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押井守監督の本 『映画の正体 続編の法則』を読む

押井守監督

押井守監督


どうも、管理人のタイプ・あ~るです。
まだまだ暑い日が続いていますが、皆さんいかがお過ごしでしょうか?

さて先日、押井守監督の『映画の正体 続編の法則』という本を買いました。

押井守といえば、『機動警察パトレイバー』や『攻殻機動隊』など数々の優れたアニメーション作品を生み出し、海外でも高い人気を誇っている映画監督ですが、”無類の映画好き”としても知られています。

学生時代は映画研究会に所属し、「1年間で1000本以上の映画を観まくった」と豪語するほど映画マニアの押井さんは、過去にも映画に関する本をいくつか出してるんですよ。

そのうちの一つに押井守の映画50年50本』という書籍があり、これは「1968年から2017年の約50年間に公開された映画の中から押井監督が50本を選んで語りまくる」というコンセプトでした(非常に面白かったです)。

そして今回購入した『映画の正体 続編の法則』という本は、なんと『映画50年50本』の”続編”という位置付けで、内容の方も「続編映画について語る」というコンセプトなんですね。

考えてみれば押井監督自身も『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』や『機動警察パトレイバー2』や『イノセンス』など続編映画を数多く手がけているので、続編を語るには適任と言えるでしょう。

しかし、押井監督が語るわけですから当然「単なる映画解説本」ではありません。有名な映画監督を一人ずつ取り上げ、その監督が撮った続編映画について話しつつ、「どういう意図で続編を撮ったのか?」「続編としての評価は?」など、押井さんの評論を交えながら詳細に語りまくっているのです。

例えば、第1章では押井さんの大好きなリドリー・スコット監督を取り上げ、『エイリアン』シリーズの前日譚となる『プロメテウス』と、その続編『エイリアン:コヴェナント』について徹底解説。

さらに『ブレードランナー』の続編『ブレードランナー 2049』は、直接リドリー・スコットが監督していないものの、製作総指揮として作品に関わっており、これについて「なぜリドリーが自分で撮らなかったのか?」という部分も含めて詳しく考察してるんですよ。

その他、ジェームズ・キャメロンクリストファー・ノーランザック・スナイダーマイケル・ベイスティーブン・スピルバーグなど、様々な監督の続編映画について押井守独自の視点で語っているのが面白い。

ちなみにジェームズ・キャメロン監督といえば、『エイリアン2』や『ターミネーター2』、脚本だけですが『ランボー2』など、「続編映画に手慣れている」というイメージがあるかもしれません(間もなく『アバター2』も公開予定)。

ところが押井監督は「サー(リドリー・スコット)は続編を撮る時も自分のテーマを押し出しているけれど、キャメロンはビジネス上の成功を優先し、個人的なテーマを表現することに情熱がない」とバッサリ。

これは言い換えれば”作家性”ということなんでしょうけど、要は「キャメロンの映画には”キャメロンらしさ”が足りない」「突き抜けた”何か”が無ければ映画は小ぶりになってしまう」と指摘しているのです(なかなか厳しい…)。

ただし「『アバター』の映像表現は非常に素晴らしく、プロデューサー的な思考も優れているのでヒット作を次々と生み出すことが出来る」など、そういう面は評価している模様(「作品的な成功」と「興行的な成功」の話も興味深い)。

というわけで、膨大な映画の知識や蘊蓄を駆使した押井守監督の映画論に興味がある方はぜひどうぞ。

 

『ジュラシック・ワールド 新たなる支配者』は面白い?つまらない?ネタバレ感想

ジュラシック・ワールド 新たなる支配者

ジュラシック・ワールド 新たなる支配者


どうも、管理人のタイプ・あ~るです。

さて、全国の映画館で絶賛上映中のジュラシック・ワールド 新たなる支配者』を観て来ました。

本作は2018年に公開された『ジュラシック・ワールド 炎の王国』の続編であると同時に、1993年の『ジュラシック・パーク』から約30年にわたって描き続けられてきた長大な物語を締め括る”完結編”でもあります。

そのため、過去作に登場したアラン・グラント博士(サム・ニール)やエリー・サトラー博士(ローラ・ダーン)、イアン・マルコム博士(ジェフ・ゴールドブラム)らが再び集結し、オーウェンクリス・プラット)やクレア(ブライス・ダラス・ハワード)たちと共に襲い来る難題に立ち向かうのですよ。

