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『機動警察パトレイバー2 the Movie』について色々書いてみた(「戦車」「松井」「銃」「犬」など)

機動警察パトレイバー2 the Movie

機動警察パトレイバー2 the Movie


どうも、管理人のタイプ・あ~るです。

さて先日、機動警察パトレイバー2 the Movieに関する記事を書いたら思いのほか長くなってしまったため途中で一旦終了、本日はその続きです(前回の記事を読んでない方はこちらをどうぞ↓)。

type-r.hatenablog.com

前回は、「自衛隊に治安出動が発令されて特車2課が食品の買い占めに走る」という辺りまでだったので、今回はその後の出来事について書いてみますよ(なお、言うまでもなくネタバレしているため未見の方はご注意ください)。


●日常の中にある戦車

機動警察パトレイバー2 the Movie

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自衛隊の治安出動発令」という前代未聞の事態に陥った東京を描写する際、子供たちが歩いている歩道橋や平凡なオフィス街など、見慣れた風景の中に当たり前のように戦車が入り込んでいる違和感を描くことで、日常と非日常を見事に対比させています。

”戦車”は、”犬”や”鳥”などと同様に押井監督お気に入りのモチーフで、『うる星やつら』や『天使のたまご』など様々な作品に登場していますが、数の多さでは『パト2』が一番でしょう(本作のために戦車学校の校長に取材するなど、戦車について調べまくったとか)。

なお、東京の市街地に戦車を配置した理由について、押井監督は以下のように語っています。

僕の持論は「戦車は市街戦にこそ映える」。なぜかというと、悪役感がアップするから。戦車って、街を走っている姿が最も凶悪なんですよ。

(「シネマの神は細部に宿る」より)

確かに、街の中に存在する戦車はそれだけで威圧感がありますからねぇ(そういえば宮崎駿監督も『ルパン三世』などでやってたような…)。そして同時に、現実の風景が一気に非現実化していく効果も狙っているのでしょう。

ちなみに、押井監督の戦車好きはアニメだけにとどまらず、『アヴァロン』では旧ソ連T-72『ガルム・ウォーズ』でも天使のたまごに出て来た戦車を実寸大で作って登場させました(『アヴァロン』の時は、休憩中にT-72に乗せてもらって大喜びしていたらしいw)。

また、2012年にTVゲーム重鉄騎のプロモーションムービーを依頼された押井監督は、わざわざポーランドまでロケに行って本物の戦車(T-55)を撮影し、「僕は戦車を撮ったり戦車に乗れたりするのであれば、あらかたのことは我慢できるんですよ(笑)」と大満足だった模様。

さらにガメラ2 レギオン襲来でも、当初は押井監督が自衛隊の戦車を撮影する計画だったのですが、諸事情により断念。後に『ガメラ2』を観た押井さんは金子修介監督と対談した際に、「戦車が美しく見えるアングルをことごとく外している」「戦車に対する愛が足りない」などと不満を訴えたそうです(笑)。

●松井刑事はなぜ危険な捜査を続けるのか?

機動警察パトレイバー2 the Movie

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敵のアジトと思わしき建物に忍び込む松井さん。「器物破損、住居不法侵入、たぶん窃盗…もしかしたら暴行傷害。警察官のやることじゃねえなあこりゃあ」などと言いながら金網フェンスを切断していますが、違法な行為と分かっているにもかかわらず、どうしてここまでやるのでしょうか?

本編では詳しく描かれていませんが、どうやら後藤さんに(「まさか潜り込めってんじゃないだろうね?」の辺りで)上手く丸め込まれたらしく、それについて押井監督は以下のように説明しています。

松井は(アジトに侵入する前に)後藤に説得されてるんですよ。説得というよりは追い込まれているだけですが、「このままだったらとんでもないことになるんだよ。自衛隊が出て来た時点で警察の負けなんだ。アンタ警察官としてそれでいいわけ?それでもいいんだったら俺もやめるけど」って。そんなこと言われて「じゃあやめるわ」なんて言えるわけありません。

松井は完全に仕事人間です。そういう仕事人間は「やめてもいいんだよ?」と言われれば絶対に反発します。「そこまででいい。お前はこの事件(ヤマ)から手を引け」と言われて本当にやめてしまう刑事ドラマはありません。「これは俺のヤマだ!」と必ず反発します。「俺のヤマ」というのは完全な思い込みなんだけど、そういうふうに思い込んだ時点で、実は後藤のような人間に絡め取られてるんですよ。

