木さんと『おもひでぽろぽろ』の打ち合わせを始め、結局この映画をやることになったようです。

その夜、鈴木さんが宮崎さんに「OKもらいましたよ」と連絡すると、「すぐにやるって言えばいいのに、もったいつけて!」とまだ怒っていたらしい。


●トシオは鈴木敏夫だった
映画版では27歳の岡島タエ子が主人公ですが、原作漫画では小学生のタエ子しか出て来ません。当時、高畑監督の娘さんがそれぐらいの年齢だったので思い付いたらしいのですが、「農家の青年」は初期の脚本にも出ていませんでした。

そこで鈴木敏夫さんが「女性の一人旅だと寂しいから、男性キャラと出会わせましょう」と提案。すると高畑監督は「え?そういうもんなの?」と驚きつつ、「農家の青年」というキャラクターを作りましたが、いい名前が思い付かなかったのか、発案者の「トシオ」になったそうです。


●紅花研究に夢中
さて、映画を作るにあたって「山形を取材しよう」ということになりますが、その時点ではまだ何を取材するか決まっていませんでした。ところが、高畑さんはいきなり現地へ出かけ、市の観光課を訪ねたら”紅花農家”を紹介されたので、そのまま訪ねていったそうです。

そこで見た紅花栽培がとても気に入ったらしく、次々と色んな大規模農業を見学させてもらった高畑監督は、すっかり農業にはまってしまったようで、映画の中で重要なモチーフになっていきました。

しかし、あまりにも紅花に夢中になりすぎた高畑監督は、会社に戻ってからも脚本を書かず紅花研究に没頭し続け、しまいには「紅花の栽培方法に疑問点がある。もう一度取材に行かなくては…」などと言い出しました。さすがに鈴木さんも「映画作りの域を超えてますよ!」と呆れ果てたそうです。


●『ひょこりひょうたん島』の歌を聴きたい
おもひでぽろぽろ』には『ひょこりひょうたん島』の「トラヒゲとドン・ガバチョの歌」が流れるシーンがありますが、高畑監督は聴いたことがありませんでした。しかし、放送当時はビデオ素材を保管する慣習がなく、NHKにも録画が残っていなかったそうです。

レコード会社に問い合わせてもダメ。ついには作曲家の自宅まで出かけて探してもらいましたが、どうしても見つかりません。鈴木さんも諦めて「高畑監督、どこにも無いです」と報告すると、「聴きたいんですよ」と一言。こうなるともう、見つかるまで終われません。

そこで鈴木さんは、編集長を務めていた「アニメージュ」のネットワークを駆使して、全国のマニアから情報を収集(もちろんインターネットなど無い時代に)。すると、わずか3日で歌を録音したカセットテープが見つかったそうです。マニアの情報網、恐るべし!


●日本人の顔をアニメで描く
おもひでぽろぽろ』は高畑監督のこだわりで様々な表現方法が試されていますが、中でも一番大きな課題は、「日本人のキャラクターの顔を立体的に描く」ということでした。宮崎監督のアニメはいわゆる「漫画っぽいキャラクター」ですが、高畑監督は同じ方向に行きたくない。

そこで考えたのが、顔の立体感にこだわった「リアルなアニメーション」だったのです。しかし、これは技術的に非常に難しく、現場のアニメーターからも苦情が殺到しました。誰もやったことがない試みだったため、作画の負担が大き過ぎたからです。


宮崎駿高畑勲に激怒(その2)
思考錯誤しながら作業を続けていると、案の定スケジュールはどんどん遅れていきました。すると宮崎さんが再び大激怒。「こんなやり方を続けていたら、いつまで経っても終わらないぞ!」とスタジオ中に響き渡る大声で怒鳴り散らしたのです。

これに驚いたスタッフたちは「何としてでも公開日に間に合わせなくては!」と焦りまくり、この日から急に作業のスピードがアップしました。なお、宮崎監督はあまりにも大きな声を出し過ぎたせいで、この後、三日間も眠れなかったらしい。

結局、『おもひでぽろぽろ』は無事に公開日までに完成し、全国で大ヒット。しかも予想を大幅に上回る観客動員数を見て「数が多すぎる!一桁間違えてるんじゃないのか?」と東宝社内が大騒ぎになるほどの好成績だったそうです。


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