正直、この展開は燃えますよねぇ!なんせ前シリーズ(JP)の主人公と現シリーズ(JW)の主人公がタッグを組んで戦うわけですから、ファンなら興奮しないはずがありません。当然ながら日本でも大ヒットを記録し、現時点で累計観客動員269万人、興行収入は40億円を突破しているそうです。

ジュラシック・ワールド 新たなる支配者

ジュラシック・ワールド 新たなる支配者

だがしかし…

先に公開されたアメリカではイマイチ評判が良くないようで、オープニング成績は『ジュラシック・ワールド』や『炎の王国』に及ばず、新3部作の中では最低の数字となってしまいました。

また、批評集積サイト「ロッテン・トマト」でも評論家の評価はわずか30%で、前作『炎の王国』の47%や1作目(『ジュラシック・ワールド』)の71%を大きく下回る結果となっています(ただし観客からの評価は77%とまあまあ高い)。

そして日本での評価もやや微妙というか、賛否両論が巻き起こっているのですよ。一体なぜ?

前作『炎の王国』のラストでメイジー(イザベラ・サーモン)が恐竜を外に逃がし、イアン・マルコム博士の「新時代が始まる」「未知の驚異の幕開けだ」「ようこそ、ジュラシック・ワールドへ」というセリフで物語は終了しました。

ジュラシック・ワールド 炎の王国

ジュラシック・ワールド 炎の王国

このシーンを観た時に僕はグッときたんですよね。「なるほど!ここから本当の『ジュラシック・ワールド』が始まるのか!」と。

1作目(JW)の時点ではテーマパークの名前が「ジュラシック・ワールド」だったので、普通に前シリーズ(『ジュラシック・パーク』)と同じような意味なんだろうと思ってたんですが、そうではなかったことがここで判明するわけです。

そして次の3作目では、恐竜たちが跋扈する世界(ワールド)で人類はどのように生き延びるのか?恐竜と人間の生存を懸けた激しい戦いが繰り広げられるのか?あるいは恐竜同士の壮絶なバトルが見られるのか…?などとワクワクした人も多かったことでしょう。

ところが、『新たなる支配者』はそういう映画ではありませんでした。いや、恐竜と人間が絡む派手なバトルシーンはもちろん沢山あるんですけど、ちょっと思ってたのとは違うんですよねぇ。

ジュラシック・ワールド 新たなる支配者

ジュラシック・ワールド 新たなる支配者

たしかに世界中で恐竜が繁殖しているものの、「未知の驚異の幕開け」などと言ってた割には今までとそんなに状況が変わってないような…。主人公たちは普通に山小屋で暮らしているし、少なくとも「人類はもうお終いだぁ~!」みたいな絶望感はありません。

しかも、後半はルイス・ドジスンCEOが設立した保護施設「バイオシン・サンクチュアリ」へと舞台が移り、「閉鎖された空間の中で主人公たちが恐竜に襲われる」という、いつも通りの展開になっていくわけですよ。

これにはガッカリした人が多かったらしく、「結局いつもと同じじゃん!」という批判も見受けられました(『炎の王国』のラストから一気にスケールアップするのかと思ったら、最終的には狭い場所に戻って来るためスケール感はあまり変わってない)。

「変わってない」といえば、映画冒頭の映像とラストの雰囲気がほぼ同じという点も気になりましたねぇ。要は、最初に「こういう問題が起きている」という場面を見せ、本編でそれを解決し、最後に「結論」を見せる…という描写のはずなんですが、「ビフォー」と「アフター」がほとんど一緒なんですよ。

なぜかと言うと、恐竜よりもイナゴの方が大きな問題として扱われているからです。

ジュラシック・ワールド 新たなる支配者

ジュラシック・ワールド 新たなる支配者

本作のあらすじは、突如として大量発生した巨大なイナゴが穀物を食い荒らし、世界の食料事情に大変な影響が出始め、その原因がバイオシン社にあるのでは…と疑念を抱いたエリー・サトラー博士がグラント博士と共に調査に乗り出す。

一方、オーウェンとクレアたちは誘拐されたメイジーを救い出すためにマルタ島でカーチェイスしたり、飛行機でバイオシン社の施設(サンクチュアリ)へ向かったり、あちこちで冒険を繰り広げる…というストーリーになっています。

つまり、本作の主人公たちの”目的”は恐竜に関することではなく、あくまでも”イナゴ退治””メイジーの救出”が最優先事項なんですよ。

なので、ラストに「何となくいいことを言ってるような雰囲気のナレーション」を流して映画が終わっても、「いやいや!”イナゴの問題”をどうにかしただけで、恐竜に関しては何も解決してないやん!」としか思わなかったんですよねぇ。