(「仕事に必要なことはすべて映画で学べる」より)

もともと松井さんは「出世に興味がなく、現場で働くことに何よりも生きがいを感じる昔気質(むかしかたぎ)な刑事」というキャラクターですが、そういう性格を知り尽くしている後藤さんに上手く利用されてたんですねぇ(泣)。

●電話で柘植と会話する南雲

機動警察パトレイバー2 the Movie

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実家へ戻った南雲さんは母親から渡された番号に電話をかけます。その相手は…

「元気そうだな」

柘植行人の声を演じたのは俳優の根津甚八さんですが、押井監督はこのセリフを聞いた瞬間に「根津さんを呼んでよかった」と思ったそうです。

しのぶが電話してきて、「元気そうだな」ってセリフで、離れて暮らしてるわけだからバーッと3年間が見えてこなければいけないわけですよ。僕は根津さんだったらOKだろうと思ってたんですけど、やっぱり根津さんが実際にそのセリフを当てた瞬間、現場のみんなが「ああっ、さすがだね!」っていうふうになったんだよね。

それは、違う世界で場数を踏んだ役者さんじゃないと難しいんですよ。その時は本当に根津さんを呼んでよかったと思いましたね。出会い頭の一言で、柘植というキャラクターを掴んじゃった。そういう力がもの凄くある人でしたね。

(「アニメージュスペシャル GAZO VOL.1」より)

また、このシーンの南雲さんは普段は結んでいる髪の毛をほどき、表情もぐっと女性らしく描かれています。そういうところも注目ポイントでしょう。

●南雲の母の後ろ姿

機動警察パトレイバー2 the Movie

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南雲さんが柘植と電話で話している時、チラッと母親の後ろ姿が映るんですが、何をやっているのかよく分からなかった人がいるかもしれません。

実はこれ、親子電話を使って南雲さんと柘植の会話をこっそり盗み聞きしているシーンなんですね。押井監督によると「ロマン・ポランスキー的な怖さもあるが、このカットでは水槽を見せることがポイントになっている」とのこと。

確かに、よく見ると部屋の奥に水槽があって魚が泳いでるんですが、果たしてこれにはどんな意味が…?何だかますます怖いですねぇ…

なお、押井監督は「しのぶさんの家には父親の姿がなく、母親は出て来るけど後ろ姿しか描かれていない(敢えて顔を見せない)」と述べており、その辺にも何らかのメッセージや思惑があるようです。

●ガラスに映る南雲

機動警察パトレイバー2 the Movie

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柘植と会うために車で現場まで向かった南雲さんがグローブボックスを開けると、内部の明かりでフロントウィンドウに一瞬だけ顔が映るシーン。押井監督によると、絵コンテでは反射した顔までは指示してなかったそうです。

コンテ段階では想定していなかったのですが、レイアウト作業時に演出家がレイアウトマンと相談して付け加えた効果です。こういったアイデアが後から生まれ、実行できるのがレイアウト作業の大きな魅力であり、醍醐味でもあります。

(「Methods パトレイバー2演出ノート」より)

この”映り込み”を提案したのは、長年押井守作品に演出家として参加している西久保利彦さんで、「映り込みは『パト2』の表面的なテーマの一つだった」「リアルな映像を作るというよりも、実写ならば当然そのように見えるはずのものを作画で見せている」「当たり前のことを当たり前にやっているだけ」とのこと(描く方は大変ですけどw)。

この効果は、南雲さんがドアを開けた瞬間に室内灯に照らされて窓ガラスに姿が映る場面でも使われていますが、歪んだ形のまま人物を動かすのは作画的に極めて難しく、アニメーターは非常に苦労したらしい(一瞬なのでお見逃しなく)。

●拳銃を構える南雲

機動警察パトレイバー2 the Movie

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「止まりなさい!」と叫んで柘植に銃口を向ける南雲さん。この時、構えている拳銃(SIG P210)をよく見ると、ちゃんと撃鉄(ハンマー)が起きてるんですよね。こういう細かい描写にも押井監督のこだわりが感じられます。

銃器を扱うシークエンスで、ハンマーのコッキング状態やトリガーに指がかかっているかどうかなどの細部の描写は、通常あまり意にかけられていませんが、観客が気付くかどうかではなく、自信を持って演出するためにも、勉強以前の”教養”として身に付けておきたい知識です。

(「Methods パトレイバー2演出ノート」より)

ちなみに、南雲さんの”拳銃の構え方”に関しては「上体が起き上がりすぎて理想的な構えとは言い難いが、猫背では”絵”になりにくいので敢えて背筋を伸ばしたままにした」とのことです。

●後藤の表情

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柘植を乗せた舟が去って行き、取り残された南雲さんは現場に乱入してきた荒川たちに「どうしてここが…?」と訊ねました。

すると荒川は「人は敵意でなく善意ゆえに通報者になる。子供のためなら何でもするのが親だ」と答えます。

つまり娘のことを心配した南雲さんの母親が、柘植と密会しようとしている情報を警察へ通報したんですね(その連絡を受けたのが後藤さんで、さらに荒川にも教えた)。

悲しそうな目をしながら佇む南雲さんを無言で見つめる後藤さんですが、押井監督によるとこれは「しのぶの信頼を裏切ってしまい、負い目を感じている表情」だそうです。

普通、アニメの監督はこういう喜怒哀楽のはっきりしない”微妙な表情”を作中に出すことはあまりしません。実写の場合は役者の演技力に頼ることも出来ますが、「無言で動かないキャラ」の心情をアニメで適切に描くことは極めて困難だからです。

しかし押井監督は「ひと昔前のアニメでは考えられなかったが、現在の作画力やデザインのレベルを以ってすれば、こうした”顔にものを言わせる演出”も不可能ではない」と考え、敢えて難しい表現に挑んだのです。

また、南雲しのぶ役の榊原良子さんもこのシーンの表情が気に入っているらしく、以下のように語っています。

後藤さんについては、わたしはセリフよりも顔の印象が強いんですよ。『パト2』で、南雲さんと柘植さんが密会するのを、後藤さんが裏で手を回して阻止するって場面があるじゃないですか?その時に、後藤さんが悲し気に南雲さんを見つめる表情がとても印象的でした。大林さんのセリフはないんですけど、でも大林さんの息遣いが聞こえてくるみたいで。

(「後藤喜一×ぴあ」より)

●犬のアップ

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これまた印象的なカットですが、なぜここで犬の顔を大きく映しているのか?押井監督によると「犬のアップがどうしても欲しかったという監督の個人的欲求によるカットであって、物語上あるいは演出上は全く不要な構図です」とのこと。

つまり、これは「業界屈指の犬好き監督」として知られる押井さんの完全なる趣味によって作られたカットで、当時押井さんが飼っていたバセットハウンドのガブリエル(愛称:ガブちゃん)を登場させたかっただけなんですね(笑)。

なお、押井監督の異常な犬好きは本作だけにとどまらず、『イノセンス』や『スカイ・クロラ』にも似たような犬を登場させ、実写映画『アヴァロン』ではとうとう本物のバセットハウンドが出て来ました。

しかも、『アヴァロン』のロケ地のポーランドにはバセット犬がほとんどいなかったため、350キロも離れた場所にいたバセットをわざわざ連れて来て撮影したそうです(犬を登場させるためにシナリオまで書き変えたらしい)。

挙句の果てには『パト2』のサウンド・リニューアル版を作る際、なんと愛犬ガブちゃんの声を自ら録音し、「犬のアップ」のシーンで使ったというのですからビックリ仰天(クレジットにまで犬の名前を載せてるしw)。

押井監督曰く、「『パト2』の最初のバージョンは全然違う犬種の声だったけど、音効さんにストックがなかったので我慢したんだよ」「サウンドをリニューアルした時にやっとガブの声に変更できた」とのことで、犬に対する執着心が常人の理解を超えてますねぇ(苦笑)。

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というわけで本日はここまでです。続きはまた後日書きたいと思いますので、今しばらくお待ちください。

※追記

続きを書きました!(こちらからどうぞ↓)

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『機動警察パトレイバー2 the Movie』について色々書いてみた(ベイブリッジ・戦争・コンビニなど)

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どうも、管理人のタイプ・あ~るです。

さて先日、機動警察パトレイバー2 the Movieに関する記事を書いたら長くなりそうだったため途中で一旦終了、本日はその続きです(前回の記事を読んでない方はこちらをどうぞ↓)。

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前回は「東京上空に謎の戦闘機が接近し、航空自衛隊や空港がパニックになる」という辺りまでだったので、今回はその後の出来事について書いてみますよ(なお、言うまでもなくネタバレしているため未見の方はご注意ください)。