これでは「結局、”新たなる支配者”ってイナゴのことだったの?」「恐竜を中心にした話を見せろよ!」みたいな批判が出るのも当然かもしれません。

そもそも、ドジスンCEOの計画があまりにもガバガバすぎて「絶対にバレるだろ!」と(バイオシン社の農作物だけがイナゴの被害に遭わない時点でエリー以外の人でも「怪しい」と思うに決まってるでしょw)。

ジュラシック・ワールド 新たなる支配者

ジュラシック・ワールド 新たなる支配者

このように、『ジュラシック・ワールド 新たなる支配者』はシリーズの集大成であるにもかかわらず、「恐竜と人間の共存」という主題に対してはっきりした結論を出すこともなく、巨大イナゴを退治して取り敢えずめでたしめでたし…みたいな終わり方になっていたのが何とも言えずモヤモヤしました。

しかし、一体なぜこんなにイナゴが目立ってしまったのか?というと、実は理由があったようで…。

コリン・トレヴォロウ監督によると、「前のシリーズではマルコム博士がメインの話(JP2)やグラント博士がメインの話(JP3)はあったが、エリー・サトラー博士がメインの話はなかった」「そこで今回は古植物学者のエリーの活躍を描くために、まずイナゴに関するストーリーから着手したんだ」とのこと。

”イナゴ”というのは恐竜の時代から生き続けている生物で、そのイナゴが食い荒らす農作物を見た古植物学者のエリーが巨大企業の陰謀に気付く…という流れから始まり、最終的には全ての要素が組み合わさって物語を構築できると考えたらしい(以下のインタビュー記事より↓)。

realsound.jp

つまり、たまたまイナゴの出番が多くなったんじゃなくて、意図的に「イナゴがメインの話」を作ってたんですね。いや~、コリン・トレヴォロウ監督、いくら「オリジナルの”レガシーメンバー”に敬意を払いたい」と言ってもそれはちょっと…

まぁ新種の恐竜がいっぱい登場するし、カーチェイスやバイクチェイスなど派手なアクションシーンも満載で、決して「つまらない or 退屈な映画」ではありません。あらゆる場面がファンサービスに満ち溢れ、むしろ娯楽映画としての満足度は非常に高いと言えるでしょう。

ただ、イナゴの印象が強すぎて「30年近くに及ぶジュラシック・シリーズの集大成がこれ」と言われたら、正直「納得しかねる」という気持ちの方が大きいんですよねぇ(エンディングに例のテーマ曲が流れなかったのもガッカリ。流すでしょ普通、最後なんだから…)。

というわけで、『ジュラシック・ワールド 新たなる支配者』は単体の映画として観ればそれなりに面白いものの、シリーズ全体を総括する映画として観た場合は「そりゃあ賛否両論になるだろうなぁ」と思いました(笑)。

 

『ドランクモンキー 酔拳』はこうして生まれた!驚きの制作秘話

ドランクモンキー 酔拳

ドランクモンキー 酔拳


どうも、管理人のタイプ・あ~るです。

さて先日、若手時代のジャッキー・チェンは主演映画が全くヒットせずに苦労したものの、『スネーキーモンキー 蛇拳が当たったことでようやく念願のブレイクを果たす…という記事を書きました(詳しくはこちらをどうぞ↓)。

type-r.hatenablog.com

しかし『蛇拳』の大ヒット以降、やっと映画の仕事が順調に回り始めるのかと思いきや、とんでもない災難が降りかかることに…!

というわけで本日は、みんな大好き『ドランクモンキー 酔拳が出来るまでのエピソードを書いてみたいと思います。


1978年当時、ジャッキー・チェンロー・ウェイ監督の事務所と専属契約を結んでいましたが、公開する映画はことごとく大コケ。なので、ロー監督は『蛇拳』がヒットする直前までジャッキーのことを全く評価していませんでした。

そして、「こんな赤字ばかり出すような俳優はいらん!」「他の会社に貸し出した方がマシだ!」と考え、ユエン・ウーピン監督にレンタルしてしまったのです。ところが、貸し出して作った『蛇拳』がまさかの大ヒット!