●水族館のシーン

機動警察パトレイバー2 the Movie

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”幻の爆撃”騒ぎの後、水族館で密会する後藤と荒川。水族館は『うる星やつら2  ビューティフルドリーマー』にも出て来ましたが、要は押井監督の好きな”魚”を見せるために必要な場所なんですね(水槽の魚を覗き込むアングルも印象的)。

押井監督の説明によると、「このシーンの主役は後藤たちではなく水槽の魚であり、それらは魚に姿を借りた何者かであるということを明確にするために敢えて選んだアングルです」とのこと(意味深だなぁw)。

押井守作品には毎回必ずと言っていいほど「魚」や「鳥」が登場していますが、例えば鳥は”恐怖”や”不安”を表しているとか、何らかのメタファーになっています(※「聖書」から引用している場合は別の意味になることもある)。そういう点にも注目すれば、さらに興味深く鑑賞できるかもしれません。

ちなみに、『踊る大捜査線』の本広克行監督(大の押井守ファン)が学生時代に天使のたまごを観に行った際、上映会に来ていた押井監督に「あの魚の意味はなんですか?」と質問したら「あれは”日常”です」と言われて「おお!」と感激したそうです(※ただし、『エヴァ』の貞本義行さんは別の解釈をしているらしい)。

●高速艇で川を下る後藤

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恐らく、本作で最も”押井守らしさ”が炸裂しているシーンがここでしょう。「戦争だって?そんなものはとっくに始まってるさ。問題なのは如何にケリをつけるか、それだけだ」という荒川のセリフの後、延々と「平和とは?」「戦争とは?」について問答が繰り広げられる異色のシーンとなっています。

以前から押井監督の映画では「虚構と現実」がお馴染みのテーマでしたが、『パトレイバー2』ではそれに”戦争”を絡ませることでさらに難解さが増し、押井監督自身が様々な資料を調べて徹底的に研究したという「独特の戦争論が語られているのですよ。

湾岸戦争の時、強烈に印象に残ったのは「コンピュータのモニターを通じて戦争が行われている」ということでした。現場で爆弾を投下している兵士たちもモニターを通して標的を見ているし、その戦争自体を、僕らはテレビ画面というモニターを通して見ている。

そういう意味では、現場の兵士も我々も、同じようにしか戦争には関わっていないと言えるかもしれない。

現実とモニターの中の世界(虚構)が、どんどん区別がつかなくなっている。だから、ふと窓の外を見ると、そこで戦争をやっていたというのと、毎日のようにTVを通じて送られてくる戦争の映像というのは、実は大差がないのではないか?そんな、いままでとは全く違った”戦争観”を今回の映画では提出したいと思ったんです。

(月刊「アニメージュ」1993年4月号より)

このように、押井監督は本作で”戦争”をじっくりと語ることに最も注力したと思われ、その結果、キャラクターがほとんど動かず、「延々と続く川下りの風景にセリフのみ」という、恐ろしく地味なシーンが誕生しました。

主人公が「ロケットパ~ンチ!」と叫びながら壊れた自機の腕を振り回して敵レイバーをぶん殴るという初期OVAの軽いイメージから大きく様変わりした『パト2』に、当時のアニメファンたちは「これ本当にパトレイバーなの?」と度肝を抜かれたことでしょう。

しかしながら、「戦争が平和を生むように、平和もまた戦争を生む。単に戦争でないというだけの消極的で空疎な平和は、いずれ実体としての戦争によって埋め合わされる」などの荒川の長ゼリフを、竹中直人さんの淡々とした口調で聞かされると何とも言えない不思議な空気が生まれ、観ているうちにどんどん押井守ワールド”へと引き込まれてしまうのですよ。

伊藤和典さんも「押井さんから”ちょっと語りたいことがあるから、場面だけ用意しておいて”とオーダーがあったので、僕はただその場面を脚本内に配置しただけ」「セリフは全部押井さんが書いたものです」と証言していることから、まさに押井監督の思想や主張が凝縮された名シーンと言えるのではないでしょうか。