その途端、急に手の平を返して「いや~、すごいねジャッキー!」「やはり君は才能があると思っていたよ!」などと褒めまくり、突然ギャラを6倍に上げたり、高級なスーパーカーをプレゼントしたり、あからさまに「スター扱い」し始めたのですよ。

それを見てジャッキーは「なんて現金なタヌキオヤジだ…」と呆れ果てたものの、まだ映画数本分の契約が残っていたので無視するわけにもいきません。

ドランクモンキー 酔拳

ドランクモンキー 酔拳

一方、『蛇拳』の大ヒットに大きな手応えを感じたプロデューサーとユエン・ウーピン監督は、すぐさま”続編”を作ろうと考えました。それが『ドランクモンキー 酔拳』です。

ただ、”続編”とはいっても表向きの話で、当時は盗作を警戒して”『蛇拳』第2弾”という仮タイトルのまま企画を進行させていたようです(本当のタイトルは公開直前まで伏せられていた)。

そこで2人はロー・ウェイ監督に「もう一度ジャッキーを貸して欲しい」と頼みに行ったのですが、なんと「ダメだ」と拒否されてしまったのですよ。

ロー・ウェイ監督としては、いくら『蛇拳』がヒットしても自分の事務所にはレンタル料(6万香港ドル)しか入って来ないし、そもそもジャッキーは自社の俳優なのだから「せっかく売れ始めたこのチャンスを逃すわけにはいかない」「自分でジャッキー主演の映画を作って大儲けしてやる!」と考えたのでしょう。

早速、『拳精』というカンフー映画の企画を立ち上げ、1978年の4月から台湾で撮影を始めてしまいました。

『拳精』は、「少林寺で暮らす主人公(ジャッキー・チェン)が、隕石の衝突により出現した5人の妖精たちから伝説の拳法”五獣拳”を学ぶ」というストーリーで、今までロー・ウェイ監督が撮ってきたシリアス路線ではなく、ジャッキーの明るいキャラクターを活かしたコメディ映画です。

しかし、ジャッキーの方はすでにロー・ウェイ監督のもとで映画を作ることに何の魅力も感じておらず、1日も早くユエン・ウーピン監督と『ドランクモンキー 酔拳』を作りたいと思っていました。

そのため、撮影現場では何度もロー・ウェイ監督と激しい口論を繰り広げ、ついには新聞で取り上げられるほど両者の関係は悪化していったそうです。

挙句の果てにはジャッキーが韓国での撮影を拒否したためロー・ウェイ監督が激怒!互いに口も利かないほど険悪なムードになってしまいました(なお、韓国公開版では韓国人女優の玄愛利がもう一人のヒロインとして登場し、なんとジャッキーとのキスシーンまであるらしい)。

ドランクモンキー 酔拳

ドランクモンキー 酔拳

結果的に『拳精』は、ロー・ウェイ監督が撮ったジャッキー主演映画の中では最大のヒット作になったものの、ジャッキー自身は「ユーモアの大半は下品で特撮もチープ」「白塗りのオバケが出てきたり、僕がオシッコをひっかけたり、とにかく酷い映画だ」「どうしようもない失敗作」などと徹底的に批判しています(撮影中よっぽど嫌なことがあったんでしょうねぇ…)。

一方、ユエン・ウーピン監督とプロデューサーは何とかしてもう一度ジャッキー主演の映画を作るために、『拳精』の撮影中も粘り強くロー・ウェイ監督と交渉を重ね、どうにかレンタル契約が成立!再びユエン監督たちの会社「シーゾナル・フィルム」と組むことが決まりました。

ところが、ようやく『拳精』の撮影が終わりに近づき、『ドランクモンキー 酔拳』の撮影に入れるかと思ったら、なんとロー・ウェイ監督は間髪を入れず次の映画(『龍拳』)の撮影を始めてしまったのですよ。

『龍拳』では、『拳精』のコメディ路線とは打って変わって再びロー・ウェイ監督お得意の”シリアスな復讐劇”に逆戻りしました(どうやらコメディに手応えを感じなかったらしい)。

この映画に関してはジャッキーもそれほど酷評しておらず、「ストーリーは悪くない」「もしブルース・リーが演じていれば成功したかもしれない」と語っていますが、当時は一刻も早く『酔拳』を撮りたいと苛立っていたため、さっさと撮影を終わらせることしか考えていなかったようです。

また、ユエン・ウーピン監督も「『蛇拳』のヒットの熱が冷めないうちに続編を公開したい」との思惑があり、とうとうジャッキー・チェンをめぐって激しい駆け引きが勃発!なんと、『拳精』(台湾ロケ)と『龍拳』(台湾・韓国ロケ)の間を縫うように、無理やり香港で『酔拳』の撮影を開始したのです。

つまりこの時期(1978年4月~9月頃)のジャッキーは、3本の映画をほぼ同時進行で撮影するという超ハードスケジュールをこなしていたのですよ(両方の監督がジャッキーを奪い合うような状態で、ジャッキーは台湾・韓国・香港を飛び回っていた)。

あまりにも過酷な撮影の連続に、当時のジャッキーは「もう辞めて帰りたい!」といつも現場で嘆いていたそうですが、後にその頃を振り返って「あのとき苦労したおかげで今の僕がいる」「自分を褒めてあげたい」と語ったそうです。

そんな厳しいスケジュールに加え、ユエン・ウーピン監督もジャッキーも「アクションに関しては絶対に妥協しない」という強いこだわりを持っていたのだからたまりません。真夏の猛暑の中、1カットのアクションシーンを撮るのに何度も何度もリテイクを重ね、ただでさえ過酷な撮影がますます大変な状況になっていきました。

ドランクモンキー 酔拳

ドランクモンキー 酔拳

そんなある日(連日ほとんど睡眠もとらずに撮影を続けたせいなのか)、ジャッキーが眉骨を骨折するという事故が発生!すぐに病院へ行って治療したので大事には至らなかったものの、10日間の撮影中断を余儀なくされたのです。

しかも、ケガが治った途端に再びロー・ウェイ監督に連れ去られたため『酔拳』の撮影は全くできなくなり、ようやく『龍拳』の撮影が終わってジャッキーが解放される頃にはもう9月になっていました(ちなみに、『龍拳』の映像をよく見るとケガのあとが映っている)。

ジャッキーが解放されたことで、とりあえずユエン・ウーピン監督は「これでやっと『酔拳』の撮影に専念できる!」と喜んだものの、映画の公開日は9月23日に決定しており、もはや一刻の猶予もありません。

大急ぎで撮影を再開して昼夜を問わず突貫作業でカメラを回し続け、ついにクランクアップ!休む間もなく編集作業に突入し、ようやく映画が完成したのは公開日の前々日でした(ギリギリ間に合ったw)。

こうして出来上がった『ドランクモンキー 酔拳』は、『蛇拳2』という仮のタイトルでプロジェクトを進めていたにもかかわらず、全然『蛇拳』とは関係ない内容に仕上がっています。

本作でジャッキーが演じたウォン・フェイホン黄飛鴻というキャラクターは実在の人物で、1859年~1870年頃に活躍した武術家です(南派少林拳の一派である「洪家拳」の達人として動乱時代の中国の治安維持に貢献した)。

中国では1940年代から何度も繰り返し映画化され、同じキャラクターを題材にした映画作品としては世界最多でギネスブックにも登録されているらしい(ジェット・リー主演のワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ』シリーズなども有名)。

ただし、多くの作品が「風格があって正義感の強い高潔な武術家」としてウォン・フェイホンを描いているのに対し、ジャッキーが演じたフェイホンは「修行が嫌いで毎日悪友たちと遊び惚けているダメな若者」というキャラクターでした(まぁ修行を経て徐々に成長していくんですけど…)。

これは完全に従来のウォン・フェイホンのイメージを覆すような設定であり、当時は驚いた人たちもいたでしょう。

しかし、ジャッキー・チェンが演じることでこのキャラクターが実に生き生きと魅力的に見え、多くの観客の心を掴んだのです。しかも当時24歳のジャッキーが繰り出す超人的なアクションの数々はどれもキレキレで抜群にカッコよく、後にテレビで放送された時には日本中の小学生たちがマネするほどでした(いやホントにw)。

最近はこういうカンフー映画をテレビで見る機会は滅多にありませんが、先日TOKYO MXで『ドランクモンキー 酔拳』が放送された際、SNSに「3歳の娘が夢中になって観てる!」みたいな反応がいくつか流れて来て「ああ、いつの時代もジャッキーは子供に人気があるんだなぁ」とほっこりしましたよ(笑)。

また、この映画は監督がユエン・ウーピン、主演がジャッキー・チェン、師匠がユエン・シャオティエン、ラスボスがウォン・チェンリーなど、『蛇拳』のスタッフやキャストがほぼそのまま継続している点もポイントです。

同じメンバーが再集結したことで「互いのやり方に慣れているメリット」を活かすことができ、撮影の効率が大幅にアップ!だからこそ、タイトなスケジュールにもかかわらず、非常にクオリティの高い作品を作ることができたのでしょう。