なお、完成した『パト2』を観た伊藤和典さんは「果たして映画として成立しているのか?」「押井さんの戦争研究論文にしか見えない」と感じたそうです(笑)。

●建設中の橋の謎

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後藤が高速艇に乗って川を下っていると、建設中の橋の下を通り過ぎるシーンが出て来ます。これを観て「吹っ飛ばされたベイブリッジを修理してるのか?」と思った人もいるようですが、実はこのシーン、映画の制作前に押井守監督とスタッフたちがロケハンで東京湾周辺を船で回っている時に見つけた風景なのですよ。

当時はレインボーブリッジがまだ建設中で、その光景を気に入った押井監督が劇中に登場させたんですね。ところが、ここでちょっとした問題(?)が発生。『パト2』の時代設定は2002年なんですが、レインボーブリッジの開通は1993年なんですよ。あれ?じゃあ2002年の時点で未完成のあの橋は何?って話に…(もしかすると、この世界のレインボーブリッジは2003年ぐらいに完成したのかもしれませんw)。

ちなみに、「押井守の大ファン」を公言している本広克行監督は、『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』の撮影時、「『パトレイバー2』ではベイブリッジを爆破したのに、我々は封鎖するだけでいいのか!?」とスタッフたちと盛り上がっていたらしい(笑)。

●すぐに気が変わる後藤さん

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南雲さんに怒られた直後、すぐに謝罪の電話をかける情けない後藤さんですが、終始シリアスなムードが漂う本作の中で貴重な”お笑いパート”の一つとなっており、押井監督によると、南雲さんが出て行ってから「あ、しのぶさん?気ィ変わった。今変わった」を言うまでの”間”にこだわったそうです。

●後藤さんが食べている物は?

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警備中に後藤さんが食べている物は、「アンパンかカレーパンかな?」と思ってたんですが、よく見たらお茶と”箱”が置いてあるんですよね(パトカーの上にw)。そして、他の隊員も同じような箱から何かを取って食べています。

ということはコレ、支給された弁当を食べてるんじゃないの?と。だとすれば、アンパンやカレーパンなどではないでしょう。じゃあ一体何を食べてるんだ?と思って後藤喜一に関する設定資料等を色々調べてみました。

すると、「後藤は出動先ではフライドチキンなどのファストフードを好んで食べる。これは、現場で支給される弁当は概ね冷えていて不味いからなどの理由によるもの」と書かれてたんですよ。

つまり、警察からは弁当を支給されてるんだけど、冷えてて不味いのでコンビニかどこかで買ってきたフライドチキンを食べている…というシーンだったようです(確かに大きさも色もそれっぽい)。

しかし、もしそうなら「飲み物はお茶じゃなくてコーラとかの方がいいんじゃね?」と思わなくもありませんが(笑)。

●不安を煽るレイアウト

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進士が自宅でテレビを見ているシーンのレイアウトを描いたのは、『パーフェクト・ブルー』や『パプリカ』などの監督として知られる今敏さん

このシーンをよく見ると、背後の襖(ふすま)が少しだけ開いて奥の部屋が見えてるんですが、今敏さんによると「あれは押井さんから”開けといて下さい”という指示があった」とのこと。

押し入れを開けることによって、画面の中にその部分だけ暗いところができるんですよ。それが、明るく散らかした生活感のある部屋に忍び込んでくる”不安の象徴”ということなのかな…と自分なりに解釈しまして。単に生活感を出すためではないという気がしたんです。

(「Methods パトレイバー2演出ノート」より)

言われてみれば、ちょっと怖い感じがしますねぇ…

●コンビニの背景

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特車二課の”買い占め部隊”がコンビニの商品を買いまくるシーンでは大量の商品が映っていますが、アニメーションの画面はキャラクターと背景で構成されており、キャラはアニメーターが、背景は美術の担当者が描くのが一般的です。

ところが、このシーンで陳列棚や商品を描いているのは美術担当者ではありません。個々のパッケージが細かすぎて筆では描けないため、全てセルで描いているのですよ。

押井監督曰く、「物をたくさん描くというのはアニメーターにとって厄介な作業ですが、観客にとってはアニメのお楽しみの一つでもあります。どうせ大変な作業なら、何万という宇宙船の大群を描くよりも、アンパンや即席ラーメンの大群の方が(個人的には)好きです」とのことなんですが…。

いや~、即席ラーメンのパッケージを1個1個手描きする方が大変なような気がしますけどねぇ(笑)。

ちなみに、押井守さんといえば「コンビニ大好き監督」としても有名で、『うる星やつら2  ビューティフルドリーマー』では無人のコンビニで買い物しまくる様子が描かれ、『イノセンス』ではコンビニの商品を全てスキャナーで取り込んで1個1個テクスチャを貼り付けるという途方もない作業を実行し、スタッフを瀕死に追いやったりしていました。