ちなみに、道場の師範代役で出演しているディーン・セキは『蛇拳』と『酔拳』だけでなく、『拳精』や『カンニング・モンキー 天中拳』、『クレージーモンキー 笑拳』などでもジャッキーと共演していて、さらに『燃えよデブゴン』シリーズにも出ている「カンフー映画ではお馴染みの人」です(どの映画でもだいたい似たような役をやってるw)。

ドランクモンキー 酔拳

ドランクモンキー 酔拳

そして本作最大の見どころとなる”酔拳”の描写について。”酔拳”という武術自体は実在するんですけど、本作で繰り出される技の数々はほとんどユエン・ウーピンやジャッキーが考えたオリジナルであり、「酔えば酔うほど強くなる」という拳法もありません。にもかかわらず、まるで実在するかのようなもの凄い説得力!

ベースになったのは洪家拳の技の一つ「酔酒八仙」(劇中では「酔八拳」)で、他にも「還魂飽鶴」や「四平大馬」など実在する技にアレンジを加え、ジャッキーたちが現場で試行錯誤しながら独創的なポーズを次々と生み出していったそうです(こういうこだわりが技に説得力を与えたのでしょう)。

それから、逆さ吊りのジャッキーが大きな壺からお猪口で水をかき出したり(腹筋を鍛えるため)、竹の棒で両腕を固定したままカンフーの型を練習させられたり、奇想天外な修行シーンもすごいインパクトでしたねぇ(さすがにこの辺は小学生もマネできなかった模様w)。

ドランクモンキー 酔拳

ドランクモンキー 酔拳

これら伝統的なカンフー武術と、京劇出身のジャッキーが得意な”アクロバット・アクション”を組み合わせた『ドランクモンキー 酔拳』は、公開されるや『蛇拳』の倍以上となる676万香港ドルを叩き出し、歴代香港映画で第4位の興行成績を樹立!

さらに日本を含めたアジア各国でも爆発的なヒットを記録し、本作をきっかけに「香港を代表するアクション・スター」としてジャッキー・チェンの名前が世の中に知れ渡ったのです。

ちなみに、当時のカンフー映画は予算不足でオリジナルの楽曲を作れなかったため、既存の曲を勝手にBGMとして使うことも珍しくありませんでした(もちろん著作権的にアウトですがw)。

そこで、『ドランクモンキー 酔拳』を日本で公開する際に、配給元の東映が独自に主題歌を制作。それが「拳法混乱(カンフージョン)」です。

四人囃子」というロックバンドが歌うこの曲は、日本公開版の『酔拳』で使用され、明るく軽快なメロディーがドラマを大いに盛り上げました。

この曲を作った佐久間正英さんは、BOØWYTHE BLUE HEARTSエレファントカシマシGLAYJUDY AND MARYなど、数多くのミュージシャンをプロデュースしている凄腕の音楽プロデューサーですが、「四人囃子」のメンバーとして活動していた時に東映から『酔拳』の主題歌を依頼されたらしい(以下、佐久間さんのコメントより↓)。

東映さんから主題歌の依頼をいただいて、試写室で映画を観せてもらいました。とにかく、1回観ただけでジャッキーのファンになりましたね。それまでには考えもつかないようなカンフー映画であり、スピードのある笑いを作り上げていたと思います。

楽曲作りに関しては、明るく楽しく、かつシリアスでもある映画だったので結構苦労しました。一生懸命な前向きさが出せるような曲にしようと悪戦苦闘でしたね。しかも「拳法混乱」のレコーディングの前日に交通事故に遭ってしまい、軽いムチウチ症で首にギプスをしたままスタジオに入ったんですよ。演奏に苦労したのを覚えています。

講談社ジャッキー・チェン最強伝説」より)

その後、『ゴールデン洋画劇場』で放送された際はこの日本公開版がオンエアされたのですが、ビデオやLDやDVD等は香港公開版で発売されたため、多くのファンは「あの曲が無いなんて…」と不満を感じていたらしい。

しかし、制作35周年記念で発売されたブルーレイBOXに特典映像として「ゴールデン洋画劇場の日本語吹き替え版ディスク」が収録され、「やっとカンフージョン付きの酔拳が観れる!」とファンも歓喜したそうです。

というわけで、本日は『ドランクモンキー 酔拳』にまつわる様々なエピソードをご紹介しました。この映画が日本で公開されてからすでに40年以上経ちますが、アクション映画はもちろん、アニメや漫画やゲームなど数え切れないぐらい多くの作品に影響を与えたことを考えると、改めて「本当にすごい!」と驚かざるを得ませんね。