そして実写版『機動警察パトレイバーでは、とうとうコンビニのオープンセットを丸ごと1軒作らせ、その中で派手なアクションシーンを撮ったり爆破したりとやりたい放題!押井監督曰く、「コンビニは自分にとって重要なテーマの一つ」「今後も可能な限り出したい」とのこと。いや、どんだけコンビニ好きなんだよ(笑)。

というわけで本日はここまでです。続きはまた後日書きたいと思いますので、今しばらくお待ちください。

※追記

続きを書きました!こちらからどうぞ↓

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『機動警察パトレイバー2 the Movie』について色々書いてみた(「幻の爆撃」「荒川茂樹」など)

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どうも、管理人のタイプ・あ~るです。

さて先日、機動警察パトレイバー2 the Movieに関する記事を書いたら長くなりそうだったため途中で一旦終了、本日はその続きです(前回の記事を読んでない方はこちらをどうぞ↓)。

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前回は「荒川が後藤と南雲に会いに来て”思ひ出のベイブリッジ”のビデオを観る」という辺りまでだったので、今回はその後の出来事について書いてみますよ(なお、言うまでもなくネタバレしているため未見の方はご注意ください)。


●夜の首都高

機動警察パトレイバー2 the Movie

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荒川に「どうです、ドライブでもしませんか?近場をぐるっと」と言われた後藤と南雲が、走る車の中で「ベイブリッジ爆破事件」に関する情報を聞くシーンは、非常に”押井守監督らしさ”が出ていて個人的にも好きな場面です。

大人3人が車に乗り込み、静かなトーンで淡々と話をしているだけの地味なシーンなんですけど、押井監督によると「前席の荒川を手前に倒し込み、後部座席の後藤を反り返らせることで左中央に空間を生み出し、コクピットの容量を巧みに表現している」とのこと。

こうしたレイアウトの工夫により、動きも少なく退屈になりがちなシチュエーションにもかかわらず、終始”奇妙な緊張感”に包まれ、全く飽きることがありません。さらに、”このカットの狙い”について押井監督は以下のように説明しています。

前方に目を据えている荒川、その荒川の背中を見つめる後藤、ぼんやりと車窓を流れる風景を見ているしのぶ。3人の目線の方向とそのニュアンスの違いによって、それぞれが置かれた状況と相互の関係性を象徴的に表現することがこのカットの狙いです。

(「Methods 押井守 パトレイバー2演出ノート」より)

竹中直人の起用

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荒川の声を演じているのは俳優の竹中直人さんですが、不気味で得体の知れない荒川のキャラクターを実に見事に表現してるんですよね。押井監督は「僕が今まで作ってきたキャラクターの中でも、荒川は特に好きなキャラの一人です」としつつ、「だからこそキャスティングには随分難航しました」とコメント。

1年とか2年もかかる映画の場合は、時間的にも予算的にも余裕があるから、僕は声優さんではない役者さんを何人か交えようと思っています。それによって現場の雰囲気も変わるし、画を作ってパーツとしてのセリフを入れてアニメを作ってしまおうという演出家の固定概念も崩してしまいたいと。

それで、普段あまりお付き合いのない舞台の人とか実写映画の人とか、何人かは必ず声をかけるんです。柘植行人役の根津甚八さんも『天使のたまご』の時に組んでましたしね。でも、荒川ってキャラクターは最後まで難航しました。それで竹中さんがいいんじゃないかと言われて、「ああ、そうだな」と思ったんです。

一方、竹中直人さんは荒川について次のように語っています。

荒川という男は善良でもなく悪人でもないというイメージです。非常に魅力的な役でしたね。僕は声優ではなく俳優だし、顔を思い浮かべられてはまずいんですが、そのキャラクターの顔を見た時、自分で想像できる音を探っていくという作業はとても面白かったです。

荒川が捕まった時、「なんで柘植の隣にいなかったんだ?」みたいなことを問われても何も答えませんよね。あの時の荒川に非常に魅力を感じたんですが、実写だったらここが芝居の見せ所かもしれない。でも、あまり気合いを入れすぎると全体のトーンに合わないような気がしたので、常に客観的なクールさというのは保つようにしていました。

(「機動警察パトレイバー2 the Movie サウンドリニューアル版」の特典インタビューより)

後に押井監督は、「もともと僕が竹中さんの芝居や役者としてのスタンスみたいなものが好きだったということもあってお願いしたんだけど、結果的にとてもよかった」と語っており、竹中さんの演技には非常に満足しているようです。まさに”ハマリ役”と言えるのではないでしょうか。

●幻の爆撃

機動警察パトレイバー2 the Movie

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さあ、いよいよファンの皆さんが大好きなシーンです(笑)。「奴の動きの方が速かったよ。爆装したF16Jが3機、三沢を発進して南下中だ。約20分後に東京上空に到達する」と言いながら車を飛ばす荒川(今まで淡々と進んでいたストーリーが、ここから急に加速し始める)。

航空自衛隊入間基地の中部航空方面隊作戦指揮所(SOC)ではディスプレイに表示されるデータを見ながら「コールサインワイバーン、応答ありません」「三沢はどうだ、つながったか?」「ダイレクトラインで基地の司令を呼び出せ。出るまで続けろ!」などと慌ただしく指示が飛び交い、成田空港の管制室でも「府中から連絡のあった奴か?無茶しやがる!」「アプローチに入った便を除いて、着陸待ちは全て上空待機だ!」とパニック状態。

パト2』は基本的に小難しい会話が多く、しかも前作『パト1』に比べてアクションシーンは少な目という割と地味な作風で、この場面も実際に戦闘機同士が激しい空中戦を繰り広げるわけではありません。

にもかかわらず、なんというスリルと緊張感!結局、この状況は空自のバッジシステムがハッキングされたことによる”幻の爆撃”だったわけですが、川井憲次さんが作曲したカッコいい音楽と相まって最高の名場面に仕上がっており、脚本を担当した伊藤和典さんも「ここはノリノリで書けた」と気に入っているそうです。いや~、何度観ても素晴らしいですねぇ。

機動警察パトレイバー2 the Movie

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ちなみにこのシーン、押井監督の最新作『ぶらどらぶ』でほぼ丸ごとパロディーにされたことをご存知でしょうか?

『ぶらどらぶ』第4話「サラマンダーの夜」は、ヒロインのマイ(吸血鬼)がうっかりサラマンダーの血を飲んでサラマンダーに変身してしまい、東京上空を飛び回って甚大な被害が発生、航空自衛隊F-15スクランブル発進させる…というエピソードなんですが、作戦指揮所でのやり取りやパイロットとオペレーターの会話などが『パト2』とほとんど一緒なんですよ(笑)。

ただし、『パト2』では東京に接近中の「ワイバーン翼竜)」に対して撃墜命令が下されるんですけど、『ぶらどらぶ』では「サラマンダー(火竜)」になってるところがミソ(「キル・ワイバーン」が「キル・サラマンダー」にw)。

『パトレイバー2』(左)と『ぶらどらぶ』(右)

パト2』(左)と『ぶらどらぶ』(右)

しかも背景やレイアウトだけでなく、キャラクターまで(左右を反転させているカットもありますが)完コピ状態!さらに音楽も川井憲次さんの曲が当てられ、「よくぞここまでそっくりに作ったもんだ」と感心するぐらい忠実に『パトレイバー2』を再現しているのです(アマプラ見放題に入っているので興味がある方はぜひどうぞ)。

なお余談ですが、『ぶらどらぶ』では全てのキャラクターが「血」のことを「血ィ」と言ってるんですけど、これは大友克洋さんの『AKIRAが元ネタだそうです。以下、押井守監督の証言より。

AKIRA』を最初に読んだ時、甲斐が「血ィが、血ィが」って言ってるシーンがむちゃくちゃ面白くて。以降、自宅でもどこでも「血ィ」という言葉を使い始めたんです。声優さんたちも、途中からはこっちが何も指示しなくても「血ィ」って言ってくれるようになりました(笑)。

月刊ニュータイプ2021年3月号」より

確認したら、確かに『AKIRA』の第1巻に「血ィが、血ィが」って言ってるシーンが出て来るんですけど、一体これのどこがそんなに面白かったのか、押井監督のツボがちょっとよく分かりません(笑)。

大友克洋著『AKIRA』より

大友克洋著『AKIRA』より

というわけで本日はここまでです。続きはまた後日書きたいと思いますので、今しばらくお待ちください。

※追記

続きを書きました!こちらからどうぞ↓

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